ローマ数字は、現代でも時計の文字盤や本の章番号、映画のエピソード表記などで目にする独特な数字表記法です。
アルファベットのような文字で数を表すシステムは、視覚的にも格式ある印象を与えるため、長年にわたって使われ続けています。
この記事では、ローマ数字の成り立ちや表し方、計算方法、そして「4はなぜⅣとIIIIの二通りがあるのか?」という疑問まで、数学史ライターFukusukeが解説します!
ローマ数字が使用された時代 | 紀元前8世紀頃 ~ 現代まで |
ローマ数字が使用された場所 | 古代ローマ帝国(ヨーロッパ各地)、中世ヨーロッパ、近現代の世界各地 |
ローマ数字とは?
ローマ数字は、古代ローマで生まれ、現代に至るまで長い歴史を持つ数字表記法です。
特徴的な文字とその組み合わせによって数を表し、視覚的な美しさと格式を備えています。
ローマ数字が成立した背景と、近世以降の使用状況について見ていきましょう。
王政ローマで成立した
ローマ数字は紀元前6世紀頃、王政ローマで成立しました。
元々農耕民族であった古代ローマ人は、木の棒に刻み目を入れて羊の数を数えていました。

今の日本人が「正」を使って、個数をカウントするような方法です。
「正」が完成すれば「$~5~$」個揃ったことがわかるように、古代ローマ人は「$~\vee~$」の時点で「5」個、「$~\times~$」の時点で「$~10~$」個あることを理解しやすくしています。
- 羊が$~7~$匹→$~|~|~|~|~\vee~|~|~$
- 羊が$~12~$匹→$~|~|~|~|~\vee~|~|~|~|~\times~|~|~$
- 羊が$~24~$匹→$~|~|~|~|~\vee~|~|~|~|~\times~|~|~|~|~\vee~|~|~|~|~\times~|~|~|~|~$
ちなみに、区切りの数に$~5~$や$~10~$が選ばれた理由は、片手や両手の指の本数にありました。

やがて、数える以外に数字を使い始め、$~24~$を単に$~\times~\times~|~|~|~|~$と表すようになっています。
数えるべき動物が増えると、$~50~$を表すために「$~+~$」や「$~\perp~$」、$~100~$を表すために「$~*~$」、さらには$~1000~$を表すために「$~\oplus~$」などの記号が使われるようになります。
7世紀にアルファベットがローマに伝わるようになると、似ている形のアルファベットを数字に当てるようになりました。

共和政ローマで多様に
紀元前509年に共和政ローマになってからは支配地域の拡大に伴い、数字が多様化していきます。
特に、書き方が多様化していたのは、アルファベットが定着していなかった$~50~$以上の記号です。

どの記号も王政ローマのときの記号が基となっているため、似たような形をしています。
そして、その形からアルファベットが割り当てられました。
$~100~$に関しては、ラテン語で$~100~$を表す”centum”の頭文字に関連させたという説もあります。
また、共和政ローマの時代、$~1000~$もさまざまな形に変化していきました。
ただ、$~50~$や$~100~$と違ってアルファベットがなかなか割り当てられず、何十種類もの記号が誕生しました。


17世紀に私が作った無限記号「$~\infty~$」は、$~1000~$を表す記号「CIↃ」をヒントに作ったよ。
帝政ローマで統一
紀元前27年に帝政ローマとなり、皇帝が絶対的な権力によって国家の意思決定や統治を一手に担うようになりました。
数字についても、各地域でバラバラだったものが少しずつ統一されていったのです。
そして、いまだに記号のままであった$~1000~$についても、形からアルファベットが割り当てられました。
$~1000~$については、ラテン語で$~1000~$を表す”mille”の頭文字に関連させています。
$~500~$については、$~1000~$の半分であることから記号が生まれ、アルファベットへと変化しています。


また、筆記を速くするための減算則($~4~$や$~9~$を表すための方法)も整備され、現在に近い形が出来上がりました。
しかし、$~4000~$以上の数の表し方については当時あまり必要とされず、しっかりとした表記ルールが浸透する前にアラビア数字に主役を譲ることになったため、現在でもはっきりと決まっていません。
16世紀頃から特定の場面で使われる数字に
ルネサンス期の16世紀頃から、アラビア数字がヨーロッパ全土に広まりました。
この結果、商業や科学など実用的な計算にはアラビア数字が主流となり、ローマ数字は次第に視覚的に美しさを要する用途を中心に使われるようになっていきます。
今日では、時計の文字盤、建築物の年号表示、映画や書籍の章番号、儀式的・装飾的な場面などでローマ数字が用いられています。


古代ローマの著名な数学者たちは使っていない
古代ローマでローマ数字を使っていた「数学者」と呼べる人物については、ギリシャのような理論数学者はほとんど存在しませんでした。
共和政ローマ時代のアルキメデスやアポロニウス、帝政ローマの時代のディオファントスなどの理論数学者はギリシャ数字を用いています。
この時代の数学者たちは学問の中心地であったアレクサンドリアで研究していたため、ヘレニズム(ギリシャ風)文化を強く受けていたと考えられます。



ユークリッドの『原論』をはじめとする古代ギリシャの数学書がギリシャ数字で書かれていたため、ローマ数字よりもギリシャ数字を使っていたよ。


ローマ数字の表し方
ローマ数字はシンプルな文字で数字を表現しますが、その表記法には独自のルールがあります。
たし算と引き算の組み合わせによって、様々な数を表すのが特徴です。
次に、基本的な記号やルールについて詳しく見ていきましょう。
7個の数字によって3999まで表せる
ローマ数字は以下の7つの数字を組み合わせて表現します。
先ほどの成立時期と由来を含めて、まとめてみましょう。
数字 | ローマ数字 | 成立時期 | 由来 |
---|---|---|---|
1 | I | 王政ローマ期 | 棒の刻み目(家畜の数を数えるための単純な線)から発展し、1を表す記号として使われた。 |
5 | V | 王政ローマ期 | 5本目の刻み目を区別するため「$~\vee~$」が使われた。 アルファベットができてから、似ている形として「V」が採用された。 |
10 | X | 王政ローマ期 | 10本目の刻み目を区別するため「$~\times~$」が使われた。 アルファベットができてから、似ている形として「X」が採用された。 |
50 | L | 共和政ローマ期 | 50本目の刻み目を区別するため「$~+~$」や「$~\perp~$」が使われた。 共和政ローマ期にこれらの記号が多様化した後、「L」が採用された。 |
100 | C | 共和政ローマ期 | 100本目の刻み目を区別するため「$~*~$」が使われた。 共和政ローマ期にこの記号が多様化した後、「C」が採用された。 ラテン語で$~100~$を表す”centum”の頭文字にも関連している。 |
500 | D | 帝政ローマ期 | $~1000~$として使われていた記号「「CIↃ」の右半分「IↃ」に由来する。 形が似ているアルファベットとして「D」が採用されるようになった。 |
1000 | M | 帝政ローマ期 | $~1000~$を表すために「$~\oplus~$」が使われ、共和政ローマ期にこの記号が多様化した後、「M」が使われるようになった。 ラテン語で$~1000~$を表す”mille”の頭文字にも関連している。 |
この7種類のローマ数字で、$~3999~$までの自然数をすべて表すことができます。
古代エジプトのヒエログリフと一緒で、必要な個数分の数字を書き並べるということをしていました。
- $~3~$→ III $~~~~~1+1+1~$
- $~7~$→ VII $~~~~~5 + 1+1~$
- $~26~$→ XXVI $~~~~~~10+10+5+1~$
- $~81~$→ LXXXI $~~~~~~50+10+10+10+1~$
- $~705~$→ DCCV $~~~~~~500+100+100+5~$
- $~3888~$→ MMMDCCCLXXXVIII $~~~~~~1000+1000+1000+500+100+100+100+50+10+10+10+5+1+1+1~$


4や9は引き算の考え方
必要な個数分の数字を書き並べる点で似ている古代エジプトのヒエログリフと違う点は、大きい数字の前に小さい数字がある場合、引き算の意味になるということです。
また、$~10~$の累乗だけでなく、$~5~$でも区切られているため、$~5~,~10~,~50~,~100~,~500~,1000~$を基準に、$~9~,~40~,~90~,~400~,~900~$は引き算の考え方で表されます。
- $~4~$→ IV $~~~~~-1+5~$
- $~9~$→ IX $~~~~~-1+10~$
- $~40~$→ XL $~~~~~~-10+50~$
- $~90~$→ XC $~~~~~~-10+100~$
- $~400~$→ CD $~~~~~~-100+500~$
- $~900~$→ CM $~~~~~~-100+1000~$
各桁の数字に$~4~$や$~9~$が多く含まれていると、読み取りが複雑になります。
- $~44~$→ XLIV $~~~~~~(-10+50)+(-1+5)~$
- $~94~$→ XCIV $~~~~~~(-10+100)+(-1+5)~$
- $~199~$→ CXCIX $~~~~~~100+(-10+100)+(-1+10)~$
- $~444~$→ CDXLIV $~~~~~~(-100+500)+(-10+50)+(-1+5)~$
- $~2419~$→ MMCDXIX $~~~~~~1000+1000+(-100+500)+10+(-1+10)~$
読み取りやすさを優先するなら単に数字を並べただけのほうが簡単ですが、引き算のルールにより書く数字の個数を減らせるという利点があります。


当時は紙のような安価で軽便な書写材料がなく、高価な羊皮紙が記録媒体の主流だったため、長大な数字は不便だったという事情もあったのでしょう。
ローマ数字の一覧表
主な数字を一覧で確認してみましょう。
これらの数字を組み合わせることで、$~3999~$までのすべての自然数をローマ数字で表すことができます。
数字 | ローマ 数字 | 数字 | ローマ 数字 | 数字 | ローマ 数字 | 数字 | ローマ 数字 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | I | 10 | X | 100 | C | 1000 | M | |||
2 | II | 20 | XX | 200 | CC | 2000 | MM | |||
3 | III | 30 | XXX | 300 | CCC | 3000 | MMM | |||
4 | IV | 40 | XL | 400 | CD | |||||
5 | V | 50 | L | 500 | D | |||||
6 | VI | 60 | LX | 600 | DC | |||||
7 | VII | 70 | LXX | 700 | DCC | |||||
8 | VIII | 80 | LXXX | 800 | DCCC | |||||
9 | IX | 90 | XC | 900 | CM |
4000以上を表す方法
ローマ数字で表せる最大の整数が$~3999~$である理由は、古代ローマでは通常の生活や行政上、4000以上の数を表記する必要がほとんどなかったからです。
後の時代になると次第に大きな数を表現する必要が生じ、次のような方法が工夫されました。
- オーバーライン(上線)を使う:$~\overline{V}~$=$~5000~$、$~\overline{X}~$=$~10000~$
- 記号を使う:ↁ=$~5000~$、ↂ=$~10000~$
ただ、$~1000~$までの数字と異なり、表記ルールが統一される前にアラビア数字に主役を譲ることになったため、現在でもはっきりと決まっていません。



1202年に書いた『算盤の書』で、イタリアをはじめとするヨーロッパにアラビア数字を伝えたよ。
ローマ数字の計算方法
ローマ数字は位取り記数法ではないため、現代のアラビア数字のように簡単な筆算はできません。
それでは古代ローマ人は、どうやって計算を行っていたのでしょうか?
その答えは、アバカスという計算道具にあります。
アバカスで計算が行われた
古代ローマ人はアバカス(abacus)という計算盤を用いて計算を行っていました。
元はなめらかなテーブルの上に小石を並べて計算をしており、小石(ラテン語で”calculus”)が現在の「計算(caliculation)」の語源となっています。
また、時代を経て携帯版アバカスも登場しました。
これは、現代のそろばんに似た道具で、物理的に小石やビーズなどを移動させて数を表現します。


(出典:Photographer: Mike Cowlishaw (aus der englischen Wikipedia), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)
テーブルの上のアバカスも携帯版アバカスも、ローマ数字ではなく位取りの考え方にしたがって計算が行われていたため、計算そのものはスムーズに行われていたのです。
ただ、筆算ができるアラビア数字がヨーロッパに流入してからは、しばらくの間競合状態となり、やがてアラビア数字による筆算に取って代わられました。


(出典:Gregor Reisch (author), Public domain, via Wikimedia Commons)
ローマ数字は記録用
計算自体はアバカスで行い、ローマ数字は記録用として発展してきました。
アラビア数字が流入した後も、偽造のしづらさから商取引などでローマ数字が使われています。


また、視覚的に権威ある印象を与える目的で、歴史的建造物、法律文書、碑文などでも使われました。
現在の日本でも同様の理由でローマ数字が使われています。





MMXII(2012)年は東京駅舎の復原工事が行われた年です。
なぜ4はⅣとIIIIの二通り?
時計の文字盤として使われているローマ数字で「IIII」を目にしたことはないでしょうか?
実は、「4」は$~IV~$と$~IIII~$の二通りで表現されます。
その理由として、以下の3つが挙げられます。
- IVよりもIIIIのほうがわかりやすい。
- 時計などのデザインにおいては、IIIIのほうがバランスがとりやすい。
- 14世紀後半のフランス王シャルル5世が IV の使用を禁じたから。
2つ目の理由は並べてみるとわかるような気がします。
IIIIで表された時計(左)のほうが、VIIIとの対称性的にバランスがとれているように思えます。(あくまで主観)


3つ目の理由は、14世紀後半のフランス王シャルル5世が以下のように考えたことによるもの。



自分の称号(5)から1を引く「IV」は縁起が悪い!
シャルル5世は、宮廷の時計師に命じて時計の文字盤で$~IV~$の代わりに$~IIII~$を使わせたという説があります。
文化や宗教的感覚がローマ数字の使い方に影響を与えてきた好例と言えるでしょう。
まとめ
ローマ数字は古代ローマで成立してから、現在まで長い歴史を有している数字です。
視覚的美しさというメリットもありますが、表されている数字を直感的に理解しづらい、計算に不便、というデメリットもありました。
13世紀にイタリアのフィボナッチがアラビア数字をヨーロッパに広めるまで、ローマ数字はアバクスなどの工夫によって支えられながら使われ続けたのです。
- ローマ数字は古代ローマで成立し、現代でも特定用途で用いられている
- 16世紀頃からアラビア数字の普及により、特定の場面に限定されて使われるようになった
- 基本の7つの記号を組み合わせて数字を表現する
- 4や9は引き算の考え方が使われる
- 計算はアバカスを用い、ローマ数字は主に記録用として利用された
- 「4」は$~IV~$と$~IIII~$の二通りがあり、視覚的バランスや文化的背景によって使い分けられている



小さい数なら比較的簡単に表せるから、ローマ数字が生まれたときには、ローマが強大な帝国になるなんて想定していなかったんだろうね。



次第に大きい数を表す必要性が出てきたときの、人々の知恵や工夫に驚かされるね。
このブログの参考文献
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- 『カッツ 数学の歴史』
- 『メルツバッハ&ボイヤー数学の歴史(Ⅰ・Ⅱ)』
- 『数学の流れ30講(上・中・下)』
- 『数学の歴史物語』
- 『フィボナッチの兎』
- 『高校数学史演習』
- 『数学の世界史』
- 『数学の文化史』
- 『モノグラフ 数学史』
- 『数学史 数学5000年の歩み』
- 『数学物語』
- 『世界数学者事典』
- 『数学者図鑑』
- 『数学を切りひらいた人々(1~5)』
- 『天才なのに変態で愛しい数学者たちについて』
- 『素顔の数学者たち』
- 『数学スキャンダル』
- 『ギリシャ数学史』
- 『古代ギリシャの数理哲学への旅』
- 『ずかん 数字』
- 『πとeの話』
- 『代数学の歴史』
- 『幾何学の偉大なものがたり』
- 『アキレスと亀』
- 『ピタゴラスの定理100の証明法』
- 『ピタゴラスの定理』
- 『フェルマーの最終定理』
- 『哲学的な何か, あと数学とか』
- 『数と記号のふしぎ』
- 『身近な数学の記号たち』
- 『数学用語と記号ものがたり』
- 『納得する数学記号』
- 『図解教養事典 数学』
- 『イラストでサクッと理解 世界を変えた数学史図鑑』(拙著)
- 『教養としての数学史』(拙著)
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