三平方の定理の証明は、紀元前からあらゆる人があらゆる方法で考え出してきました。
この記事では、三平方の定理の証明の中では珍しい、無限を用いた証明方法を、現役数学教員がわかりやすく解説します。
直角三角形を無限に細かくし、最終的に無限等比数列を利用する方法。
この記事を読むことで、数学Ⅲ履修者のみに許されたマイナーな証明を味わうことができます。
- 証明の発案者 John Arioni について
- 無限等比級数を利用した三平方の定理の証明方法
三平方の定理の内容や、三平方の定理の別証についてはこちらから↓↓
John Arioniについて
今回紹介する証明方法は、John Arioni(1948~)が発案したものです。
彼は、スコットランドのへレンズバラに生まれました。
1973年にイタリアのピサ大学物理学科を卒業しています。
ちなみに、ガリレオ・ガリレイもピサ大学出身です。
その後は、電子工学や電気通信を高校で教えたり、ソフトウェア開発をしたりする一方で、数学に魅了され、幾何学模様や数式などの投稿をFacebook上で行っています。
無限等比級数を利用した証明
比の関係式が多く登場します↓↓
$~C=90^{\circ}~,~b > a~$の直角三角形$~ABC~$において、$~C~$から$~AB~$に垂線$~CD=h_1~$を下ろす。
また、その$~D~$から$~AC~$に垂線$~DE=a_1~$を下ろし、$~CE=b_1~$とする。
このとき、各三角形は二角相等より、相似の関係となっている。
$~\triangle DCE~$∽$~\triangle ABC~$より、
\begin{align*} h_1 : c &= b_1 : a \\ b_1 c&=ah_1 \\ b_1&=\frac{a}{c}h_1~~~ \cdots ① \end{align*}
である。
また、$~\triangle ABC~$において、底辺を$~c~$としたときの高さが$~h_1~$なので、面積の関係から
\begin{align*} \frac{1}{2}ch_1&=\frac{1}{2}ab \\ \\ h_1&=\frac{c}{a}b ~~~\cdots ② \end{align*}
がわかる。
$②$を$①$に代入することで、
\begin{align*} b_1&=\frac{a}{c}\cdot \frac{a}{c}b \\ \\ &=\frac{a^2}{c^2}b ~~~~\cdots ③ \end{align*}
が求まる。
次に、$~\triangle DCE~$∽$~\triangle CBD~$より、
\begin{align*} h_1 : a &= a_1 : h_1 \\ a a_1 &=h_1^2 \\ a_1&=\frac{1}{a}h_1^2 \end{align*}
で、ここに$②$を代入することで、
\begin{align*} a_1&=\frac{1}{a}\cdot \frac{a^2}{c^2}b^2 \\ \\ &=\frac{b^2}{c^2}a ~~~~\cdots ④ \end{align*}
が求まる。
今度は、$~E=90^{\circ}~$の直角三角形$~ADE~$に注目する。
$~E~$から$~AD~$に垂線$~EF=h_2~$を下ろす。
また、その$~F~$から$~AE~$に垂線$~FG=a_2~$を下ろし、$~EG=b_2~$とする。
このとき、
\frac{AE}{AD}=\frac{AC}{AB}=\frac{b}{c}~~~~\cdots ⑤
であると同時に、$④$の導出と同様の流れで、以下の式も求まる。
a_2=\frac{AE^2}{AD^2}a_1~~~~\cdots ⑥
$⑤$を$⑥$に代入して、
a_2=\frac{b^2}{c^2}a_1 \cdots ⑦
が成り立つ。
また、$~\triangle FEG~$∽$~\triangle DCE~$より、
\begin{align*} a_2 : a_1 &= b_2 : b_1 \\ a_1 b_2 &=a_2b_1 \\ b_2&=\frac{1}{a_1}a_2b_1 \end{align*}
であり、ここに$⑦$を代入することで、
\begin{align*} b_2&=\frac{1}{a_1}\cdot \frac{b^2}{c^2}a_1 \cdot b_1 \\ \\ &=\frac{b^2}{c^2}b_1 ~~~~\cdots ⑧ \end{align*}
が求まる。
ここまでの作業を繰り返し行い、$~\triangle ABC~$を細かくしていくと、次のような図になる。
このとき、$~b_3~,~b_4~$についても、$⑧$と同じように考えると、
\begin{align*} b_3&=\frac{b^2}{c^2}b_2=\left( \frac{b}{c} \right)^4 b_1 \\ \\ b_4&=\frac{b^2}{c^2}b_3=\left( \frac{b}{c} \right)^6 b_1 \end{align*}
と求まる。
すなわち、
b_n=\left( \frac{b}{c} \right)^{2n-2} b_1
であり、図5より$~b~$は以下のように表せる。
\begin{align*} b&=b_1+b_2+b_3+b_4+\cdots \\ \\ &=b_1+\left( \frac{b}{c} \right)^2 b_1+\left( \frac{b}{c} \right)^4 b_1+\left( \frac{b}{c} \right)^6 b_1+\cdots \\ \\ &=b_1 \left\{ 1+\left( \frac{b}{c} \right)^2 +\left( \frac{b}{c} \right)^4 +\left( \frac{b}{c} \right)^6 +\cdots\right\} \end{align*}
ここで、中かっこの中の式は、初項$~1~$、公比$~\displaystyle 0 < \left( \frac{b}{c} \right)^2 < 1~$の無限等比級数であるため、
\begin{align*}b&=b_1 \cdot \frac{1}{1-\frac{b^2}{c^2}} \\ \\ &=b_1 \cdot \frac{c^2}{c^2-b^2} \end{align*}
となり、$③$をこの式に代入することで、
\begin{align*} b&=\frac{a^2}{c^2}b \cdot \frac{c^2}{c^2-b^2} \\ \\ 1&=\frac{a^2}{c^2-b^2} \\ \\ c^2-b^2&=a^2 \\ \\ c^2&=a^2+b^2 \end{align*}
となるため、三平方の定理は示された。■
垂線によって$~b~$を無限に細かく分け、収束する無限等比数列の形にもっていくという数学Ⅲとのコラボレーションでした。
20世紀後半にもなると、単純な証明方法は出尽くしているため、こんなに複雑な証明になっているのかな?
確かに。でも、世界中でいろいろな人が考えているから、これからもトリッキーな証明がどんどん出てくるかもよ。
◇参考文献等
・「Pythagorean Theorem」,<http://www.cut-the-knot.org/pythagoras/Proof100.shtml> 2019年10月10日アクセス
・「The Puzzlers」,<https://www.primepuzzles.net/thepuzzlers/Arioni.htm>2022年1月5日アクセス
三平方の定理の内容や、三平方の定理の別証についてはこちらから↓↓
コメント
コメント一覧 (3件)
突然のコメントにもかかわらず、
丁寧にご返信をありがとうございます。
参考文献も勉強になりそうです。
偶然たどり着いたFukusukeさんのHPでしたが、
様々なテーマをとても分かりやすく興味深くご紹介されており、
勉強になるとともに、純粋に楽しく拝見させていただいています。
楽しみが一つ増えました。
これからもよろしくお願いいたします。
はじめまして。
等比級数の和による三平方の定理の証明、面白いですね。
実は偶然、その逆、三平方の定理による等比級数の和の導出を見つけました。
同じようなものがないか検索して、このページにたどり着いた次第です。
等比級数の和と三平方の定理について、必要十分の関係が示されたように見えますが、
一部問題もあり、ネットに投稿してアドバイスを求めています。
http://suseum.jp/gq/question/3127
その際に、このページのURLを参考として掲載させていただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。
引用&コメントありがとうございます。
無限が絡んでくるので、必要十分の関係を示すの難しそうですね。
三平方の定理については、参考文献にも書きましたが、下記のサイトにいろいろな証明が載っています。
https://www.cut-the-knot.org/pythagoras/index.shtml
ヒントが見つかれば幸いです。