無限の記号の由来

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数学Ⅲの極限で初登場する無限の記号「∞」。その由来とは?
 そもそも無限という考え方はいつからあるのでしょうか?

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Ⅰ 無限の概念の誕生

 「無限」の考え方は、紀元前からありました。

Ⅰ① アナクシマンドロス

 タレスThales, B.C.625頃-B.C.547頃)の後継者とも言える哲学者アナクシマンドロス(Anaximandros, B.C.610-B.C.546)は、万物の根源を「アペイロン(無限なるもの)」としました。
 
 それは、物質的要素(水、土、火、空気等)を超越し、時間的に不滅かつ空間的に無限に存在するものとし、初めて「無限」という概念を表しました。


Ⅰ② ゼノン

 アキレスと亀のパラドックス(下の例)で知られるよう、無限の問題を最初に提起した哲学者がゼノン(Zeno, B.C.490頃-B.C.430頃)です。

アキレスと亀

 俊足のアキレスとゆっくり進む亀がいる。亀がアキレスよりも前方にいるとき、アキレスは亀に追いつくことができない。


 アキレスの進む速さを秒速10mとする。亀の進む速さを秒速1mとする。また、亀はアキレスの前方10mにいるとする。

 
①1秒後
 アキレスは10m進み、亀は1m進むので11mの位置にいる。

 
②さらに0.1秒後
 の状態から、アキレスは1m進み、亀は0.1m進む。
※数直線は10.0m11.4mの部分を拡大しています。

 
③さらに0.01秒後
 の状態から、アキレスは0.1m進み、亀は0.01m進む。
※数直線は11.00m11.14mの部分を拡大しています。

 
 アキレスが亀のいた位置に追いつくときには、亀はまた前方に進んでしまっている。
 これを繰り返していくため、アキレスはいつまで経っても亀に追いつくことはできない。

 ゼノンは他にもいくつかのパラドックスを提示し、無限という概念の不思議さを表現しました。


Ⅰ③ エウドクソス

 エウドクソス(Eudoxus, B.C.408頃-B.C.355頃)は、複雑な図形を既知の図形に無限回分割することで、その極限から元の図形の面積を求める「取り尽くし法」を最初に考案しました。

円の取り尽くし法

 半径\(~1~\)の円に内接する正多角形を徐々に細かくしていく。
円の取り尽くし法
 内接する正四角形の面積は、
\begin{equation}
\frac{1}{2}\cdot 1 \cdot 1 \sin{90^{\circ}}\cdot 4=2
\end{equation}
となる。
 
 内接する正八角形の面積は、
\begin{align}
\frac{1}{2}\cdot 1 \cdot 1 \sin{45^{\circ}}\cdot 8&=2\sqrt{2} \\
&\fallingdotseq 2.828427 \cdots
\end{align}
となる。
 
 内接する正八角形の面積は、
\begin{align}
\frac{1}{2}\cdot 1 \cdot 1 \sin{22.5^{\circ}}\cdot 16&=4\sqrt{2-\sqrt{2}} \\
&\fallingdotseq 3.0614676 \cdots
\end{align}
となる。
 
 このように図形を細かくし、正\(~n~\)角形の面積の極限を求めることで、円の面積が求まる。

 取り尽くし法という無限の概念を活用することで、エウドクソスは円の面積が直径の2乗に比例することを証明しています。


 以上の3名からもわかるように、紀元前から無限という概念が扱われて議論されてきましたが、現在用いられている記号"\(~\infty~\)"が生まれたのは17世紀のことになります。


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Ⅱ 記号 ∞ の誕生

 初めて無限の記号"\(\infty\)"が使われたのは、イギリスの数学者ジョン・ウォリス(John Wallis, 1616-1703)が1656年に書いた『無限小算術』でした。

ジョン・ウォリス
ジョン・ウォリス
After Godfrey Kneller, Public domain, via Wikimedia Commons

 ローマ数字で1000を表す記号は20種類以上あり、その中の" CIↃ " や " ↀ “などから"\(\infty\)"ができたという説が有力です。
 1000より大きい数を表す数字も存在したものの、書きにくい形(下図)をしていたため、大きい数の中で書きやすい1000が採用されたのかもしれません。

古代ローマの大きな数字
ローマ数字1000以上

 他の説としては、『無限小解析』の中の記述で\(~\displaystyle \frac{1}{0}=\infty~\)や\(~\displaystyle \frac{1}{\infty}=0~\)があったため、\(~0~\)に相対する記号として、\(~00~\)をくっつけて\(~\infty~\)になったと推測するものもあります。
 
 記号を使ううえで注意すべきなのは、\(~\infty~\)は数ではなく、「無限大」という状況を意味する記号だということです。
 著名な数学者であるガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei, 1564-1642)やカール・フリードリヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauss,1777-1855)は次のように言い表しています。

ガリレオ
「等しい」「大きい」「小さい」という属性は、有限の量にのみ適用可能だ。
ふくすけ汗ガウス
無限大を数として扱ってはいけない。

ガリレオ写真→Justus Sustermans, Public domain, via Wikimedia Commons
ガウス写真→Gottlieb Biermann, Public domain, via Wikimedia Commons


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Ⅲ 無限の濃度を表す記号

 無限の研究は19世紀にさらに進み、無限の種類にまで論じられるようになりました。
 その立役者がドイツの数学者ゲオルク・カントール(Georg Cantor, 1845-1918)です。

ゲオルク・カントール
ゲオルクカントール
User Rudolf 1922 on sv.wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons

 
 カントールは1872年からリヒャルト・デデキント(Richard Dedekind, 1831-1916)と文通を始め、そのやり取りから1973年末に自然数の集合と実数の集合が同じ無限ではないことを示しました。

リヒャルト・デデキント
リヒャルトデデキント
not found, Public domain, via Wikimedia Commons

 その際に、自然数の集合を可算無限といい、ヘブライ文字を使って、"\(~\aleph_0~\)"(アレフ・ゼロ、アレフ・ノート)と表しました。
 一番基本となる無限の集合ゆえに、添え字として\(~0~\)が入っています。(詳しくは「可算無限集合」へ)
 
 次に実数の集合を非可算無限といい、"\(~\aleph_1~\)"(アレフ・ワン)と表しました。
 ヘブライ文字が使われたのは、カントールの父が元ユダヤ教徒であることに関連するのかもしれませんが、その理由は定かではありません。


 \(~\aleph~\)(アレフ)の書きづらさって、\(~\xi~\)(クシー)以上だよね。
ふくすけ汗
どうしても\(~N~\)っぽくなったり、不格好になったりするよね。

◇参考文献等
・岡部恒治、川村康文、長谷川愛美、本丸諒、松本悠(2014)『身近な数学の記号たち』,pp102-103,オーム社
・Bertrand Hauchecorne,Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,熊原啓作訳,日本評論社.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.62-63,技術評論社.
・アダム・ハート=デイヴィス(2020)『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.29-31,創元社.
・黒木哲徳(2021)『なっとくする数学記号』,pp21-24,125-127,講談社
・ポール・パーソンズ、ゲイル・ディクソン(2021)『図解教養事典 数学』,p66,NEWTON PRESS

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Posted by Fuku