絶対値を含んだ方程式での「解なし」条件とは?

では、場合分け後の解がすべて不適となる「解なし」が出てくることはあるのか? また、そのための条件を探ってみましょう!
Ⅰ 「解なし」の例
絶対値を含んだ方程式と言っても、絶対値が1つだけの基本的なものから、絶対値が3つ以上含まれる複雑なものまであります。
本記事では、数学Ⅰの教科書の例題にもなっている、\(~ax+b=|cx+d|~\)の形の方程式について考えます。
まずは教科書にも載っている問題を1問見てみましょう。
\(~3x+1=|x+3|~\)を解く。
\(~x+3 \geqq 0~\)、すなわち\(~x \geqq -3~\)のとき、
\begin{align}
3x+1&=x+3 \\
2x&=2 \\
x&=1
\end{align}
これは、条件\(~x \geqq -3~\)を満たす。
\(~x+3 < 0~\)、すなわち\(~x < -3~\)のとき、
\begin{align}
3x+1&=-(x+3) \\
3x+1&=-x-3 \\
4x&=-4 \\
x&=-1
\end{align}
これは、条件\(~x < -3~\)に適さない。
よって、方程式の解は\(~x=1~\)。
上のように、絶対値の中が正か負かで絶対値の外し方が変わり、出てきた解が条件に適しているかを判断する必要があります。
教科書や問題集を解いていると、解が1つだけとなったり、解が2つになったりすることが多いのですが、以下の問題を解いてみましょう。
\(~x-4=|2x-1|~\)
\(~2x-1 \geqq 0~\)、すなわち\(~\displaystyle x \geqq \frac{1}{2}~\)のとき、
\begin{align}
x-4&=2x-1 \\
-x&=3 \\
x&=-3
\end{align}
これは、条件\(~\displaystyle x \geqq \frac{1}{2}~\)に適さない。
\(~2x-1 < 0~\)、すなわち\(~\displaystyle x < \frac{1}{2}~\)のとき、
\begin{align}
x-4&=-(2x-1) \\
x-4&=-2x+1 \\
3x&=5 \\
x&=\frac{5}{3}
\end{align}
これは、条件\(~\displaystyle x < \frac{1}{2}~\)に適さない。
よって、方程式の解はない。
ということでどちらも不適で、「解なし」となってしまいました。
実は、連立方程式
\begin{cases}
y=x-4 & \\
y=|2x-1| &
\end{cases}
として捉えて、グラフで考えてあげると、解なしの理由がわかります。
確かに交わっていないですね。
交わらないための条件として、傾き(\(~x~\)の係数)が絡んできそうです。
次章では、解なしとなるための条件を探っていきます。
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Ⅱ 「解なし」となるための条件
先に一般化した結論を述べておきます。
方程式 \(~ax+b=|cx+d|~\)が、解なしとなるための条件は、
定数\(~a~,~b~,~c~,~d~\)が以下のいずれかの式の組み合わせをすべて満たすことである。
\begin{cases}
a+c > 0 & \\
a-c < 0 & \\
c > 0 & \\
bc < ad &
\end{cases}
または
\begin{cases}
a+c < 0 & \\
a-c > 0 & \\
c < 0 & \\
bc < ad &
\end{cases}
ちょっと複雑になってしまいました。
whityさんのコメントを参考に、
\begin{cases}
|a| < c & \\ c > 0 & \\
bc < ad & \end{cases} または \begin{cases} |a| < -c & \\ c < 0 & \\ bc < ad & \end{cases} と必要な式の数を減らすことができるとわかりました。
絶対値の性質上、\(~|cx+d|~\)において、\(~c > 0~\)としても一般性を失わないので、
\begin{cases}
|a| < c & \\ bc < ad & \end{cases} という式だけでも表せますね。
whityさんが「GeoGebra」で\(~a~,~b~,~c~,~d~\)の関係を図示してくださっています。(すごい!)
先ほどの例題2で言えば、\(~a=1~,b=-4~,c=2~,d=-1~\)なので、上の組み合わせを満たしていることになります。
次に、このような結論に至った理由をお示しします。
\(~ax+b=|cx+d|~~~(a \neq 0~~,~~c \neq 0)\)を解く。
\(~cx+d \geqq 0~\)、すなわち\(~\displaystyle x \geqq -\frac{d}{c}~\)のとき、
\begin{align}
ax+b&=cx+d \\
(a-c)x&=-(b-d) \\
x&=-\frac{b-d}{a-c}
\end{align}
この解が不適となるためには、
\begin{align}
-\frac{b-d}{a-c} &< -\frac{d}{c} \\
\frac{b-d}{a-c} &> \frac{d}{c} ~~~~\cdots ①
\end{align}
を満たす必要がある。(ただし、\(~a-c \neq 0~\))
また、\(~cx+d < 0~\)、すなわち\(~\displaystyle x < -\frac{d}{c}~\)のとき、
\begin{align}
ax+b&=-(cx+d) \\
ax+b=-cx-d \\
(a+c)x&=-(b+d) \\
x&=-\frac{b+d}{a+c}
\end{align}
この解が不適となるためには、
\begin{align}
-\frac{b+d}{a+c} &\geqq -\frac{d}{c} \\
\frac{b+d}{a+c} &\leqq \frac{d}{c} ~~~~\cdots ②
\end{align}
を満たす必要がある。(ただし、\(~a+c \neq 0~\))
ここで\(①\)に関して、両辺に\(~\times c(a-c)~\)をして、式を整理する。
(ⅰ) \(~a-c > 0~,~c > 0~\)のとき、
\begin{align}
(b-d)c &> d(a-c) \\
bc-cd &> ad-cd \\
bc &> ad
\end{align}
以下同様に、
(ⅱ) \(~a-c < 0~,~c < 0~\)のとき、
\begin{equation}
bc > ad
\end{equation}
(ⅲ) \(~a-c > 0~,~c < 0~\)のとき、
\begin{equation}
bc < ad
\end{equation}
(ⅳ) \(~a-c < 0~,~c > 0~\)のとき、
\begin{equation}
bc < ad
\end{equation}
である。
また、\(②\)に関して、両辺に\(~\times c(a+c)~\)をして、式を整理する。
(ⅴ) \(~a+c > 0~,~c > 0~\)のとき、
\begin{align}
(b+d)c &> d(a+c) \\
bc+cd &> ad+cd \\
bc &\leqq ad
\end{align}
以下同様に、
(ⅵ) \(~a+c < 0~,~c < 0~\)のとき、
\begin{equation}
bc \leqq ad
\end{equation}
(ⅶ) \(~a+c > 0~,~c < 0~\)のとき、
\begin{equation}
bc \geqq ad
\end{equation}
(ⅷ) \(~a+c < 0~,~c > 0~\)のとき、
\begin{equation}
bc \geqq ad
\end{equation}
である。
\(~bc~\)と\(~ad~\)の大小関係、\(~c~\)の符号に着目すると、(ⅰ)と(ⅷ)、(ⅱ)と(ⅶ)、(ⅲ)と(ⅵ)、(ⅳ)と(ⅴ)の組み合わせがあり得るものの、
(ⅰ)と(ⅷ)では、\(~a > c > 0~\)で、\(~a+c < 0~\)にはなり得ない。
(ⅱ)と(ⅶ)では、\(~a < c < 0~\)で、\(~a+c > 0~\)にはなり得ない。
よって、(ⅳ)と(ⅴ)より、
\begin{cases}
a+c > 0 & \\
a-c < 0 & \\
c > 0 & \\
bc < ad &
\end{cases}
という条件か、(ⅲ)と(ⅵ)より、
\begin{cases}
a+c < 0 & \\
a-c > 0 & \\
c < 0 & \\
bc < ad &
\end{cases}
という条件で、方程式 \(~ax+b=|cx+d|~\)を作ると、解なしとなることが言える。\(~~\blacksquare~\)
不等式なので、\(~c~\)や\(~a-c~\)、\(~a+c~\)の符号に気を付けないと、不等号が逆になってしまうところが面倒な証明でした。
\begin{cases}
a+c > 0 & ~~~\cdots ③\\
a-c < 0 & ~~~\cdots ④\\ c > 0 & \\
bc < ad & \end{cases} で、\(③\)と\(④\)を式変形すると、 \begin{cases} a > -c & \\
a < c & \\ \end{cases} であり、\(~c > 0~\)なので、\(~c > -c~\)となるため、2つの式を合わせて、
\begin{align}
-c < &a < c \\ |a| &< c \end{align} と表すことができます。(もう1パターンも同様)
コメントいただきましたwhityさん、ありがとうございました。
もっときれいな条件が出てくるかと思いきや・・・。大変な計算になってしまいました。
ディスカッション
どの記事も興味深く読ませていただいております。
解をもたない条件ですが、もう少し簡潔に表現できそうです。
まず、絶対値の性質より、c>0としても一般性を失いません。
f(x)=ax+b
g(x)=|cx+d|
としてグラフを考えることにより、f(-d/c)<0を得ます。
また、fの傾きはgと平行までが許されるため、|a<=c
以上より、
ad-bc<0
|a|<=c
が従います。
参考までに、考える際に私が利用したGeoGebraのデータも添付しておきます。
https://www.geogebra.org/m/fxttctvs
コメントありがとうございます。
GeoGebraによる図示、非常にわかりやすかったです。
ご助言を参考に、もう一度この問題について考えてみました。
そして、考えている中で\(~a-c=0~\)や\(~a+c=0~\)のときのことを見落としていたことに気付き、そこを加味すれば、\(~|a| \le c~\)になることが言えそうです。
時間があるときに、この記事をリライトしようと思っております。
間違いをご指摘いただき、本当にありがとうございました。