エラトステネスは、紀元前3世紀に活躍した古代ギリシャの学者であり、地理学、天文学、数学など多岐にわたる分野で重要な功績を残しました。
特に「エラトステネスのふるい」と地球の大きさの測定方法で知られています。
この記事では、彼の生涯と功績について詳しく解説します。
時代 | 紀元前276年頃〜紀元前194年 |
場所 | アレクサンドリア |
エラトステネスの生涯
アレクサンドリアの数学者エラトステネス(Eratosthenes , 紀元前276年頃〜紀元前194年頃)は、天文学を数学的な学問に変えたヘレニズム時代の数学者です。
エラトステネスの年譜
キュレネで生まれる。
現在のリビアに位置する都市で生まれた。
アテネやアレクサンドリアで学ぶ
40歳頃まではアテネを中心に活動していたと考えられている。
地球の外周を計算する
シエネとアレクサンドリアでの観測データから、地球1周を約46000kmと求めた。
アレクサンドリア図書館の館長に就任する
アレクサンドリア図書館は当時最大の図書館で、たくさんの本が所蔵されていた。
館長職を引退する
アレクサンドリアで亡くなる
前年に失明をしたことで落胆し、食を絶って自死した。
エラトステネスの活動場所
エラトステネスは現在のリビアにあるキュレネで生まれました。
彼はアテネやアレクサンドリアで教育を受け、紀元前236年まではアテネで、それ以降はアレクサンドリアで研究を行いました。
地球の長さを測定するときにシエネの観測データも使用しているものの、エラトステネスがその地に赴いたのかは定かではありません。
晩年、アレクサンドリア図書館の館長職を退いた後も、アレクサンドリアに住み続け、その地で自死を選んでいます。
功績:エラトステネスのふるい
素数の倍数を消していく
エラトステネスのふるいは、指定された整数以下に含まれる全ての素数を発見するためのアルゴリズムです。
$~1~$から$~25~$までの自然数から素数を見つける場合
- $~1~$は素数ではないので消す
- $~2~$に◯をつけ、2の倍数を全て消す
- $~3~$に◯をつけ、3の倍数を全て消す(すでに消しているものは消したままで)
- $~4~$はすでに消されているので、素数ではない
- $~5~$に◯をつけ、5の倍数を全て消す(すでに消しているものは消したままで)
- これを繰り返していくことで、素数だけに〇がつく。
以上より、25以下の素数は以下の9個である。
2,3,5,7,11,13,17,19,23
ちなみにですが、倍数を消す作業は $~\sqrt{25}=5 ~$以下の自然数まで行えば完了です。
実際、5の倍数まで消すことで、次の7の倍数を消すときには$~14~,~21~$はすべて消えていることがわかります。
素数列を作る効率の良い方法
エラトステネスのふるいは、素数を効率的に見つけるための古典的かつ効果的な手法です。
先程の例からもわかるように、エラトステネスのふるいでは、素数の倍数を系統的に排除し、素数列を簡単に作成できます。
実際、200までの整数でエラトステネスのふるいを行ったとしても、わずか6つの素数($~2~,~3~,~5~,~7~,~11~,~13~$)の倍数を消すだけで済みます。
下のボタンを押して、2秒おきに整数がふるわれていく(塗られていく)様子をご覧ください。
現在のふるいの状況
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |
41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50 |
51 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 57 | 58 | 59 | 60 |
61 | 62 | 63 | 64 | 65 | 66 | 67 | 68 | 69 | 70 |
71 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 | 79 | 80 |
81 | 82 | 83 | 84 | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 |
91 | 92 | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 |
101 | 102 | 103 | 104 | 105 | 106 | 107 | 108 | 109 | 110 |
111 | 112 | 113 | 114 | 115 | 116 | 117 | 118 | 119 | 120 |
121 | 122 | 123 | 124 | 125 | 126 | 127 | 128 | 129 | 130 |
131 | 132 | 133 | 134 | 135 | 136 | 137 | 138 | 139 | 140 |
141 | 142 | 143 | 144 | 145 | 146 | 147 | 148 | 149 | 150 |
151 | 152 | 153 | 154 | 155 | 156 | 157 | 158 | 159 | 160 |
161 | 162 | 163 | 164 | 165 | 166 | 167 | 168 | 169 | 170 |
171 | 172 | 173 | 174 | 175 | 176 | 177 | 178 | 179 | 180 |
181 | 182 | 183 | 184 | 185 | 186 | 187 | 188 | 189 | 190 |
191 | 192 | 193 | 194 | 195 | 196 | 197 | 198 | 199 | 200 |
あっという間に200以下の素数だけが残りました。
功績∶地球の大きさを測った
相似から観測地間の距離を計算する
まず、エジプトのシエネ(現在のアスワン)の井戸にもぐり、太陽が真上にくるタイミングを観測しました。
(エラトステネスが現地に赴いたのか、弟子などに観測させたのかは不明)
そして同じタイミングに、シエネから離れた北に5000スタディア(925km)離れたアレクサンドリアで、木の棒を立てて影の角度を測定しました。
こうして得られた情報から、地球1周の長さは次のように求められます。
観測値から以下のような図をかくことができる。
この図において、平行線の錯角から$~\angle SOA=\angle CBA=7.2^{\circ}~$。
アレクサンドリアとシエネの緯度の差が$~7.2^{\circ}~$ということになるため、
925\times\frac{360^{\circ}}{7.2^{\circ}}=46250
より、地球1周の長さは250,000スタディア(46250km)と求められる。
実際の地球の円周は約40000kmのため、この時代としては非常に高い精度で計算できていたことになります。
誤差が生じた理由としては、
- アレクサンドリアとシエネの距離がおおよその値だった
- 1スタディアが180m~200mと幅がある(エラトステネスの時代は1スタディアは185mと推測されている)
- アレクサンドリアの方角が、シエネの真北ではない(地図参照)
などが挙げられます。
天文学を数学的学問に変えた
このように、地球の大きさを天文現象から求めたエラトステネスは、天文学を数学的学問に変えた数学者として有名です。
エラトステネスは、天球儀(球面上に恒星の天球上の位置を示した模型)を作成して、星座の位置関係の把握や天体の動きのシミュレーションに役立てました。
天球モデルを数学的アプローチで解明し、天文学には数学が不可欠な存在であることを実証しました。
どの時代でも暦の作成や宗教的行事のために天文学が重宝されたため、その天文学を研究できる数学者の価値がエラトステネスによって確立されたのです。
エピソード∶「β先生」と呼ばれた
当時の王プトレマイオス3世から、アレクサンドリア図書館の館長やプトレマイオス4世の家庭教師を任されるほど、エラトステネスの実力は世間に認められていました。
そんな彼についていたあだ名は「β先生」です。
エラトステネスが2番目のギリシャ文字である「β」と称された理由としては、以下のように推察されています。
- 知識も洞察力から「第2のプラトン」と呼ばれ、「世界で2番目に物事をよく知っている人」と称されたから。
- いろんな分野の才能に長けていたものの、トップになることはなかったから。
プトレマイオス4世の時代の数学者アポロニウスは「ε先生」と呼ばれており、当時はこのような呼び方が流行っていたのかもしれません。
β先生、プトレマイオス4世がお酒に耽り、政治をしっかりやらないのですが‥。
ε君、僕の教え子がごめん!
彼の父は優秀な王だったんだけど…。
まとめ
多岐にわたる分野で重要な業績を残した古代ギリシャの数学者エラトステネスについて解説してきました。
- 「エラトステネスのふるい」では素数を効率よく抽出した。
- 地球1周の長さを相似から46250kmと求めた。
β先生って、尊敬されているようにも聞こえるし、バカにもされているようにも聞こえるね。
プトレマイオス4世は父が築いたエジプトの繁栄を潰すほどの人物だったから、エラトステネスをナメていたのかもしれないね。
参考文献
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.157-159.
- 『数学の歴史物語』,pp.113-118.
- 『世界数学者事典』,pp.73-74.
- 『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.44-45,
- 『ギリシャ数学史』,pp.277-280.
- ポール・パーソンズ、ゲイル・ディクソン(2021)『図解教養事典 数学』,p.34,NEWTON PRESS
- 『素顔の数学者たち』,p.13.
コメント