「世の中で最も美しい比率」と称される黄金比。
美術やデザイン、料理の世界で頻繁に耳にするこの言葉ですが、数学的には$~1:\cfrac{1+\sqrt{5}}{2}~$の比のことを黄金比と言います。
この記事では、黄金比の定義から、フィボナッチ数列との不思議な関係、そして古代ギリシャ以来の黄金比の歴史まで、その奥深い世界を数学史の先生であるFukusukeが完全解説します。
この記事を読むことで、黄金比が持つ様々な美しい性質を知ることができます。
黄金比とは何か?
まずは、黄金比が一体どのような比率なのか、その定義から見ていきましょう。
黄金比の定義:線分を特定のルールで分けたときの比率
黄金比は以下のように定義されています。
ある線分を2つに分割したときに、短い部分と長い部分の比が、長い部分と線分全体の比に等しくなる比率のことを黄金比という。

この定義はユークリッドの『原論』の第6巻に載っているものです。
当時は「外中比」と呼ばれ、「黄金比」という名前がつくのは19世紀のドイツでのことになります(後述)。

黄金比の数値的定義:二次方程式から1:1.618・・・で与えられる
前述の線分による定義は難しく見えがち。
具体的な数値としての黄金比は以下のように与えられます。
次の値で表される比を黄金比という。
1:\frac{1+\sqrt{5}}{2}また、$~\displaystyle \frac{1+\sqrt{5}}{2}~$のことを黄金数といい、ギリシャ文字$~\phi~$(ファイ)で表す。
黄金数$~\phi=\displaystyle \frac{1+\sqrt{5}}{2}~$は無理数であり、小数第20位までを示すと以下のように数が並び、多くの場合は約$~1.618~$と近似されます。
\phi=1.~61803~39887~49894~84820~\cdots
では、黄金比の数値的定義を、ユークリッドによる元の定義から導いてみましょう。
黄金比の定義によって、線分が$~a~$と$~b~$に分けられたとする。(ただし、$~0 < a < b~$)

このとき、線分全体は$~a + b~$と表せるため、次の式が成り立つ。
a : b = b : (a+b)
求めたいのは、$~a = 1~$のときの$~b~$の値であるため、次の比例式を解けばよい。
1 : b = b : (1+b)
この比例式を変形していくと、
\begin{align*}
b^2 &= 1 \cdot (1+b) \\
b^2 &= 1 + b \\
b^2 - b - 1 &= 0 \quad \cdots (*)\\
b &= \frac{1 \pm \sqrt{1 - 4 \cdot 1 \cdot (-1)}}{2}\\
b &= \frac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}\\
\end{align*}であり、$~0 < b~$より、
b = \frac{-1 + \sqrt{5}}{2}が求められた。
よって黄金比は$~1 : \frac{-1+\sqrt{5}}{2}~$である。$~\blacksquare~$
確かに黄金比$~1:\phi~$が求められました。
$~(*)~$の二次方程式は、黄金数$~\phi~$を導く方程式として度々登場します。
黄金数$~\phi~$は、次の二次方程式の正の解である。
x^2-x-1=0
黄金数の連分数は1だけで表される
黄金数$~\phi~$は無理数であるため、連分数展開をしたときに以下のように無限に続いていきます。
\phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}}}この形になる理由として、先ほどの黄金比の数値的定義の導出で登場した二次方程式が鍵となります。
導出
黄金数$~\phi~$は二次方程式$~x^2 – x – 1 = 0~$の解であるため、
\begin{align*}
\phi^2 - \phi - 1 &= 0 \\
\phi^2 &= \phi + 1 \\
\phi &= 1 + \frac{1}{\phi} \quad \cdots ①\\
\end{align*}と変形できる。
ここで、$~①~$の右辺に$~①~$を代入すると、
\phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{\phi}} \quad \cdots ②となり、$~②~$の右辺に$~①~$を代入すると、
\phi = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{\phi}}}となる。
これを繰り返すことによって、$~\phi~$の連分数展開ができる。
復元
x = 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cdots}}}}において、右辺の最も大きい分数の分母は、$~x~$そのものとなっていることがわかる。(無限に続く分数なので、分数の外にある$~1 + \cfrac{1}{\cdot}~$の部分を1つ取り除いても変わらない)
したがって、
x = 1 + \frac{1}{x}とおけるため、
\begin{align*}
x^2 &= x + 1 \\
x^2 - x - 1 &= 0 \\
x &= \frac{1 + \sqrt{5}}{2} = \phi \quad (\because x > 0)\\
\end{align*}である。
実は、連分数展開では登場する数が小さいほど、有理数での近似値の計算が難しくなります。
$~\sqrt{2}~$や円周率$~\pi~$の連分数展開を同じ回数まで行ったときと比べ、黄金数$~\phi~$の連分数展開の精度の悪さがわかります。
\phi \fallingdotseq 1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{1}}}}~~=\frac{8}{5}=1.6黄金数は小数第1位まで一致している。
\sqrt{2} \fallingdotseq 1 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{2 }}}}~~=\frac{41}{29}=1.413\cdots
$~\sqrt{2}~$は小数第2位まで一致している。
\pi \fallingdotseq 3 + \cfrac{1}{7 + \cfrac{1}{15 + \cfrac{1}{1 + \cfrac{1}{292}}}}~~=\frac{103993}{33102}=3.1415926530\cdots
$~\pi~$は小数第9位まで一致している。
以上からもわかるように、黄金数はすべての項が最小の自然数である1であるため、他のどの無理数よりも近似値を出すのが苦手なのです。
この性質が、黄金比を数学的に特別な存在にしています。
ふくすけちなみに、円周率の連分数展開を「7」のところまで行うと、アルキメデスの$~\cfrac{22}{7}~$、「1」のところまで行うと劉徽の$~\cfrac{355}{113}~$が出ます。こんなところにも数学史が隠れている!
黄金数の無限多重根号も1だけで表される
黄金数$~\phi~$は、$~\sqrt{~~}~$の中に$~\sqrt{~~}~$を入れ込んでいく無限多重混合の形でも表すことができます。
\phi =\sqrt{ 1 + \sqrt{1+\sqrt{1+\sqrt{1+\cdots}}}}この形になる理由として、連分数展開と同様に、黄金比の数値的定義の導出で登場した二次方程式が鍵となります。
導出
黄金数$~\phi~$は、二次方程式$~x^2 – x – 1 = 0~$の解であるため、
\begin{align*}
\phi^2 - \phi - 1 &= 0 \\
\phi^2 &= 1 + \phi \\
\phi &= \sqrt{1 + \phi} \quad (\because \phi > 0) \quad \cdots ①\\
\end{align*}と変形できる。
ここで、$~①~$の右辺に$~①~$を代入すると、
\phi = \sqrt{1 + \sqrt{1 + \phi}} \quad \cdots ②となり、$~②~$の右辺に$~①~$を代入すると、
\phi = \sqrt{1 + \sqrt{1 + \sqrt{1 + \phi}}}となる。
これを繰り返すことによって、$~\phi~$を無限多重根号で表すことができる。
復元
x = \sqrt{1 + \sqrt{1 + \sqrt{1 + \sqrt{1 + \cdots}}}}において、右辺の2番目に外側の根号の中身は、$~x~$そのものとなっていることがわかる。($~\sqrt{\phantom{x}}~$が無限に続くので、1番外側の$~\sqrt{1 + \sqrt{\cdots}}~$の部分を1つ取り除いても$~x~$であることに変わりはない)
したがって、
x = \sqrt{1 + x}とおけるため、
\begin{align*}
x^2 &= 1 + x \\
x^2 - x - 1 &= 0 \\
x &= \frac{1 + \sqrt{5}}{2} = \phi \quad (\because x > 0)\\
\end{align*}である。
連分数展開や無限多重混合といった複雑な式において、単位元とも呼べるような数値構成になっているのが美しいですね。
黄金比とフィボナッチ数列の関係
黄金比を語る上で欠かせないのが、中世イタリアの数学者レオナルド・フィボナッチ(Fibonacci , 1170頃〜1250頃)が発見した「フィボナッチ数列」です。
$~n~$番目のフィボナッチ数を$~F_n~$とすると、次の式が成り立つ。
F_{n+2} = F_{n+1} + F_{n} ~,~ F_1 = 1~,~ F_2 = 1

フィボナッチ数列の比は黄金比に収束する
フィボナッチ数列は、「前の2つの項を足し合わせると次の項になる」という単純な規則で生成される数列であり、具体的には次のように数が並びます。
1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, \cdots
この数列自体は単純な足し算の繰り返しですが、フィボナッチ数列の隣り合う2項の比$~\frac{F_{n+1}}{F_n}~$を計算してみると、驚くべきことがわかります。
| n | $F_n$ | $F_{n+1}$ | 比 $\left(\cfrac{F_{n+1}}{F_n}\right)$ |
| 1 | 1 | 1 | $~1.000000~$ |
| 2 | 1 | 2 | $~2.000000~$ |
| 3 | 2 | 3 | $~1.500000~$ |
| 4 | 3 | 5 | $~1.666666\cdots~$ |
| 5 | 5 | 8 | $~1.600000~$ |
| 6 | 8 | 13 | $~1.625000~$ |
| 7 | 13 | 21 | $~1.615384\cdots~$ |
| 8 | 21 | 34 | $~1.619047\cdots~$ |
| 9 | 34 | 55 | $~1.617647\cdots~$ |
| 10 | 55 | 89 | $~1.618181\cdots~$ |
$~n~$が大きくなるにつれて、この比が黄金数$~\phi \approx 1.618~$に近づいていくのが見て取れるでしょう。
このことを数式にすると、以下のようになります。
\lim_{n\to \infty}\cfrac{F_{n+1}}{F_n}=\phi ~~\left(=\frac{1+\sqrt{5}}{2} \right)フィボナッチ数列と黄金比が結びつくのは偶然ではなく、黄金数を導く二次方程式に帰着させるような式変形で証明することができます。
$~x_n = \displaystyle\frac{F_{n+1}}{F_n}~$とおく。
$~F_{n+2} = F_{n+1} + F_n~$であることから、
\begin{align*}
x_{n+1} &= \displaystyle\frac{F_{n+2}}{F_{n+1}} \\\\
&= \displaystyle\frac{F_{n+1} + F_n}{F_{n+1}} \\\\
&= 1 + \displaystyle\frac{F_n}{F_{n+1}} \\\\
&= 1 + \displaystyle\frac{1}{\dfrac{F_{n+1}}{F_n}} \\\\
&= 1 + \displaystyle\frac{1}{x_n} \quad \cdots ①\\
\end{align*}であり、$~①~$を使って$~x_{n+2}~$を$~x_n~$で表すと、
\begin{align*}
x_{n+2} &= 1 + \frac{1}{x_{n+1}} \\\\
&= 1 + \cfrac{1}{1 + \dfrac{1}{x_n}} \\\\
&= 1 + \frac{x_n}{x_n + 1} \\\\
&= \frac{x_n + 1 + x_n}{x_n + 1} \\\\
&= \frac{2x_n + 1}{x_n + 1} \quad \cdots ②\\
\end{align*}とわかる。
次に、$~x_n~$と$~\phi~$の大小関係を調べる。
$~\phi~$の連分数展開の導出において、$~\phi = 1 + \displaystyle\frac{1}{\phi}~$が求められているため、$~①~$と合わせて、
\begin{align*}
x_{n+1} - \phi &= 1 + \frac{1}{x_n} - \left(1 + \frac{1}{\phi}\right) \\\\
&= \frac{1}{x_n} - \frac{1}{\phi} \\\\
&= \frac{\phi - x_n}{x_n \phi} \\\\
&= -\frac{1}{x_n \phi}(x_n - \phi) \quad \cdots ③\\
\end{align*}である。
$~③~$において、$~\displaystyle – \frac {1}{x_n \phi}~$は負であるため、$~x_n – \phi~$の符号は$~n~$が1つずつ増えるごとに交互に変わる。
すなわち、$~x_n~$と$~\phi~$の大小が交互に変わる。
x_1 = \frac{F_2}{F_1} = \frac{1}{1} = 1 < \phix_2 = \frac{F_3}{F_2} = \frac{2}{1} = 2 > \phiであることから、$~n~$が奇数のとき$~x_n < \phi~$、$~n~$が偶数のとき、$~x_n > \phi~$とわかる。
ここで、$~x_n~$の2つおきの項の差を考える。$~②~$より、
\begin{align*}
x_{n+2} - x_n &= \frac{2x_n + 1}{x_n + 1} - x_n \\\\
&= \frac{2x_n + 1 - x_n(x_n + 1)}{x_n + 1} \\\\
&= \frac{-x_n^2 + x_n + 1}{x_n + 1} \\\\
&= \frac{-(x_n^2 - x_n - 1)}{x_n + 1} \quad \cdots ④\\
\end{align*}となる。
$~④~$の分母$~x_n + 1~$は正であるため、$~x_{n+2} – x_n > 0~$になるためには、
\begin{align*}
-(x_n^2 - x_n - 1) &> 0 \\\\
x_n^2 - x_n - 1 &< 0 \\\\
\frac{1 - \sqrt{5}}{2} < x_n &< \frac{1 + \sqrt{5}}{2} = \phi\\
\end{align*}であるため、$~x_n < \phi~$である$~n~$が奇数のときは、
1 = x_1 < x_3 < x_5 < x_7 < \cdots < \phi
という、$~1~$から$~\phi~$に近づく単調増加列であることがわかった。
逆に、$~x_{n+2} – x_n < 0~$となるのは、
\phi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} < x_nを満たすときであり、$~n~$が偶数のとき、
2 = x_2 > x_4 > x_6 > x_8 > \cdots > \phi
という、$~2~$から$~\phi~$に近づく単調減少列であることがわかった。
したがって、$~{x_n}~$は単調かつ有界($~1 \leq x_n \leq 2~$)な数列であるため、収束することがわかり、その収束値を $~\alpha~$とおくと、
\lim_{n \to \infty} x_n = \lim_{n \to \infty} x_{n+2} = \alphaとおけるため、$~②~$より、
\begin{align*}
\lim_{n \to \infty} x_{n+2} &= \lim_{n \to \infty} \left(\frac{2x_n + 1}{x_n + 1}\right) \\\\\
\alpha &= \frac{2\alpha + 1}{\alpha + 1}\\\\
\alpha(\alpha + 1) &= 2\alpha + 1 \\\\\
\alpha^2 - \alpha - 1 &= 0 \\\\\
\alpha &= \frac{1 + \sqrt{5}}{2} = \phi \quad (\because \alpha > 0)\\
\end{align*}となり、奇数番目の数列も偶数番目の数列も$~\phi~$ に収束する。
したがって$~\displaystyle\lim_{n \to \infty} x_n = \displaystyle \lim_{n \to \infty} \displaystyle \frac{F_{n+1}}{F_n} = \phi~$が示された。$~\blacksquare~$
フィボナッチ数列の隣り合う項の比$~\cfrac{F_{n+1}}{F_n}~$の収束性の証明が難しいですが、そこさえ乗り越えれば無限の性質をうまく利用して、黄金数$~\phi~$を導くことができます。
黄金比からフィボナッチ数列が出てくる
フィボナッチ数列には、黄金比が隠れていることがわかりました。
実はその逆、黄金比の中にもフィボナッチ数列が隠れているのです。
$~n~$を2以上の自然数とする。
黄金数$~\phi~$とフィボナッチ数列$~\{F_n\}~$について、次の等式が成り立つ。
\phi^n=F_n\phi+F_{n-1}$~\phi^n~$はすべて$~\phi~$に字数下げをすることができ、その係数にフィボナッチ数が出現するという公式です。
黄金数$~\phi~$と二次方程式の関係から、$~\phi^2 = \phi + 1~$であるため、これを利用して数学的帰納法で示す。
$~n = 2~$のとき、
\begin{align*}
\phi^2 &= \phi + 1 \\
&= 1 \cdot \phi + 1 \\
&= F_2 \phi + F_1\\
\end{align*}となるので、成立する。
$~n = k~$ のとき、
\phi^k = F_k \phi + F_{k-1}が成り立つと仮定する。
$~n = k + 1~$のとき、
\begin{align*}
\phi^{k+1} &= \phi \cdot \phi^k \\
&= \phi \cdot (F_k \phi + F_{k-1}) \\
&= F_k \cdot \phi^2 + F_{k-1} \phi \\
&= F_k(\phi + 1) + F_{k-1} \phi \\
&= F_k \phi + F_{k-1} \phi + F_k \\
&= (F_k + F_{k-1}) \phi + F_k\\
\end{align*}ここで、フィボナッチ数列の定義より、$~F_{k+1} = F_k + F_{k-1}~$なので、
\phi^{k+1} = F_{k+1} \phi + F_kとなり、$~n = k + 1~$でも成立することが示された。
以上より、$~2~$以上のすべての自然数$~n~$において、$~\phi^n = F_n \phi + F_{n-1}~$が示された。$~\blacksquare~$
実際に、$~\phi~$の2乗から10乗まで並べてみると、次のようになります。
\begin{align*}
\phi^2&=1\phi+1 \\
\phi^3&=2\phi+1 \\
\phi^4&=3\phi+2 \\
\phi^5&=5\phi+3 \\
\phi^6&=8\phi+5 \\
\phi^7&=13\phi+8 \\
\phi^8&=21\phi+13 \\
\phi^9&=34\phi+21 \\
\phi^{10}&=55\phi+34 \\
\end{align*}ヒマワリのフィボナッチ数列と黄金角
フィボナッチ数列は驚くほど多くの自然現象の中に現れますが、その中でもヒマワリの種のつき方について取り上げてみます。
ヒマワリに関して、種が並んで形成された螺旋の本数はフィボナッチ数列になっているという性質があります。




上記のイメージ例であれば、反時計回りの螺旋が13本、時計回りの螺旋が21本あります。
ヒマワリの種はそもそも、中心から外側へ向かって1つずつ生成されます。
このとき、各種は前の種から黄金角(約137.5°)だけ回転した位置に配置されることで、美しい螺旋模様が生まれます。
円周を黄金比$~\left(1:\cfrac{1+\sqrt{5}}{2}\right)~$で二分したとき、狭い方の中心角のことを黄金角という。


黄金角を度数で表すと約137.5°である。
360^{\circ}\times\cfrac{1}{1+\frac{1+\sqrt{5}}{2}}=137.5077^{\circ}\cdots 黄金角は、ヒマワリが種を最も密に配置するための、進化の過程で獲得した最適化の結果であると考えられています。
実際、$~\sqrt{2}~$や$~\pi~$を使ったときの角度で、先の図と同数のヒマワリの種を並べると以下のようになり、密集具合が薄いのがわかります。




この違いに隠された数学は連分数展開。
黄金数の連分数展開では$~1~$が並び、有理数に近づきにくいという性質が種の密集度合いを高めています。
$~\pi~$であれば$~3+\cfrac{1}{7}~$より、7個種が置かれるとほぼ360°でとなり、8個目は1個目ほぼ同じ位置に置かれるため上の図のようになります。
黄金比の呼称の変遷と歴史
今日「黄金比」として知られる$~1:\phi~$は、その名が定まるまでに2000年以上の歴史を歩んできました。
- 紀元前300年頃:ユークリッドが黄金比を「外中比」という名前で定義する。
- 1509年:ルカ・パチョーリが黄金比に神性を見出し、「神聖比例」という名前をつける。
- 1835年:マルティン・オームが「黄金比」という言葉を初めて使用する。
- 1854年:アドルフ・ツァイジングが黄金比を広める。
古代ギリシャ:ユークリッドが「外中比」と定義した
黄金比の最も古い記録は、古代ギリシャの数学者ユークリッド(Euclid , 紀元前330年頃〜紀元前275年頃)の著作『原論(ストイケイア)』に遡ります。


(出典:See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons)
ユークリッドは『原論』6巻にて、今でいう黄金比を次のように定義しています。
線分は、不等な部分に分けられ、全体が大きい部分に対するように、大きい部分が小さい部分に対するとき、外中比に分けられたといわれる。
線分を「外項と中項の比に分割する」という純粋な幾何学の問題として扱いました。
ユークリッドは外中比(黄金比)が持つ数学的な性質の探求に重きを置いており、この比を特別扱いしたり、美しさを感じたりはしていませんでした。


近世ヨーロッパ:パチョーリが「神聖比例」と名付けた
時代は下り、ルネサンス期のイタリア。
数学者ルカ・パチョーリ(Luca Pacioli , 1445年〜1517年)は、1509年に出版した著書『神聖比例論』の中で、この比率を「神聖比例」と名付け、その神秘的な性質を称えました。


(出典:Attributed to Jacopo de’ Barbari, Public domain, via Wikimedia Commons)
パチョーリは、この比率が持つ唯一性や三位一体性(3つの項$~a~,~ b~,~ a+b~$ で定義されること)に神性を見出し、芸術や建築における調和の根源と考えました。
彼の親友であったレオナルド・ダ・ヴィンチもこの考えに深く影響を受け、自身の『ウィトルウィウス的人体図』などで、人体の理想的なプロポーションを表現するためにこの比率を用いたと言われています。


19世紀ドイツ:「黄金比」の誕生
「黄金比」という現代的な名称が歴史に登場するのは、19世紀のドイツです。
数学者マルティン・オーム(Martin Ohm , 1792年5月6日〜1872年4月1日)が、1835年の著書『初等純粋数学』第2版にて、「黄金比」という言葉を初めて使ったとされています。


(出典:Schwab (Zeichner) nach Graff (Fotograf), Public domain, via Wikimedia Commons)
しかし、この名称を世に広めたのは、ドイツの心理学者アドルフ・ツァイジング(Adolf Zeising , 1810年9月24日〜1876年4月27日)の功績が大きいと言われています。
ツァイジングは1854年の著書『人体比例の新理論』で、黄金比が自然界のあらゆる場所や、美術、建築、音楽といった芸術作品の中に普遍的に存在する「美的法則」であると主張しました。


(出典:Evergreen68, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons より改変)
ただし、彼の研究は黄金比の概念を爆発的に普及させる一方で、科学的根拠の薄い事例までをも黄金比と結びつけ、後世に多くの誤解や神秘主義的な解釈を生む原因ともなりました。
ピラミッドやパルテノン神殿の黄金比はこじつけ?
「ギザのピラミッドやアテネのパルテノン神殿に黄金比が使われている」という話は有名です。
しかし、これらは歴史的な証拠に乏しく、後世の人々による憶測やこじつけである可能性が高いと考えられています。
- ピラミッド:黄金比の発見よりも2000年以上前に建設されており、古代エジプト人が黄金比の知識を持っていたという直接的な証拠は見つかっていない。
- パルテノン神殿:建設を指揮した彫刻家ペイディアスの名にちなんで黄金数を$~\phi~$と呼ぶようになったという説があるものの、これも後付けの話であり、彼が意図的に黄金比を用いたという記録はない。
ピラミッドとパルテノン神殿の黄金比写真
これらの建造物に見られる比率が黄金比に「近い」ことは事実かもしれませんが、それが建設者の意図によるものなのか、あるいは結果的にそうなった偶然の産物なのかを判断するのは、極めて困難です。
ツァイジングが広めた「黄金比万能説」の影響が、こうした伝説を生み出す一因となったのかもしれません。
幾何学における黄金比
黄金比は、数式だけでなく、図形としてもその美しい性質を現します。
黄金比はコンパスと定規で作図できる
黄金数は無理数ですが、2次方程式の解で表せるため、コンパスと定規を用いて作図することができます。
- 線分$~AB~$をつくる。


- 線分$~AB~$上の$~A~,~B~$それぞれから垂線をひく。


- ❷で書いた垂線上に、$~AB~$と長さが等しくなるような位置をとることで、正方形$~ABCD~$をつくる。


- $~BC~$の中点$~M~$と、$~AD~$の中点$~N~$をとる。


- $~M~$から半径$~MD~$の円をかき、直線$~BC~$との交点を$~P~$とする。
$~N~$から半径$~NC~$の円をかき、直線$~AD~$との交点を$~Q~$とする。
このとき、$~P~,~Q~$を結んでできる長方形$~ABPQ~$の縦横比が$~1:\phi~$となる。(作図完了)


作図に使った補助線をすべて書き残すと、下の図のようになります。


この方法で作図できる理由は、$~\cfrac{1}{2}~$と$~1~$を二辺に持つ直角三角形において、三平方の定理で斜辺$~\cfrac{\sqrt{5}}{2}~$を作っているからです。


上の図からもわかる通り、$~BP=\cfrac{1}{2}+\cfrac{\sqrt{5}}{2}=\cfrac{1+\sqrt{5}}{2}=\phi~$となっています。
黄金長方形と黄金螺旋
上記で作図した長方形には、「黄金長方形」という名前がついています。
その名の通り、短辺と長辺の比が黄金比$~1:\phi~$になっている長方形です。


黄金長方形には、次のような美しい性質があります。
長方形から最も大きな正方形を切り取ると、残った長方形も黄金長方形になる。


この操作は無限に繰り返すことができ、そのたびに相似形の黄金長方形が現れる(自己相似性)。


この美しい性質が成り立つ理由は、長さを計算してみればわかります。
下の図において、
a = \frac{1+\sqrt{5}}{2} - 1 = \frac{-1+\sqrt{5}}{2}b = 1
なので、新しくできた長方形の縦横比は、
\begin{align*}
a : b &= \frac{-1+\sqrt{5}}{2} : 1 \\\\
&= \frac{(-1+\sqrt{5})(1+\sqrt{5})}{2} : (1+\sqrt{5}) \\\\
&= \frac{5-1}{2} : (1+\sqrt{5}) \\\\
&= 2 : (1+\sqrt{5}) \\\\
&= 1 : \frac{1+\sqrt{5}}{2}\\\\
\end{align*}で、黄金比$~1 : \phi~$となる。$~\blacksquare~$
そして、この分割された正方形の中に四分円を描き、それらを滑らかにつなぐと、黄金螺旋と呼ばれる美しい曲線が生まれます。


黄金螺旋は対数螺旋(極座標で$~r=a\theta~$と表される螺旋)の一種で、オウムガイの殻や台風の渦など、自然界の様々な場所で見ることができると言われています。



あくまで黄金螺旋に近い形と言われているだけです。
正五角形とペンタグラム(五芒星)に隠された比率の連鎖
正五角形は、黄金比と非常に深い関係を持つ図形です。
正五角形の辺と対角線の長さの比は、$~1~:~\phi~$となる。


また、正五角形の対角線をすべて結ぶと、小さな正五角形ができ、黄金螺旋と同様に自己相似の典型例となっています。


ピタゴラスは正五角形が神秘的な図形であり、コンパスと定規だけで作図ができることに感動し、上の図を自身の教団のシンボルマークとして用いていました。
正五角形には、他にも黄金比に関する性質があり、こちらの記事で紹介しています↓↓


黄金三角形から生まれる対数螺旋の美しさ
正五角形の対角線を引いたときに出てくる二等辺三角形のうち、とんがった形をしている方には「黄金三角形」という名前がついています。
3つの内角が$~36^{\circ}~,~72^{\circ}~,~72^{\circ}~$である二等辺三角形を黄金三角形という。


この黄金三角形については、角を二等分していくと、相似な黄金三角形が次々と現れるという自己相似性を持っています。


そして、この分割を利用して、黄金長方形と同様の美しい対数螺旋を描くこともできます。





こちらは「黄金螺旋」と言いません。
黄金長方形から得られる螺旋を「黄金螺旋」と言います。
黄金比計算機
黄金比をデザインに活かす際、手計算で比率を求めるのは少し面倒です。
そこで、基準となる数値を入力するだけで、簡単に黄金比の分割サイズを計算できるツールをJavaScriptで実装しました。
基準となる数値(長辺または短辺)を入力してください。


ここに結果が出力されます



$~1~$を入力すれば、短辺を$~1~$としたときの長辺として$~\phi~$が出力されるよ。
まとめ
この記事では、黄金比の数学的な定義から、フィボナッチ数列との関係、歴史的な変遷、そして現代における応用まで、その多岐にわたる側面を掘り下げてきました。
- 黄金比は線分を$~1:\frac{1+\sqrt{5}}{2}~$に分ける比率
- フィボナッチ数列の隣り合う項の比は黄金比に収束する
- 古代ギリシャで「外中比」として定義され、19世紀に「黄金比」と名付けられた
- 黄金長方形や正五角形など自己相似的な図形に現れる
- デザインに応用される一方、歴史的建造物との関連は憶測も多い



自然界に現れていたり、派生する図形に面白い性質があるのは分かったけど、やっぱり計算が面倒すぎる……。




コメント