数学史6-1 ~ギリシャ時代(歴史)~

 今の数学の原型ともなっているギリシャの数学。
 証明をはじめとする論理的思考を重視した文化的背景を探っていきます。

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目次

Ⅰ 歴史

 紀元前2000年頃から、地中海、中でもエーゲ海に浮かぶクレタ島を中心に、小さな国々が生まれ、エーゲ文明が誕生しました。
 
 ギリシャ本土では、ミケーネ文明が発達したものの、紀元前1100年~紀元前800年の間は、征服や民族の移動の繰り返しにより、地中海沿岸地域は混乱した時代を送っていました。

紀元前1100年以前のエーゲ海周辺
エーゲ海周辺
出典:白地図専門店より改変 / CC-BY-4.0

 
 紀元前800年頃になると、ポリスという小さな共同国家が集まってできたギリシャ国家が誕生します。
 特に、ドーリア人がペロポネソス半島に築いたスパルタと、ギリシャ人がバルカン半島南端に築いたアテナイは、2大ポリスとして名を馳せました。
 
 各ポリスでは、法によって統括されて、市民が議論をすることが多かったため、数学における証明の必要性が高まる環境であったと言えます。

スパルタとアテナイ
スパルタとアテナイ
出典:白地図専門店より改変 / CC-BY-4.0

 
 その後、ギリシャは広い地域で植民地活動をはじめたため、交易商人、実業家、学者たちがバビロニアエジプトを旅をし、くさび形文字ヒエラティックといった文字や、粘土板やパピルスに書かれた数学をギリシャに持ち帰ったことで、紀元前776年の第1回オリンピックの頃にはギリシャ文化が花開いていました。

紀元前750~550年のギリシャ領
紀元前750~550年のギリシャ領
出典:Regaliorum / Based on a map in The Times History Atlas of the World, CC0, via Wikimedia Commons

 
 しかし、議論好きなギリシャ人はエジプトやバビロニアの知識を鵜呑みにすることはなく、なぜ成り立つのかという視点で数学を捉えました。
 公式や性質を証明をしたうえで活用するという姿勢は、現代数学へと繋がっています。
 そして、ギリシャ人は、他の文明から吸収した数学をさらに発展させていきました。
 
 その第一人者として、まず名が挙がるのが紀元前6世紀のタレスThales, B.C.625頃-B.C.547頃)やピタゴラスPythagoras, B.C.569頃-B.C.500頃)です。

タレス
Thales
出典:Unidentified engraver, Public domain, via Wikimedia Commons

 

ピタゴラス
Pythagoras
出典:The original uploader was Galilea at German Wikipedia., Public domain, via Wikimedia Commons

 次の紀元前5世紀は、(数学における)「英雄の時代」と言われており、

  • アナクサゴラス(Anaxagoras, B.C.500頃-B.C.428
  • ヒポクラテス(Hippocrates, B.C.470頃-B.C.410頃
  • ヒッピアス(Hippias, B.C.460頃-不明
  • ヒッパソス(Hippasus, B.C.5世紀中頃-不明
  • アルキュタス(Archytas, B.C.428頃-B.C.360頃
  • ゼノン(Zeno, B.C.490頃-B.C.430頃
  • デモクリトス(Democritos, B.C.460-B.C.379

といった7人の数学者が地中海沿岸各地に散らばっていました。

英雄の時代 7人の数学者と出生地
英雄の時代
出典:白地図専門店より改変 / CC-BY-4.0

 

 この紀元前5世紀は、アテナイとしても黄金時代を迎え、口頭でのコミュニケーションが尊重され、記憶術が重視されていました。
 そのため、文献としての記録がこの時代まで生まれず、紀元前6世紀のタレスやピタゴラスは伝説の人として称されることもあります。
 
 しかし、スパルタとのペロポネソス戦争で敗れた紀元前400年頃からは、著作活動が活発となり、現存まではいかないまでも、後の時代へと引き継がれました。
(戦争の長期化によって、市民が没落。民主制の基盤が崩れ、口頭でのコミュニケーションから、書物で残す風潮が高まったと考えられる。)
 
 特にローマ時代に入った紀元前300年頃、ユークリッド(Euclid, B.C.330頃-B.C.275頃)によって書かれた『原論』は、それ以前のギリシャ数学を体系的に総括した内容となっています。
 それゆえ、『原論』以外の本の保存作業がされなくなり、ギリシャ時代の文献が現代にまで残っていません。

ユークリッド
ユークリッド
出典:Photograph taken by Mark A. Wilson (Wilson44691, Department of Geology, The College of Wooster).[1], Public domain, via Wikimedia Commons

 ギリシャは紀元前338年以降、外国の支配下となり、ギリシャ時代は終焉を迎えました。


Ⅱ 年表と偉人

 Ⅰ章で述べたようなギリシャ時代の主だったことや、この時代に活躍した(であろう)数学史上の偉人たちを年表形式でまとめておきます。

~ギリシャ時代 略年表~

B.C.2000頃 クレタ島中心にエーゲ文明が誕生。
ギリシャ本土では、ミケーネ文明が誕生。
B.C.1100頃 ミケーネが北方のドーリア人によって滅ぼされ、以後300年間は混乱の時代になる。
B.C.800年頃 都市国家ポリスが誕生していく。
B.C.750頃 ギリシャが植民地活動を活発化し、多文化が移入する。
 B.C.
625頃
タレスThales, B.C.625頃-B.C.547頃


数学の定理を最初に証明した。
 B.C.
569頃
ピタゴラスPytagoras, B.C.569頃-B.C.500頃


教団を作り、数の研究をした。
 B.C.
500頃
アナクサゴラスAnaxagoras, B.C.500頃-B.C.428


牢獄で「円の方形化」問題に没頭した。
 B.C.
490頃
ゼノンZeno, B.C.490頃-B.C.430頃


アキレスと亀をはじめとするパラドックスをいくつか提起した。
B.C.480頃 アテナイはペルシャ軍に勝ち、経済、文化、芸術の面で最盛期となる。
 B.C.
470頃
ヒポクラテスHippocrates, B.C.470頃-B.C.410頃


月形図形の研究をした。
 B.C.
460頃
ヒッピアスHippias, B.C.460頃-不明


円積線の研究をした。
 B.C.
460
デモクリトスDemocritos, B.C.460-B.C.379


錐体の体積が、柱体の\(~\displaystyle \frac{1}{3}~\)であることを示した。
紀元前5世紀
中頃
ヒッパソスHippasus, 紀元前5世紀中頃-不明


\(~2~\)の平方根が無理数であることを提起した。
 B.C.
428頃
アルキュタスArchytas, B.C.428頃-B.C.360頃


立方体倍積問題を、3次元の作図によって解いた。
 B.C.
427
プラトンPlato, B.C.427-B.C.347


アカデメイアを創設し、ギリシャの学問の中心的存在となった。
 B.C.
415頃
テアイテトスTheaetetus, B.C.415頃-B.C.369


 \(~2~\)の平方根が無理数であることを示した。
 B.C.
408頃
エウドクソスEudoxus, B.C.408頃-B.C.355頃


 比例論や取り尽くし法を発見した。
B.C.404 紀元前431年から続いたスパルタとのペロポネソス戦争に、アテナイが敗北。
 B.C.
390頃
ディノストラトスDinostratus, B.C.390頃-B.C.320頃


 円積線が書ければ、円の方形化ができることを証明した。
 B.C.
384
アリストテレスAristotle, B.C.384-B.C.322


 証明の手法や言葉をまとめ、数学の学問モデルを確立した。
 B.C.
380頃
メナイクモスMenaechmus, B.C.380頃-B.C.320頃


 円錐曲線を発見した。
B.C.338 マケドニアがギリシャに侵入し、ギリシャは外国の支配下となる。
 B.C.
330頃
ユークリッドEuclid, B.C.330頃-B.C.275頃)※


 著書『原論』にこれまでのギリシャ数学についてまとめる。

※本サイトでは、ユークリッドはヘレニズム時代(7章)の偉人として扱います。
 
 数学史6章の中で、上に挙げた数学者や当時のギリシャ数学がわかる出来事や文化を1つ1つ解説していきます。


 数学者の名前が、プラトンとユークリッド以外、全員「〇〇ス」だ!
ふくすけ笑顔
 プラトンの本名は「アリストクレス」、ユークリッドが「エウクレイデス」だよ。
 その時代の文法に従っていたんだ。
 ただ、ゼノンだけは特殊だね。
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◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.55-118,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.83-119,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.41-98,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.58-61,技術評論社.
・ジョニー・ボール著,水谷淳訳(2018)『数学の歴史物語』,pp.41-76,SB Creative.
・Bertrand Hauchecorne,Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,熊原啓作訳,日本評論社.
・ポール・パーソンズ、ゲイル・ディクソン(2021)『図解教養事典 数学』,NEWTON PRESS
・アダム・ハート=デイヴィス(2020)『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.21-23,26-31,創元社.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.25-55,朝倉書店.
・マイケル・J・ブラッドリー(2009)『数学を切りひらいた人びと1-数学を生んだ父母たち』,pp.14-48,松浦俊輔訳,青土社.
・ピエルジョルジョ・オーディフレッディ著,河合成雄訳(2021)『幾何学の偉大なものがたり』,pp55-118,創元社.

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この記事を書いた人

現役の中高一貫校教員で、授業中は数学史ネタをよく喋ります。
教職大学院時代に開設した「Fukusukeの数学めも」が、閲覧者の学習・興味の一助になれば幸いです。
ちなみにFukusukeは我が家のお気に入りのペンギンの人形(8歳)

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