高校数学で学ぶメネラウスの定理は、平面幾何学において三角形と直線の関係を示す重要な定理として知られています。
この定理に名が残る数学者メネラウスは、平面三角形から球面三角形へと定理を拡張しました。
本記事では、球面のメネラウスの定理の内容と例、証明を数学史ライターのFukusukeが解説!
球面のメネラウスの定理は、平面のメネラウスの定理で証明できます。
球面のメネラウスの定理
メネラウスの定理と言えば、数学Aで学んだ通り平面三角形で成り立つ定理です。
この定理の本当の発見者はメネラウスではなく(後述)、彼自身の功績はこの定理を球面に拡張したものでした。
球面三角形とは?
球面のメネラウスの定理を知る上で、知識として必要なのが球面三角形についてです。
球の中心を通る平面と球面の交わりである円を大円という。
3つの大円が交わってできる3つの円弧からなる図形を球面三角形という。
このように、球面三角形は球の表面上に描かれた三角形のことを指します。
定理の内容
平面三角形のときのようなキツネ型の図形を、球面三角形で考えたものが球面のメネラウスの定理です。
球面三角形$~ABC~$と交わる大円弧$~EF~$があり、大円弧$~BC~$の延長と$~EF~$の延長は$~D~$で交わるとする。球の中心を$~O~$としたとき、次の等式が成り立つ。
\frac{\sin{\angle AOF}}{\sin{\angle FOB}}\times\frac{\sin{\angle BOD}}{\sin{\angle DOC}}\times\frac{\sin{\angle COE}}{\sin{\angle EOA}}=1
半径$~1~$の球で考えると、弧度法で$\angle AOF=\stackrel{\large\frown}{AF}~$などと表せるため、球面におけるメネラウスの定理は以下のようにも表せます。
\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{AF}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{FB}}}\times\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{BD}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{DC}}}\times\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{CE}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{EA}}}=1
平面におけるメネラウスの定理に、$~\sin{}~$と$~\stackrel{\large\frown}{ }~$が加わったものになっています。
ただ、メネラウスの時代に$~\sin{}~$はなく、ヒッパルコスが定義した$~chord~$という$~\sin{}~$の原形で考えていたことには注意が必要です。
定理の例
実際に、球面のメネラウスの定理を利用して中心角の大きさ(弧の長さ)を求めてみましょう。
半径$~1~$の球面上の球面三角形$~ABC~$に大円弧$~EF~$が交わり、大円弧$~BC~$の延長と$~EF~$の延長が$~D~$で交わっている。
$~\displaystyle \stackrel{\large\frown}{AF}=\frac{\pi}{4}~$,$~\displaystyle \stackrel{\large\frown}{FB}=\frac{\pi}{4}~$,$~\displaystyle \stackrel{\large\frown}{BC}=\frac{\pi}{4}~$,$~\displaystyle \stackrel{\large\frown}{DC}=\frac{\pi}{4}~$のとき、$~\displaystyle \stackrel{\large\frown}{CE}~$や$~\displaystyle \stackrel{\large\frown}{EA}~$の長さを求めよ。
この問題を球面のメネラウスの定理を利用して計算すると、以下のように大円弧の長さが求められます。
球面のメネラウスの定理より、
\begin{align*} \frac{\sin{\frac{\pi}{4}}}{\sin{\frac{\pi}{4}}}\times\frac{\sin{\frac{\pi}{2}}}{\sin{\frac{\pi}{4}}}\times\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{CE}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{EA}}}&=1 \\ \\ \frac{\frac{1}{\sqrt{2}}}{\frac{1}{\sqrt{2}}}\times\frac{1}{\frac{1}{\sqrt{2}}}\times\frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{CE}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{EA}}}&=1 \\ \\ \frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{CE}}}{\sin{\stackrel{\large\frown}{EA}}}&=\frac{1}{\sqrt{2}} ~~~~\cdots ①\\ \end{align*}
である。
ここで、$~\stackrel{\large\frown}{CA}=\displaystyle \frac{\pi}{2}~$より、$~\stackrel{\large\frown}{EA}=\displaystyle \frac{\pi}{2}-\stackrel{\large\frown}{CE}~$であるため、
\begin{align*} \sin{\stackrel{\large\frown}{EA}}&=\sin{\left( \frac{\pi}{2}-\stackrel{\large\frown}{CE}\right)} \\ \\ &=\cos{\stackrel{\large\frown}{CE}} ~~~~\cdots ②\\ \end{align*}
となる。
$②$を$①$に代入することで、
\begin{align*} \frac{\sin{\stackrel{\large\frown}{CE}}}{\cos{\stackrel{\large\frown}{CE}}}&=\frac{1}{\sqrt{2}} \\ \\ \tan{\stackrel{\large\frown}{CE}}&=\frac{1}{\sqrt{2}}\fallingdotseq0.7071 \\ \end{align*}
であるため、三角比表から
\begin{align*} \stackrel{\large\frown}{CE}&\fallingdotseq\frac{35^{\circ}}{180^{\circ}}\pi=\frac{7}{36}\pi \\ \\ \stackrel{\large\frown}{EA}&\fallingdotseq\frac{55^{\circ}}{180^{\circ}}\pi=\frac{11}{36}\pi \\ \end{align*}
と求められる。
三角比表自体も精度こそ粗いものの、ヒッパルコスの時代から存在していたため、こういった計算はできたと考えられます。
球面のメネラウスの定理の証明
球面のメネラウスの定理の証明では、いくつかの平面に視点を移す必要があります。
本題に入る前に補題を2つ証明します。
補題1:弦と中心角の関係
球面上の弦の長さと、その弦に対応する中心角に関する補題です。
円$~O~$の弦$~AB~$が半径$~OD~$と$~C~$で交わるとき、次の式が成り立つ。
\frac{AC}{CB}=\frac{\sin{\angle{AOD}}}{\sin{\angle{DOB}}}
補題1 の証明は、相似と三角比の定義を使うだけ。
円$~O~$の半径を$~1~$とする。
半径$~OD~$に向け、$~A~,~B~$から垂線$~AH~,~BI~$をひく。
このとき、$~\triangle AHC~$∽$~\triangle BIC~$であるため、
\frac{AC}{CB}=\frac{AH}{BI}~~~\cdots①
である。
また、$~\triangle AHO~$と$~\triangle BIO~$で、三角比の定義から
\begin{align*} AH&=OA\sin{\angle{AOD}}=\sin{\angle{AOD}} ~~~\cdots② \\ BI&=OB\sin{\angle{DOB}}=\sin{\angle{DOB}} ~~~\cdots③ \\ \end{align*}
であるため、$②$と$③$を$①$に代入することで、
\frac{AC}{CB}=\frac{\sin{\angle{AOD}}}{\sin{\angle{DOB}}}
が示された。$~~\blacksquare~$
補題2:弦の延長線と中心角の関係
弦と半径の交点が外部にあったとしても、補題1 と同様のことが成り立ちます。
円$~O~$の弦$~AB~$の延長線と、半径$~OD~$の延長線が$~C~$で交わるとき、次の式が成り立つ。
\frac{AC}{CB}=\frac{\sin{\angle{AOD}}}{\sin{\angle{DOB}}}
補題2 の証明は、相似と三角比の定義に加え、三角比の性質を使います。
円$~O~$の半径を$~1~$とする。
直線$~OD~$に向け、$~A~,~B~$から垂線$~AH~,~BI~$をひく。
このとき、$~\triangle AHC~$∽$~\triangle BIC~$であるため、
\frac{AC}{CB}=\frac{AH}{BI}~~~\cdots①
である。
また、$~\triangle AHO~$と$~\triangle BIO~$で、三角比の定義から
\begin{align*} AH&=OA\sin{\angle{AOH}}=\sin{\angle{AOH}} ~~~\cdots② \\ BI&=OB\sin{\angle{DOB}}=\sin{\angle{DOB}} ~~~\cdots③ \\ \end{align*}
であり、$~\angle{AOH}=180^{\circ}-\angle{AOD}~$であることから、$②$をさらに変形すると、
AH=\sin{(180^{\circ}-\angle{AOD})}=\sin{\angle{AOD}}~~\cdots④
となる。
以上より、$③$と$④$を$①$に代入することで、
\frac{AC}{CB}=\frac{\sin{\angle{AOD}}}{\sin{\angle{DOB}}}
が示された。$~~\blacksquare~$
定理の証明
いよいよ球面のメネラウスの定理の証明を行います。
証明の指針としては、平面三角形上のメネラウスの定理を使ったうえで、補題1 と 補題2 により球面にもどすというイメージです。
球面三角形$~ABC~$の弦をそれぞれ結び、平面三角形$~ABC~$をつくる。
この平面三角形$~ABC~$の各辺を含む平面を考える。
まず、大円$~AB~$は下の図のようになり、弦$~AB~$と半径$~OF~$の交点を$~P~$とする。
補題1 より、次の等式が成り立つ。
\frac{AP}{PB}=\frac{\sin{\angle AOF}}{\sin{\angle FOB}}~~\cdots①
次に、
まず、大円$~AB~$は下の図のようになり、弦$~AB~$と半径$~OF~$の交点を$~P~$とする。
補題1 より、次の等式が成り立つ。
\frac{AP}{PB}=\frac{\sin{\angle AOF}}{\sin{\angle FOB}}~~\cdots①
次に、大円$~BC~$は下の図のようになり、弦$~BC~$の延長線と半径$~OD~$の延長線の交点を$~Q~$とする。
補題2 より、次の等式が成り立つ。
\frac{BQ}{QC}=\frac{\sin{\angle BOD}}{\sin{\angle DOC}}~~\cdots②
最後に、大円$~CA~$は下の図のようになり、弦$~CA~$と半径$~OE~$の交点を$~R~$とする。
補題1 より、次の等式が成り立つ。
\frac{CR}{RA}=\frac{\sin{\angle COE}}{\sin{\angle EOA}}~~\cdots③
$~P~,~Q~,~R~$はもとの球において、次のように一直線上に並ぶ。
よって、平面のメネラウスの定理より、
\frac{AP}{PB}\times\frac{BQ}{QC}\times\frac{CR}{RA}=1
であり、ここに$~①~③~$を代入することで、
\frac{\sin{\angle AOF}}{\sin{\angle FOB}}\times\frac{\sin{\angle BOD}}{\sin{\angle DOC}}\times\frac{\sin{\angle COE}}{\sin{\angle EOA}}=1
が示された。$~~\blacksquare~$
球面三角形を平面三角形にして、既存のメネラウスの定理を使うという見事な方法でした。
球面のメネラウスの定理の歴史
この記事の最後に、球面のメネラウスの定理にまつわる数学史を紹介します。
発見者はメネラウス
球面のメネラウスの定理はその名の通り、アレクサンドリアやローマで活躍した数学者メネラウス(Menelaus , 70年頃〜130年頃)によって発見されました。
彼の著書『球面幾何学』の第3巻の中で、球面のメネラウスの定理が初めて記述されています。
平面の定理の発見者はメネラウスではない
興味深いことに、数学Aで学ぶ平面のメネラウスの定理は、メネラウス自身の発見ではありません。
メネラウスの『球面幾何学』では、平面のメネラウスの定理を既知のものとして証明なしに使っていました。
この定理はユークリッド(Euclid , 紀元前330年頃〜紀元前275年頃)によって発見され、現存していないユークリッドの著書『ポリスマタ』に書かれていたと考えられています。
仮に書かれていなかったとしても、ヒッパルコス(Hipparchus、紀元前180年頃〜紀元前125年)が知っていたことは確実とされており、平面のメネラウスの定理がメネラウス自身のものでないことは確かとされています。
まとめ
球面のメネラウスの定理について、その内容と例、証明を解説してきました。
- 球面のメネラウスの定理は、平面のメネラウスの定理に$~\sin{}~$と$~\stackrel{\large\frown}{ }~$が加わったもの。
- 球面のメネラウスの定理の証明では、平面のメネラウスの定理を利用する。
- 球面のメネラウスの定理の発見者はメネラウスだが、平面の発見者はユークリッドと考えられている。
数学Aのメネラウスの定理は、”メネラウス”の定理ではないことがわかったよ。チェバはどうなの?
チェバの定理は、イタリアの数学者ジョバンニ・チェバ(Giovanni Ceva , 1647~1734)によるものだよ。彼がメネラウスの定理を研究し、そこから自身の名が残る定理を発見したんだ。
参考文献
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.161-163.
- 『世界数学者事典』,pp.278 ,563-564 .
- 『ギリシャ数学史』,pp.324-327.
- 『高校数学史演習』,pp.46-51.
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