ゲラサのニコマコスは、古代ギリシャの数学者であり哲学者で、数論や音楽理論における重要な業績を残しました。
特に、彼の「ニコマコスの定理」は、整数に関する初期の美しい公式として知られています。
この記事では、ニコマコスの生涯と功績、特にニコマコスの定理についてを、数学史ライターで現役教員のFukusukeが中学生・高校生レベルで解説!
ニコマコスの定理は、現在の$~\sum~$で考えると当たり前の定理でした!
時代 | 60年頃〜120年頃 |
場所 | 不明 |
ニコマコスの生涯
ニコマコス(Nicomachus , 60年頃〜120年頃)は100年頃のローマ帝国で活躍した数学者・哲学者です。

(出典:AnonymousUnknown author, Public domain, via Wikimedia Commons)
二コマコスの年譜
ゲラサで生まれる
ローマ帝国シリア属州のゲラサ(現:ヨルダンのジャラシュ)に生まれる。
死亡する
活動場所
ニコマコスはゲラサ(現∶ヨルダンのジャラシュ)で誕生しました。
その後の活動場所は明らかでないものの、新ピタゴラス派の中心地かつ学問の中心地であるアレクサンドリアにゆかりがあったと考えられています。
ニコマコスの功績:ニコマコスの定理を発表した
ニコマコスの定理の内容
ニコマコスは著書『算術入門』の中で、現在彼の名を冠する定理を述べました。
$~n~$を自然数とする。
$~1~$から$n$までの整数の立方和は、1からnまでの整数和の平方に等しい。
1^3 + 2^3 + 3^3 + \cdots + n^3 = (1 + 2 + 3 + \cdots + n)^2
整数の立方和が、和の平方で表されるというシンプルで美しい定理です。
和の記号$~\sum~$を使って表すと、
\sum_{k=1}^n k^3=\left( \sum_{k=1}^n k \right) ^2
であり、$~\sum~$の公式からニコマコスの定理が成り立つことはすぐに分かります。
具体的な$~n~$の値でも、ニコマコスの定理を確かめてみましょう。
二コマコスの定理の左辺と右辺に、$~n=1~,~2~,~3,~4~,~\cdots~$を代入していくと、次のようになる。
$n$ | $~1^3 + 2^3 + 3^3 + \cdots + n^3~$ | $~(1 + 2 + 3 + \cdots + n)^2~$ |
$1$ | $~1^3=1~$ | $~(1)^2=1~$ |
$2$ | $~1^3+2^3=9~$ | $~(1+2)^2=9~$ |
$3$ | $~1^3+2^3+3^3=36~$ | $~(1+2+3)^2=36~$ |
$4$ | $~1^3+2^3+3^3+4^3=100~$ | $~(1+2+3+4)^2=100~$ |
ニコマコスの定理の証明
現在であれば、数学的帰納法によって証明できます。
しかし、ニコマコスが行ったのは図による解説でした。
$~n=1~$のときは自明。

$~n=2~$のときは、一辺が$~2~$の立方体を以下のように3つに分け、一辺$~1~$の正方形(赤いブロック)に合わせることで、一辺が$~1+2~$の正方形ができあがる。

$~n=3~$のときは、一辺が$~3~$の立方体を以下のように3つに分け、一辺$~1+2~$の正方形に合わせることで、一辺が$~1+2+3~$の正方形ができあがる。

$~n \ge 4~$でも立方体を切り分けて、既存の一辺$~1+2+\cdots+(n-1)~$の正方形に合わせることで、一辺が$~1+2+\cdots+(n-1)+n~$の正方形ができあがる。$~~~\blacksquare~$
本当にどんな$~n~$でも成り立つかどうかという視点はさておき、当時としては十分な説明になっていました。
この証明方法は、ピタゴラスが数の性質を研究したときの手法と同じです。
ピタゴラスの影響を受けた定理
ニコマコスはネオ・ピタゴラス学派として活動しており、「数には神秘的な力がある」と信じていました。
ニコマコスは整数を研究する中で、まず次の発見をしています。
$~n~$を自然数とする。
$~1~$から始まる奇数の列を$~1~$個、$~2~$個、$~3~$個、$~\cdots~$と区切ったとき、$~n~$群目の奇数の和は$~n^3~$になる。
すなわち、
\underbrace{~1~}_{\text{1群目}}|\underbrace{~3,5~}_{\text{2群目}}|\underbrace{~7,9,11~}_{\text{3群目}}|~\cdots~|\underbrace{~n^2-n+1~,~n^2-n+3~,~\cdots~,~n^2+n-1~}_{n\text{群目}}|~\cdots
において、各群の和は$~1^3~,~2^3~,~3^3~,~\cdots~,~n^3~$である。
ピタゴラスが昔発見した奇数に関する性質と合わせ、二コマコスはニコマコスの定理に気付いたとされています。
$~n~$を自然数とする。
$~1~$から$~2n-1~$までの奇数の和は、$~n~$の平方に等しい。
1+ 3 + 5 + \cdots + (2n-1) = n^2

自身の小さな発見とピタゴラスの発見をつなげて新しい公式を発見したところに、二コマコスの応用力の高さが現れています。
まとめ
100年頃の数学者ニコマコスについて解説してきました。
- 現在、$~\sum~$の関係式で知られるニコマコスの定理を発見し、図を使って証明した。
- ネオ・ピタゴラス学派として、数論に力を入れた。

ネオ・ピタゴラス学派はどんな派閥だったの?



教団要素や拠点はなく、ピタゴラスの「万物の根源は数である」という思想を発展させた派閥だったよ。紀元前1世紀頃から紀元後2世紀頃までアレクサンドリアをはじめとする地中海地域各地で発生したんだ。
参考文献
- 『カッツ 数学の歴史』,pp.193-197.
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.175-176.
- 『世界数学者事典』,p.337.
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