生徒が苦手意識を持ちやすい教科である数学。
そういった生徒たちの関心意欲を高めるために、生徒が主体的に取り組める数学的活動を授業の中で入れることが望ましいものの、
- 数学的活動は授業準備に時間がかかる(教員が忙しすぎる)
- カリキュラムの進行上、授業時数的に数学的活動をする余裕がない
といった理由から、例題→問題演習→例題→問題演習→‥‥となってしまいがちです。
しかし、そういった縛りの中でも、授業内に小ネタを挟むことで生徒の興味を惹き、数学が楽しいと思えるような授業を手軽に展開することができます。
この記事では、1回の授業の中で「1へぇー&1笑い」を実践し続けている現役数学教員が、中1の単元「比例と反比例」で使っている数学ネタを紹介!
準備不要で5分後の授業からでも使えます!!
関数の語源はブラックボックス
関数という言葉の語源は、実は「ブラックボックス」にあります。
17世紀の数学者ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz , 1646~1716)が、入力値を出力値に変換する仕組みを「機能する箱」と呼んだことから、function(機能)という言葉が生まれました。
その後、functionが中国に伝わったとき、関数の持つ箱のイメージから「函数」と訳され、これが日本に「函数」として伝わりました。(「函」の訓読みは「函館」で使われているように「はこ」で、「箱」と同じ意味)
戦後、常用漢字が定まったときに、「函」は常用漢字外になったため、同じ読みで「関する数」で意味としても適当な「関数」になりました。
y は x の関数かどうかクイズ
中学1年生の教科書にも載っている関数の定義は次の通りです。
2つの変数$~x~,~y~$があり、変数$~x~$の値を決めると、それにともなって変数$~y~$の値もただ1つ決まるとき、$~y~$は$~x~$の関数であるという。
この定義を理解させるために有用なのが「$~y~$は$~x~$の関数かクイズ」です。
わかりやすい問題や難しい問題、さらには盛り上がる問題を入れ、関数という言葉の持つ難しそうな印象を取り除きましょう。
問題 | 解答・解説 | |
(1) | $~x~$円の物を2個買ったら$~y~$円だった。 | 関数である。$~y=2x~$ |
(2) | $~x~$と$~y~$をたしたら$~10~$になる。 | 関数である。$~y=10-x~$ |
(3) | $~x~$は$~y~$より大きい。 | 関数ではない。$~x=5~$に対して、$~y=7~$や$~y=10~$など、1つに決まらない。 |
(4) | $~x~$と$~y~$は等しい。 | 関数である。$~y=x~$ |
(5) | $~x~$の2乗は$~y~$である。 | 関数である。$~y=x^2~$ |
(6) | $~y~$の2乗は$~x~$である。 | 関数ではない。$~y^2=x~$。$~x=9~$に対して、$~y=3~$と$~y=-3~$で1つに決まらない。 |
(7) | $~x~$先生の年齢は$~y~$歳である。 | 関数である。 |
(8) | $~x~$歳の先生は$~y~$先生である。 | 関数ではない。同じ年齢の先生は何人かいるはず。 |
(9) | このクラスで出席番号$~x~$番の生徒は$~y~$さんである。 | 関数である。ただ、共学で男女別の出席番号の場合は関数ではない。 |
(10) | このクラスで生徒$~x~$さんの出席番号は$~y~$番である。 | 関数である。共学でも一意に決まるため、関数となる。 |
(6)や(8)、(10)は引っ掛け。
このようにたくさんの例をクイズ形式で出すことは、語句の理解に効果的で、盛り上がれるのでオススメです!
変域の ● と ○ の違いのイメージ
変域を表す記号の「●」(閉)と「○」(開)の違いを説明する際、その数が詰まっているかどうかをイメージさせます。
$~2~$以下は$~2~$を含む。
$~2~$未満は$~2~$を含まない。
以下と未満の使い分けの復習も兼ねることができます。
「比例」の由来
16世紀末にイタリアの宣教師マテオ・リッチ(Matteo Ricci , 1552~1610)が、西洋数学を中国に布教する過程で、「2つの量の比が、他の2つの量の比に等しいこと」を「比例」という造語で伝えたと言われています。
マテオ・リッチは西洋の文化を中国に伝えるにあたり、既存の漢字で表現するということを行っており、「比例」の場合はそれぞれの漢字に以下のような意味があります。
- 「比」:2つ以上のものを比べること。
- 「例」:同じようなものが同列に並ぶこと。
この漢字の通り、比例関係では2つの数列が同列に並び、それぞれ1対1対応します。
\begin{align*} x&:~1~,~2~,~3~,~4~,~\cdots \\ y&:~2~,~4~,~6~,~8~,~\cdots \\ \end{align*}
$~y~$と$~x~$をつなぐ「関数(函数)」は18~19世紀に中国に伝わりましたが、「比例」という言葉はそれよりも前だったんですね。
なぜ反比例定数と言わないのか?
比例の式$~y=ax~$において、$~a~$のことを比例定数と言います。
反比例の式$~\displaystyle y=\frac{a}{x}~$において、$~a~$のことを反比例定数とは言わずに、なぜこちらも比例定数と言うのでしょうか?
実は、$~y=ax~$のことを正比例とも言い、次のような関係があるのです。
比例関係にはいろいろあるため、最も一般的な正比例を比例と言っているのです。
このことを身近な例で言えば、以下のような関係と一緒です。(個人の感覚によりますが‥)
- 「お茶」と言えば「緑茶」
- 「車」と言えば、「自家用車」
- 「お米」と言えば、「白米」
ちなみに、中3や高2の内容にはなりますが、以下も比例の集合に含まれます。
- 自乗比例 $~y=ax^2~$
- 指数比例 $~y=ak^x~$($~k~$は底)
- 対数比例 $~y=a \log_{k} x~$ ($~k~$は底)
ハエのおかげで座標が誕生した
座標を使うことで、平面上のどこに点があっても、その位置を$~(~x~,~y~)~$で表すことができます。
この座標の誕生には、17世紀の数学者ルネ・デカルト(René Descartes ,1596〜1650)とハエ(蠅)が深く関わっていました。
フランス軍に入隊したデカルトは、ドイツのノイベルクでテント泊をしていた1619年11月10日、飛んでいるハエの夢を見ました。その夢の中で、飛んでいるハエの位置を数値で表す方法を思いつき、それが座標の考え方につながったと言われています。
または、こんな説もあります。
生まれつき病弱だったデカルトは、ベッドで多くの時間を過ごしました。ある日、仰向けでぼーっと天井を見ると、自分とは対照的に天井を飛び回るハエがいました。このハエの位置をなんとか表せないか考えたときに、座標を思いついたと言われています。
いずれのエピソードにせよ、デカルトがハエの位置を考えたことで座標の概念が生まれました。
採点に困らない比例のグラフ
比例のグラフをかくとき、グラフ上の2点をとれば直線をかくことができます。
ただ、全ての生徒が2点から直線をきれいにかくことができるでしょうか?
実際の現場では、次のようなグラフはよく見受けられます。
では、端と端の点を取ればきれいにかけるという指導法なら?
それでも打った点の大きさによっては以下のようにズレてしまうことがあります。
細かいかもしれませんが、通るべき点はすべて通らないといけないことを強調しておかないと、その後の反比例やテストの採点のときに困ります。
そこで、比例のグラフをきれいに描いてもらう(教員側が採点しやすいようにする)ために、通るべき点をすべて打つよう伝えましょう。(通るべき点が1つでも通っていなければ × と伝えてしまいましょう)
具体的には次の3ステップです。
- 原点に点を打つ。
- 比例定数の分母の数を$~x~$としたときの座標を持つ点を打つ。
- 直線ができるように点を打ちまくる。
グラフの学び始めでは、比例定数$~a~$が整数なので$~(~1~,~a~)~$の点を打つという言い方でもOKです。
そのうち比例定数が分数のグラフを描くときに、今までは分母が1だったことに触れることで一般化に繋げましょう。
この方法で完成するグラフは次のようなものになります。
(1) $~y=2x~$
(2) $~\displaystyle y=-\frac{3}{2}x|~$
誰にも文句を言われないグラフを描けると同時に、次年度学習することになる変化の割合の概念も作業の中で会得できるのでオススメです!
反比例で x=0 のときの y はなぜバツ?
反比例において、$~x~$と$~y~$の関係を表にしたときあらかじめ入っているのが、$~x=0~$のときの$~y~$がバツであること。
この理由を考える活動を是非させたいところです。
1章の正負の数において、$~\div 0~$が数学上のタブーであることは指導済みなので、それを思い出させるチャンス!
さらに、反比例のグラフをかくときにも表が再度登場するので、グラフを使って視覚的にも$~y~$の値が決まらないことを説明しましょう。
片側極限の話ではありますが、今後の数学で長く付き合っていくことになる$~\displaystyle \frac{\square}{0}~$の議論を印象に残すことができます。
双曲線を漢字から覚えよう
比例のグラフが直線であるのに対し、反比例のグラフは双曲線という新出用語となります。
「双」という漢字が他にどこで使われているかを発問してみましょう。
考えられる回答としては、以下のようなものが考えられます。
- 「双子」
- 「双眼鏡」
- 「双子葉類」(中1理科の植物分野で出てくる被子植物のなかま分け)
これらは「同時に生まれた二人の子」「二つの目に当てて見る望遠鏡」「子葉が二つの被子植物」のように、どれも「対になる2つのもの」を指しています。
したがって、「双子のように似ている曲線だから双曲線」と説明することで、単に用語を覚えさせるよりも記憶に残ります。
先ほどの発問において、「双六」という回答も出てくることがあるため、そのときの返しも知っておきましょう。
- 「双六」(諸説はあるものの、さいころを2個振り、双方とも6がいかに出るかがコマを進めるのに重要だったことから、このように呼ばれるようになった。)
双曲線の注意点
小学校からグラフと言えば直線と教わってきた中学1年生にとって、曲線のグラフは初めてのことになります。
我々からすると当たり前のようにかける双曲線も、以下のようなミスがよく見られます。
そこで、反比例のグラフをきれいに描いてもらう(教員側が採点しやすいようにする)ために、以下の4点を伝えましょう。
- 打てる点はすべて打つ
- 定規は使わない
- もどらない
- $~x~$軸や$~y~$軸に触れない
まずは当たり前の指導として、比例のときと同様に、グラフ用紙内の格子点は全て打つように伝えます。
また、$~x=0~$のときの点は打たないことを再度強調しましょう。
残りの3つの注意点は、折れ線封じ、円封じ、軸交差封じです。
採点基準を明確化してあげることで、生徒にとって不慣れな双曲線も要点を絞って書かせることができます。
まとめ
中学1年生の単元「比例と反比例」での授業ネタ、指導法について解説しました。
- 関数の語源はブラックボックス
- y は x の関数かどうかクイズ
- 変域の ● と ○ の違いのイメージ
- 「比例」の由来
- なぜ反比例定数と言わないのか?
- ハエのおかげで座標が誕生した
- 採点に困らない比例のグラフ
- 反比例で x=0 のときの y はなぜバツ?
- 双曲線を漢字から覚えよう
- 双曲線の注意点
これらの小ネタを適切に活用することで、数学の授業がより魅力的になり、生徒たちの学習意欲を高めることができるでしょう。
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