\begin{align*}
1+2+3+\cdots+n&=\frac{1}{2}n(n+1) \\
1^2+2^2+3^2+\cdots+n^2&=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \\
1^3+2^3+3^3+\cdots+n^3&=\left\{\frac{1}{2}n(n+1) \right\}^2 \\
\end{align*}などで表される自然数のべき乗和の公式。
$~\displaystyle \sum_{k=1}^n k~,~\displaystyle \sum_{k=1}^n k^2~,~\displaystyle \sum_{k=1}^n k^3~$でも表される上記の公式は、100年頃のニコマコスの時代にはすでに公式が見つかっていました。
しかし、$~\displaystyle \sum_{k=1}^n k^4~$や$~\displaystyle \sum_{k=1}^n k^5~$といった4乗和、5乗和の公式が発見されたのは約900年後。
\sum_{k=1}^{n}k^4 = \frac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n-1)\sum_{k=1}^{n}k^{5}=\frac{1}{12}n^2(n+1)^2(2n^2+2n-1) \\これらの公式の基礎となる重要な発見は、1000年頃の中世イスラームの数学者アルハゼン(アルハゼン)によって行われました。
本記事では、彼が発見した「アルハゼンの和の公式」について、その内容や証明方法を数学史の先生Fukusukeがわかりやすく解説します!
アルハゼンの和の公式とは
アルハゼンの和の公式とは、自然数のべき乗和を求めるための画期的な恒等式です。
この公式は、現代の数学記号を使って表現すると以下のようになります:
(n+1)\sum_{i=1}^{n} i^k = \sum_{i=1}^{n} i^{k+1} + \sum_{p=1}^{n} \left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) \cdots (*)一見すると複雑に見えるこの式ですが、実は非常に美しい数学的構造を持っています。
Σの和の公式が求められる
アルハゼンの公式の最も重要な特徴は、その「再帰的な性質」にあります。彼の公式を変形すると、以下のようになります。
\sum_{i=1}^{n} i^{k+1}=(n+1)\sum_{i=1}^{n} i^k - \sum_{p=1}^{n} \left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) この式が示すのは、「$~(k+1)~$乗和は、$~k~$乗和を使って表現できる」ということです。
実際は右辺の最後の第2項目にも、$~\displaystyle \sum_{i=1}^{n} i^{k+1}~$が出てくるため、計算は複雑ですが、次のように半永久的にべき乗和の公式を求めることができます。
- 1乗和の公式が分かっていれば、2乗和の公式を求められる
- 2乗和の公式が分かっていれば、3乗和の公式を求められる
- 3乗和の公式が分かっていれば、4乗和の公式を求められる
- 4乗和の公式が分かっていれば、5乗和の公式を求められる
他の方法で4乗和を求める方法として有名なものは、
(k+1)^5-k^5 =5k^4+10k^3+10k^2+5k+1
を利用したものですが、べき乗和の公式はアルハゼンの和の公式を使っても求められるのです。
自然数の4乗和の求め方
実際に自然数の4乗和の公式、すなわち$~\displaystyle \sum_{i=1}^{n} i^{4}~$を求めてみましょう。
アルハゼンの和の公式に$~k=3~$を代入すると、
\begin{align*}
(n+1)\sum_{i=1}^{n}i^3&= \sum_{i=1}^{n}i^4 + \sum_{p=1}^{n}\left(\sum_{i=1}^{p}i^3\right)\\
(n+1)\left\{\frac{1}{2}n(n+1)\right\}^2&= \sum_{i=1}^{n}i^4 + \sum_{p=1}^{n}\left\{\frac{1}{2}p(p+1)\right\}^2 \\
\frac{1}{4}n^2(n+1)^3&= \sum_{i=1}^{n}i^4 + \sum_{p=1}^{n}\left\{\frac{1}{4}p^2(p+1)^2\right\} \cdots ④
\end{align*}となり、最終項を変形すると、
\begin{align*}
\sum_{p=1}^{n}\left\{\frac{1}{4}p^2(p+1)^2\right\} &= \frac{1}{4}\sum_{p=1}^{n}p^2(p^2+2p+1) \\
&= \frac{1}{4}\sum_{p=1}^{n}(p^4+2p^3+p^2) \\
&= \frac{1}{4}\sum_{p=1}^{n}p^4 + \frac{2}{4}\left\{\frac{1}{2}n(n+1)\right\}^2 + \frac{1}{4} \cdot \frac{1}{6}n(n+1)(2n+1) \\
&= \frac{1}{4}\sum_{p=1}^{n}p^4 + \frac{1}{8}n^2(n+1)^2 + \frac{1}{24}n(n+1)(2n+1) \cdots ⑤
\end{align*}となるため、$~\sum_{p=1}^{n}p^4 = \sum_{i=1}^{n}i^4~$であることに注意し、⑤を④に代入すると、
\begin{align*}
\frac{1}{4}n^2(n+1)^3 &= \sum_{i=1}^{n}i^4 + \frac{1}{4}\sum_{i=1}^{n}i^4 + \frac{1}{8}n^2(n+1)^2 + \frac{1}{24}n(n+1)(2n+1) \\
\frac{1}{4}n^2(n+1)^3 &= \frac{5}{4}\sum_{i=1}^{n}i^4 + \frac{1}{8}n^2(n+1)^2 + \frac{1}{24}n(n+1)(2n+1) \\
\frac{5}{4}\sum_{i=1}^{n}i^4 &= \frac{1}{4}n^2(n+1)^3 - \frac{1}{8}n^2(n+1)^2 - \frac{1}{24}n(n+1)(2n+1) \\
\sum_{i=1}^{n}i^4 &= \frac{4}{5} \cdot \frac{1}{24}n(n+1)\{6n(n+1) - 3n(n+1) - (2n+1)\} \\
\sum_{i=1}^{n}i^4 &= \frac{1}{30}n(n+1)(6n^2+12n^2+6n-3n^2-3n-2n-1) \\
\sum_{i=1}^{n}i^4 &= \frac{1}{30}n(n+1)(6n^3+9n^2+n-1) \cdots ⑥
\end{align*}と変形できる。
ここで$~f(n) = 6n^3+9n^2+n-1~$について、
\begin{align*}
f\left(-\frac{1}{2}\right) &= 6\left(-\frac{1}{2}\right)^3+9\left(-\frac{1}{2}\right)^2-\frac{1}{2}-1 \\
&= -\frac{3}{4}+\frac{9}{4}-\frac{1}{2}-1 \\
&= 0
\end{align*}であることから、剰余の定理より、$~f(n)~$は$~(2n+1)~$で割れる。
したがって、⑥は、
\sum_{i=1}^{n}i^4 = \frac{1}{30}n(n+1)(2n+1)(3n^2+3n-1)となり、4乗和の公式が求められた。
同様の計算を繰り返せば、5乗和の公式、6乗和の公式・・・と求めることができます。
ただ、0乗和の公式$~\left( \sum_{i=1}^{n}1=n \right)~$だけは知っておく必要があるのでご注意を。
アルハゼンが発見した
アルハゼンの和の公式の発見者であるアルハゼン(Alhazen、965年〜1040年)は中世イスラームの数学者で、ラテン語名のアルハゼンとしても知られています。

(出典:unknown, probably Muhammad Atiyya Al-Ibrashi (1897 –1981)., Public domain, via Wikimedia Commons)
光学の分野で有名な科学者ですが、数学者としては幾何学における「アルハゼンの定理」が有名です。

上の図の円において、次の2つの等式が成り立つ。
\begin{align*}
\angle CPD&=\left(\overset{\large \frown} {AB}の円周角\right)+\left(\overset{\large \frown} {CD}の円周角\right) \\
\angle CQD&=\left(\overset{\large \frown} {AB}の円周角\right)-\left(\overset{\large \frown} {CD}の円周角\right) \\
\end{align*}アルハゼンが、本記事の和の公式を発見した背景には、彼の幾何学研究がありました。
特に、放物線を軸の周りに回転させてできる立体である「放物面」の体積を求める過程で、4乗和の公式が必要になったのです。

アルハゼンの和の公式の証明
アルハゼンによる簡易証明
アルハゼンは、放物面の体積を求めるために必要だったからか、4乗のときのみを証明しました。
また、その方法も具体的な数値によるものでしたが、現在の数学的帰納法につながる流れで行われています。
$~k=3~,~ n=3~$で$~(*)~$成り立つことを仮定したうえで、$~k=3~,~n=4~$のときの証明を次のように行った。
\begin{align*}
(4+1)(1^3+2^3+3^3+4^3) &= 4(1^3+2^3+3^3+4^3) + 1^3+2^3+3^3+4^3 \\
&= 4 \cdot 4^3 + 4(1^3+2^3+3^3) + 1^3+2^3+3^3+4^3 \\
&= 4^4 + (3+1)(1^3+2^3+3^3) + 1^3+2^3+3^3+4^3
\end{align*}ここで、$~k=3~,~n=3~$のときの
(3+1)(1^3+2^3+3^3) = 1^4+2^4+3^4+\{1^3+(1^3+2^3)+(1^3+2^3+3^3)\}が成り立つことを使い、
\begin{align*}
&(4+1)(1^3+2^3+3^3+4^3) \\
&= 4^4+1^4+2^4+3^4+\{1^3+(1^3+2^3)+(1^3+2^3+3^3)\}+1^3+2^3+3^3+4^3 \\
&= (1^4+2^4+3^4+4^4)+\{1^3+(1^3+2^3)+(1^3+2^3+3^3)+(1^3+2^3+3^3+4^3)\}
\end{align*}となるため、$~k=3~$,$~n=4~$のときの公式が示された。$~\blacksquare~$
アルハゼンは、$~k=3~$を固定したうえで、$~n=3~$という仮定から$~n=4~$のときを証明しているのがわかります。
現代数学における証明
アルハゼン自身による簡易証明をヒントに、現代数学でアルハゼンの和の公式がどのように証明されるのかを見ていきましょう。
(I) $~n = 1~$のとき、
\begin{align*}
((*)\text{の左辺}) &= (1+1)\sum_{i=1}^{1} i^k \\
&= 2 \cdot 1^k \\
&= 2 \cdots ①
\end{align*}\begin{align*}
((*)\text{の右辺}) &= \sum_{i=1}^{1} i^{k+1} + \sum_{p=1}^{1} \left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) \\
&= 1^{k+1} + \sum_{p=1}^{1} \left(1^k + 2^k + 3^k + \cdots + p^k\right) \\
&= 1 + 1^k \cdots \text{(補足1)} \\
&= 2 \cdots ②
\end{align*}$~①~$、$~②~$より、$~n = 1~$のとき、すなわち自然数$~k~$において、$(*)$が示された。
(II) $~k~$を固定し、$~n = m – 1~$のとき$(*)$が成り立つと仮定する。
すなわち、
m\sum_{i=1}^{m-1} i^k = \sum_{i=1}^{m-1} i^{k+1} + \sum_{p=1}^{m-1} \left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) \cdots ③が成り立つ。
このとき、$~n = m~$を考えると、
\begin{align*}
((*)\text{の左辺}) &= (m+1)\sum_{i=1}^{m} i^k \\
&= m\sum_{i=1}^{m} i^k + \sum_{i=1}^{m} i^k \\
&= m\left(\sum_{i=1}^{m-1} i^k + m^k\right) + \sum_{i=1}^{m} i^k \cdots \text{(補足2)} \\
&= m\sum_{i=1}^{m-1} i^k + m^{k+1} + \sum_{i=1}^{m} i^k
\end{align*}であり、ここで③を代入すると、
\begin{align*}
((*)\text{の左辺}) &= \sum_{i=1}^{m-1} i^{k+1} + \sum_{p=1}^{m-1}\left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) + m^{k+1} + \sum_{i=1}^{m} i^k \\
&= \left(\sum_{i=1}^{m-1} i^{k+1} + m^{k+1}\right) + \left\{\sum_{p=1}^{m-1}\left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) + \sum_{i=1}^{m} i^k\right\} \\
&= \sum_{i=1}^{m} i^{k+1} + \sum_{p=1}^{m}\left(\sum_{i=1}^{p} i^k\right) \cdots \text{(補足3)、(補足4)} \\
&= ((*)\text{の右辺})
\end{align*}よって、$~n = m~$のときも$~(*)~$が示されたため、$~k~$を固定したとき、すべての自然数$~n~$について、$(*)$が示された。
(I)、(II)より、すべての自然数の組$~(n, k)~$において、$~(*)~$が成り立つ。$~\blacksquare~$
$~\sum~$が二重に現れるところもあり、証明が少々複雑です。
証明中に注釈した補足は以下の通りです。
\sum_{p=1}^{1} \left(1^k + 2^k + 3^k + \cdots + p^k\right)は、$~p = 1~$から$~p = 1~$までの$~k~$乗和を求めることを意味する。
したがって、$~1^k~$から$~1^k~$までの和なので、
\sum_{p=1}^{1} \left(1^k + 2^k + 3^k + \cdots + p^k\right) = 1^k\begin{align*}
&\sum_{i=1}^{m} i^k\\
&= 1^k + 2^k + 3^k + \cdots + (m-1)^k + m^k\\
&= \sum_{i=1}^{m-1} i^k + m^k\\
\end{align*}$~i = 1~$から$~i = m~$までの和を、$~i = 1~$から$~i = m-1~$までの和と$~i = m~$に分けている。
\begin{align*}
&\sum_{i=1}^{m-1} i^{k+1} + m^{k+1}\\
&= \{1^{k+1} + 2^{k+1} + 3^{k+1} + \dots + (m-1)^{k+1}\} + m^{k+1} \\
&= 1^{k+1} + 2^{k+1} + 3^{k+1} + \dots + (m-1)^{k+1} + m^{k+1} \\
&= \sum_{i=1}^{m} i^{k+1}
\end{align*}補足2の逆の変形。
$~i=1~$から$~i=m-1~$までの和に、$~i=m~$を加えることで、$~i=1~$から$~i=m~$までの和となっている。
\begin{align*}
&\sum_{p=1}^{m-1} (\sum_{i=1}^{p} i^k) + \sum_{i=1}^{m} i^k\\
&= (\sum_{i=1}^{1} i^k + \sum_{i=1}^{2} i^k + \dots + \sum_{i=1}^{m-1} i^k) + \sum_{i=1}^{m} i^k \\
&= \sum_{i=1}^{1} i^k + \sum_{i=1}^{2} i^k + \dots + \sum_{i=1}^{m-1} i^k + \sum_{i=1}^{m} i^k \\
&= \sum_{p=1}^{m} (\sum_{i=1}^{p} i^k)
\end{align*}補足3と同様。
$~\sum~$の上の数に注目すると、$~p=1~$から$~p=m-1~$までの和に、$~p=m~$を加えることで、$~p=1~$から$~p=m~$までの和となっている。
$~n~$と$~k~$についての数学的帰納法(重帰納法)だったため複雑でしたが、以下の図の通り、平面上の自然数の組$~(~n~,~k~)~$について証明ができています。


まとめ
アルハゼンの和の公式について、その内容や歴史、数値的な証明と一般的な証明について詳しく見てきました。
- アルハゼンの和の公式により、理論的には任意の次数のべき乗和を求めることが可能になった
- 和の公式の発見者アルハゼンは10-11世紀に活躍したイスラムの数学者で、放物面の研究のために公式を使った
- アルハゼンの証明は、特定の場合のみの方法だったが、数学的帰納法の考え方を使っていた。

数学的帰納法の考え方がこの時代からあったことにびっくり!



しかも2文字の帰納法(重帰納法)で、しっかり1文字を固定して考えられていたね。
このブログの参考文献
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- 『カッツ 数学の歴史』
- 『メルツバッハ&ボイヤー数学の歴史(Ⅰ・Ⅱ)』
- 『数学の流れ30講(上・中・下)』
- 『数学の歴史物語』
- 『フィボナッチの兎』
- 『高校数学史演習』
- 『数学の世界史』
- 『数学の文化史』
- 『モノグラフ 数学史』
- 『数学史 数学5000年の歩み』
- 『数学物語』
- 『世界数学者事典』
- 『数学者図鑑』
- 『数学を切りひらいた人々(1~5)』
- 『天才なのに変態で愛しい数学者たちについて』
- 『素顔の数学者たち』
- 『数学スキャンダル』
- 『ギリシャ数学史』
- 『古代ギリシャの数理哲学への旅』
- 『ずかん 数字』
- 『πとeの話』
- 『代数学の歴史』
- 『幾何学の偉大なものがたり』
- 『アキレスと亀』
- 『ピタゴラスの定理100の証明法』
- 『ピタゴラスの定理』
- 『フェルマーの最終定理』
- 『哲学的な何か, あと数学とか』
- 『数と記号のふしぎ』
- 『身近な数学の記号たち』
- 『数学用語と記号ものがたり』
- 『納得する数学記号』
- 『図解教養事典 数学』
- 『イラストでサクッと理解 世界を変えた数学史図鑑』(拙著)
- 『教養としての数学史』(拙著)


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