生徒が苦手意識を持ちやすい教科である数学。
そういった生徒たちの関心意欲を高めるために、生徒が主体的に取り組める数学的活動を授業の中で入れることが望ましいものの、
- 数学的活動は授業準備に時間がかかる(教員が忙しすぎる)
- カリキュラムの進行上、授業時数的に数学的活動をする余裕がない
といった理由から、例題→問題演習→例題→問題演習→‥‥となってしまいがちです。
しかし、そういった縛りの中でも、授業内に小ネタを挟むことで生徒の興味を惹き、数学が楽しいと思えるような授業を手軽に展開することができます。
この記事では、1回の授業の中で「1へぇー&1笑い」を実践し続けている現役数学教員が、中1の単元「空間図形」で使っている数学ネタを紹介!
準備不要で5分後の授業からでも使えます!!
錐体の「錐」って何?
立体の名称として円柱や三角柱といった柱体は、「柱」という漢字が一般的であるため、形のイメージしやすいでしょう。
しかし、円錐や三角錐のような錐体の「錐」は何を表すのでしょうか?
漢字辞典の情報は以下のようになります。
- 音読み:スイ
- 訓読み:きり
- 漢検級:準1級
- 部首:金
- 意味:きり。木に穴をあける道具。また、きりのように先のとがった形。
実は、工具の「錐」を指している字でした。
それゆえ、先が尖っている立体にこの「錐」という字が使われています。
そもそも「錐」に馴染みがない中学生も多いと思いますが、男子だと学ランに校章をつけるための穴開けに使っているかも?
正多面体が5種類しかない理由
正多面体と言えば、正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体の5種類しかありません。
その理由は、数学的に証明することができます。
証明の大まかな流れとしては以下のとおりです。
① 1つの頂点に集まる面の数は3枚以上でなければならない。
② 1つの頂点に集まる面の内角の和が360°未満でなければならない。
③ ①②を満たせるのは、1つの頂点に集まる面が正三角形なら3〜5枚、正四角形(正方形)なら3枚、正五角形なら3枚のときのみ。
④ ③にしたがって組み立てると5種類の正多面体できあがる。
正多面体は探せばたくさんありそうですが、以上の理由から、たった5種類しかないことが証明されてしまうのです。
ちなみに、これら5種類の正多面体のうち、正四面体と正六面体、正十二面体はピタゴラス、正八面体と正二十面体はテアイテトスによって発見され、プラトンがこれらの立体の哲学的な美しさを述べています。
平面の決定を手軽に実演
平面の決定条件として、以下の文言が教科書に載っています。
同じ直線上にない3点を含む平面はただ1つある。
簡単なことを言っているはずなのに、中学生にとっては理解が難しい文章です。
そこで、厚紙などを用意して平面決定を実演しましょう。
具体的な手順としては以下の通りです。
①生徒1人に人差し指だけを高く掲げてもらい、その上に厚紙を乗せる。
→厚紙は落ちる=平面は1点で決まらない。
②生徒2人に人差し指だけを高く掲げてもらい、その上に厚紙を乗せる。
→厚紙は落ちる=平面は2点で決まらない。
③生徒3人に人差し指だけを高く掲げてもらい、その上に厚紙を乗せる。
→厚紙は乗る=平面は3点で決まる?
④発問「3人が実験を失敗させようと考えたとき、3人は人差し指をどう配置すればいい?」
⑤回答1「指を1箇所に集める」
→厚紙は落ちる。(①と同じ状況)=異なる3点を取る必要がある
⑥回答2「同じ直線上に指を並べる」
→厚紙は落ちる。(②と同じ状況)=同じ直線上に3点があってはいけない
この実演により、平面を決めるための条件が「同じ直線上にない3つの点」であるとわかります。
抽象的な平面決定の条件が、「厚紙がグラグラしないように支えられればよい」という、わかりやすい条件として覚えさせることができます。
すだれのねじれ
日本の伝統的な調度品で、日除けや目隠しとして窓の外にかかっているご家庭も多い「すだれ」。
このすだれに風が吹きつけると、次のように「ねじれ」ることがあります。
数学的には上辺と下辺が「ねじれの位置」となっており、日常生活とつなげることができました。
ただ、都会の学校だとすだれを知らない生徒も多いかも?
道のりと距離は違う
小学校算数で学ぶ「みはじ」。
「きはじ」や「きみはじ」とも呼ばれ、小学校では「距離」と「道のり」が同じ概念として扱われてきました。
しかし、中学生における「距離」は最短距離を指します。
そこで、教員が教室の後ろの方にいる生徒の所に行く2通りの方法を実演しましょう。
赤矢印の経路の場合は「歩いた距離は何歩分?」という表現が使えますが、青矢印の経路の場合は「歩いた距離」ではなく「歩いた道のり」という表現しか使えないので、そこで距離と道のりの違いを強調しましょう。
回転や切断の実演はGeoGebraが便利!
空間図形の授業で困ることは、立体を説明するのが難しいこと。
多くの学校でプロジェクターが普及してきた今、ネット上にあるGeoGebraのファイルが大活躍します。
「回転体 GeoGebra」や「立方体の切断 GeoGebra」などで検索すると、凄腕のGeoGebraマスターたちが公開しているファイルが出てくるので、ありがたく使わせていただきましょう!
ソフトのインストールなどは不要です!
自分が授業で使わせていただいたのは、以下のファイルです。
- 面の平行移動や回転でできる立体→https://www.geogebra.org/m/zyznckrk
- 立方体の切断→https://www.geogebra.org/m/Phyyuvc6
- いろいろな投影図→https://www.geogebra.org/m/ebqvqc9r
投影図は言葉から理解する
投影図の理解を深めるために、「投影」という言葉の意味から説明するのが効果的。
「影を投げかける」という意味から、立体の影を平面に投げかけたものが投影図であると説明することで、生徒の理解が深まります。
実際の影の様子については、GeoGebraで説明しましょう!
なぜ錐体の体積は3分の1なのか?
本来であれば積分を使って導く錐体の体積公式。
中学1年生の段階でも納得できる説明を2つ紹介します。
ただ、どちらも厳密さには欠けるので注意してください。(あくまで中学生1年生に納得してもらうための説明です。)
立方体から正四角錐の体積を求める
代数的な説明が以下の通り。
1辺$~6~$cmの立方体を、次のように 6 つの合同な正四角錐に分ける。
立方体を6等分しているので、正四角錐1つあたりの体積は
(6\times6\times6)\div6=36 ~cm^3
となる。
正四角錐の底面積は$~6\times 6=36~cm^2~$、高さは$~3~cm~$であり、同じ底面積と高さを持つ正四角柱の体積と比較すると、錐体は柱体の$~\displaystyle \frac{1}{3}~$になっていることがわかる。
底面の1辺の長さが高さの2倍となる正四角錐に限った方法ですが、具体的な数から$~\frac{1}{3}~$という関係を導くことができました。
三角柱から三角錐の体積を求める
こちらは古代ギリシャの数学者デモクリトス(Democritus, 前460頃〜前380頃)が使った方法です。
三角柱を以下のように3つの三角錐に分ける。
3つの三角錐のうち、三角錐$~A-DEF~$と三角錐$~F-ABC~$は底面積と高さが等しいので体積は等しい。
また、三角錐$~A-DEF~$と三角錐$~A-BEF~$は底面積と高さが等しいので体積は等しい。
以上より、3つの三角錐の体積はすべて等しいため、三角錐1つあたりの体積は三角柱の$~\displaystyle \frac{1}{3}~$であることが示された。
詳しい説明は以下の記事をご覧ください。
他の錐体はカヴァリエリの原理から
上記により、特定の正四角錐や三角錐の体積が柱体の$~\displaystyle \frac{1}{3}~$であることは説明できました。
ここまででほとんどの生徒は納得できますが、仮に「円錐や五角錐はどうするの?」という質問が出てきたときに答えとなるのがカヴァリエリの原理です。
2つの立体を無限に細かく切断した際、各高さにおける切断面の面積が等しいとき、2つの立体の体積は等しい。
コインを綺麗に重ねても、アンバランスに重ねても体積は変わらないことで例示される定理です。
この原理は、17世紀のイタリアの数学者ボナヴェントゥーラ・カヴァリエーリ(Bonaventura Cavalieri、1598年~1647年)が提唱したもので、デモクリトスもこの考え方を使っていました。
カヴァリエリの原理により、すべての錐体は三角錐に帰結されるため、錐体は柱体の3分の1であることの説明が完了します。
球の表面積と体積の求め方
多くの教員が苦労する球の公式の説明です。
こちらも厳密さには欠けるものの、中学1年生に納得してもらうためのものとして理解してください。
表面積は無限個の円柱から
球の表面積の半分が$~2\pi r^2~$であることを以下のように求めます。
半球の曲面部分を、次のような無限個の円柱の面にくっつける。
このとき、半球の曲面の面積は、円柱の底面積の和と側面積の和に分けられる。
底面積の和は、上からみたときに半径$~r~$の1つの円として求められるため、$~\pi r^2~$と求められる。
また、側面積の和は1つ1つを平面にすることで、次のような三角形になるため、$~2\pi r \times r \times \displaystyle \frac{1}{2}=\pi r^2~$と求められる。
以上より、半球の曲面部分の面積は$~\pi r^2+\pi r^2=2\pi r^2~$と求められた。
球の半分が$~2\pi r^2~$とわかったため、これを2倍することで全球の表面積が$~4\pi r^2~$と求めることができます。
円の面積と同様、厳密には積分の知識が必要になってしまうため、中学1年生向けの説明としてはこのあたりが限界かと‥。
ただ、納得はしてくれます!
体積は無限個の円錐から
球の表面積が$~4\pi r^2~$とわかったことで、球の体積の公式にもつなげることができます。
次のように、球をたくさんの高さ$~r~$の錐体に分けることができる。
たくさんの錐体の底面積の和は、球の表面積から$~4\pi r^2~$となるため、錐体の面積の求め方から
4 \pi r^2 \times r \times \frac{1}{3}=\frac{4}{3}\pi r^3
と球の体積が求められた。
球の表面積ほど無理やりではないものの、どの錐体の底面は球面となるため、あくまでイメージとして説明してください。
ただ、これで球の表面積と体積の公式を中学1年生向けに説明することができました!
球の表面積と体積の公式の覚え方
球の表面積や体積の公式は、中学生にとって自力で求めることができないものです。
しかし、今後の模試や高校受験などでも登場する重要な公式なので全員が暗記必須!
覚え方として、以下の語呂が存在します。
・球の表面積の公式
・球の体積の公式
$~\frac{4}{3}~$を、「$~3~$の上の$~4~$」と表現しています。
覚え方にストーリー性があるため、割と覚えやすい語呂となっています。
どっちの語呂が表面積を表すものかがわからなくなってしまった場合に向け、指数の違いも強調しておきましょう。
しばらくは毎回の授業において、球の表面積と体積の公式を復唱する機会を設けると、語呂と相まって公式が定着していきますよ。
まとめ
中学1年生の単元「空間図形」での授業ネタ、指導法について解説しました。
- 錐体の「錐」って何?
- 正多面体が5種類しかない理由
- 平面の決定を手軽に実演
- すだれのねじれ
- 道のりと距離は違う
- 回転や切断の実演はGeoGebraが便利!
- 投影図は言葉から理解する
- なぜ錐体の体積は3分の1なのか?
- 球の表面積と体積の求め方
- 球の表面積と体積の公式の覚え方
これらの小ネタを活用することで、空間図形の授業をより魅力的にでき、生徒の興味を惹くことができます。
クラスの雰囲気に合わせてネタを取捨選択して使ってください!
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