【数学史3-3】バビロニアでは小数まで60進法!その利点と問題点は?

3-3 アイキャッチ

 60進法で有名なバビロニア(メソポタミア)。

 楔型文字で用意された$~10~$と$~1~$だけで、大きな数だけでなく、小数まで表すことができました

 しかし、隣接していた古代エジプトの10進法と比べると、数値としては非常にわかりづらいものとなっています。

 それでもバビロニアが60進法を採用し続けた理由は、$~60~$という数の特殊性メソポタミアの長い歴史にありました。

 この記事では、バビロニアの小数の問題点にも触れつつ、その表し方や60進法の利点について解説します。

この記事を読んでわかること
  • バビロニアの小数の表し方とその問題点
  • バビロニアで60進法が採用され続けた理由
この記事で主に扱っている時代と場所
時代B.C.1750年頃
場所バビロニア(メソポタミア)
目次

バビロニアの小数の表し方

 同時期の古代エジプトでは、$~1~$より小さい数を表すにあたって、単位分数を用いていました。

 それに対し、バビロニアでは$~60~$進法に基づいた小数を利用しています。

小数第一位は 60分の1 の位

 まず、現在我々が使っている$~10~$進法の小数を分析すると、

  • 小数第一位$~\left(\displaystyle \frac{1}{10}=10^{-1}~の位 \right)~$
  • 小数第二位$~\left(\displaystyle \frac{1}{100}=10^{-2}~の位 \right)~$
  • 小数第三位$~\left(\displaystyle \frac{1}{1000}=10^{-3}~の位 \right)~$

と続いていきます。

 そのため、$~0.325~$という小数を例にとると、

0.325=\frac{1}{10}\times 3+\frac{1}{100}\times 2+\frac{1}{1000}\times 5

のように数が成り立っています。

 バビロニアで使われていた$~60~$進法の小数を同じように考えると、

  • 小数第一位$~\left(\displaystyle \frac{1}{60}=60^{-1}~の位 \right)~$
  • 小数第二位$~\left(\displaystyle \frac{1}{3600}=60^{-2}~の位 \right)~$
  • 小数第三位$~\left(\displaystyle \frac{1}{216000}=60^{-3}~の位 \right)~$

と続いていきます。

 楔形文字で表される数字は、整数と同様に2種類のみ
 図1のように、小数が表されました。 

小数の例
<図1> バビロニアの小数

小数点は存在しなかった

 バビロニアの小数には小数点が存在せず、どこまでが整数で、どこからが小数なのかが判別しづらいものでした。

 また、「$~0~$」も存在しなかったため、粘土板に刻まれた数字がどこの位に属するものなのかは、非常にわかりづらいものとなっています。

 例として、図2の「1 1」を考えてみます。

11の解釈方法
<図2> バビロニアの「1 1」

 この2つの数字を整数のみで解釈するなら、以下のような候補が上がります。

  • $~60~$の位が1個、$~1~$の位が1個で、$~60 \times 1+1\times 1=61~$
  • $~3600~$の位が1個、$~1~$の位が1個で、$~3600 \times 1+1\times 1=3601~$($~60~$の位は空所)
  • $~3600~$の位が1個、$~60~$の位が1個で、$~3600 \times 1+60\times 1=3660~$($~1~$の位は空所)

 しかし、小数部分も含めて解釈するとなると、

  • $~1~$の位が1個、$~\displaystyle \frac{1}{60}~$の位が1個なら、$~\displaystyle 1 \times 1+\frac{1}{60}\times 1=1.0166\cdots~$
  • $~1~$の位が1個、$~\displaystyle \frac{1}{3600}~$の位が1個なら、$~\displaystyle 1 \times 1+\frac{1}{3600}\times 1=1.00027\cdots~$$~\left( \displaystyle \frac{1}{60}~の位は空所 \right)~$
  • $~\displaystyle \frac{1}{60}~$の位の位が1個、$~\displaystyle \frac{1}{3600}~$の位が1個なら、$~\displaystyle \frac{1}{60} \times 1+\frac{1}{3600}\times 1=0.0169\cdots~$($~1~$の位は空所)

など、より多様な読み方ができてしまうのです。

数の位は文脈から判断していた

 小数点も$~0~$も存在しなかったため、数字の位は文脈から判断するしかありませんでした。

 一の位、十の位、‥‥といった整数部分だけならともかく、小数第一位、小数第二位、‥‥といった小数部分まで判断の候補に入れると、「1」という数字だけでも様々な解釈ができてしまいます

 次の例を見てみましょう。

「1」を使った文章の例
<図3> 「1」を文脈から判断する

(1) おじいちゃんは$~60~$歳だ。
 年齢なので整数となるが、おじいちゃんなので1歳はあり得ず、3600歳は生きられない。

(2) 昼食にパンを$~1~$個食べた。
 パンの個数なので整数となるが、60個や3600個もパンを食べる人はそういないはず。

(3) 視力が$~\displaystyle \frac{1}{60}=0.016 \cdots~$しかないので、眼鏡が必要だ。
 視力なので$~0.01~$から$~2.0~$の間になるが、$~1~$なら眼鏡は必要ないはず。

(4) バチカン市国の人口は、茨城県の人口の$~\displaystyle \frac{1}{3600}=0.00027 \cdots~$ほどだ。
 バチカン市国の人口は615人(外務省、2018年10月)であり、茨城県の人口は約285万人(茨城県、2020年12月)なので、$~615 \div 2850000=0.00022 \cdots~$。

 このように、文脈から判断するためには、読解力や推測力、知識が必要となりそうです。

バビロニアで60進法が使われた理由

 近隣のエジプトが10進法を採用していたのに対し、バビロニア人はなぜ60進法を採用したのでしょうか?

 $~60~$という数の性質と歴史の両面から、その理由を推測します。

60は約数が多い

 $~10~$や$~100~$に比べ、優れているのは約数の多さ

  • $~10~$の約数‥‥$~1,2,5,10~$
  • $~100~$の約数‥‥$~1,2,4,5,10,20,25,50,100~$
  • $~60~$の約数‥‥$~1,2,3,4,5,6,10,12,15,20,30,60~$

 $~100~$よりも約数を多く持つため、さまざまな数で割ることができるという利点があります。

 特に、片手の指の本数である$~5~$までの整数をすべて割ることができるという点で、$~60~$という数が優れていました。

同じく$~12~$個の約数を持つ2桁の整数$~72~,~90~,~96~$ではなく、$~60~$が優遇された理由は人間の手に関係していたんだね。

約30万年前頃から、指を使って数を数えていたため、数と手の関係はどの場所でも共通だったんだ。

シュメール人は60まで指で数えた

 バビロニアが成立するよりもさらに昔、紀元前2700年頃にはシュメール人の都市国家がこの地に形成されました。

 シュメール人の子供は、$~60~$までの数を指で数える方法を習ったとされています。

シュメール人の指による数え方
  • 左手で$~1~$から$~5~$を数える。
  • 右手の親指が$~6~$を表し、左手はリセット。
  • 右手の親指($~6~$)を維持したまま、左手で$~7~から$~11~$まで数える。
  • 右手の人差し指が$~12~$を表し、左手はリセット。

 以上を繰り返すことで、右手の小指($~30~$)まで数える。

 $~31~$以上は、左手と右手を入れ替えて同じように数える。

 実際の様子を図にすると、以下のようになります。

<図4> シュメール人の数え方①
<図5> シュメール人の数え方②

 この数え方であれば、理論上$~71~$まで数えることができます

 そのため、$~60~$で数えるのを止めていることは、バビロニアで数体系が確立する遥か昔から、この地で$~60~$進法が使われてきた証拠にもなっています。

まとめ

  バビロニアにおける小数の表し方や、$~60~$進法が好まれた理由について解説してきました。

  • 小数第一位は$~\displaystyle \frac{1}{60}~$の位。
  • 小数点が無いため、数の位は文脈から判断した。
  • $~60~$進法採用の理由は、$~60~$の約数の多さ。

 $~60~$進法における四則計算の方法について、次の記事で解説します。


バビロニアでは、$~7~$は不吉な数として扱われたんだ。

 え? ラッキーセブンなのに?

$~60~$を割ることができない、一番小さな整数だからだよ。

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