高校受験での裏技として知られ、数学Ⅰで学ぶことになるヘロンの公式。
数学Ⅰの教科書では、$~\sin{}~,~\cos{}~$を使って証明されているヘロンの公式ですが、実は証明方法は他にもたくさんあります。
この記事では、中学生にも理解できる平易な証明から、少し発展的な証明まで、5種類もの証明方法を紹介!
数学史ライターで現役教員のFukusukeがたくさんの図とともに、ヘロンの公式の証明方法を解説します。
ヘロンの公式とは?
まずは、ヘロンの公式がどのようなものなのか、その内容と具体的な使い方、そしてこの公式が生まれた歴史的背景を見ていきましょう。
ヘロンの公式の内容
ヘロンの公式は、三角形の3辺の長さから面積を求めることができるというものです。

三辺の長さが$~a~,~b~,~c~$の$~\triangle ABC~$で、
s=\frac{a+b+c}{2}
とする。
このとき、$~\triangle ABC~$の面積$~S~$は次のように求めることができる。
S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \\
このエレガントな式のおかげで、面倒な高さを求める計算をすることなく、辺の長さだけで面積を算出できるのです。
ヘロンの公式の使用例
ヘロンの公式は、$~s~$の値が整数のときにその効果を発揮します。
3 つの辺の長さが$~3~,~7~,~8~$である三角形の面積$~S~$は、
s=\frac{3+7+8}{2}=9
を利用することで、ヘロンの公式から
\begin{align*} S&=\sqrt{9(9-3)(9-7)(9-8)} \\ &=\sqrt{9\cdot 6\cdot 2\cdot 1} \\ &=6\sqrt{3} \end{align*}
と求められる。
$~s~$の値が分数のときは多少計算が面倒になります。
3 つの辺の長さが$~3~,~6~,~8~$である三角形の面積$~S~$は、
s=\frac{3+6+8}{2}=\frac{17}{2}
を利用することで、ヘロンの公式から
\begin{align*} S&=\sqrt{\frac{17}{2}\left(\frac{17}{2}-4\right)\left(\frac{17}{2}-7\right)\left(\frac{17}{2}-8\right)} \\ \\ &=\sqrt{\frac{17}{2} \cdot \frac{9}{2} \cdot \frac{3}{2} \cdot \frac{1}{2}} \\ \\ &=\frac{3\sqrt{51}}{4} \end{align*}
と求められる。
さらに、辺の長さの中に$~\sqrt{~}~$が含まれていると、さらに計算が厄介になります。
3 つの辺の長さが$~\sqrt{2}~,~\sqrt{3}~,~\sqrt{5}~$である三角形の面積$~S~$は、
s=\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}
を利用することで、ヘロンの公式から
\begin{align*} S&=\sqrt{\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}\left(\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{2}\right)\left(\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{3}\right)\left(\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}-\sqrt{5}\right)} \\ \\ &=\sqrt{\left(\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}\right)\left(\frac{-\sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}\right)\left(\frac{\sqrt{2}-\sqrt{3}+\sqrt{5}}{2}\right)\left(\frac{\sqrt{2}+\sqrt{3}-\sqrt{5}}{2}\right)} \\ \\ &=\sqrt{\left(\frac{-2+3+2\sqrt{15}+5}{2^2}\right)\left(\frac{2-3+2\sqrt{15}-5}{2^2}\right)} \\ \\ &=\sqrt{\frac{(2\sqrt{15}+6)(2\sqrt{15}-6)}{2^2\cdot 2^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{24}{2^2\cdot 2^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{6}{2^2}} \\ \\ &=\frac{\sqrt{6}}{2} \\ \end{align*}
と求められる。
この問題の場合、直角三角形であることに気づければ速攻で解くことができます。

ヘロンの公式は$~s~$が整数になるとき、すなわち三辺の長さの和が偶数である三角形で効果を発揮する公式と言えます。
1世紀の数学者ヘロンが発明した公式
ヘロンの公式は、紀元1世紀頃に活躍したアレクサンドリアのヘロンによって紹介されました。

(出典:See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons)
ヘロンは著書『測地術(Geodaesia)』の中でヘロンの公式に言及し、証明も行っています。(ヘロンが行った証明方法はこちら)
ヘロンの公式は、それ以前のギリシャ由来の考え方を覆す、数学史上画期的な意味を持っていました。

①中学生でも理解できる証明
中学校3年生の三平方の定理の応用として、三辺の長さがわかっている三角形の面積を以下のような解法を求めます。

この解法をすべて文字で表したのが、今回の証明方法でした。
少し計算は複雑になりますが、中学3年生でも理解できる証明方法となります。
$~A~$から$~BC~$に垂線$~BH~$を引く。 $~BH=x~$ とする。

$~\triangle ABH~$で三平方の定理より、次の式が成り立つ。
AH^2=c^2-x^2~~~\cdots①
また、$~\triangle ACH~$で三平方の定理より、次の式が成り立つ。
AH^2=b^2-(a-x)^2~~~\cdots②
$① , ②$より、
\begin{align*} c^2-x^2 &= b^2-(a-x)^2 \\ c^2-x^2 &= b^2-(a^2-2ax+x^2) \\ c^2-x^2 &= b^2-a^2+2ax-x^2 \\ -2ax&=b^2-a^2-c^2 \\ x&=\displaystyle \frac{a^2+c^2-b^2}{2a} \end{align*}
と$~x~$が求められるため、$~①~$に代入することで
\begin{align*} AH&=\sqrt{c^2-x^2} \\ \\ &=\displaystyle \sqrt{c^2-\frac{(a^2+c^2-b^2)^2}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{c^2-\frac{a^4+c^4+b^4+2 a^{2} c^2-2 b^{2} c^2-2 a^{2} b^2}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{4a^2c^2-(a^4+c^4+b^4+2 a^{2} c^2-2 b^{2} c^2-2 a^{2} b^2)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{4a^2c^2-a^4-c^4-b^4-2 a^{2} c^2+2 b^{2} c^2+2 a^{2} b^2)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-a^4-c^4-b^4+2 a^{2} c^2+2 b^{2} c^2+2 a^{2} b^2)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-(a^4+b^4+c^4-2 a^{2} c^2-2 b^{2} c^2-2 a^{2} b^2)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-{ (a^2-b^2-c^2)^2-4b^{2}c^2 }}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-{ (a^2-b^2-c^2)+2bc}{ (a^2-b^2-c^2)-2bc}}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-{ a^2-(b^2+c^2-2bc)}{ a^2-(b^2+c^2+2bc)}}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-{ a^2-(b-c)^2}{ a^2-(b+c)^2}}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-(a+b-c)(a-b+c)(a+b+c)(a-b-c)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{-(a+b+c)(a-b-c)(a-b+c)(a+b-c)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{(a+b+c)(b+c-a)(a-b+c)(a+b-c)}{4 a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{(a+b+c)}{2}\cdot \frac{(b+c-a)}{2}\cdot \frac{(a-b+c)}{2} \cdot \frac{(a+b-c)}{2}\cdot \frac{4}{a^2}} \\ \\ &=\sqrt{\frac{(a+b+c)}{2}\cdot \frac{(a+b+c-2a)}{2}\cdot \frac{(a+b+c-2b)}{2} \cdot \frac{(a+b+c-2c)}{2}\cdot \frac{4}{a^2}} \\ \\ &=\frac{2}{a} \sqrt{\left( \frac{a+b+c}{2} \right) \left( \frac{a+b+c}{2}-a \right) \left( \frac{a+b+c}{2}-b \right) \left( \frac{a+b+c}{2}-c \right) } \\ \end{align*}
であり、ここで $~s=\displaystyle \frac{a+b+c}{2} ~$ より、
AH=\displaystyle \frac{2}{a} \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}
が求められる。
最後に$~\triangle ABC~$の面積を求めると、
\begin{align*} △ABC&=\displaystyle \frac{1}{2} a \cdot AH \\ \\ &=\frac{1}{2} a \cdot \frac{2}{a} \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \\ \\ &=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \end{align*}
となり、ヘロンの公式が得られた。$~~~\blacksquare~$
よっぽど$~\sqrt{~~}~$の扱いに慣れていないと難しいですが、高校受験を控えた中学生の腕試しにいかがでしょうか?
②相似を利用した証明(ヘロンの証明)
ヘロンの公式の証明のうち、ヘロン自身が行ったとされる証明は、三角形の周の長さと内接円の半径を利用した幾何学的なもので、相似な三角形の性質を巧みに使っています。
証明の冒頭で$~s~$をはじめに求める理由もわかるため、発見者本人による納得の証明方法といえます。
$~\triangle ABC~$で、内接円$~O~$の半径を$~r~$とする。

このとき、$~\triangle ABC~$の面積$~S~$は
S=\frac{r}{2}(a+b+c)
であり、$~\displaystyle s=\frac{a+b+c}{2}~$とおくと、
S=rs~~~\cdots ①
と表せる。
半直線$~CB~$上の$~B~$の左側に、$~BG = AF~$となるような点$~G~$をとる。

このとき$~CG= s~$となり、$~OD= r~$とともに$①$に代入すると、
S = CG・OD
であり、$~CG > 0 ~,~OD > 0~$より、
S = \sqrt{CG^2・OD^2}~~~\cdots②
と表せる。
次に、$~B~$を通る$~BC~$の垂線と、$~O~$を通る$~OC~$の垂線の交点を$~H~$とする。

このとき、$~\angle HBC=\angle HOC=90^{\circ}~$より、4点$~C~,~O~,~B~,~H~$は$~CH~$を直径とする同一円周上にある。

内接する四角形の性質から、次の等式が成り立つ。
∠COB + ∠CHB =180^{\circ}~~~\cdots ③

また、$~\triangle ABC~$の内接円の性質から、次の等式が成り立つ。
∠COB + ∠AOF =180^{\circ}~~~\cdots ④
$③$と$④$より、
∠CHB= ∠AOF
であり、$~\angle CBH=\angle AFO=90^{\circ}~$と合わせて、$~\triangle CHB~$∽$~\triangle AOF~$。

相似な図形の性質から、
BC : BH= AF : FO = BG : OD \quad \text{(Gの設定と半径から)}
であり、比の順番を入れ替えると、
BC : BG = BH : OD~~~\cdots⑤
である。
ここで、$~CH~$と$~BC~$の交点を$~I~$とすると、$~\triangle HBI~$∽$~\triangle ODI~$なので、
BH : DO = BI : DI~~~\cdots⑥
が成り立つ。

$⑤$と$⑥$より、
BC : BG = BI: DI
であり、これを変形すると、
\begin{align*} \frac{BC}{BG}&=\frac{BI}{DI} \\ \\ \frac{BC}{BG}+1&=\frac{BI}{DI}+1 \\ \\ \frac{BC+BG}{BG}&=\frac{BI+DI}{DI} \\ \\ \frac{CG}{BG}&=\frac{BD}{DI} \\ \\ \frac{CG^2}{BG \cdot CG}&=\frac{BD\cdot DC}{DI\cdot DC} ~~~\cdots⑦ \\ \end{align*}
である。
$~\triangle ODI~$∽$~\triangle CDO~$より、
\begin{align*} DI : DO &= DO: DC \\ DI\cdot DC&=DO^2 \end{align*}
なので、$⑦$に代入して、
\begin{align*} \frac{CG^2}{BG \cdot CG}&=\frac{BD\cdot DC}{DO^2} \\ \\ CG^2 \cdot DO^2&=CG\cdot BG \cdot BD \cdot DC~~~\cdots ⑧ \end{align*}
となる。
最後に$⑧$を$②$に代入して、
\begin{align*} S&= \sqrt{CG\cdot BG \cdot BD \cdot DC} \\ &= \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \end{align*}
とヘロンの公式が示された。$~~~\blacksquare~$
ほとんどの知識は中学数学ですが、内接する四角形の性質だけは高校数学Aの内容となっています。
③三角比を利用した証明(数学Ⅰの教科書の証明)
高校の数学Iで三角比を学ぶと、ヘロンの公式はよりスマートに証明できます。この証明方法は、現代の数学教育においては標準的なものの一つです。
$~\triangle ABC~$の面積$~S~$は、正弦を使った面積公式より、
\begin{equation*} S = \frac{1}{2}ab \sin C \end{equation*}
となる。
$\sin^2 C + \cos^2 C = 1$より、 $~\sin^2{C}=1-\cos^2{C}~$なので、
\begin{equation*} S = \frac{1}{2}ab \sqrt{1 - \cos^2 C} \end{equation*}
となる。
余弦定理より $~\displaystyle \cos C = \frac{a^2 + b^2 – c^2}{2ab}~$ なので
\begin{equation*} S = \frac{1}{2}ab \sqrt{1 - \left(\frac{a^2 + b^2 - c^2}{2ab}\right)^2} \end{equation*}
となる。
根号の中が平方の差の因数分解を利用して、右辺を変形していくと、
\begin{align*} S &= \frac{1}{2}ab \sqrt{1 - \left(\frac{a^2 + b^2 - c^2}{2ab}\right)^2} \\ &=\frac{1}{2}ab \sqrt{\frac{(2ab)^2 - (a^2 + b^2 - c^2)^2}{(2ab)^2}} \\ &= \frac{1}{2}ab\cdot \frac{1}{2ab} \sqrt{(2ab)^2 - (a^2 + b^2 - c^2)^2} ~~~\cdots(平方の差)\\ &= \frac{1}{4} \sqrt{(2ab + a^2 + b^2 - c^2)(2ab - a^2 - b^2 + c^2)} \\ &= \frac{1}{4} \sqrt{\{(a+b)^2 - c^2\}\{c^2 - (a-b)^2\}} ~~~\cdots(平方の差)\\ &= \frac{1}{4} \sqrt{(a+b+c)(a+b-c)(c-a+b)(c+a-b)} \\ &= \sqrt{\frac{(a+b+c)}{2} \frac{(-a+b+c)}{2} \frac{(a-b+c)}{2} \frac{(a+b-c)}{2}} \\ &=\sqrt{\left(\frac{a+b+c}{2}\right)\left(\frac{a+b+c}{2}-a\right)\left(\frac{a+b+c}{2}-b\right)\left(\frac{a+b+c}{2}-c\right)}\\ \end{align*}
であり、ここで$~\displaystyle s=\frac{a+b+c}{2}~$とすれば、
S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \\
が求められる。$~~\blacksquare~$
同じ代数計算でも、①の中学生でも理解できる証明と比べると、すっきりと証明できているのがわかります。
同様の方法ですが、初手で次のように変形してから$~\sin^2{C}=1-\cos^2{C}~$を代入すると、式変形中の$~\sqrt{~~}~$を回避できます。
\begin{equation*} S^2 = \frac{1}{4}a^2b^2 \sin^2 C \end{equation*}
④内接円と傍接円を利用した証明
ヘロンの公式は、三角形の内接円と傍接円を用いて証明することも可能です。
$~\triangle \text{ABC}~$の内接円$~I~$の半径を$~r~$とする。

このとき、$~\triangle ABC~$の面積$~S~$は、内接円から
S=\frac{r}{2}(a+b+c)
であり、$~\displaystyle s=\frac{a+b+c}{2}~$とおくと、
S=rs~~~\cdots ①
と表せる。
また、頂点$~A~,~B~,~C~$から接点までの長さを$~x~,~y~,~z~$とする。

このとき、$~\triangle ABC~$の各辺の長さから、
\begin{cases} &x+y=c \\ &y+z=a \\ &z+x=b \end{cases}
であり、これらの式の両辺をすべてたすことで、
\begin{align*} 2(x+y+z)&=a+b+c \\ x+y+z&=\frac{a+b+c}{2} \\ b+y&=s \\ y&=s-b ~~~\cdots ② \end{align*}
と求められる。
次に、$~BC~$に接する傍接円$~P~$の半径を$~R~$とする。

$~S=\triangle \text{ABP} + \triangle \text{ACP} – \triangle \text{BCP} ~$より、傍接円の半径を利用すると、
\begin{align*} S&= \frac{1}{2}cR + \frac{1}{2}bR - \frac{1}{2}aR \\ &= \frac{b+c-a}{2}~R \\ &= \frac{b+c+a-2a}{2}~R \\ &= \left( \frac{b+c+a}{2}-a \right)R \\ &=(s-a)R ~~~\cdots ③ \end{align*}
と表せる。
また、頂点$~B~,~C~$から接点までの長さを$~v~,~w~$とする。

このとき、$~A~$から傍接円の接点までの距離と、辺$~BC~$から、
\begin{cases} &b+w=c+v \\ &v+w=a \\ \end{cases}
であり、2つの式から$~w~$を消去することで、
\begin{align*} b-v&=c+v-a \\ -2v&=-a-b+c \\ v&=\frac{a+b-c}{2} \\ v&=\frac{a+b+c-2c}{2} \\ v&=\frac{a+b+c}{2}-c \\ v&=s-c ~~~\cdots ④ \end{align*}
と求められる。
ここで、$②$と$④$を使って、内接円$~I~$と傍接円$~P~$を同じ図にまとめる。

円外からひいた接線の性質により、$~BI~$と$~BP~$はそれぞれ$~\angle DBE~$と$~\angle FBE~$の二等分線なので、
\angle DBI=\angle EBI \\ \angle FBP=\angle EBP \\
である。そのため、
\begin{align*} \angle IBP&=\angle EBI + \angle EBP \\ &=\frac{1}{2}\angle DBE + \frac{1}{2}\angle FBE \\ &=\frac{1}{2}(\angle DBE + \angle FBE) \\ &=\frac{1}{2} \cdot 180^{\circ} \\ &=90^{\circ} \end{align*}
とわかる。
したがって、
\angle BDI=\angle BFP=90^{\circ} \\ \angle DBI=90^{\circ}-\angle FBP=\angle FPB
より、$~\triangle \text{BDI} \text{∽} \triangle \text{PFB}~$が示され、
\begin{align*} \text{DI} : \text{FB} &= \text{BD} : \text{PF} \\ r : (s-c) &= (s-b) : R \\ rR&=(s-b)(s-c) ~~~\cdots ⑤ \end{align*}
が成り立つ。
$①$と$③$の両辺をかけると、
\begin{equation*} S^2=s(s-a)rR \end{equation*}
であり、ここに$⑤$を代入することで、
\begin{align*} S^2&=s(s-a)(s-b)(s-c) \\ S&=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)} \end{align*}
とヘロンの公式が示された。$~~\blacksquare~$
内接円や傍接円によって現れた$~(s-b)~$や$~(s-c)~$を、相似でつなげてあげるという美しさが際立つ方法でした。
⑤ブラフマグプタの公式による証明
三角形の面積を求めるヘロンの公式は、実は四角形の面積公式の特殊なケースと見なすことができます。
四角形の面積を求める公式とは、7世紀のインドの数学者ブラフマグプタ(Brahmagupta , 598〜665頃)が発見した「ブラフマグプタの公式」です。

(出典:https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Brahmagupta/pictdisplay/)
ブラフマグプタの公式の内容
ブラフマグプタの公式は、円に内接する四角形の面積を求めるための公式です。

四辺の長さが$~a~,~b~,~c~,~d~$の四角形$~ABCD~$で、
s=\frac{a+b+c+d}{2}
とする。
このとき、四角形$~ABCD~$の面積$~S~$は次のように求めることができる。
S=\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)} \\
ヘロンの公式に酷似しているのがわかるでしょう。
証明は、内接する四角形を対角線で2つの三角形に分け、それぞれの三角形に正弦を使った面積公式を適用します。

ヘロンの公式とは直接関係ないけど、円に内接しない四角形については、ブレートシュナイダーの公式というものがあるよ。
ブラフマグプタの公式による証明
ブラフマグプタの公式を利用したヘロンの公式の証明は非常に簡単です。
四角形の辺の1つを限りなく$~0~$に近づけた場合(つまり、四角形が三角形につぶれた場合)と考えることで導出できます。
円に内接する四角形の各辺の長さを$~a~,~b~,~c~,~d~$とする。
このとき、ブラフマグプタの公式より、四角形$~ABCD~$の面積$~S~$は、
s=\frac{a+b+c+d}{2}~~~\cdots①
として、
S=\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)} ~~~\cdots②
と求められる。
ここで、$~d=0~$としたとき、四角形$~ABCD~$は$~\triangle ABC~$となる。


ブラフマグプタの公式は$①$が
s=\frac{a+b+c+0}{2}=\frac{a+b+c}{2}
となり、$②$が
S=\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-0)}=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}
となるため、ヘロンの公式が得られた。$~~\blacksquare~$
このように、ヘロンの公式はブラフマグプタの公式の特別な場合として理解することができます。
四角形は円に内接する場合としない場合がありますが、三角形の各頂点は必ず同一円周上にあるため、ブラフマグプタの公式が適用できます。
まとめ
この記事では、三角形の3辺の長さから面積を求めるヘロンの公式について、その内容や歴史的背景、そして5種類もの多様な証明方法を解説しました。
- 中学生でも理解できる証明: 三平方の定理を繰り返し用いる、地道だが基本的な方法。
- 相似を利用した証明(ヘロンの証明): ヘロン自身が用いたとされる、内接円などを利用した幾何学的な方法。
- 三角比を利用した証明: 高校数学で学ぶ、余弦定理と三角比の相互関係を用いたスマートな方法。
- 内接円と傍接円を利用した証明: 図形の性質を深く利用した、簡明で美しい方法。
- ブラフマグプタの公式による証明: 円に内接する四角形の面積公式の特殊な場合として捉える、より広い視点からの方法。
これらの証明は、それぞれ異なる数学的な道具や視点を用いており、一つの公式に対して多様なアプローチが存在することを示しています。
ぜひ、これらの証明をじっくりと味わい、数学の面白さや奥深さに触れてみてください!



代数的な証明①③と幾何的な証明②④に見事に分かれました。
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