
どのように計算したのでしょうか?
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Ⅰ 平方根を求める方法
バビロニアでは、相加相乗平均の考え方を用いて$~\sqrt{2}\fallingdotseq 1.41421296~$と求めた粘土板が残っていました。
紀元前の中国でも、代表的な数学書『九章算術』の中で、平方根に関する問題を扱っています。
今、面積が$~55225~$平方歩である。
問う、正方形の一辺はどれほどか。
田村誠,吉村昌之「『九章算術』訳注稿(10)」より引用
正方形の一辺を$~x~$歩とすれば、
\begin{equation}
x^2=55225
\end{equation}
となり、まさに$~55225~$の正の平方根を求める問題となっています。
『九章算術』の中では、平方根を求めるための算木の動かし方を説明していますが、この記事ではその基となった考え方を解説します。
正方形の一辺の長さについて、その百の位を$~a~$、十の位を$~b~$、一の位を$~c~$とし、
\begin{equation}
(100a+10b+c)^2=55225
\end{equation}
を満たす$~a~,~b~,~c~$を求める。
最上位桁の$~a~$は、
\begin{align}
(100a)^2 &< 55225 \\
10000a^2 &<55225
\end{align}
より、$~a=2~$と求まる。
次に、上の図の斜線部の和は、
\begin{equation}
2 \times 200 \times 10b=4000b
\end{equation}
であり、これが$~55225-40000=15225~$より小さいので、
\begin{equation}
4000b < 15225
\end{equation}
より、$~b=3~$と求まる。
ここで、上の図の斜線部をたしても、$~55225~$以下であることを確かめる必要がある。
\begin{equation}
40000+6000+6000+900=52900 < 55225
\end{equation}
より、図の条件を満たしている。
$~c~$についても同様に、上の図の斜線部の和の$~460c~$が、$~55225-52900=2325~$より小さいので、
\begin{equation}
460c < 2325
\end{equation}
より、$~c=5~$と求まる。
上の図の斜線部をたしても、$~55225~$以下であることを確かめると、
\begin{equation}
52900+1150+1150+25=55225
\end{equation}
であり、与えられた面積と一致したため、この正方形の一辺の長さは$~235~$と求まった。
バビロニアのように無理数の近似値を求める問題は無かったため、この方法を有限回繰り返すことで、平方根の値を正確に求めています。
Ⅱ 平方根関連の問題
Ⅰ章で紹介した『九章算術』4章問題12 以外にも、同章では平方根に関連する問題が多くありました。
その中のいくつかを紹介します。
面積が$~564752 \frac{1}{4}~$平方歩である。
問う、正方形の一辺はどれほどか。
田村誠,吉村昌之「『九章算術』訳注稿(10)」より引用
こちらも『九章算術』4章問題12 と同様の方法で、$~751 \frac{1}{2}~$歩と求めています。
面積$~300~$平方歩(の円田)がある。
問う、円周はどれほどであるか。
田村誠,吉村昌之「『九章算術』訳注稿(10)」より引用
こちらは円の面積の問題になっています。
円周を$~\ell~$、円の面積を$~S~$としたとき、
\begin{equation}
S=\frac{\ell^2}{12}
\end{equation}
という関係式が『九章算術』1章に載っているため、
\begin{equation}
\ell=\sqrt{12S}=\sqrt{12 \cdot 300}=\sqrt{3600}
\end{equation}
として、円周は$~60~$歩と求めていました。
今、体積が$~1860867~$立方尺である。
問う、立方体の一辺はどれほどか。
田村誠,吉村昌之「『九章算術』訳注稿(11)」より引用
こちらは立方根に関する問題です。
平方根のときと同様の考え方を使って、一辺は$~123~$尺と求めています。
算木という優れた計算道具を持つ紀元前の中国だからこそ、回数の多い計算作業を乗り越えて平方根や立方根を求めることができたのでしょう。
計算力の高さと共に、理論的に問題を解いていた姿勢を読み取ることができたかと思います。


実際、分数の平方根や立方根だって登場していたよ。
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◇参考文献等
・張替俊夫「『九章算術』訳注稿(10)」,< http://pal.las.osaka-sandai.ac.jp/~suanshu/articles/9Chapters10.pdf>
・張替俊夫「『九章算術』訳注稿(11)」,< http://pal.las.osaka-sandai.ac.jp/~suanshu/articles/9Chapters11.pdf>
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.34-35,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.135-137,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.198-199,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.70-77,技術評論社.
・ジョニー・ボール著,水谷淳訳(2018)『数学の歴史物語』,pp.167-183,SB Creative.
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