3世紀のギリシャ人数学者ディオファントスが、自身の墓碑銘に残したとされる有名な一次方程式の問題をご存じでしょうか?
一見謎めいたこの文章から、彼の享年を求めるという興味深い数学パズルが生まれています。
本記事では、「代数学の父」と称されるディオファントスについて簡単に触れつつ、その墓碑銘の問題と2通りの解法をご紹介します。
一次方程式の解法は中学1年生レベル、もう一つの解法は小学5年生レベルです。
それぞれの解法を現役教員で数学史ライターのFukusukeがわかりやすく解説します!
ディオファントスは3世紀の数学者
ディオファントス(Diophantus , 210頃-290頃)は、方程式をはじめとする代数分野を研究した3世紀の数学者です。

(出典:See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons)
「代数学の父」とも呼ばれた彼の研究は、一次方程式のみならず、二次方程式や三次方程式にまで広がっており、著書『算術』にまとめられています。

ディオファントスの墓の内容
彼の詳しい生涯については不明であるものの、彼の墓碑銘に関する以下の問題は有名となっています。
ディオファントスは一生の$~\displaystyle \frac{1}{6}~$を少年として、さらに一生の$~\displaystyle \frac{1}{12}~$を青年として過ごした。その後一生の$~\displaystyle \frac{1}{7}~$を過ぎて結婚し、$~5~$年後に息子ができた。その子は父の半分しか生きられず、ディオファントスより$~4~$年早く亡くなった。
ディオファントスは何歳のときに亡くなったか求めなさい。
(イメージ)
ディオファントス自身がこの問題を考えたかどうかは不明です。
紀元前7世紀から10世紀までの詩をまとめた『ギリシャ詞歌集』により、「ディオファントスの墓」は現在にまで伝わっています。

本当に墓に刻んであったのかもしれませんし、代数学の父であるディオファントスを偲んで誰かが作成しただけの問題かもしれません。
ディオファントスの墓の解法
一次方程式による解法
ディオファントスは主著『算術』の中で「ディオファントス方程式」と呼ばれる、有理数を解に持つ不定方程式を主に取り上げました。
そのため、墓の問題を考えた人は方程式による解法を想定していたはずです。
ディオファントスの享年を$~x~$歳とする。
このとき、文中の表現をそれぞれ$~x~$を使って表すと、
\begin{align*} 少年時代&\cdots ~\frac{1}{6}x~年 \\ 青年時代&\cdots ~\frac{1}{12}x~年 \\ 結婚まで&\cdots ~\frac{1}{7}x~年 \\ 結婚から息子誕生まで&\cdots ~5~年 \\ 息子と生きた期間&\cdots~\frac{1}{2}x~年 \\ 息子の死から自身の死まで&\cdots ~4~年 \\ \end{align*}
となり、これらの和がディオファントスの享年となるため、
\frac{1}{6}x+\frac{1}{12}x+\frac{1}{7}x+5+\frac{1}{2}x+4=x
という方程式ができる。
両辺を$~84~$倍することで、
\begin{align*} 14x+7x+12x+420+42x+336&=84x \\ -9x&=-756 \\ x&=84 \end{align*}
が求まるため、ディオファントスの享年は84であることがわかった。
出てきた答えから、ディオファントスの一生を図にしてみましょう。

最大公約数による解法
人間の享年を$~x~$としたとき、$~x~$の変域を$~0 \leqq x \leqq 120~$と仮定すれば、次のような解き方もできそうです。
少年時代や青年時代などの各期間は、整数年で表されるのが一般的である。
そのため、それぞれの期間が整数であるためには、ディオファントスの享年が$~6~$と$~12~$と$~7~$と$~2~$の公倍数、つまり$~84~$の倍数でなければならない。
しかし、人間の寿命は多く見積もっても120歳ほどである。
よって、彼の享年は84歳である。
仮定が曖昧ではあるものの、一応筋は通っているように思えます。
今後、医療の発達などで人の寿命が伸びるとこの解法は使えませんね。
まとめ
ディオファントスの墓に書かれていたと伝わる問題について解説しました。
- 3世紀の数学者ディオファントスの墓碑銘には、享年を問う数学パズルが伝えられている。
- 一次方程式からディオファントスの享年を求めることができる。
- 享年を整数とし、一般的な寿命で考えると、最大公約数からも解が求められる。
$~84~$は約数が多いため、いろいろな数で割ることができました。
ちなみに、$~84~$は$~60~,~72~,~90~,~96~$と並んで最も約数が多い2桁の自然数です。

「一生の$~\displaystyle \frac{1}{12}~$を青年として過ごした」の代わりに「一生の $~\displaystyle \frac{1}{12}~$ が経ってからヒゲが生えた」と伝える参考書もありました。



え、そうするとヒゲが生え始めるのが21歳ということに・・・。
遅くない?不適では?
参考文献
- 『カッツ 数学の歴史』,pp.197-203.
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.178-180.
- 『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.96-101.
- 『世界数学者事典』,pp.292-293
- 『図解教養事典 数学』, pp.42-43.
- 『高校数学史演習』,pp.60-65.
- 『ギリシャ数学史』,pp.386-410.
コメント