『世にも美しい数学入門』

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『世にも美しい数学入門』(藤原正彦/小川洋子 著)の読了記録です。
Ⅰ 書評
Ⅱ 本のデータ


Ⅰ 書評

 この本は、数学者の藤原正彦氏と、『博士の愛した数式』の著者である小川洋子氏の対談をまとめたものです。
 
 素数や円周率、フェルマー予想などの数学的な話題は出てくるものの、難解な数式が登場しないため、数学が苦手な方でも読みやすい本となっています。
 
 本書は2部構成で、次のような項目からなります。(一部のみ抜粋)

第1部 美しくなければ数学ではない
 1 恋する数学者たちの集中力
 3 俳句と日本人の美的感受性
 4 永遠の真理のもつ美しさ
 6 『博士の愛した数式』と友愛数
 9 「美しい定理」と「醜い定理」
 
第2部 神様が隠している美しい秩序
 1 三角数はエレガントな数字
 2 数学は実験科学のようなもの
 4 ヨーロッパ人とインド人の包容力
 6 果てしなき素数の世界に挑む
 8 円と無関係に登場する\(\pi\)の不思議

 小川さんの質問から始まり、藤原さんがそれに答え、その答えに対して小川さんがさらに鋭く突っ込んでいくスタイルで進んでいきます。
 
 数学の美しさや数学者の驚くような一面が、2人の会話から引き出されており、また各話が短いため飽きずに読み進めることができます。
 
 特に数学好きな人が読むと、藤原さんの考え方や歴史的な数学者のエピソードに共感できる部分が多いです。
 
 逆に、「数学好きなんて理解できない!」という方は、小川さんの視点に立ち、藤原さんをはじめとする数学者が、どのように数学や世界を見ているのかを覗いてみましょう。
 数学に対しての見方が変わる作品だと思います。


 ここからは、具体的に本書の中身について触れていこうと思います。
 
 

数学者はストーカー?

 1部1話「恋する数学者たちの集中力」では、失恋した数学者について語られています。
 
 その中で登場するハミルトンという数学者。数学Cの行列分野で登場する「ケーリー・ハミルトンの定理」を証明した人でもあり、彼は失恋後26年経った後も、その相手の家の跡地を訪れ、その床に口づけをする・・・。
 
 そのエピソードに対し、藤原さんは難解な問題を解くときの数学者の気持ちを重ね、次のように表現しています。

 五年、十年であきらめちゃうような数学者はいないんじゃないでしょうか。ずっとそれを考え続けているかどうかは別として、つかず離れず、未練がましくずっといくわけですね。だから、数学者に愛されたら、たまらないと思いますよ。相手の女性はね。

 数学好きに愛された我が妻、哀れ・・・。ということはさておき、それに対して小川さんは、

 一種のストーカー的資質を持っていないと、数学の真理は得られないということですね。

と述べています。
 
 この「ストーカー的なしつこさ」というのが、数学者の特性の1つなのかもしれません。
 

数を弄ぶことの重要性

 1部9話「『美しい定理』と『醜い定理』」の中では、数の規則を何か発見するために必要なことは、数を弄ぶことだと藤原さんが述べています。
 数というおもちゃを、足したり、かけたり、順番を入れ替えたり・・・という遊びをする中で、「完全数」のような興味深い数の発見ができるということです。
 
 2部2話「数学は実験科学のようなもの」での、数に関する様々な実験をする中で既存の知識とつながり、新たな発見や証明ができるという話にもつながってきます。
 
 特にこの話は、先生と生徒の会話のように描かれていて、読者も数学が繋がっていく感覚を味わえます。
 

+1のひらめき

 2部6話「果てしなき素数の世界に挑む」では、「素数が無限にあることは証明されているのか?」という小川さんの質問から始まります。
 
 その「素数が無限にあることの証明」の中で出てくる、すべての素数の積に"+1"をするという発想に対し、小川さんは「小さなひらめき」という表現を使っています。
 
 同様に、メルセンヌ素数(\(~2^p-1~\))の"-1"についても、小川さんが藤原さんとの対話の中で、その必要性を理解し、適切な表現をしています。
 
 藤原さんの数学をわかりやすく伝える力と、小川さんの理解したことを表現する力が組み合わさった部分です。
 
 特に、フェルマー予想がワイルズによって証明されるまでの経緯の話についても、

 天才たちがリレーしている感じですね。百五十年ぐらいの周期で、いろんな考え方をリレーしている。ガウスは映像的に考える方面に秀でていたんですかね。

という表現をしています。
 
 
 数学者と作家、その両者の特性が存分に顕れている作品でした。
 
 『博士の愛した数式』を読んだことのある方は、その作品に出てくる数学的な話題についても言及されているため、より一層楽しめる本となっています。
 本書の美しい数学、美しい会話に触れてみてください!!


Ⅱ 本のデータ

タイトル 世にも美しい数学入門
著者 藤原正彦/小川洋子
出版社 ちくまプリマ―新書
初版発行日 2005年4月10日
価格(税抜) 780円
ISBNコード 9784480687111


 こういった対談形式の本はあまり読んだことが無かったのですが、数学が登場するということもあり、3日間の通勤中の電車の中だけで読み終えてしまいました。藤原さんのエッセイ、他にも読んでみようと思います。

   
 
 


◇参考文献等
・藤原正彦,小川洋子(2020)『世にも美しい数学入門』,ちくまプリマ―新書.