ユークリッド原論の有名な命題5選!証明の最後にあるQEDの意味とは?

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ユークリッド『原論』の命題5選 アイキャッチ

 ユークリッドの『原論』は、古代ギリシャの数学が網羅された、数学書や教科書の土台として今も根付いている名著です。

 『原論』はユークリッドによって紀元前300年頃に書かれ、聖書の次に版を重ねている書物と言われるほど、世界に流通しています。

 この本記事では、『原論』の構成とともに、特に有名な命題を5つ紹介し、その証明の最後に記される「QED」の意味についても解説!

 この記事を読むことで、数学の論理の厳密さを象徴する『原論』の有名部分を味わうことができます。

この記事で主に扱っている時代と場所
時代紀元前300年頃
場所アレクサンドリア
この記事を読んでわかること

『原論』の構成

 『原論』は、ユークリッド(Euclid , 紀元前330年頃〜紀元前275年頃)によって書かれたギリシャ数学の集大成とも呼べる数学書です。

 この大著は、数学の基本原理を明確かつ体系的に提示しており、その後の数学に大きな影響を与えました。

ユークリッド
(出典:See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons)

5つの公理と5つの公準で始まる

 『原論』は、数学的な命題を証明するための基本的な前提条件、つまり公理と公準から始まります。

アリストテレス

公理は、証明なしでも誰もが正しいと認めること。
公準は、特定の分野(幾何学)の中で、要請される前提を指すよ。

 ユークリッドは、5つの公理と5つの公準から、『原論』の論理を始めました。

『原論』5つの公理
  • 公理(1):同じものに等しいものは互いに等しい。
  • 公理(2):等しいものに等しいものを加えた和は互いに等しい。
  • 公理(3):等しいものから等しいものを引いた差は互いに等しい。
  • 公理(4):互いに重なり合うものは互いに等しい。
  • 公理(5):全体は部分より大きい。
公理1~5の図
公理1~5の図
『原論』5つの公準
  • 公準(1):任意の点から任意の点へ直線(線分)を引くこと。
  • 公準(2):任意の直線(線分)を連続して伸ばすこと。
  • 公準(3):任意の中心と任意の半径の円を描くこと。
  • 公準(4):すべての直角は互いに等しいこと。
  • 公準(5):二つの直線と交わる直線の同じ側の内角の和が二直角($~180^{\circ}~$)より小さいならば、二つの直線を同じ側に伸ばしていけばいつかは交わること。
公準1~5の図
公準1~5の図

 ユークリッドは、これらの公理と公準をもとにして、その後のすべての命題を論理的に導き出しています。

ユークリッド

公理と公準の計10個は証明せずに使わせてね。

各章は定義と命題から構成される

 『原論』の冒頭で、公理と公準が述べられた後は、分野ごとで区切られた各章へと進みます。

 各章は、まずいくつかの定義から始まり、その後に命題が続きます。
 1章であれば23個の定義から始まっており、48個の命題が証明と共に載っているのです。

アリストテレス

定義は言葉の意味を示したもので、命題は正しいか正しくないかがはっきりと定まる文や式のことだよ。

『原論』1章「平面図形の基礎」の定義(抜粋)
  • 定義1:点は部分をもたないものである。
  • 定義2:線には幅は無く、長さがある。
  • 定義3:線の端は点である。
  • 定義4:直線とは点がまっすぐに並んだ線である。
  • 定義5:面には長さと幅だけがある。
  • (中略)
  • 定義15:円とは、周と呼ばれる一つの線の境界で囲まれた平面図形であって、その中にある一つの点から円周上の点に引かれた直線の長さがすべて等しいようなものである。
  • (中略)
  • 定義20:三辺形において、三辺が等しいものを正三角形、二辺が等しいものを二等辺三角形、すべて異なるものを不等辺三角形という。
  • (中略)
  • 定義23:平行な直線とは、同じ平面上にある複数の直線でどちらの方向にどれだけ伸ばしても交わることのないものである。

 最初の章の最初の命題では、中学1年生で行う作図の方法の正しさが述べられています。

『原論』1章 命題1

 ある直線(線分)の長さを与えられたとき、それを一辺とする正三角形を作図することができる。

章 命題1の図
1章 命題1の図

 最初の命題ゆえに、公理と公準、定義のみを使って証明されています。

『原論』1章 命題1の証明

 $~AB~$を与えられた直線(線分)とする。

 公準(3) より、$~A~$と$~B~$それぞれから$~AB~$を半径とした円をかくことができる。

1章 命題1の証明1
1章 命題1の証明1

 公準(1) より、2つの円の交点 $~C~$から$~A~,~B~$それぞれへ直線(線分)を引くことができる。

1章 命題1の証明2
1章 命題1の証明2

 1章の定義(15) より、$~AC=AB~,~BC=BA~$である。

 公理(1) より、$~AC=AB~$であるため、1章の定義(20) より$~\triangle ABC~$は正三角形となる。$~Q.F.D.~$

1章 命題1の証明3
1章 命題1の証明3

 続く命題2では、コンパスで同じ長さをとることの正しさが述べられています。

『原論』1章 命題2

 与えられた直線(線分)と同じ長さの直線(線分)を、与えられた点から作図することができる。

1章 命題2の図

 この命題の証明で使えるのは、公理や公準、定義の他に、すでに証明済みの 『原論』1章 命題1 も含まれます。

『原論』1章 命題2の証明

 $~A~$を与えられた点とし、$~BC~$を与えられた直線(線分)とする。

 このとき、点$~A~$から$~BC~$の長さの直線(線分)を引ければよい。

 公準(1) より、$~A~$から$~B~$まで直線(線分)が引けて、『原論』1章 命題1 より正三角形$~DAB~$を作図することができる。

1章 命題2の証明1
1章 命題2の証明1

 公準(2) より、直線(線分)$~DA~$と直線(線分)$~DB~$を延長し、直線$~AE~$と直線$~BF~$をかく。

 公準(3) より、点$~B~$を中心とし、半径$~BC~$の円$~CGH~$をかく。

 公準(3) より、点$~D~$を中心とし、半径$~DG~$の円$~GKL~$をかく。

1章 命題2の証明2
1章 命題2の証明2

 このとき、点$~D~$が円$~GKL~$の中心であるため、1章の定義(15) より$~DL=DG~$。

 1章の定義(20) より、正三角形$~DAB~$で、$~DA=DB~$。

 公準(3) より、$~DL~$、$~DG~$から$~DA~$、$~DB~$をそれぞれ引くことで、$~AL=BG~$。

1章 命題2の証明3
1章 命題2の証明3

 また、点$~B~$が円$~CGH~$の中心であるため、1章の定義(15) より$~BC=BG~$。

 公準(1) より、$~AL=BG~$と$~BC=BG~$から$~AL=BC~$。

1章 命題2の証明4
1章 命題2の証明4

 これで、点$~A~$から$~BC~$の長さの直線(線分)$~AL~$が引けたこととなる。$~Q.F.D.~$

 このように命題を証明していくことにより、どんどん使える命題が増えた状態で新たな命題の証明ができるようになります。

 『原論』に由来する今の数学は、まさに積み上げの学問と言えるでしょう。

数学のイメージ
数学のイメージ

全13章で様々な分野が扱われる

 『原論』は全13巻から成り立っており、各章の内容は以下の通りです。

タイトル定義の数命題の数内容
1平面図形の基礎23485つの公準、5つの公理もここに掲載。対頂角や平行線の錯角、合同条件などの基本的な知識の命題が中心。命題47ユークリッドが考えた三平方の定理の証明が載っている。
2代数の公式214分配法則や展開公式、二次方程式の解の公式を図形によって証明している。
31137円に内接する四角形の性質や接線の性質など、円に関する基本定理を紹介。
4円と正多角形716円に内接・外接する正多角形の作図が中心。命題11正五角形の作図ピタゴラスによる。
5比例論1825エウドクソスの比例論。無理数を含めた連続量で考えることができる。
6相似433相似な図形を考え、図形の中で比の性質を利用している。
7数論①11396章までとは独立。最初の命題はユークリッドの互除法を扱っている。
8数論②なし27アルキュタスの研究成果が中心。等比数列を扱う。
9数論③なし36命題20で素数が無限に存在することを証明。命題21以降はピタゴラスの偶数と奇数に関する命題。また、命題36では完全数を導く公式が登場。
10無理数16115最も重要と考えられている章。テアイテトスによるものと考えられている。命題9で$~\sqrt{2}~$が無理数であることを証明。 
11空間図形の基礎2939角錐や角柱の定義を含む。球の定義は半円を直径を軸に回転させた立体。
12面積と体積なし18エウドクソスの取りつくし法により証明される面積や体積の公式。
13正多面体なし18テアイテトスによる5つの正多面体について。外接球の直径も求めている。

 内容からもわかる通り、古代ギリシャで研究された、当時の数学の幅広い領域が網羅されていることがわかります。

有名な命題5選

ユークリッドの『原論』には数多くの重要な命題が含まれていますが、特に有名なものを5つ紹介します。

三平方の定理(『原論』1章 命題47)

 ピタゴラスが初めて証明をした三平方の定理(ピタゴラスの定理)は、直角三角形の各辺の長さに関する基本的な関係を示しています。

47 (三平方の定理)

 直角をはさむ辺の長さが$~a~,~b~$、斜辺が$~c~$である直角三角形において、

a^2+b^2=c^2

が成り立つ。

直角三角形
直角三角形

 『原論』における実際の文章としては、「直角三角形で、斜辺を一辺とする正方形は、直角をはさむ2辺をそれぞれ一辺とする正方形の和に等しい。」というように図形を使って記述されています。

 ユークリッドは『原論』を書く中で、ピタゴラスの証明方法とは異なる、オリジナルの証明方法を考えました。

ユークリッドが証明に使用した図
ユークリッドが証明に使用した図

 ユークリッドが使用した図のことを「花嫁の椅子」や「ユークリッドの風車」と呼んでいます。

 ユークリッドの証明方法は、三平方の定理の有名な証明の1つで、幾何学的な性質だけが用いられています。

正五角形の作図(『原論』4章 命題11)

 正五角形を作図する方法は、ユークリッドの『原論』でも説明されています。

11 (正五角形の作図)

 与えられた円に内接する正五角形を作図すること。

円と正五角形

 この作図方法は、ピタゴラスによるものとされ、彼の教団にとって神秘的な図形として崇められていました。

ピタゴラス教団のマーク

 4章の最後の命題では、正三角形と正五角形を組み合わせた正十五角形の作図方法まで言及されており、ユークリッドの応用力の高さを表していると考えられます。

ユークリッドの互除法(『原論』7章 命題1)

 ユークリッドの互除法は、二つの整数の最大公約数を求める効率的な方法として知られています。

1 (ユークリッドの互除法)

 2つの等しくない数を設定し、小さい方の数を大きい方の数から継続的に引き続ける。

 もし、その残りが前の数を決して割り切ることがなく、最終的に1が残った場合、その元の数は互いに素である。

 このアルゴリズムはユークリッドの名を冠していますが、テアイテトスが同様の方法で無理数かどうかを判定していたため、そこからヒントを得たのではないかと考えられます。

テアイテトスが利用した図形

素数は無限に存在する(『原論』9章 命題20)

 ユークリッドは、素数が無限に存在することを証明しました。

20 (素数は無限にある)

すべての素数(の集合)は、任意に与えられた素数の数よりも多い。

 背理法を使った初期の1つの例で、ユークリッドは素数が$~A~,~B~,~C~$の3つしかないという仮定から始まり、それよりも大きい素数$~G~$を作り出して矛盾を導いています。

√2は無理数である(『原論』10章 命題9)

 同じく背理法を使った有名な例が、$~\sqrt{2}~$の無理数性の証明です。

 こちらはピタゴラス教団のヒッパソスに由来すると言われますが、どのような方法で行ったかは謎に包まれています。

 『原論』では、一般化された形で無理数性の証明が行われました。

9 (無理数性の証明)

 長さが通約可能な直線上の正方形は、ある平方数が別の平方数に対して持つ比率を持たなければならない。

 そして、ある平方数が別の平方数に対して持つ比率を持つ正方形も、長さが通約可能な辺を持つことになる。

 しかし、長さが通約不可能な直線上の正方形は、ある平方数が別の平方数に対して持つ比率を持つ必要はない。

 そして、ある平方数が別の平方数に対して持つ比率を持たない正方形も、長さが通約可能な辺を持つことはない。

 要するに、正方形の面積比が平方数で表されなければ、どちらか一方の辺の長さは無理数であるということです。

 これにより、面積が$~1~$と$~2~$の正方形を考えると、$~1:2~$が平方数だけの比で表されないため、どちらか一方、すなわち$~\sqrt{2}~$が無理数であるとわかるのです。

証明の最後にあるQEDとは?

 ユークリッドは、『原論』の多くの命題の証明の最後に「Q.E.D.」の3文字を入れました。

 どのような意味を持っているのでしょうか?

Quod Erat Demonstrandum

 「Q.E.D.」を省略せずに書くと、ラテン語の “Quod Erat Demonstrandum” となり、「示されるべきことが示された」という意味を持ちます。

 『原論』において、数学的な証明や論理的な議論の終わりに「Q.E.D.」は使われており、ユークリッドのすぐ後のアルキメデスや、ルネサンス後のヨーロッパ、さらには現在に至るまで幅広く使用されています。

『原論』ではQEFも登場する

 『原論』では、「Q.E.F.」の3文字も登場します。

 こちらは、同じくラテン語の”Quod Erat Faciendum” となり、「行うべきことが行われた」という意味を持ち、幾何学的な構成や作図が完了したときに使用されます。

 『原論』以降も「Q.E.F.」が使われたと考えられていますが、ルネサンス以降は作図題よりも論理的な証明が重要視され、「Q.E.F.」を使う機会が減少

 現在は、作図題であったとしても「Q.E.F.」を見かけることはほとんど無くなりました。

まとめ

 数学の歴史において欠かせない存在であるユークリッドの『原論』について解説してきました。

  • 『原論』はユークリッドによって書かれた古代ギリシャ数学の集大成。
  • 公理や公準、定義から各命題を証明していく体系性が徹底されている。
  • ユークリッド独自の考察も『原論』の中で確認することができる。
  • 各命題の最後でQ.E.D.やQ.E.F.が使用されている。

なんで「QED」ではなくて「Q.E.D.」なの?

Q、E、Dがそれぞれ1つの単語の頭文字であることを明確にするためだよ。例えば、紀元後を表す「A.D.」をコンマなしで書くと「AD(広告)」という意味にも捉えられてしまうからね。

参考文献(本の紹介ページにリンクしています)

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