数学史3-3 ~バビロニアの数学(小数)~

文化史数学史文化史

 エジプトの単位分数に対し、バビロニアは60進法の小数を使っていました。その小数はどう表されたのでしょうか? また、そもそも60進法を採用していた理由は何かを解説します。

←前回
数学史3-2 ~バビロニアの数学(整数)~
次回→
数学史3-4 ~バビロニアの数学(計算)~

スポンサーリンク

Ⅰ バビロニアの小数の表し方

 エジプト文明では、1より小さい数を、単位分数を使って表していました。(「数学史2-4 ~エジプトの数学(分数)~」参照)
 一方、バビロニアでは分数の代わりに、60進法の小数を使っていました。
 
 まず、現在我々が使っている10進法の小数を分析すると、小数第一位\(~\left(\displaystyle \frac{1}{10}=10^{-1}~の位 \right)~\)、小数第二位\(~\left(\displaystyle \frac{1}{100}=10^{-2}~の位 \right)~\)、小数第三位\(~\left(\displaystyle \frac{1}{1000}=10^{-3}~の位 \right)~\)・・・と続いていきます。
 そのため、\(~0.325~\)という小数を例にとると、
\begin{equation}
0.325=\frac{1}{10}\times 3+\frac{1}{100}\times 2+\frac{1}{1000}\times 5
\end{equation}
のように数が成り立っています。
 
 では、バビロニアで使われていた60進法の小数を同じように考えると、小数第一位\(~\left(\displaystyle \frac{1}{60}=60^{-1}~の位 \right)~\)、小数第二位\(~\left(\displaystyle \frac{1}{3600}=60^{-2}~の位 \right)~\)、小数第三位\(~\left(\displaystyle \frac{1}{216000}=60^{-3}~の位 \right)~\)・・・と続いていきます。
 例を3つほど挙げてみます。
小数の例
 このように、バビロニアの整数と同様の位取り記数法が小数でも使われていました。


スポンサーリンク


Ⅱ 小数点は?

 前記事の「数学史3-2 ~バビロニアの数学(整数)~」でも解説した通り、バビロニアには今で言う「0」のような位の空所を表す記号が無かったため、与えられた数字がどこの位を表しているのかを読み取るのは至難を極めました。
 
 例えば、次のような数字があったとします。
11の解釈方法
 この「1」「1」という数字は、いろいろな解釈をすることが可能です。

  • \(~60~\)の位が1個、\(~1~\)の位が1個なら、\(~60 \times 1+1\times 1=61~\)
  • \(~3600~\)の位が1個、\(~1~\)の位が1個なら、\(~3600 \times 1+1\times 1=3601~\)(\(~60~\)の位は空所)
  • \(~3600~\)の位が1個、\(~60~\)の位が1個なら、\(~3600 \times 1+60\times 1=3660~\)(\(~1~\)の位は空所)
  • \(~1~\)の位が1個、\(~\displaystyle \frac{1}{60}~\)の位が1個なら、\(~\displaystyle 1 \times 1+\frac{1}{60}\times 1=1.0166\cdots~\)
  • \(~\displaystyle \frac{1}{60}~\)の位の位が1個、\(~\displaystyle \frac{1}{3600}~\)の位が1個なら、\(~\displaystyle \frac{1}{60} \times 1+\frac{1}{3600}\times 1=0.0169\cdots~\)(\(~1~\)の位は空所)

 整数だけ、小数だけではなく、整数と小数が混ざっていることもあり、正しく読み取るのは大変でした。
 
 実際どう見極めていたかというと、バビロニア人は文脈から書かれている数字の位を判断していました。
 次の4つの文章を考えてみましょう。

例文

4つの例文

 登場する数字はすべて縦棒1本ですが、表している数はそれぞれ違います。
 文脈から縦棒1本がどの位に書かれているのかを判断しなければなりません。

例文の解説

(1) おじいちゃんは\(~60~\)歳だ。
 年齢なので整数となるが、おじいちゃんなので1歳はあり得ず、3600歳は生きられない。
 
(2) 昼食にパンを\(~1~\)個食べた。
 パンの個数なので整数となるが、60個や3600個もパンを食べる人はそういないはず。
 
(3) 視力が\(~\displaystyle \frac{1}{60}=0.016 \cdots~\)しかないので、眼鏡が必要だ。
 視力なので\(~0.01~\)から\(~2.0~\)の間になるが、\(~1~\)なら眼鏡は必要ないはず。
 
(4) バチカン市国の人口は、茨城県の人口の\(~\displaystyle \frac{1}{3600}=0.00027 \cdots~\)ほどだ。
 バチカン市国の人口は615人(外務省、2018年10月)であり、茨城県の人口は約285万人(茨城県、2020年12月)なので、\(~615 \div 2850000=0.00022 \cdots~\)。

 以上からもわかる通り、数を判断するためには読解力や推測力、知識が必要となりそうです。


スポンサーリンク


Ⅲ 60進法の利点とは?

 現在の我々からしたら整数でも小数でも読みづらい60進法を、なぜバビロニアでは採用していたのでしょうか?
 エジプト文明は10進法を使っていたため、時代的に10進法が高度だったというようなことはないはずです。(「数学史2-2 ~エジプトの数学(数字)~」)
 
 その理由として、様々な推測が行われていますが、その中の1つに

 片手の指の本数である\(~5~\)までの整数をすべてわることができる最小の数が\(~60~\)だから。

というものがあります。
 今の我々の10進法も「両手の指の本数」が起源なので、指の本数に着目するという点で見れば世界共通ですね。(「数学史1-1 ~数学のはじまり~」)
 
 この\(~60~\)という数は1~5の最小公倍数、逆に考えれば\(~60~\)は約数が多いということが言えます。
 実際約数の個数は\(~12~\)個で、\(~100~\)までの整数の中で一番多いです。(\(~72~,~90~,~96~\)も\(~12~\)個です。)
 
 現在、我々が使っている時間の概念も同様で、1時間=60分 という数は、

\(~30\)分\(\times~2~\)、\(~20\)分\(\times~3~\)、\(~15\)分\(\times~4~\)、\(~12\)分\(\times~5~\)、\(~10\)分\(\times~6~\)

と分けることができます。
 
 この数を分けやすいという利点が、バビロニア人が60進法を採用する理由の主たるものだったのではないでしょうか?
 エジプト人が物を分ける観点から、単位分数を好んだ理由ともつながってきます。(「数学史2-4 ~エジプトの数学(分数)~」)


ふくすけ笑顔
 バビロニアでは、\(~7~\)は不吉な数だったんだよ。 
 え? ラッキーセブンなのになんで?
ふくすけ笑顔
60を割ることができない一番小さな整数だからだよ。
←前回
数学史3-2 ~バビロニアの数学(整数)~
次回→
数学史3-4 ~バビロニアの数学(計算)~

◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.16-18,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.42-43,共立出版.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.7-13,朝倉書店.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.25-26,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.52-57,技術評論社.
・アダム・ハート=デイヴィス(2020)『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.18-20,創元社.
・「茨城県の人口と世帯(推計)-令和2年(2020年)12月1日現在-」,<https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu/tokei/betsu/jinko/getsu/jinko2012.html > 2021年1月17日アクセス
・「バチカン(Vatican)
基礎データ」,<https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/vatican/data.html > 2021年1月17日アクセス

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数学の歴史 [ ヴィクター・J.カッツ ]
価格:20900円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数学史 数学5000年の歩み [ 中村滋 ]
価格:2200円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数学の流れ30講(上(16世紀まで)) [ 志賀浩二 ]
価格:3190円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数字 [ 中村滋=監修 ]
価格:2948円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

文化史数学史文化史

Posted by Fuku