平均値の定理の使い方をわかりやすく解説!証明はロルの定理を活用!

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平均値の定理 アイキャッチ

 数学Ⅲで登場する平均値の定理

 微分が絡み、登場する文字数が多いため、数式だけではなかなか理解しづらいのではないでしょうか。

 この記事では、平均値の定理の意味を例示で説明するとともに、平均値の定理の証明を解説

 平均値の定理が使えないパターンも示してあるため、定理の中身をしっかりと理解できます。

 また、「平均値の定理」と「コーシーの平均値の定理」の違いや、それに絡む歴史についても紹介しています。

この記事を読んでわかること

平均値の定理とは?

 大学数学で「コーシーの平均値の定理」を学びますが、数学Ⅲで学ぶ「平均値の定理」はそれと似て非なるものになります。

別名「ラグランジュの平均値の定理」

 平均値の定理は、発見者であるジョゼフ・ルイ・ラグランジュJoseph-Louis Lagrange , 1735-1813)の名にちなんで、別名「ラグランジュの平均値の定理」と呼ばれています。

<図1> ラグランジュ
(出典:http://www.hrono.ru/biograf/bio_l/lagranzhzh.html, Public domain, via Wikimedia Commons)

 ただ、正確な証明は「コーシーの平均値の定理」を見つけたオーギュスタン・ルイ・コーシーAugustin Louis Cauchy , 1789-1857)が行いました。

<図2> コーシー
(出典:Dibner Library of the History of Science and Technology, Public domain, via Wikimedia Commons)

 定理の命名に関しては、以下のような経緯がありました。

歴史

 1797年、ラグランジュは著書『解析関数の理論』※1 の中で、「あらゆる関数はベキ級数展開できる」という前提の下で導関数を定義し、平均値の定理を導きました
 
 しかし、彼の死後1820年代に入り、様々な数学者がベキ級数展開できない微分可能な関数が存在することを指摘したため、その前提の上で証明された平均値の定理は正確ではないということになってしまいます。
 
 1823年、コーシーが著書『無限小解析講義要論』※2 の中で、今の導関数の定義である

f'(x)=\displaystyle \lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}

を使って、平均値の定理の正しい証明を行いました
 
 証明の前提が崩れてしまったものの、定理としては間違っていなかったラグランジュの功績を称え、「ラグランジュの平均値の定理」と呼ばれるようになりました。
 
 また、コーシーは「ラグランジュの平均値の定理」をさらに一般化した定理を導いたため、そちらの定理に「コーシーの平均値の定理」と名前を残しています。

※1 正式には、『無限小量または消失する量、極限または流率に関するあらゆる考察から解放され、有限量の代数的な解析に帰着された微分計算の原理を含む解析関数の理論』という題名。
※2:正式には、『エコール・ポリテクニクの無限小解析要論』という題名。

 コーシーが一般化した定理を導けていなかったら、ラグランジュの名が付いた平均値の定理は無かったかもしれません。

連続関数の微分に関する定理

 1797年にラグランジュが発表した平均値の定理は、以下のような内容となります。

(ラグランジュの)平均値の定理

 閉区間 $~[a,b]~$ で連続、開区間 $~(a,b)~$ で微分可能な $~f(x)~$ に関して、

\displaystyle \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c)

を満たす $~c \in (a,b)~$ が存在する。

 平均値の定理の内容を簡単に表現すると、以下のようになります。

2点を結んだ直線と平行な接線が2点間のどこかに引ける

 比較として、1690年にミッシェル・ロルが発表したロルの定理と、1823年以降にコーシーが導いたコーシーの平均値の定理を載せておきます。

ロルの定理

 閉区間 $~[a,b]~$ で連続、開区間 $~(a,b)~$ で微分可能な関数 $~f~$ に関して、 $~f(a)=f(b)~$ ならば $~f'(c)=0~$ を満たす $~c \in (a,b)~$ が存在する。

 グラフ上の2点を同じ高さにしたとき、2点を結ぶ直線の傾きは$~0~$です。

 そのため、ロルの定理はラグランジュの平均値の定理の特殊形と言えます。

コーシーの平均値の定理

 閉区間 $~[a,b]~$ で連続、開区間 $~(a,b)~$ で微分可能な $~f(x) , g(x)~$ に関して、$g(b)-g(a)\neq 0 ~$ならば、

\frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}

を満たす $~c \in (a,b)~$ が存在する。(ただし、$g'(c)\neq 0$)

 歴史で説明した通り、コーシーの平均値の定理はラグランジュの平均値の定理の一般形となります。

平均値の定理の例と誤用例

 平均値の定理をビジュアル化した例を3つと、連続や微分可能性を無視してはいけない理由がわかる例2つを紹介します。

3つの関数に平均値の定理を適用してみた

 関数$~f(x)~~( a < x < b )~$を設定したうえで、$~f(c)=0~~( a < c < b )~$となる$~c~$がどんな値になるかを3つほど試してみました。

平均値の定理の例1

 $~f(x)=x^2(a=-1,b=3)~$ の場合

 閉区間 $~[-1,3]~$ で連続、開区間 $~(-1,3)~$ で微分可能であるため、平均値の定理より、

\begin{align*}
f'(c)&=\frac{f(3)-f(-1)}{3-(-1)} \\
\\
&=\frac{9-1}{4} \\
\\
&=2
\end{align*}

を満たす$~c \in (-1,3)~$ が存在する。

 実際、 $~f'(x)=2x~$ より、 $~c=1~$ のとき $~f'(1)=2~$ を満たしている。

<図3> 平均値の定理の例1

 グラフとして捉えると、2点を結んだ直線と平行な接線が2点間のどこかに引けるということを理解しやすいですね。

平均値の定理の例2

 $~f(x)=\sin{x}(a=0,b=2\pi)~$ の場合

 閉区間 $~[0,2\pi]~$ で連続、開区間 $~(0,2\pi)~$ で微分可能であるため、平均値の定理より、

\begin{align*}
f'(c)&=\displaystyle \frac{f(2\pi)-f(0)}{2\pi-0} \\
\\
&=\frac{0-0}{2\pi} \\
\\
&=0
\end{align*}

を満たす $~c \in (0,2\pi)~$ が存在する。

 実際、 $~f'(x)=\cos{x}~$ より、 $~c=\displaystyle \frac{1}{2}\pi~,~\frac{3}{2}\pi~$ のとき $~\displaystyle f’\left( \frac{1}{2}\pi \right)=f’\left( \frac{3}{2}\pi \right)=0~$ を満たしている。

<図4> 平均値の定理の例2

 例2のように、 $~c~$ となる点が複数になることもあります。

平均値の定理の例3

 $~f(x)=\log{x}(a=1,b=e)~$ の場合

 閉区間 $~[1,e]~$ で連続、開区間 $~(1,e)~$ で微分可能であるため、平均値の定理より、

\begin{align*}
f'(c)&= \frac{f(e)-f(1)}{e-1} \\
\\
&=\frac{1-0}{e-1} \\
\\
&=\frac{1}{e-1}
\end{align*}

を満たす $~c \in (1,e)~$ が存在する。

 実際、 $~f'(x)=\displaystyle \frac{1}{x}~$ より、 $~c=\displaystyle e-1~$ のとき $~\displaystyle f'(e-1)=\frac{1}{e-1}~$ を満たしている。(※ $~e-1 \fallingdotseq 1.718~$)

<図5> 平均値の定理の例3

 以上の3つの例で、平均値の定理が言いたいことが見えてきたでしょう。

連続性や微分可能性を無視した例

 ロルの定理と同様、「連続」や「微分可能」という言葉を軽視してしまうと、次に挙げる2つの例のように定理が成り立ちません。

平均値の定理が成り立たない例1

 $~f(x)=\displaystyle \frac{1}{x}(a=-1,b=1)~$ の場合

<図6> 平均値の定理のが成り立たない例1

 図6のように、傾きが$~1~$の直線に対して、

f'(x) =-\frac{1}{x^2} < 0

であるため、 $~f'(c)=1~$ を満たす $~c \in (-1,1)~$ は存在しない

  $~-1~$ から $~1~$ の間に不連続な点を含んでしまっているため、平均値の定理の前提条件に不適です。

平均値の定理が成り立たない例2

 $~f(x)=|x|(a=-1,b=3)~$ の場合

<図7> 平均値の定理のが成り立たない例2

 図7のように、傾きが$~\displaystyle \frac{1}{2}~$の直線に対して、

f'(x)=\begin{cases}1~~~~~ &(x > 0) \\-1~~ &(x < 0) \end{cases}

であり、$~x=0~$ では微分できないため、 $~f'(c)=\displaystyle \frac{1}{2}~$ を満たす $~c \in (-1,3)~$ は存在しない

  $~-1~$ から $~3~$ の間に微分不可能な点を含んでしまっているため、こちらも平均値の定理の前提条件に不適です。

  以上の2つの例からもわかる通り、連続や微分可能という条件がいかに大切かがわかりました。

平均値の定理の証明

 これまでに述べてきたように、平均値の定理は「ロルの定理」を一般化した内容となっています。
 
 証明も、ロルの定理に帰着させて考えます

ロルの定理の証明

 $~g(x)=f(x)+Ax~$ とおき、 $~g(a)=g(b)~$ となるような定数 $~A~$ をまずは求めると、

\begin{align*}
g(a)&=g(b) \\
f(a)+Aa&=f(b)+Ab \\
-Ab+Aa&=f(b)-f(a) \\
-A(b-a)&=f(b)-f(a) \\
\\
A&=\frac{f(b)-f(a)}{b-a}
\end{align*}

となる。

 これにより、

g(x)= f(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}x

となり、両辺 $~x~$ で微分すると、

g'(x)= f'(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a} ~~\cdots ①

である。

 また、$~f(x)~$ が $~[a,b]~$ で連続、 $~(a,b)~$ で微分可能であるため、 $~g(x)~$ も $~[a,b]~$ で連続$~(a,b)~$ で微分可能となる。

 $~g(a)=g(b)~$なので、ロルの定理を使うと、

g'(c)=0~~~ \cdots ②

を満たす $~c \in (a,b)~$ が存在する。

 $①$より、

g'(c)=\displaystyle f'(c)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}

であり、この式に$②$を代入すると、

\begin{align*}
0&= f'(c)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a} \\
\\
f'(c)&=\frac{f(b)-f(a)}{b-a} \\
\end{align*}

が示された。 $~\blacksquare~$

 ロルの定理が使える形の関数 $~g(x)~$ を用意するのが、この証明の面白さです。

 平均値の定理をさらに一般化したコーシーの平均値の定理については、こちらの記事をご覧ください↓↓


$~g(a)=g(b)~$となるように$~g(x)~$を作ってしまうところが面白い!

証明したコーシーの発想がすごいよね。

参考文献
  • 高木貞治(2010)『定本 解析概論』,pp.51-52,岩波書店.
  • ヴィクターJ.カッツ(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp664-668,810-811,上野健爾監訳,三浦伸夫監訳,中根美知代訳,高橋秀裕訳,林知宏訳,大谷卓史訳,佐藤賢一訳,東慎一郎訳,中沢聡訳, 共立出版.
  • Bertrand Hauchecorne , Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,pp168-171,熊原啓作訳,日本評論社.

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