ロピタルの定理

不定形の極限を求めるうえで便利なロピタルの定理。
 使用例と証明のみならず、隠れた歴史までをまとめています。

目次

Ⅰ ロピタルの定理の発見者

 ロピタルの定理は、$~\displaystyle \frac{0}{0}~$や$~\displaystyle \frac{\infty}{\infty}~$といった不定形の極限に関する定理です。
 1696年にギヨーム・フランソワ・ロピタル(Guillaume Francois L’hospital , 1661-1704)が書いた『無限小解析』の中で発表されました。

図1.ギヨーム・フランソワ・ロピタル
Guillaume_de_l'Hôpital
出典: Wikimedia Commons, Public domain

 微積文学の教科書としては、パリにおいて始めての印刷本で、18世紀全体に影響を与えたと言われます。
 
 しかし定理の実際の発見者は、ロピタルの個人教師として雇われていたヨハン・ベルヌーイ(Johann Bernoulli , 1667-1748)ということが後にわかりました。
 

図2.ヨハン・ベルヌーイ
ヨハン・ベルヌーイ
出典:Johann Jakob Haid, Public domain, via Wikimedia Commons

 ヨハン・ベルヌーイの発見を、ロピタルは好きなように使ってよいという経済的な約束していたため、あたかもロピタルが発見者かのように知られ、定理に彼の名が付いたのです。
 
 ヨハン・ベルヌーイは契約上多大な報酬をもらっていたこともあり、沈黙を保っていたものの、ロピタルの死後は自身の功績であったことを暴露しました。
 そのため、世間的には「ロピタルの定理」で名が通っているものの、「ベルヌーイの定理」と呼ばれることもあります。


Ⅱ 定理の内容と使用例

 定理の中身の確認に移りましょう。

ロピタルの定理

 $~c~$を含むある開区間$~I~$で微分可能な$~f(x)~,~g(x)~$において、
\begin{equation}
\lim_{x \to c}f(x)=\lim_{x \to c}g(x)=0
\end{equation}
または
\begin{equation}
\lim_{x \to c}f(x)=\lim_{x \to c}g(x)= \infty
\end{equation}
が満たされたうえで、
\begin{equation}
g^{\prime}(x)\neq 0~~~~(~x \in I\setminus\{c\}~)
\end{equation}
とする。
 このとき、$~\displaystyle \lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)}~$が存在すれば、
\begin{equation}
\lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)}
\end{equation}
が成り立つ。

 見ての通りの複雑な条件をきちんと確認してから使う必要があります。
 
 次の例で実際に使ってみましょう。

例1

$~\displaystyle \lim_{x \to \infty}\frac{x}{e^x}~$の場合
 $~x \to \infty~$のとき、分子は$~x \to \infty~$、分母は$~e^x \to \infty~$なので、$~\displaystyle \frac{\infty}{\infty}~$の不定形となっている。
 
 分母の微分は$~(e^x)^{\prime}=e^x \neq 0~$であり、また
\begin{align}
\lim_{x \to \infty}\frac{(x)^{\prime}}{(e^x)^{\prime}}&= \lim_{x \to \infty}\frac{1}{e^x} \\
\\
&=0
\end{align}
で、極限が存在している。
 
 以上から、ロピタルの定理が使えるので、
\begin{align}
\lim_{x \to \infty}\frac{x}{e^x}&=\lim_{x \to \infty}\frac{(x)^{\prime}}{(e^x)^{\prime}} \\
\\
&= \lim_{x \to \infty}\frac{1}{e^x} \\
\\
&=0
\end{align}
と求まる。

 参考書等と比較したら、非常に回りくどいですが、条件をきちんと確認したうえでロピタルの定理を適用しています。
 
 もう一つ例を見てみましょう。

例2

$~\displaystyle \lim_{x \to 0}\frac{x-\sin{x}}{x^3}~$の場合
 $~x \to 0~$のとき、分子は$~x-\sin{x} \to 0-0=0 ~$、分母は$~x^3 \to 0~$なので、ロピタルの定理より、
\begin{align}
\lim_{x \to 0}\frac{x-\sin{x}}{x^3}&=\lim_{x \to 0}\frac{(x-\sin{x})^{\prime}}{(x^3)^{\prime}} \\
\\
&= \lim_{x \to 0}\frac{1-\cos{x}}{3x^2} ~~~\cdots ①
\end{align}
と変形できる。
 
 $①$で、$~x \to 0~$のとき、分子は$~1-\cos{x} \to 1-1=0 ~$、分母は$~3x^2 \to 0~$なので、ロピタルの定理より、
\begin{align}
\lim_{x \to 0}\frac{1-\cos{x}}{3x^2}&=\lim_{x \to 0}\frac{(1-\cos{x})^{\prime}}{(3x^2)^{\prime}} \\
\\
&= \lim_{x \to 0}\frac{\sin{x}}{6x} ~~~\cdots ②
\end{align}
と変形できる。

 
 $②$で、$~x \to 0~$のとき、分子は$~\sin{x} \to 0 ~$、分母は$~6x \to 0~$なので、ロピタルの定理より、
\begin{align}
\lim_{x \to 0}\frac{\sin{x}}{6x}&=\lim_{x \to 0}\frac{(\sin{x})^{\prime}}{(6x)^{\prime}} \\
\\
&= \lim_{x \to 0}\frac{\cos{x}}{6} \\
\\
&=\frac{1}{6}~~~\cdots ③
\end{align}
となるため、$①$~$③$より、
\begin{equation}
\lim_{x \to 0}\frac{x-\sin{x}}{x^3}=\frac{1}{6}
\end{equation}
と求まる。

 例2の場合、ロピタルの定理を3回行うことで、極限値が存在する形となりました。
 ちなみにですが、ロピタルの定理を使わずに求めることも可能です。(→「難しい極限①」)


Ⅲ 証明

 ロピタルの定理で使うのは、次に示す「コーシーの平均値の定理」です。

コーシーの平均値の定理

 閉区間 $~[a,b]~$ で連続、開区間 $~(a,b)~$ で微分可能な $~f(x) , g(x)~$ に関して、$g(b)-g(a)\neq 0 ~$ならば、 
\begin{equation}
\displaystyle \frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}
\end{equation}
を満たす $~c \in (a,b)~$ が存在する。(ただし、$g'(c)\neq 0$)

 では、実際に証明していきましょう。

証明

(i) $~\displaystyle \lim_{x \to c}f(x)=\lim_{x \to c}g(x)=0~$のとき、
 $~f(c)=g(c)=0~$より、
\begin{equation}
\lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x \to c}\frac{f(x)-f(c)}{g(x)-g(c)} ~~~\cdots ①
\end{equation}
で、コーシーの平均値の定理より、
\begin{equation}
\frac{f(x)-f(c)}{g(x)-g(c)}=\frac{f^{\prime}(c^{\prime})}{g^{\prime}(c^{\prime})} ~~~\cdots ②
\end{equation}
を満たす$~c^{\prime}~~~~(~x \gtrless c^{\prime} \gtrless c~)~$が存在する。
 
 $~x \to c~$のとき、$~c^{\prime}=c~$となるため、
\begin{equation}
\frac{f^{\prime}(c^{\prime})}{g^{\prime}(c^{\prime})}=\frac{f^{\prime}(c)}{g^{\prime}(c)}~~~\cdots ③
\end{equation}
であり、$①$~$③$より、
\begin{equation}
\lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)}
\end{equation}
が成り立つ。
 
(ii) $~\displaystyle \lim_{x \to c}f(x)=\lim_{x \to c}g(x)=\infty~$で、$~\displaystyle \lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)} \neq 0~$のとき、
\begin{equation}
\lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x \to c}\frac{\frac{1}{g(x)}}{\frac{1}{f(x)}} ~~~\cdots ④
\end{equation}
とすれば、$~\displaystyle \frac{0}{0}~$の不定形となるため、(i)より、
\begin{align}
\lim_{x \to c}\frac{\frac{1}{g(x)}}{\frac{1}{f(x)}}&=\lim_{x \to c}\frac{ \left( \frac{1}{g(x) }\right)^{\prime}}{\left(\frac{1}{f(x)}\right)^{\prime}} \\
\\
&=\lim_{x \to c}\frac{-\frac{g^{\prime}(x)}{\left( g(x) \right)^2}}{-\frac{f^{\prime}(x)}{\left( f(x) \right)^2}} \\
\\
&=\lim_{x \to c}\frac{g^{\prime}(x)}{f^{\prime}(x)}\cdot \left( \lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)} \right)^2 ~~~\cdots ⑤
\end{align}
となる。
 $④$、$⑤$より、
\begin{equation}
\lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x \to c}\frac{g^{\prime}(x)}{f^{\prime}(x)}\cdot \left( \lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)} \right)^2
\end{equation}
で、$~\displaystyle \lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)} \neq 0~$であることから、
\begin{align}
1&=\lim_{x \to c}\frac{g^{\prime}(x)}{f^{\prime}(x)}\cdot \lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)} \\
\\
\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)}&= \lim_{x \to c}\frac{f(x)}{g(x)}
\end{align}
が成り立つ。
 
(iii) $~\displaystyle \lim_{x \to c}f(x)=\lim_{x \to c}g(x)=\infty~$で、$~\displaystyle \lim_{x \to c} \frac{f(x)}{g(x)} = 0~$のとき、
\begin{equation}
\lim_{x \to c} \frac{f(x)}{g(x)}+1=\lim_{x \to c} \frac{f(x)+g(x)}{g(x)} ~~~\cdots ⑥
\end{equation}
とすると、右辺が$~\displaystyle \frac{\infty}{\infty}~$の形かつ、$~ \displaystyle \lim_{x \to c} \frac{f(x)}{g(x)}+1 \neq 0~$なので、(ii)より、
\begin{align}
\lim_{x \to c} \frac{f(x)+g(x)}{g(x)}&=\lim_{x \to c} \frac{\left\{ f(x)+g(x) \right\} ^{\prime}}{\left\{ g(x) \right\}^{\prime}} \\
\\
&=\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)+g^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)} \\
\\
&=\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)}+1 ~~~\cdots ⑦
\end{align}
となる。
 $⑥$、$⑦$より、
\begin{align}
\lim_{x \to c} \frac{f(x)}{g(x)}+1&=\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)}+1 \\
\\
\lim_{x \to c} \frac{f(x)}{g(x)}&=\lim_{x \to c}\frac{f^{\prime}(x)}{g^{\prime}(x)} \\
\end{align}
が成り立つ。
 
 (i)、(ii)、(iii)より、ロピタルの定理は示された。

 $~\epsilon – \delta~$を使っていないため、粗い証明ではありますが、コーシーの平均値から示すことができました。


 お金で名声は買えるんだね。
ふくすけ笑顔
 ヨハン・ベルヌーイも、大事な定理だけは秘密にしておけば良かったのに・・・。
◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.601-602,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅱー17世紀後期から現代へー』,pp.448-449,朝倉書店.
・Bertrand Hauchecorne , Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,p493,667,熊原啓作訳,日本評論社.

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