三平方の定理の証明②(ユークリッドの証明)

Ⅰ 三平方の定理とは
三平方の定理とは、次のような定理です。
上のような直角三角形で、次の等式が成り立つ。
\begin{equation}
a^2+b^2=c^2
\end{equation}
直角三角形の2辺がわかれば、残りの1辺も求まるというもので、紀元前から測量等でも使われてきました。日本では中学3年生(義務教育!)で習います。長い歴史の中で、様々な人により、様々な証明が生み出されてきましたが、今回は紀元前3世紀頃の数学者ユークリッドが編み出した、合同と等積変形を使った幾何的な証明方法を紹介します。
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Ⅱ ユークリッドの証明
では、ユークリッドが考えた方法で証明していきます。
\(~\angle A=90^\circ~\) である直角三角形ABCで、 \(~AB=a,AC=b,BC=c~\) とする。
\(~AB,AC,BC~\) それぞれを1辺とした正方形 \(~ADEB,AFGC,BHIC~\) を直角三角形ABCの外側に作る。
ここで、3つの正方形の面積を求めると、
\begin{align}
正方形ADEB&=a^2 \\
正方形AFGC&=b^2 \\
正方形BHIC&=c^2 \\
\end{align}
である。三平方の定理を証明するには、 \(~a^2+b^2=c^2~\) を示せばよい。
まず、△DEBについて考える。
△DEBの面積は、正方形ADEBを対角線で二等分してできた図形なので、
\begin{equation}
\displaystyle \triangle DEB=\frac{a^2}{2}・・・①
\end{equation}
次に、 \(~BE//CD~\) から等積変形を使うと、下図のように△DEBと△CEBの面積が等しいことがわかる。
\begin{equation}
\triangle DEB=\triangle CEB・・・②
\end{equation}
次に、△CEBと△HABについて、
仮定より、四角形ADEB,BHICは正方形なので、
\begin{equation}
EB=AB・・・③ \\
CB=HB・・・④ \\
\end{equation}
また、
\begin{align}
\angle EBC&=\angle EBA+\angle ABC=90^{\circ}+\angle ABC \\
\angle ABH&=\angle HBC+\angle ABC=90^{\circ}+\angle ABC
\end{align}
\begin{align}
\angle EBC&=\angle EBA+\angle ABC \\
&=90^{\circ}+\angle ABC \\
\\
\angle ABH&=\angle HBC+\angle ABC \\
&=90^{\circ}+\angle ABC
\end{align}
となるので、
\begin{equation}
\angle EBC=\angle ABH ・・・⑤
\end{equation}
③~⑤より、 \(~\triangle CEB \equiv \triangle HAB~\) であるため、面積も等しい。
\begin{equation}
\triangle CEB=\triangle HAB・・・⑥
\end{equation}
次に、BHと平行な線分AKを引き、BCとの交点をJとする。
ここで、 \(~BH//AK~\) から等積変形を使うと、下図のように△HABと△HJBの面積が等しいことがわかる。
\begin{equation}
\triangle HAB=\triangle HJB・・・⑦
\end{equation}
①,②,⑥,⑦より、
\begin{equation}
\displaystyle \frac{a^2}{2}=\triangle DEB=\triangle CEB=\triangle HAB=\triangle HJB
\end{equation}
\begin{multline}
\displaystyle \frac{a^2}{2}=\triangle DEB=\triangle CEB \\
=\triangle HAB=\triangle HJB
\end{multline}
であり、最初と最後から、
\begin{equation}
\displaystyle \triangle HJB=\frac{a^2}{2}・・・⑧
\end{equation}
が言える。
同様に、△FGCを等積変形や合同によって、動かしていくと、
\begin{equation}
\displaystyle \triangle IJC=\frac{b^2}{2}・・・⑨
\end{equation}
が言える。
ここで、⑧+⑨をすると、
\begin{equation}
\displaystyle \frac{a^2}{2}+\frac{b^2}{2}=\triangle HJB+\triangle IJC・・・⑩
\end{equation}
であり、△HJB,△IJCはそれぞれ長方形HKJB,長方形IKJCの二等分であるため、2つの図形の面積の和は正方形BHICの半分になる。つまり、
\begin{equation}
\displaystyle \triangle HJB+\triangle IJC=\frac{c^2}{2}・・・⑪
\end{equation}
であるため、⑩と⑪より、
\begin{align}
\displaystyle \frac{a^2}{2}+\frac{b^2}{2}&=\frac{c^2}{2} \\
\\
a^2+b^2&=c^2
\end{align}
となる。 \(~Q.E.D\)
等積変形→合同→等積変形という幾何的な要素のみを使い、複雑な式変形が出てこないのが特徴です。
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Ⅲ その他の証明方法
数百ある証明の中から有名な証明方法をいくつか紹介します。是非いろいろな証明を見て、お気に入りの証明方法を見つけてください。
~順次作成中~
①ピタゴラスの証明 | 正方形を4つの図形にうまく分割し、回転させることにより、その面積関係から三平方の定理を導いています。 |
②ユークリッドの証明 | 等積変形や合同を使って、複雑な計算をせずに証明をします。 |
③内接円を利用した証明 | 内接円を使って、面積を2通りの方法で表して証明をします。 |
④方べきの定理を利用した証明1 | 内部で交わるタイプの方べきの定理を使って証明します。 |
⑤方べきの定理を利用した証明2 | 接線タイプの方べきの定理を使って証明します。 |
⑥レオナルド・ダ・ヴィンチの証明 | 合同な図形をうまく使った証明方法です。 |
⑦トレミーの定理による証明 | 円に内接する長方形に、トレミーの定理を適用します。 |
⑧ジェームズ・A・ガーフィールドの証明 | アメリカの大統領が考えた、台形を使った証明方法です。 |
⑨アン・コンディットの証明 | 16歳の少女が考えた、補助線を多用する証明方法です。 |
⑩無限等比級数を利用した証明 | 垂線によって直角三角形を細かくしていき、最終的には無限等比級数を利用する証明方法です。 |
⑪相似を利用した証明1 | 相似を使った最もシンプルな証明方法です。 |
⑫相似を利用した証明2 | 合同な直角三角形を重ね、相似な三角形を利用しながら、ある三角形の面積を2通りの方法で表します。 |
⑬外接円と直角二等辺三角形を利用した証明 | 外接円に4つの直角二等辺三角形を混ぜた図形から、証明を行います。 |
⑭相似を利用した証明3 | 中学3年生レベルの円、相似の知識を使って三平方の定理を導いています。 |
⑮教科書の証明 | 中学3年生の教科書によく載っている2つの証明方法と、それらを合わせたバースカラ(インドの数学者)の証明を解説しました。 |
他にもいろいろあるので、調べてみてください。
とにかく計算が出てこない!面積が等しい図形を、等積変形や合同という武器を使って移動させていくのが美しいですね。
☆参考文献等
・マイケル・J・ブラッドリー(2009)『数学を切りひらいた人びと1-数学を生んだ父母たち』,pp.55,松浦俊輔訳,青土社.
・『中高一貫教育のためのシステム数学 幾何編2』新課程用,p107,啓林館/河合塾
![]() 数学を生んだ父母たち 数論、幾何、代数の誕生 (数学を切りひらいた人びと) [ マイケル・J.ブラッドリー ]
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ディスカッション
面白い数学の数々の記事、また私学適性検査の解答も作成されており、参考にさせていただいています。その私学適性検査の解答について質問がありましたので、コメントをさせていただきました。ここにコメントを残して申し訳ありません。
私学適性平成28年度解答の、確率である大問3の(3)の答えが違うように思いました。自分の間違いの可能性もありますが、確認していただければと思います。よろしくお願い致します。
ご質問ありがとうございます。閲覧してくださっている方がいて、本当にうれしいです。
さて、質問の内容ですが自分(達)は以下のように考えました。
問題 サイコロ1回投げて1が出たらS、2か3が出たらM、4~6が出たらLという試行を10回繰り返したとき、8回以上連続してLのカードが得られる確率を求めよ。
(1)10回連続してLが出る確率
\(~\displaystyle \left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
(2)9回連続してLが出る確率
・最初にSかM、2回目~10回目がL
\(~\displaystyle \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2} \right)^9=\left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
・1回目~9回目がLで、10回目がSかM
\(~\displaystyle \left( \frac{1}{2} \right)^9 \times \frac{1}{2}=\left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
(3)8回連続してLが出る確率
・1、2回目がSかM、3~10回目がL
\(~\displaystyle \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2} \right)^8=\left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
・1回目がSかM、2~9回目がL、10回目がSかM
\(~\displaystyle \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2} \right)^8 \times \frac{1}{2} =\left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
・1~8回目がL、9、10回目がSかM
\(~\displaystyle \left( \frac{1}{2} \right)^8 \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} =\left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
以上より、\(~\displaystyle \left( \frac{1}{2} \right)^{10} \times 6 =\frac{3}{512}~\)と求めたのですが、いかがでしょうか。
確率、あまり得意ではないため疑いの目で見ていただき、間違いがありましたら教えていただけると嬉しいです。
また、急ぎでtexを打ったため、見づらい数式で申し訳ありません。
お返事ありがとうございます。
私は、Fukuさん(と他の方々)の考え方の(3)、「8回連続してLが出る場合」において、
・1回目がL、2回目がSかM、3~10回目がL
・1~8回目がL、9回目がSかM、10回目がL
の2通りも含まれるのではないかと考えました。
(つまり、8回連続してLが出るが、Lは9回出る)
よって、
(1/2)^10 × 8 = 1/128
と求めました。
とても見づらく申し訳ありません。私の求め方について吟味していただければと思います。
よろしくお願い致します。
http://cdn.mathjax.org/mathjax/latest/MathJax.js?config=TeX-AMS-MML_HTMLorMML
ご指摘ありがとうございます。
うっかりしていました。助かります。(3)を訂正させていただくと、
(3)8回連続してLが出る確率
・1回目が何でもアリ、2回目がSかM、3~10回目がL
\(~\displaystyle 1 \times \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2} \right)^8=2 \cdot \left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
・1回目がSかM、2~9回目がL、10回目がSかM
\(~\displaystyle \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2} \right)^8 \times \frac{1}{2} =\left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
・1~8回目がL、9回目がSかM、10回目が何でもアリ
\(~\displaystyle \left( \frac{1}{2} \right)^8 \times \frac{1}{2} \times 1 =2 \cdot \left( \frac{1}{2} \right)^{10}~\)
以上より、(1)(2)と合わせて
\(~\displaystyle \left( \frac{1}{2} \right)^{10} \times 8 =\frac{1}{128}~\)
となりますね。
しなさん、どうもありがとうございます。訂正します!
重ね重ねの質問申し訳ありません。
同じく私学適性平成28年度の解答について、空間ベクトルである大問5の(4)の単位ベクトルの問題ですが、解答の成分の分母は根号がつくのではないでしょうか。
確認お願い致します。
コメントありがとうございます。
解答を打ち込むときに、根号を忘れてしまいました。
先ほどのと合わせて訂正いたします。
問題によっては、1人で解答を作っているので、他にも訂正箇所があると思います。
また何かありましたらご連絡いただけると嬉しいです。
しなさん、ありがとうございました。
先日は対応していただきありがとうございました。
今回は作成していただいた平成27年度私学適性の解答について質問がありましたので、連絡いたしました。
大問1の(14)、和から一般項を求める問題です。答えは
・n=1のとき
・n≧2のとき
で一般項が分かれると思ったのですがいかがでしょうか。
適性検査の模範解答を作っている方が少ないのでいつも参考にしています。このユークリッドの記事にこのようなコメントをして申し訳ないです。今後ともよろしくお願いいたします。
ご指摘ありがとうございます。
ご指摘通り、数列における大事な確認を忘れていました。
正しくは、
\( ~a_{1}=0~\)
\(~a_{n}=3n^2-3n+1~~~(nは2以上の整数)\)
となります。
現在、サイトのデザインを一新しようとしていて、その中で
私学適性の解答を載せているページにもコメント欄を作りましたので、
今後はそちらもご活用ください。
今後ともよろしくお願いします。
また、私学適性の勉強も頑張ってください!(^^)