複素数の三角関数

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 三角関数\(~\sin{x}~,~\cos{x}~\)で、通常\(~x~\)に入る値は、\(~30^{\circ}~,~60^{\circ}~\)のような角度から導入され、弧度法学習後は\(~\displaystyle \frac{\pi}{6}~,~\frac{\pi}{3}~\)のような実数に限られます。
 この記事では、\(~x~\)が複素数のとき、すなわち\(~\sin{z}~,~\cos{z}~\)の値について考えていきます。
Ⅰ 定義と導き方
Ⅱ 整合性の確認
Ⅲ 実変数との違い


※「複素数の対数関数」も合わせてどうぞ。


目次
  • 1. Ⅰ 定義と導き方
  • 2. Ⅱ 整合性の確認
  • 3. Ⅲ 実変数との違い

Ⅰ 定義と導き方

 複素数の三角関数は次のように定義されます。

複素数の三角関数の定義

  \(~z \in \mathbb{C}~\) に対して、\(~z~\)の三角関数は次のように定義される。
\begin{align}
\displaystyle \sin{z}&=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \\
\\
\cos{z}&=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} \\
\end{align}

 三角関数を扱うつもりが、指数関数\(~e^{iz}~,~e^{-iz}~\)が出てきました。
 
 これらが一堂に会する公式・・・、そうです。オイラーの公式からこの定義が導かれています。↓↓

定義の導き方

 実数\(~\theta~\)に対して、オイラーの公式
\begin{equation}
e^{i \theta}=\cos{\theta}+i\sin{\theta} ~~\cdots ①
\end{equation}
と、この\(~\theta~\)を\(~-\theta~\)とした場合の式
\begin{align}
e^{i(-\theta)}&=\cos{(-\theta)}+i\sin{(-\theta)} \\
e^{-i\theta}&=\cos{\theta}-i\sin{\theta} ~~\cdots ②\\
\end{align}
を考える。
 
 \(~①-②~\)によって、
\begin{align}
e^{i \theta}-e^{-i \theta}&=2i \sin{\theta} \\
\\
\frac{e^{i \theta}-e^{-i \theta}}{2i}&=\sin{\theta} ~~\cdots ③
\end{align}
が求まり、同様に\(~①+②~\)によって、
\begin{align}
\displaystyle e^{i \theta}+e^{-i \theta}&=2 \cos{\theta} \\
\\
\frac{e^{i \theta}+e^{-i \theta}}{2}&=\cos{\theta} ~~\cdots ④
\end{align}
が求まった。
 
 \(~③,④~\)に\(~\theta=z~\)を適用することで、
\begin{equation}
\displaystyle \sin{z}=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}~~,~~\cos{z}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}
\end{equation}
が定義された。

 ということで、オイラーの公式を使って導くということさえ覚えておけば、簡単に定義は導けそうです。
 
 ちなみに、\(~\tan{z}~\)は、\(~\sin{z}~,~\cos{z}~\)から定義します。
\begin{align}
\tan{z}&=\displaystyle \frac{\sin{z}}{\cos{z}}\\
\\
&=\frac{\dfrac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}}{\dfrac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}} \\
\\
&=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{i(e^{iz}+e^{-iz})}
\end{align}
 これで\(~\sin{z}~,~\cos{z}~,~\tan{z}~\)が揃いましたが、実数のときとは全く違った形になってしまいました。
 
 それでも三角関数と呼べるのか? 三角関数の代表的な性質が成り立つのかを次章で確かめます。


Ⅱ 整合性の確認

 実数\(~\theta~\)のときに成り立っていた次のような性質は、複素数\(~z~\)でも成り立つのかを確かめてみましょう。

三角関数の性質

(1) \(~\sin^2{z}+\cos^2{z}=1~\)
(2) \(~\sin{(-z)}=-\sin{z}~\)
(3) \(~\sin{(z_1+z_2)}=\sin{z_1}\cos{z_2}+\cos{z_1}\sin{z_2}~\)
(4) \(~\sin{(z+2n \pi)}=\sin{z}~\)
(5) \(~e^{iz}=\cos{z}+i\sin{z}~\)

 他にも三角関数の性質はいろいろありますが、以下に示す方法で、同様に証明できるので、割愛します。
 
 単に定義を代入することで、証明することが可能です。

証明

(1)
\begin{align}
&~~~\sin^2{z}+\cos^2{z} \\
\\
&=\displaystyle \left( \frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \right)^2+\left( \frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} \right)^2 \\
\\
&=\frac{e^{2iz}-2+e^{-2iz}}{-4}+\frac{e^{2iz}+2+e^{-2iz}}{4} \\
\\
&=\frac{-e^{2iz}+2-e^{-2iz}+e^{2iz}+2+e^{-2iz}}{4} \\
\\
&=\frac{4}{4} \\
\\
&=1
\end{align}
 
(2)
\begin{align}
\sin{(-z)}&=\frac{e^{-iz}-e^{iz}}{2i} \\
\\
&=\frac{-e^{iz}+e^{-iz}}{2i} \\
\\
&=-\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \\
\\
&=-\sin{z}
\end{align}
 
(3)
 右辺から左辺を導く。

\begin{align}
&~~~\sin{z_1}\cos{z_2}+\cos{z_1}\sin{z_2} \\
\\
&=\left( \frac{e^{iz_1}-e^{-iz_1}}{2i} \right) \left( \frac{e^{iz_2}+e^{-iz_2}}{2} \right)+\left( \frac{e^{iz_1}+e^{-iz_1}}{2} \right) \left( \frac{e^{iz_2}-e^{-iz_2}}{2i} \right) \\
\\
&=\frac{e^{i(z_1+z_2)}+e^{i(z_1-z_2)}-e^{-i(z_1-z_2)}-e^{i(z_1+z_2)}}{4i} \\
&~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~+\frac{e^{i(z_1+z_2)}-e^{i(z_1-z_2)}+e^{-i(z_1-z_2)}-e^{i(z_1+z_2)}}{4i} \\
\\
&=\frac{2e^{i(z_1+z_2)}-2e^{-i(z_1+z_2)}}{4i} \\
\\
&=\frac{e^{i(z_1+z_2)}-e^{-i(z_1+z_2)}}{2i} \\
\\
&=\sin{(z_1+z_2)}
\end{align}


\begin{align}
&~~~\sin{z_1}\cos{z_2}+\cos{z_1}\sin{z_2} \\
\\
&=\left( \frac{e^{iz_1}-e^{-iz_1}}{2i} \right) \left( \frac{e^{iz_2}+e^{-iz_2}}{2} \right) \\
&~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~+\left( \frac{e^{iz_1}+e^{-iz_1}}{2} \right) \left( \frac{e^{iz_2}-e^{-iz_2}}{2i} \right) \\
\\
&=\frac{e^{i(z_1+z_2)}+e^{i(z_1-z_2)}-e^{-i(z_1-z_2)}-e^{i(z_1+z_2)}}{4i} \\
&~~~~~~~~~~~~~~~~~+\frac{e^{i(z_1+z_2)}-e^{i(z_1-z_2)}+e^{-i(z_1-z_2)}-e^{i(z_1+z_2)}}{4i} \\
\\
&=\frac{2e^{i(z_1+z_2)}-2e^{-i(z_1+z_2)}}{4i} \\
\\
&=\frac{e^{i(z_1+z_2)}-e^{-i(z_1+z_2)}}{2i} \\
\\
&=\sin{(z_1+z_2)}
\end{align}

 
(4)
\begin{align}
&~~~\sin{(z+2n \pi)} \\
\\
&=\frac{e^{i(z+2n \pi)}-e^{-i(z+2n \pi)}}{2i} \\
\\
&=\frac{e^{iz}\cdot e^{2n \pi i}-e^{-iz}\cdot e^{-2n \pi i}}{2i} ~~~\cdots ①
\end{align}
ここで、オイラーの公式より、
\begin{align}
e^{2n \pi i}&=\cos{(2n\pi)}+i \sin{(2n \pi)} \\
&=1 \\
\\
e^{-2n \pi i}&=\cos{(-2n\pi)}+i \sin{(-2n \pi)} \\
&=\cos{(2n\pi)}-i \sin{(2n \pi)} \\
&=1 \\
\end{align}
となるため、\(~①~\)の式は
\begin{align}
&~~~\frac{e^{iz}\cdot 1-e^{-iz}\cdot 1}{2i} \\
\\
&=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \\
\\
&=\sin{z}
\end{align}
と求まる。
 
(5)
 右辺から左辺を導く。
\begin{align}
&~~~\cos{z}+i \sin{z} \\
\\
&=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}+i\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i} \\
\\
&=\frac{e^{iz}+e^{-iz}+e^{iz}-e^{-iz}}{2} \\
\\
&=\frac{2e^{iz}}{2} \\
\\
&=e^{iz}
\end{align}

 以上のように、実変数で使っていた三角関数の公式が複素変数でも確かめられました。


Ⅲ 実変数との違い

 ただし、実変数では当然のように扱っていた性質の中で、複素変数の場合は成り立たない性質があります。

複素数の三角関数特有の性質

  \(~z \in \mathbb{C}~\) に対して、
\begin{equation}
|\sin{z}| \leq 1 ~~,~~|\cos{z}| \leq 1
\end{equation}
は必ずしも成立しない。

 実際に例を見てみましょう。
 複素数\(~z=x+iy~\)の絶対値が
\begin{equation}
|z|=\sqrt{x^2+y^2}
\end{equation}
と表されることを使います。

反例1

\begin{align}
|\sin{i}|&=\left| \frac{e^{-1}-e^{1}}{2i} \right| \\
\\
&=\left| \frac{e^{-1}-e^{1}}{-2}i \right| \\
\\
&=\left| \frac{1}{2}\left( -\frac{1}{e}+e \right) i \right| \\
\\
&=\sqrt{ \left\{ \frac{1}{2}\left( e-\frac{1}{e} \right) \right\}^2 } \\
\\
&=\frac{1}{2}\left( e-\frac{1}{e} \right)
\end{align}
 この式を近似計算すると、\(~1.175 \cdots ~\)となり、\(~|\sin{z}| \leq 1~\)は成り立たない。

 最後が近似計算によるため、確実に\(~1~\)を超えるとわかる例も挙げておきます。↓

反例2

\begin{align}
|\cos{(\pi-i)}|&=\left| \frac{e^{i(\pi -i)}+e^{-i(\pi-i)}}{2} \right| \\
\\
&=\left| \frac{e^{i\pi+1}+e^{-i\pi-1}}{2} \right| \\
\\
&=\left| \frac{e^{i\pi}\cdot e^1+e^{-i\pi}\cdot \frac{1}{e}}{2} \right| \\
\\
&=\left| \frac{-1\cdot e-1\cdot \frac{1}{e}}{2} \right| \\
\\
&=\left| \frac{1}{2} \left(-e-\frac{1}{e}\right) \right| \\
\\
&=\sqrt{ \left\{ \frac{1}{2} \left(-e-\frac{1}{e}\right) \right\}^2 } \\
\\
&=\frac{1}{2} \left(e+\frac{1}{e}\right)
\end{align}
 \(~e > 2~\)より、\(~|\sin{z}| \leq 1~\)は成り立たない。

 こちらはネイピア数\(~e \fallingdotseq 2.718~\)より、明らかに\(~1~\)を超えることがわかりますね。
 
 ということで、すべて実変数の三角関数と同じと考えてしまうと、こういったところに落とし穴がありますので、気を付けましょう。


 数検1級の勉強をしている際、「\(~\cos{z}=4~\)となる純虚数\(~z~\)を求めよ。」という問題があり、三角関数の値が\(~1~\)を超えていたため、気になって勉強してみました。

   
 
 


◇参考文献等
・藤本淳夫(2012)『複素解析学概説』,p.29,培風館.