アルハゼンの定理とは?中学3年生レベルの問題例と証明を2種類解説!

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 円周角の定理の応用として知られる「アルハゼンの定理」。

 「方べきの定理」と図は似ていますが、角度に関する定理になります。

 アルハゼンの定理は、10世紀のイスラームの数学者アルハゼン(イブン・アル・ハイサム)によるもので、円周角の定理から簡単に証明できるがゆえに、中学校の教科書ではその名を聞くことがあまりありません

 本記事では、アルハゼンの定理の内容から証明方法、さらには少し発展的な見方まで、数学史の先生Fukusukeがわかりやすく解説!

 この記事を読むことで、アルハゼンの定理を深く知ることができます。

この記事を書いた人

Fukusuke(ふくすけ)
数学史の先生

  1. 現役の中学・高校数学教員
  2. 著書2冊重刷、ブログ累計200万PV達成
  3. ブログでは、式変形をとにかくていねいに記述
この記事を書いた人

Fukusuke(ふくすけ)
数学史の先生

  • 現役の中学・高校数学教員
  • 著書2冊重刷、ブログ累計200万PV達成
  • ブログでは、式変形をとにかくていねいに記述
  • 作図や文章校正、Texの打ち込みは文系妻が担当

この記事を読んでわかること

アルハゼンの定理とは?

 アルハゼンの定理とは、円と2つの直線が交わるときにできる角度の大きさを、円周角と関連付ける定理です。

中学3年生レベルの円の定理

アルハゼンの定理は、中学3年生で習う「円周角の定理」を応用したものです。

交点が円の内部にあるか、外部にあるかで2つのパターンに分けられます。

アルハゼンの定理

 図において、$~\angle APB~$の大きさは、$~\overset{\frown}{AB}~$と$~\overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の和に等しい。

円の内部に交点があるときのアルハゼンの定理
円の内部に交点があるときのアルハゼンの定理

 図において、$~\angle AQB~$の大きさは、$~\overset{\frown}{AB}~$と$~\overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の差に等しい。

円の外部に交点があるときのアルハゼンの定理
円の外部に交点があるときのアルハゼンの定理

 中学3年生レベルの内容ではあるものの、教科書に載っている定理ではありません

 なぜなら、アルハゼンの定理を知らないと解けないような問題は無いからです。

教科書に出てくる問題例

 それでは、具体的な問題で定理の使い方を確認してみましょう。

例題

 次の図において、$~\angle~APB~,~\angle~AQB~$の大きさをそれぞれ求めなさい。

アルハゼンの定理の例題
アルハゼンの定理の例題

 自分が持っている中学3年生の教科書では、節末問題や章末問題に載っていました。

 通常であれば、以下のように解きます。

アルハゼンの定理を使わない解法

  円周角の定理より、

\angle DAC = \angle DBC = 30°

 である。

アルハゼンの定理を使わない解法
アルハゼンの定理を使わない解法

 $~\triangle PAD~$で外角の性質から、

\angle APB = 60° + 30° = 90°

が求められ、$~\triangle QBD~$で外角の性質から、

\begin{align*}
\angle AQB + 30° &= 60°  \\
\angle AQB &=30° 
\end{align*}

が求められた。

 しかし、定理を知っていれば、見た目よりもずっと簡単に角度を求めることができます。

アルハゼンの定理による解法

 $~\overset{\frown}{AB}~$に対する円周角は$~60°~$、$~\overset{\frown}{CD}~$に対する円周角は$~30°~$なので、アルハゼンの定理より、

\begin{align*}
\angle APB &= 60° + 30° &= 90°\\
\angle AQB &= 60° - 30° &= 30°
\end{align*}

が求められた。

アルハゼンの定理による解法
アルハゼンの定理による解法

 通常の解法と大きく難易度が異ならないため、学校教育で「アルハゼンの定理」を習わないのだと思われます。

アルハゼンは中世イスラームの数学者

 この定理に名を残すアルハゼン(Alhazen , 965〜1039)は、現在のイラクで生まれ、主にエジプトのカイロで活躍した科学者です。

 本名をイブン・アル=ハイサム(Ibn al-Haytham)と言い、ラテン名のアルハゼンとして西洋に知られています。

アルハゼン
(出典:unknown, probably Muhammad Atiyya Al-Ibrashi (1897 –1981)., Public domain, via Wikimedia Commons)

 彼は数学だけでなく、天文学、物理学、医学など幅広い分野で大きな功績を残しました。
 特に、光の進み方や見え方を研究した「光学」の分野では、「光学の父」とも呼ばれるほどの第一人者でした。

 アルハゼンの定理は、多才なアルハゼンの数学における研究成果の一つなのです。

アルハゼンの定理の2種類の証明

 アルハゼンの定理は、中学校で習う図形の性質から、2種類の方法で証明することができます。

外角の性質を使った証明

 一つ目は、先ほどの例題の アルハゼンの定理を使わない解法 でも使った、三角形の外角の性質を利用した証明です。

アルハゼンの定理の証明1

 $~\overset{\frown}{AB}~$に対する円周角の大きさを$~x°~$、$~\overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の大きさを$~y°~$とする。

 このとき、

\angle APB = x°,\angle PAB = \angle PBC = y°

である。

アルハゼンの定理の証明(外角の性質)
アルハゼンの定理の証明(外角の性質)

 $~\triangle PAD~$で外角の性質から、

\angle APB = \angle ADP + \angle DAP = x° + y° \cdots ①

となる。

 また、$~\triangle QBD~$で外角の性質から

\begin{align*}
\angle AQB + \angle QBD &= \angle ADB\\
\angle AQB + y° &= x°\\
\angle AQB &= x° - y° \cdots ②
\end{align*}

となる。

 $~①,②~$より、アルハゼンの定理は示された。$~\blacksquare~$

 シンプルでわかりやすい証明です。

平行線を使った証明

 二つ目は、平行線とその性質を利用した証明です。
 少し発想が必要ですが、美しい証明方法です。

アルハゼンの定理の証明2

 $~C~$を通り$~BD~$と平行な直線が円と交わる点を$~E~$とする。

アルハゼンの定理の証明(平行線)内部
アルハゼンの定理の証明(平行線)内部

 このとき、$~\overset{\frown}{CD} = \overset{\frown}{EB}~$であるため、$~\overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の大きさは、$~\overset{\frown}{EB}~$に対する円周角の大きさと等しい。$~\cdots ①~$

 また、$~BD//CE~$の同位角より、

\angle APB = \angle ACE \cdots ②

である。

 $~\angle ACE~$は、$~\overset{\frown}{AB} + \overset{\frown}{EB}~$に対する円周角の大きさと等しいため、$~①,②~$より、$~\angle APB~$は$~\overset{\frown}{AB} + \overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の大きさと等しくなる。$~\cdots ③~$

 

 次に、$~C~$を通り$~AD~$と平行な直線が円と交わる点を$~F~$とする。

アルハゼンの定理の証明(平行線)外部
アルハゼンの定理の証明(平行線)外部

 このとき、$~\overset{\frown}{CD} = \overset{\frown}{AF}~$であるため、$~\overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の大きさは、$~\overset{\frown}{AF}~$に対する円周角の大きさと等しい。 $~\cdots ④~$

 また、$~AQ//FC~$の同位角より、

\angle AQB = \angle FCB \cdots ⑤

である。

 $~\angle FCB~$は、$~\overset{\frown}{AB} – \overset{\frown}{AF}~$に対する円周角の大きさと等しいため、$~④,⑤~$より$~\angle AQB~$は$~\overset{\frown}{AB} – \overset{\frown}{CD}~$に対する円周角の大きさと等しくなる。$~\cdots ⑥~$

 $~③,⑥~$より、アルハゼンの定理は示された。$~~\blacksquare~$

弧度法で表すとさらに美しい

 角度の単位として「度」ではなく「ラジアン」を用いる弧度法でこの定理を考えると、さらにシンプルで美しい形が見えてきます。

 特に、直径が1の円を考えると、

弧の長さ = 円周角の大きさ

となるため、アルハゼンの定理は次のように表現できます。

アルハゼンの定理(直径1の円)

 角の大きさを弧度法で表すものとする。

直径1の円のアルハゼンの定理(内部)
直径1の円のアルハゼンの定理(内部)

 上の図の直径1の円において、

\angle APB = \overset{\frown}{AB} + \overset{\frown}{CD}

と表せる。

直径1の円のアルハゼンの定理(外部)
直径1の円のアルハゼンの定理(外部)

 また、上の図の直径1の円において、

\angle AQB = \overset{\frown}{AB} - \overset{\frown}{CD}

と表せる。

 角の大きさの計算が、そのまま「弧の長さ」の足し算・引き算で表せるのです。

 先の例題を、直径1の円で、弧度法で考えると次のようになる。

直径1の円、弧度法のアルハゼンの定理
直径1の円、弧度法のアルハゼンの定理

 幾何学的な関係が、より直接的な数値の演算として表現されていることがわかります。
 これは、弧度法がもたらす数学の美しさの一例と言えるでしょう。

まとめ

今回は、アルハゼンの定理について、その内容から証明、そして少し発展的な見方までを解説しました。

  • アルハゼンの定理は中学3年生で習う円周角の定理の応用で、交わる2つの弦がつくる角の大きさを求める定理。
  • 三角形の外角の性質や、平行線の性質を用いて証明することができる。
  • 弧度法(特に直径1の円)で考えると、定理がよりシンプルな形で表現される。

結局、アルハゼンの定理って覚えた方がいいの?

円周角の定理と外角の性質で簡単に証明できるから、わざわざ覚えなくても大丈夫!

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