古代ギリシャの数学者メネラウスは、球面三角法の先駆者として知られる重要な人物です。
紀元1世紀末から2世紀初頭にかけて活躍したメネラウスは、平面幾何学の概念を球面に拡張し、天文学に応用しました。
本記事では、メネラウスの生涯と功績を詳しく解説するとともに、メネラウスが発見した本物の「メネラウスの定理」に迫ります。
実は高校数学で学ぶ「メネラウスの定理」は、メネラウスの定理ではなかったのです。
時代 | 70年頃~130年頃 |
場所 | アレクサンドリア、ローマ |
メネラウスの生涯
メネラウス(Menelaus , 70年頃〜130年頃)は、ローマ時代にアレクサンドリアやローマで活躍した数学者・天文学者です。
「メネラオス」と呼ばれることもあります。
メネラウスの年譜
メネラウスの活動場所
メネラウスは青年期をエジプトのアレクサンドリアで過ごしました。
アレクサンドリア図書館や研究施設ムセイオンのある学問の中心地で育ったメネラウスは、当時の政治の中心地であるローマへと引っ越します。
その後はローマで天文学と数学の研究を行っています。
メネラウスの功績:球面三角形を初めて扱った
メネラウスは、1700年後の非ユークリッド幾何学の一種である楕円幾何学につながる発見をしていました。
メネラウスの著書『球面幾何学』
メネラウスの現存する唯一の著作はアラビア語で書かれた『球面幾何学』です。
この書物は、以下の3巻で構成されています。
特に有名なのが第3巻であり、メネラウスは厳密で革新的な理論を展開しました。
『球面幾何学』は、球面幾何学を体系的に扱った最初の著作として、プトレマイオスをはじめとする後の数学者たちに影響を与えています。
内角の和が180°を超える三角形
『球面幾何学』の第1巻において、球面三角形とはどんな図形であるかをメネラウスは定義しています。
球の中心を通る平面と球面の交わりである円を大円という。
3つの大円が交わってできる3つの円弧からなる図形を球面三角形という。
球の中心を通らない平面と球面の交わりである円は小円といいます。
ユークリッドの『原論』で述べられた、三角形の内角の和が180°という性質とは異なり、メネラウスが定義した球面三角形では内角の和が180°を超えます。
1854年にドイツのベルンハルト・リーマンが発表した楕円幾何学と同様の舞台で、メネラウスは三角形を考えていたのです。
『球面幾何学』の第2巻では、天球上で天体の動きを考えるときに、球面三角形をはじめとする球面上の図形的性質を大いに役立てました。
球面におけるメネラウスの定理
よく知られるメネラウスの定理は、平面三角形において成立する定理ですが、メネラウスはこの定理を球面三角形にも適用しました。
球面三角形$~ABC~$と交わる大円弧$~EF~$があり、大円弧$~BC~$の延長と$~EF~$の延長は$~D~$で交わるとする。球の中心を$~O~$としたとき、次の等式が成り立つ。
\frac{\sin{\angle AOF}}{\sin{\angle FOB}}\times\frac{\sin{\angle BOD}}{\sin{\angle DOC}}\times\frac{\sin{\angle COE}}{\sin{\angle EOA}}=1
半径$~1~$の球のとき、弧度法で$\angle AOF=\stackrel{\large\frown}{AF}~$と表せるため、球面におけるメネラウスの定理は以下のようにも表せます。
\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{AF}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{FB}}}\times\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{BD}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{DC}}}\times\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{CE}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{EA}}}=1
数学Aで学ぶ平面三角形でのメネラウスの定理と酷似しているのがわかりますね。
球面におけるメネラウスの定理の証明については、以下の記事をご覧ください。
メネラウスのエピソード:ローマで星食を観測した
2世紀の天文学者プトレマイオスによれば、メネラウスは98年6月15日から16日にかけての夜、ローマで月によるスピカ(おとめ座の星)の星食を観測したとのことです。
星食とは、星が他の星を隠す天文現象で、メネラウスが観測したのは月がスピカを隠した瞬間でした。
プトレマイオスはメネラウスのデータを使い、春分点と秋分点の1年ごとのわずかな移動量を計算しました。
メネラウスのエピソード:メネラウスの定理の本当の発見者
メネラウスは球面三角形におけるメネラウスの定理を『球面幾何学』で述べましたが、数学Aで学ぶ平面三角形におけるメネラウスの定理は、メネラウスよりも前に発見されていました。
メネラウスの定理の本当の発見者はユークリッドで、彼の失われし著作『ポリスマタ』に載っていたと考えられています。
しかし、メネラウスがこの定理を球面三角形に拡張し、定理をより一般化したことから、彼の名前が定理に付けられています。
まとめ
アレクサンドリアで生まれ、ローマで活躍した数学者メネラウスについて説明してきました。
- 球面三角形は天文学の研究に重宝された。
- 球面三角形を初めて体系的に研究した。
- ユークリッドが発見した平面におけるメネラウスの定理を、球面に拡張した。
メネラウスの定理って、ユークリッドのものだったんだ。
こういう定理名は他にもあるよ。ピタゴラスの定理だって、発見自体はバビロニア人だし‥。
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