生徒が苦手意識を持ちやすい教科である数学。
そういった生徒たちの関心意欲を高めるために、生徒が主体的に取り組める数学的活動を授業の中で入れることが望ましいものの、
- 数学的活動は授業準備に時間がかかる(教員が忙しすぎる)
- カリキュラムの進行上、授業時数的に数学的活動をする余裕がない
といった理由から、例題→問題演習→例題→問題演習→‥‥となってしまいがちです。
しかし、そういった縛りの中でも、授業内に小ネタを挟むことで生徒の興味を惹き、数学が楽しいと思えるような授業を手軽に展開することができます。
この記事では、1回の授業の中で「1へぇー&1笑い」を実践し続けている現役数学教員が、中1の単元「平面図形」で使っている数学ネタを紹介!
準備不要で5分後の授業からでも使えます!!
直線で体を張ったネタ
「比例・反比例」までの式が中心の分野から、「平面図形」や「空間図形」という図形を扱う分野に入っていく最初の授業で行うネタです。
小学校算数で、図形に苦手意識を持っている生徒もいるので、幾何的分野に興味を持ってもらうための導入は非常に大切。
この平面図形の分野で最初に学ぶのが、以下の定義です。
・両方に限りなくのびているまっすぐな線を直線という。
・直線の一部分で、両端のあるものを線分という。
・直線の一部分で、1点を端として一方にだけのびている線を半直線という。
小学校までまっすぐな線は区別なく「直線」と呼ばれていました。
中学校からはそれらを区別することになるので、半直線や直線を黒板いっぱいに、廊下に飛び出すくらいの勢いで描ききりましょう。
単純ですが、毎年中1の印象に残る初回授業になっています。
(自分の勤め先の学校は代数と幾何に分かれているため、4月の授業初回でこのネタを披露することで、一気に心が掴めます。)
半直線の伸びる方向の覚え方
半直線$~AB~$の伸びる方向を教えるにあたって、「半直線エーーーーーーービ―」と「半直線ビーーーーーーーエ―」、どっちが言いやすいかを訊きます。
当然ながら、2文字目を伸ばした後者の方が言いやすいので、それがそのまま半直線の覚え方になります。
以上2発のネタにより、平面図形や先生自身に対して「面白い!」「わかりやすい!」という印象を与えることができるでしょう。
平面図形に関する記号の歴史
中学校の平面図形の分野では、小学校まで「三角形」や「角」などと日本語表記していた数学用語が記号化されます。
代数記号と同様、幾何学で使う記号の由来を知っておくことで生徒の突然の質問にも対応できるでしょう。
三角形の記号の歴史
三角形を表す記号については、フランスのピエール・エリゴン(Pierre Hérigone , 1580頃~1641)が、1634~1637年に書いた全6巻の『数学教程』の中で「$~\triangle~$」を使い始めました。
エリゴンはユークリッドの『原論』に関心を持っていた数学者で、「$~\triangle~$」以外にも垂直の記号や角の記号の普及にも貢献しています。
ただ、1世紀頃にアレクサンドリアで活躍した数学者ヘロン(Heron , 1世紀頃)は、三角形を表すために「$~\triangledown~$」を使っています。
ヘロンの時代、古代ギリシャにおいて「$~\Delta~$」はアルファベットかつ$~4~$を表す数字だったため、三角形の向きを変えて差別化を図っていたようです。
ちなみに、それより前は三角形の記号がありませんでした。
理由としては、$~ABC~$と書けば$~\triangle ABC~$を指すのが自明だったからです。
平行の記号の歴史
「平行」については、1世紀のヘロンや4世紀のパッポス(Pappus , 260年頃~4世紀中頃)が、平行線をそのまま記号にした「$~=~$」を使っていました。
17世紀にフランスのピエール・エリゴンも「$~=~$」を使おうとしたところ、イギリスのロバート・レコードが使い始めた等号「=」が流行り始めているのを受け、エリゴンは「$~=~$」を縦に書くことで「$~\parallel~$」が誕生しました。
その後、「$~\times~$」を使い始めたイギリスのウィリアム・オートレッド(William Oughtred , 1574~1660)なども「$~\parallel~$」を使い、この平行記号が現在にまで定着しています。
ちなみに、日本で平行を表す記号として「$~/ \! /~$」が使われますが、多くの国々では今も「$~\parallel~$」が使われています。
明確な経緯はわかりませんが、日本の縦書き文化がこの違いを生んでいる可能性が高いです。
垂直の記号の歴史
垂直を表す記号「⊥」は、17世紀のフランスの数学者ピエール・エリゴンが『数学教程』で使い始めました。
エリゴンは他にも「 」を使っていたり、タイプライターを逆にして「 」と表したりと、似たような記号は登場していましたが、そのシンプルさから「⊥」が定着しました。
その後、18~19世紀には「⊥」の縦棒が短くなることもあったものの、現在ではエリゴンがもともと使っていた「⊥」が使われています。
ちなみに、エリゴンは垂直には「⊥」を、直角には「∟」を使っていました。
角の記号の歴史
角を表す記号「$~\angle~$」も、フランスの数学者ピエール・エリゴンが原形を考案しました。
彼が1637年に考案した角の記号は「$~<~$」で、奇しくもその6年前にイギリスの数学者トマス・ハリオット(Thomas Harriot , 1560頃~1621)が不等号として「$~<~$」を使い始めていました。
ハリオットの不等号が定着し出すにつれ、エリゴンが考案した角の記号は現在の「$~\angle~$」へと形を変え、現在にまで定着しています。
弧の記号の歴史
弧を表す記号「⌒」については、誰が使い始めたものか定かではありません。
ただ、次のような説があります。
- 1100年頃のイタリアの数学書ですでに使われていた。
- 18世紀のスイスの数学者レオンハルト・オイラーが提案した。
- 1801年、フランスのラザール・カルノーの文書に残っている。
ユークリッドの『原論』では、三角形や線分と同様に、アルファベットを並べるだけで弧も表していました。
かっこで弧を説明する
下の図のように、弧を同一円周上に2つかくと、かっこ$~(~~~)~$ができあがります。
「弧で括る」から括弧。
既存知識と数学用語を繋げましょう。
月で弦を説明する
弧と同様に、既存知識と繋げるネタです。
小学校の理科で「上弦の月」や「下弦の月」を習います。
これらの覚え方としては、以下の2つが挙げられます。
- 新月を1日目として、上旬(約7日目)にくるのが上弦の月、下旬(約21日目)に見えるのが下弦の月。
- 月が沈むときに直線(弦)が上にあるなら上弦の月、直線(弦)が下にあるなら下弦の月。
上の覚え方の2つ目が、数学の「弦」という言葉に直結します。
作図は定規とコンパスのみで行う理由
数学の作図は紀元前から行われてきました。
紀元前5世紀〜紀元前4世紀頃に古代ギリシャで流行った三大作図問題のときも、直線と円を描くためだけのシンプルな道具だけで作図すべきと考えられ、数学者たちは目盛りのない定規とコンパスで作図に挑戦しました。
通例的に存在した道具の制約が、文面的に定着したのはユークリッドの『原論』からです。
『原論』の公準(幾何学で当たり前のこととして認められる前提)は以下のような5つからなります。
- 公準(1):任意の点から任意の点へ直線(線分)を引くこと。
- 公準(2):任意の直線(線分)を連続して伸ばすこと。
- 公準(3):任意の中心と任意の半径の円を描くこと。
- 公準(4):すべての直角は互いに等しいこと。
- 公準(5):二つの直線と交わる直線の同じ側の内角の和が二直角($~180^{\circ}~$)より小さいならば、二つの直線を同じ側に伸ばしていけばいつかは交わること。
これらの公準のうち、作図の根拠となっているのは、(1)と(2)と(3)。
こうして、シンプルな道具で行うべきという古代ギリシャの風潮に、世界的大著『原論』のお墨付きが加わり、今もそのルールで作図をしているのです。
作図ができる整数角
60°(正三角形)の作図、90°(垂線)の作図、角の二等分線の作図を学んだ後に登場する応用問題が30°や45°の作図。
さらにはこれらを組み合わせた75°の作図を行うこともあります。
ここで気になってくるのは、どんな角度なら作図で描けるのかということ。
実は正五角形の作図から36°の作図もできるため、作図で作れる最小の整数角は3°となります。
正五角形の作図は、三平方の定理が絡んでくるため厳密には説明できませんが、3°という非常に細かい角をも作図できるということは興味を惹く話題の1つになるでしょう。
円の面積公式の求め方
当たり前のように小学校から使っている円の面積公式。
厳密には積分を使って証明する必要があるものの、イメージで説明することは可能です。
円を平行四辺形にする
最も有名なのは、円をたくさんの扇形に切り分けて互い違いに組み合わせる方法。
これにより、底辺が円周の半分、高さが半径の平行四辺形になるため、以下のように計算できます。
(円の面積)=\pi r \times r=\pi r^2
先ほどの図では、円を8等分しただけだっため平行四辺形に見えませんが、大量の扇形に分割すると平行四辺形(長方形)に近づきます。
実際、円を360分割して組み合わせると、以下のような図形が出来上がります。
円を二等辺三角形にする
古代中国の数学書『九章算術』では、次のような方法も紹介されています。
芯のないトイレットペーパーを想像し、それに切り込みを入れて開くと、二等辺三角形が出来上がります。
これにより、底辺が円周、高さが半径の二等辺三角形になるため、以下のように計算できます。
(円の面積)=2\pi r \times r \times \frac{1}{2}=\pi r^2
どちらの方法も厳密性には欠けるものの、中学1年生の多くは納得してくれます。
次の単元「空間図形」でも、厳密さよりもイメージ重視で教えなければいけない場面があるため、合わせてチェックしておきましょう。
まとめ
中学1年生の単元「平面図形」での授業ネタ、指導法について解説しました。
- 直線で体を張ったネタ
- 半直線の伸びる方向の覚え方
- 三角形の記号の歴史
- 平行の記号の歴史
- 垂直の記号の歴史
- 角の記号の歴史
- 弧の記号の歴史
- かっこで弧を説明する
- 月で弦を説明する
- 作図は定規とコンパスのみで行う理由
- 作図ができる整数角
- 円の面積公式の求め方(2通り)
これらの小ネタを活用することで、平面図形の授業をより魅力的にでき、生徒の興味を惹くことができます。
クラスの雰囲気に合わせてネタを取捨選択して使ってください!
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