無限級数$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$の値を調べるときには、まずその級数が収束するか発散するかの判定をしなければなりません。
部分和$~S_n~$を求めて、$~\displaystyle \lim_{n \to \infty}S_n~$を計算する方法が一般的ですが、収束するかどうかの判定だけであれば専用の方法でも可能です。
今回はその収束判定法の1つである「コーシーの収束判定法(冪根判定法)」について、内容と証明を解説します!
4つの使用例や実際の和の挙動から、コーシーの収束判定法のわかりやすく説明しています。
コーシーの収束判定法の内容と例
「コーシーの収束判定法」は、19世紀のフランスの数学者オーギュスタン・ルイ・コーシー(Augustin Louis Cauchy , 1789〜1857)が1821年の『解析学教程』で発表した、級数が収束するかどうかを判定するための方法です。

(出典:Dibner Library of the History of Science and Technology, Public domain, via Wikimedia Commons)
収束判定法といえばダランベールの収束判定法も有名ですが、ダランベールとコーシーはどちらも18世紀生まれのフランスの数学者です。
ただ、ダランベールはフランス革命前の17世紀後半に、コーシーはフランス革命後の18世紀前半に活躍しており、2人に直接的な接点はありません。

コーシーの判定法の内容
コーシーの判定法では、次のように$~n~$乗根を利用します。
正項級数(すべての$~n~$に対し、$~a_n \ge 0~$となる級数)$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$において、
\ell=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{a_n}
としたとき、この級数の収束性は次のように判断できる。
\begin{cases}0 \le \ell < 1 &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は収束する。 \\ 1 < \ell &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は発散する。 \\ \end{cases}
$~n~$乗根を利用することから、「コーシーの冪根判定法」と呼ばれることもあります。
「ダランベールの収束判定法」と同様、$~\ell=1~$のときは、収束することもあれば発散することもあるため、判定できません。
コーシーの判定法の例1
まずは、$~\ell < 1~$となるときの例です。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \left( \frac{n+1}{2n+3} \right)^n~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \left( \frac{n+1}{2n+3} \right)^n~$として、コーシーの収束判定法を使うと、
\begin{align*}\ell&=\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{\left( \frac{n+1}{2n+3} \right)^n} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{n+1}{2n+3} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{1+\frac{1}{n}}{2+\frac{3}{n}} \\ \\ &=\frac{1}{2}~~( < 1 ) \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left( \frac{n+1}{2n+3} \right)^n~$は収束する。
ちなみに、Excelでこの級数を計算し、$~\displaystyle \sum_{k=1}^{n} a_k~$を縦軸、$~n~$を横軸とすると、

となり、$~n=20~$の時点で$~0.755576~$となりました。
コーシーの判定法の例2
次に、$~\ell > 1~$となるときの例です。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)^{n^2}~$の収束性を判定する
$~a_n=\displaystyle \left( 1+\frac{1}{n} \right)^{n^2}~$として、コーシーの収束判定法を使うと、
\begin{align*}\ell&=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{\left( 1+\frac{1}{n} \right)^{n^2}} \\ \\ &=\lim_{n \to \infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)^{n^2 \cdot \frac{1}{n}} \\ \\ &=\lim_{n \to \infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)^n \\ \\ &=e~~( > 1 ) \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)^{n^2}~$は発散する。
Excelで発散の様子をグラフにしてみました。

$~n=10~$あたりから爆発的に大きくなっています。
コーシーの判定法の例3
$~\ell = 1~$となってしまう場合の例です。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{\log{n}}}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{1}{n^{\log{n}}}~$として、コーシーの収束判定法を使うと、
\begin{align*}\ell&=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{\frac{1}{n^{\log{n}}}} \\\\&=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{n^{-\log{n}}} \\\\&=\lim_{n \to \infty}n^{-\frac{\log{n}}{n}} \\ \end{align*}
となる。
ここで指数に注目すると、発散の速さから
\lim_{n \to \infty}\frac{\log{n}}{n}=0
であるため、
\ell=1
となり、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{\log{n}}}~$が収束するかどうかは判定できない。
この級数は、十分大きな$~n~$で、$~\log{n} > 2~$であることを利用すると、
\begin{align*} n^{\log{n}} &> n^2 \\ \\ \frac{1}{n^{\log{n}}} &< \frac{1}{n^2} \end{align*}
となるため、ダランベールの収束判定法より$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}~$が収束することから、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{\log{n}}}~$も収束します。
実際、グラフにしてみると約$~2.238~$に収束します。

コーシーの判定法の例4
最後も、$~\ell = 1~$となるときの例です。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(n+1)^n}{n^{n+1}}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{(n+1)^n}{n^{n+1}}~$として、コーシーの収束判定法を使うと、
\begin{align*}\ell&=\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{\frac{(n+1)^n}{n^{n+1}}} \\ \\&=\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{\frac{(n+1)^n}{n^n \cdot n}} \\ \\ &=\lim_{n \to \infty} \frac{n+1}{n}\cdot \frac{1}{n^{\frac{1}{n}}} \\ \\ &=\lim_{n \to \infty} \frac{1+\frac{1}{n}}{1}\cdot \frac{1}{n^{\frac{1}{n}}} \\ \\ &=1\cdot 1 \\ \\ &=1 \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{(n+1)^n}{n^{n+1}}~$が収束するかどうかは判定できない。
この級数については、
\begin{align*} a_n-\frac{1}{n}&=\frac{(n+1)^n}{n^{n+1}}-\frac{1}{n} \\ \\ &=\frac{(n+1)^n-n^n}{n^{n+1}} \end{align*}
を考えることで、$~(n+1)^n-n^n > 0~$であるため、
\begin{align*} a_n-\frac{1}{n} &> 0 \\ a_n &> \frac{1}{n} \end{align*}
となります。
ここで、ダランベールの収束判定法によって、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}~$が発散することから、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$も発散することがわかります。
実際の発散の様子は、以下の青い曲線の通りです。

非常に緩やかですが発散します。
比較として描いたのが、先ほども使用した調和級数$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}~$(オレンジの曲線)です。
例3、例4からもわかる通り、$~\ell=1~$のときは、収束することもあれば発散することもあり、判定を行うことができません。
コーシーの収束判定法の証明
コーシーの収束判定法の証明は、「ダランベールの収束判定法」の証明と同じ流れで行うことができます。
\ell=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{a_n} < 1
を言い換えると、ある自然数$~N~$が存在して、$~n \ge N~$となるすべての自然数$~n~$について、
0 < \sqrt[n]{a_n} < 1
が成り立つということである。
ここで、$~0 < \sqrt[n]{a_n} < k < 1~$となるような$~k~$をとれば、
0 < a_n < k^n < 1
であり、$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty} k^n~$は収束するため、$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty}a_n~$も収束する。
したがって、
\sum_{n=1}^{\infty}a_n=\underbrace{\sum_{n=1}^{N-1}a_n}_{定数}+\sum_{n=N}^{\infty}a_n
は収束する。$~~~\blacksquare~$
また、$~\displaystyle \ell=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{a_n} > 1~$も同様に考え、
a_n > 1
となり、$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty} 1~$は発散するため、$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty}a_n~$も発散する。
したがって、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$も発散する。$~~~\blacksquare~$
級数の収束や発散を調べるうえでは、比較することの大切さを感じさせてくれる証明方法でした。
まとめ
この記事では、フランスの数学者コーシーが発見した級数の収束判定法について解説してきました。
- $~\ell=\displaystyle \lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{a_n}~$とおき、$~\ell < 1~$なら級数は収束、$~\ell > 1~$なら級数は発散する。
- $~\ell = 1~$なら級数が収束するかが発散するかが判定できないため、別の方法で考える必要がある。
- $~r=\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}~$とおくダランベールの収束判定法と似た使い方であり、同様の方法で証明できる。

$~a_n~$の$~n~$乗根をとる分、限られた級数でしか使えなさそう・・・



ダランベールとの使い分けが必要だね。
コメント
コメント一覧 (4件)
さっそく修正して頂きどうも有り難うございます。おかげで理解することができました。こちらのサイトが一番わかりやすかったです。ダランベールの判定法も楽しみにしています。
x1様
ありがとうございます!
励みになります(^^)/
ダランベールのほうも、今週中を目処に作業いたします!
コーシーの収束判定法について知りたくてこのページに辿り着きました。数式をおそらくLaTexで記述されていると思いますが、うまく変換されていないところが結構たくさんあります。訂正して頂けると有難いです。丁寧に解説して頂いているようなので是非とも数式を読みたいです。よろしくお願いします。
x1様
コメントありがとうございます。
本日作業をして、リライトいたしました。
リンク先のダランベールの判定法は、近日中にLatexを読めるようにリライトしますので、もうしばらくお待ちください。