古代ギリシャ幾何学の集大成者として知られているパップス(パッポス)。
特に『数学集成』において多くの定理を記述し、後世の数学に大きな影響を与えました。
パップスの業績は、ユークリッドやアポロニウスの成果を継承しつつ、新たな視点を加えることで、数学の発展に寄与したことにあります。
この記事では、数学者パップスの生涯と功績を数学史ライターFukusukeが解説します!
時代 | 4世紀前半(約320年頃) |
場所 | エジプト・アレクサンドリア |
パップスの生涯
パップス(Pappus、260年頃~4世紀中頃)は、アレクサンドリアで研究した数学者です。
その発音から「パッポス」と呼ばれることもあります。

彼の正確な生没年は不明ですが、4世紀前半に活躍したとされています。
彼の著作『数学集成』は、その名の通り古代ギリシャ数学の知識を集大成したものであり、後の数学者たちに大きな影響を与えました。
パップスの年譜
年代 | 出来事 | 補足 |
---|---|---|
260年頃 | パップス誕生 | 正確な生年、出生地は不明。 |
320年頃 | 『数学集成』を執筆 | 古代ギリシャ数学の集大成として知られる。 |
不明 | アレクサンドリアで教育活動 | 数学の教育と研究に従事 |
4世紀中頃 | パップス死亡 | 最期を迎えた地は不明。 |
パップスの活動場所
パップスは、エジプトのアレクサンドリアで活動しました。
アレクサンドリアは、プトレマイオス朝時代に建設された都市であり、学問の中心地として知られ、アレクサンドリア図書館などが存在しました。
この都市で、パップスは数学の研究と教育に従事し、多くの成果を残しました。
パップスの功績:『数学集成』を書いた
パップスの代表作『数学集成』は、古代ギリシャ数学、特に幾何学の知識を体系的にまとめたものです。
この著作は、古代の数学的知識を後世に伝える貴重な資料となっています。
ギリシャ幾何学を網羅+独自の研究
『数学集成』では、ユークリッドやアポロニウスなどの古代ギリシャ数学者の成果を網羅するとともに、パップス自身の独自の研究も含まれています。
パップスが活躍した4世紀のアレクサンドリアはローマの支配下にあったため、天文学をはじめとする実用的な数学が重視されていました。(→ ヘロン や プトレマイオスが活躍)
また、直前の3世紀にはディオファントスの『算術』が書かれ、代数学の影響が広がり始めた時期でもありました。
しかし、パップスは世間の関心を、タレスやピタゴラスから地中海地域で発展してきたギリシャ幾何学へと引き戻したのです。

パップスの定理を証明した
パップスは、自身の名がつくことになる重要な定理を証明し、後世に大きな影響を与えました。
以下に代表的な4つの定理を紹介します。
パップスの中線定理
任意の三角形において、2辺の中点を結ぶ線分(中線)の長さと他の辺の関係を示す定理です。
$~\triangle ABC~$で、辺$~BC~$の中点を$~M~$としたとき、
AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)
が成り立つ。

パップスの六角形定理
射影幾何学における定理で、2つの直線上に配置された6点を結んだ線分の交点が一直線上に並ぶことを示しています。
直線$~\ell~$上に3点$~A~,~E~,~C~$をとり、 直線$~m~$上に3点$~D~,~B~,~F~$をとる。
線分$~AB~,~DE~$の交点を$~X~$、線分$~BC~,~EF~$の交点を$~Y~$、線分$~CD~,~FA~$の交点を$~Z~$としたとき、3点$~X~,~Y~,~Z~$は一直線上に並ぶ。

パップスの面積定理
任意の三角形の各辺に平行四辺形をつくり、その面積の関係を示す定理です。
この定理は、ピタゴラスの定理の一般化と見ることができます。
$~\triangle ABC~$の二辺$~AB~,~AC~$を一辺にもつ平行四辺形$~ABDE~,~ACFG~$を任意につくる。
直線$~DE~,~FG~$の交点を$~H~$とし、直線$~AH~$と平行な直線を$~B~,~C~$それぞれからひき、$~DE~$と$~FG~$との交点を$~I~,~J~$とする。
直線$~BI~,~CJ~$上で、$~BI=BK~,~CJ=CL~$となるような点$~K~,~L~$をとったとき、四角形$~BCLK~$は平行四辺形となり、次の等式を満たす。
平行四辺形ABDE+平行四辺形ACFG=平行四辺形BCLK

パップス・ギュルダンの定理
平面図形を直線の周りに回転させて得られる回転体の体積を、図形の重心から求める定理です。
面積が$~S~$である平面図形$~A~$と、$~A~$と交わらない直線$~\ell~$がある。
$~A~$の重心を$~G~$とし、$~G~$と$~\ell~$の距離を$~r~$とする。
$~A~$を$~\ell~$のまわりに1回転させてできる回転体の体積~$V$~は,次の式で表される。
\begin{equation*} V = 2\pi r S \end{equation*}

三大作図問題の不可能性を予見した
紀元前5世紀頃からギリシャの数学者たちを悩ませてきた、三大作図問題(円積問題、立方体倍積問題、角の三等分問題)を否定的に解決する提言もパップスは行なっています。
パップスは作図の問題を以下のようにカテゴリー分けしました。
作図カテゴリー | 内容 | 例 |
平面的問題 | 円と直線だけでかくことができる。 すなわち、コンパスと定木(目盛りのない定規)で作図可能。 学校教育で登場する作図は全てこれ。 | 垂直二等分線、角の二等分線、垂線、$~2:1~$の内分点 |
立体的問題 | 円錐曲線(放物線、楕円、総曲線)を使ってかくことができる。 | 立方体倍積問題($~\sqrt[3]{2}~$の作図) |
線型問題 | 円、直線、円錐曲線以外の線を使ってかくことができる。 | 円積問題(円と面積が等しい正方形の作図)、角の三等分線 |
平面的問題のみがコンパスと定木で作図できます。
パップスは、三大作図問題がどれも平面的問題ではないとカテゴリー分けをしたため、実質的に作図不可能と主張したのです。
ただ、作図ができないことの厳密な証明は19世紀の数学者たちを待つことになります。

パップスのエピソード:蜂の巣を数学的に分析した
パップスは、『数学集成』5巻において、蜂の巣の六角形構造が、最小の材料で最大の貯蔵容量を実現する最適な形状であることを数学的に分析しました。
パップスが蜂の巣の形状を説明するため、用いた命題がこちら。
同じ周の長さを持つ正多角形は辺の数が多いものほど面積が大きい。
周の長さを$~12~$に固定して、正多角形を作ってみましょう。
周の長さが$~12~$の正多角形の一辺の長さと面積は次のようになる。
正多角形 | 一辺の長さ | 面積 |
---|---|---|
正3角形 | $~4~$ | $~4\sqrt{3}\fallingdotseq 6.93~$ |
正4角形 | $~3~$ | $~9~$ |
正5角形 | $~2.4~$ | $~\displaystyle \frac{36}{5\sqrt{5-2\sqrt{5}}}\fallingdotseq 9.90~$ |
正6角形 | $~2~$ | $~6\sqrt{3} \fallingdotseq 10.39~$ |
正7角形 | $~\displaystyle \frac{12}{7}\fallingdotseq 1.71~$ | 約$~10.68~$ |
正8角形 | $~1.5~$ | 約$~10.86~$ |
正9角形 | $~\displaystyle \frac{4}{3}\fallingdotseq ~1.33~$ | 約$~10.99~$ |
正10角形 | $~1.2~$ | 約$~11.08~$ |
正11角形 | $~\displaystyle \frac{12}{11}\fallingdotseq 1.09~$ | $~11.15~$ |
正12角形 | $~1~$ | $~3(2+\sqrt{3})\fallingdotseq 11.20~$ |

正$~n~$角形の$~n~$が増えるほど、一辺の長さは短くなるものの、面積は大きくなっているのがわかります。
最終的には円周の長さが$~12~$の円に近づき、面積は$~\displaystyle \frac{36}{\pi}~$へと収束します。
また、正六角形は隙間や重なりがなく敷き詰められる最大の正多角形。

蜂はこれらのことを本能的に理解している賢い生物であるとパップスは説きました。

まとめ
パップスの業績は、古代数学の集大成としてだけでなく、後の数学の発展にも大きな影響を与えました。
彼の著作や定理は、現代の数学教育や研究においても重要な位置を占めています。
- パップスは、古代ギリシャ数学の集大成者として『数学集成』を執筆し、後世に大きな影響を与えた。
- 彼は、いくつかの重要な定理(中線定理、六角形定理、面積定理、パップス・ギュルダンの定理)を証明した。
- 三大作図問題の不可能性を予見し、後の証明への道を開いた。
- 蜂の巣の六角形構造を数学的に分析し、自然界の構造と数学の関係を示した。

蜂の巣が六角形なのには数学的な合理性があったんだね。



これまでの、実学重視、また、代数学が脚光を浴びるといった興味関心の流れを、再度幾何学へ戻したところにパップスの影響力が現れているね。
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