平均値の定理

数学Ⅲ微分・積分数学Ⅲ

 18世紀末にラグランジュが導き出した平均値の定理。その歴史にも触れつつ、数式だけではわかりづらい定理の内容を、例を通して理解していきます。
Ⅰ 歴史
Ⅱ 定理と例
Ⅲ 証明


目次
  • 1. Ⅰ 歴史
  • 2. Ⅱ 定理と例
  • 3. Ⅲ 証明

Ⅰ 歴史

 平均値の定理は別名「ラグランジュの平均値の定理」と呼ばれますが、正確な証明はコーシーが行いました。
 しかし、「コーシーの平均値の定理」という別の形の定理も存在します。
 そのあたりの歴史的な話を、まずは理解しておきたいと思います。

 1797年、ラグランジュ(1736-1813)は著書『解析関数の理論』(※1)の中で、「あらゆる関数はベキ級数展開できる」という前提の下で導関数を定義し、平均値の定理を導きました。
 
 しかし、彼の死後1820年代に入り、様々な数学者がベキ級数展開できない微分可能な関数が存在することを指摘したため、その前提の上で証明された平均値の定理は正確ではないということになってしまいます。
 
 1823年、コーシー(1789-1857)が著書『無限小解析講義要論』(※2)の中で、今の導関数の定義である
\begin{equation}
f'(x)=\displaystyle \lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
\end{equation}
を使って、平均値の定理の正しい証明を行いました。
 
 そのため、証明の前提が崩れてしまったものの、定理としては間違っていなかったラグランジュの功績を称え、「ラグランジュの平均値の定理」と呼ばれるようになりました。
 
 また、コーシーは「ラグランジュの平均値の定理」をさらに一般化した定理を導いたため、そちらの定理に「コーシーの平均値の定理」と名前を残しています。

※1:正式には、『無限小量または消失する量、極限または流率に関するあらゆる考察から解放され、有限量の代数的な解析に帰着された微分計算の原理を含む解析関数の理論』という題名。
※2:正式には、『エコール・ポリテクニクの無限小解析要論』という題名。


Ⅱ 定理と例

 では、実際の定理の中身を見ていきましょう。

(ラグランジュの)平均値の定理

 閉区間 \(~[a,b]~\) で連続、開区間 \(~(a,b)~\) で微分可能な \(~f(x)~\) に関して、
\begin{equation}
\displaystyle \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)
\end{equation}
を満たす \(~c \in (a,b)~\) が存在する。

 以前の「ロルの定理」と同じような前提の定理であり、同じような理解しづらさだと思います。

ロルの定理(参考)

 閉区間 \(~[a,b]~\) で連続、開区間 \(~(a,b)~\) で微分可能な関数 \(~f~\) に関して、 \(~f(a)=f(b)~\) ならば \(~f'(c)=0~\) を満たす \(~c \in (a,b)~\) が存在する。

 
 まずは、いろいろな例から、定理の意味を理解していきましょう。

例1

  \(~f(x)=x^2(a=-1,b=3)~\) の場合

 閉区間 \(~[-1,3]~\) で連続、開区間 \(~(-1,3)~\) で微分可能であるため、ラグランジュの平均値の定理より、

\begin{align}
f'(c)&=\displaystyle \frac{f(3)-f(-1)}{3-(-1)} \\
\\
&=\frac{9-1}{4} \\
\\
&=2
\end{align}
を満たす \(~c \in (-1,3)~\) が存在する。
 
 実際、 \(~f'(x)=2x~\) より、 \(~c=1~\) のとき \(~f'(1)=2~\) を満たしている。

 上のグラフからもわかるように、ラグランジュの平均値の定理は、

 2点を結んだ直線と平行な接線が2点間に引ける

ということを表しています。

例2

  \(~f(x)=\sin{x}(a=0,b=2\pi)~\) の場合

 閉区間 \(~[0,2\pi]~\) で連続、開区間 \(~(0,2\pi)~\) で微分可能であるため、ラグランジュの平均値の定理より、

\begin{align}
f'(c)&=\displaystyle \frac{f(2\pi)-f(0)}{2\pi-0} \\
\\
&=\frac{0-0}{2\pi} \\
\\
&=0
\end{align}
を満たす \(~c \in (0,2\pi)~\) が存在する。
 
 実際、 \(~f'(x)=\cos{x}~\) より、 \(~c=\displaystyle \frac{1}{2}\pi,\frac{3}{2}\pi~\) のとき \(~\displaystyle f’\left( \frac{1}{2}\pi \right)=f’\left( \frac{3}{2}\pi \right)=0~\) を満たしている。

 上の例のように、 \(~c~\) となる点が2つ以上出てくることもあります。

例3

  \(~f(x)=\log{x}(a=1,b=e)~\) の場合

 閉区間 \(~[1,e]~\) で連続、開区間 \(~(1,e)~\) で微分可能であるため、ラグランジュの平均値の定理より、

\begin{align}
f'(c)&=\displaystyle \frac{f(e)-f(1)}{e-1} \\
\\
&=\frac{1-0}{e-1} \\
\\
&=\frac{1}{e-1}
\end{align}
を満たす \(~c \in (1,e)~\) が存在する。
 
 実際、 \(~f'(x)=\displaystyle \frac{1}{x}~\) より、 \(~c=\displaystyle e-1~\) のとき \(~\displaystyle f'(e-1)=\frac{1}{e-1}~\) を満たしている。(※ \(~e-1 \fallingdotseq 1.718~\)

 3つの例で、ラグランジュの平均値の定理が言いたいことが見えてきたかと思います。
 
 ただ、「連続」や「微分可能」という言葉を軽視してしまうと、次に挙げる例のように定理が成り立ちません。

反例1

  \(~f(x)=\displaystyle \frac{1}{x}(a=-1,b=1)~\) の場合


\begin{align}
f'(c)&=\displaystyle \frac{f(1)-f(-1)}{1-(-1)} \\
\\
&=\frac{1-(-1)}{2} \\
\\
&=1
\end{align}
となるが、 \(~f'(x)=\displaystyle -\frac{1}{x^2} < 0~\) であるため、 \(~f'(c)=1~\) を満たす \(~c \in (-1,1)~\) は存在しない。

 上のように、 \(~-1~\) から \(~1~\) の間に不連続な点を含んでしまっているため、ラグランジュの平均値の定理は成り立ちません。
 

反例2

  \(~f(x)=|x|(a=-1,b=3)~\) の場合


\begin{align}
f'(c)&=\displaystyle \frac{f(3)-f(-1)}{3-(-1)} \\
\\
&=\frac{|3|-|-1|}{4} \\
\\
&=\frac{1}{2}
\end{align}
となるが、
\begin{cases}
f'(x)&=1 (x > 0) \\
f'(x)&=-1 (x < 0) \\ \end{cases} であり、 \(~x=0~\) では微分できないため、 \(~f'(c)=\displaystyle \frac{1}{2}~\) を満たす \(~c \in (-1,3)~\) は存在しない。

上のように、 \(~-1~\) から \(~3~\) の間に微分不可能な点を含んでしまっているため、ラグランジュの平均値の定理は成り立ちません。
 
 例も反例も「ロルの定理」と同じ空気が感じられました。


Ⅲ 証明

 では、そろそろ証明に入っていきます。何度も述べているように、ラグランジュの平均値の定理は「ロルの定理」の強化版ともいえる内容となっています。
 
 証明も、ロルの定理に帰着させて考えます。

証明

  \(~g(x)=f(x)+A(x)~\) とおき、 \(~g(a)=g(b)~\) となるような定数 \(~A~\) をまずは求めると、
 
\begin{align}
g(a)&=g(b) \\
f(a)+Aa&=f(b)+Ab \\
-Ab+Aa&=f(b)-f(a) \\
-A(b-a)&=f(b)-f(a) \\
\\
A&=\displaystyle \frac{f(b)-f(a)}{b-a}
\end{align}
となる。
 
 これにより、
\begin{equation}
g(x)=\displaystyle f(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}x
\end{equation}
となり、両辺 \(~x~\) で微分すると、
\begin{equation}
g'(x)=\displaystyle f'(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a} \cdots ①
\end{equation}
である。
 
 また \(~f(x)~\) が \(~[a,b]~\) で連続、 \(~(a,b)~\) で微分可能であるため、 \(~g(x)~\) も \(~[a,b]~\) で連続、 \(~(a,b)~\) で微分可能となる。 \(~g(a)=g(b)~\) から、ロルの定理より、
\begin{equation}
g'(c)=0 \cdots ②
\end{equation}
を満たす \(~c \in (a,b)~\) が存在する。
 
 ①より、
\begin{equation}
g'(c)=\displaystyle f'(c)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}
\end{equation}
であり、この式に②を代入すると、
\begin{align}
0&=\displaystyle f'(c)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a} \\
\\
f'(c)&=\frac{f(b)-f(a)}{b-a} \\
\end{align}
が示された。 \(~\blacksquare~\)

 ロルの定理が使える形の関数 \(~g(x)~\) を用意するのが、この証明の面白さです。


 ラグランジュのような偉大な数学者でもミスするんですね・・・。


 
 


◇参考文献等
・高木貞治(2010)『定本 解析概論』,pp.51-52,岩波書店.
・ヴィクターJ.カッツ(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp664-668,810-811,上野健爾監訳,三浦伸夫監訳,中根美知代訳,高橋秀裕訳,林知宏訳,大谷卓史訳,佐藤賢一訳,東慎一郎訳,中沢聡訳, 共立出版.
・Bertrand Hauchecorne , Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,pp168-171,熊原啓作訳,日本評論社.

数学Ⅲ微分・積分数学Ⅲ

Posted by Fuku