×の由来
小・中学校で誰もが使ってきた乗算記号(×)。その由来を紹介します。
Ⅰ 中世の整数の計算法
Ⅱ 乗算記号の誕生
Ⅲ ライプニッツの乗算記号
Ⅰ 中世の整数の計算法
乗算記号(×)のルーツは、中世期に行われていた整数の計算法の1つにありました。現代では、2ケタ×2ケタのように複雑なかけ算は「筆算」を使って行いますが、当時は以下のように計算をしていました。
37×61の計算
①一の位どうしをかけ算する
\begin{equation}
7 \times 1=7
\end{equation}
②下のように十の位と一の位をクロスさせてかけ算をして、その和を10倍する。
\begin{equation}
(3 \times 1+7 \times 6) \times 10=450
\end{equation}
③十の位どうしをかけ算し、その積を100倍する。
\begin{equation}
(3 \times 6 ) \times 100=1800
\end{equation}
④ ①~③を足すと答えがでる。
\(~7+450+1800=2257~\) より、
\begin{equation}
37 \times 61=2257
\end{equation}
なぜこれで計算できるかは、
\begin{equation}
(10a+b)(10c+d)=100ac+10(ad+bc)+bd
\end{equation}
\begin{align}
&(10a+b)(10c+d) \\
&=100ac+10(ad+bc)+bd
\end{align}
からわかります。
せっかくなので、3ケタ×3ケタも計算してみましょう。
572×104の計算
\(~2 \times 4=8~\)
\(~(7 \times 4+2 \times 0)\times 10=280~\)
\(~(5 \times 4+7 \times 0+2 \times 1)\times 100=2200~\)
\(~(5 \times 0+7 \times 1)\times 1000=7000~\)
\(~(5 \times 1)\times 10000=50000~\)
よって、
\begin{align}
572 \times 104&=8+280+2200+7000+50000 \\
&=59488
\end{align}
\begin{align}
&572 \times 104 \\
&=8+280+2200+7000+50000 \\
&=59488
\end{align}
大変面倒です。筆算がいかに便利かがわかりますね。
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Ⅱ 乗算記号の誕生
1618年、イギリスのエドワード・ライトは自分の著書の中で、次のように「たすきがけ法」を使いました。
数どうしを線分でつなぐのではなく、大文字の"X"(エックス)で簡易化を図ったのです。ちなみに、3ケタ以上は"X"に加えて、"I"(アイ)も使いました。
こういった本が当時流通する中、1631年にウィリアム・オートレッドは、弟子のために書いた著書『数学の鍵』の中で、初めて乗算記号として、"×"(かける)を使いました。
"×"以外にも、比例を"::"や差の絶対値を"~"といった記号を、その本の中で新しく使用しています。
この記号が生まれる前は、乗算記号は省略されていたため、 \(~(3x+2)\times 5~\) のような数式が、 \(~(3x+2)5~\) となり、計算上混乱がありました。
また、時代的にも文字式や方程式が盛んに使われ始めた時期であったため、乗算記号の必要性が高まっていたこともあり、"×"は広まっていきました。
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Ⅲ ライプニッツの乗算記号
しかし、"×"の使用を批判する数学者もいました。それが、微分積分学で有名なゴットフリート・ライプニッツです。彼は"X"(エックス)と混ざることを理由に、乗算記号として"・"を使いました。
実際、
\begin{equation}
3 \times x=3x
\end{equation}
よりも、
\begin{equation}
3 \cdot x=3x
\end{equation}
の方が見やすいです。
ちなみに、15世紀初めのイタリアの写本の段階で、「 \(~2 \cdot 4386~\) 」という書き方が見られていたようです。(“="は1557年に誕生しました)
現在でも、高校数学に入ると"×"が"・"に変わり、計算がよりスピーディーに、わかりやすく行えるようになっています。
ちなみに、プログラミング言語としては"\(*\)"を使いますね。中学生では"×"、高校生では"・"、趣味では"\(*\)"とゴチャゴチャになりそうです。(さすがに黒板で"\(*\)"を書いたことはありませんがw)
◇参考文献等
・片野善一郎(2014)『数学用語と記号ものがたり』,p22,裳華房.
・岡部恒治,川村康文,長谷川愛美,本丸諒,松本悠共著(2014)『身近な数学の記号たち』,pp14-15,Ohmsha.
・Bertrand Hauchecorne , Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,pp90-91,pp594-597,熊原啓作訳,日本評論社.
![]() 数学用語と記号ものがたり [ 片野善一郎 ]
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![]() 身近な数学の記号たち [ 岡部恒治 ]
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