無限級数$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$の値を調べるときには、まずその級数が収束するか発散するかの判定をしなければなりません。
部分和$~S_n~$を求めて、$~\displaystyle \lim_{n \to \infty}S_n~$を計算する方法が一般的ですが、収束するかどうかの判定だけであれば専用の方法でも可能です。
今回はその収束判定法の1つである「ダランベールの収束判定法」について、内容と証明を解説します!
4つの使用例や実際の和の挙動から、ダランベールの収束判定法のわかりやすく説明しています。
ダランベールの収束判定法の内容と例
「ダランベールの収束判定法」は、18世紀のフランスの数学者ジャン・ル・ロン・ダランベール(Jean Le Rond D’Alembert , 1717~1783)が発表した、級数が収束するかどうかを判定するための方法です。

(出典:Maurice Quentin de La Tour, Public domain, via Wikimedia Commons)
級数判定法はコーシーの収束判定法をはじめ、いくつか存在しますが、その中でもダランベールのものは比較的早い時期に発見されました。(微分積分学の確立が17世紀後半なので、必然と言えます。)

ダランベールの判定法の内容
ダランベールの判定法は、数列の第$~n~$項と第$~n+1~$項を比較することで、級数の収束性を判定します。
正項級数(すべての$~n~$に対し、$~a_n \ge 0~$となる級数)$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$において、
r=\lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}
としたとき、この級数の収束性は次のように判断できる。
\begin{cases}0 \le r < 1 &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は収束する。 \\ 1 < r &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は発散する。 \\ \end{cases}
次の項の方が小さければ収束し、次の項の方が大きければ発散するという直感的な理解のしやすさが特徴の一つです。
$~r=1~$のときは、収束することもあれば発散することもあるため、ダランベールの収束判定法では判定できないので注意しましょう。(「コーシーの収束判定法」も同様です。)
ダランベールの判定法の例1
まずは、$~r<1~$となるときの例です。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^3}{n!}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{n^3}{n!}~$として、ダランベールの収束判定法を使うと、
\begin{align*}r&=\lim_{n \to \infty}\frac{\frac{(n+1)^3}{(n+1)!}}{\frac{n^3}{n!}} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{(n+1)^3\cdot n!}{n^3 \cdot (n+1)!} \\ \\ &=\lim_{n \to \infty}\left( \frac{n+1}{n} \right)^3 \cdot \frac{n!}{(n+1)!} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)^3 \cdot \frac{1}{n+1} \\ \\ &=\left( 1+0 \right)^3 \cdot 0 \\ \\&=0~~( < 1 ) \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^3}{n!}~$は収束する。
ちなみに、この級数を計算すると、
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^3}{n!}=5e
となります。
エクセルで収束の様子を表すと以下の通りです。($~\displaystyle \sum_{k=1}^{n} a_k~$を縦軸、$~n~$を横軸にしています。)

収束値が確かに$~5e \fallingdotseq 13.6~$となっています。
ダランベールの判定法の例2
$~r > 1~$となるときの例です。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^n}{n!}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{n^n}{n!}~$として、ダランベールの収束判定法を使うと、
\begin{align*}r&=\lim_{n \to \infty}\frac{\frac{(n+1)^{n+1}}{(n+1)!}}{\frac{n^n}{n!}} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{(n+1)^{n+1}\cdot n!}{n^n \cdot (n+1)!} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{(n+1)^{n+1}}{n^n}\cdot \frac{n!}{(n+1)!} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{(n+1)\cdot (n+1)^n}{n^n} \cdot \frac{1}{n+1} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\left( \frac{n+1}{n} \right)^n \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)^n \\ \\&=e~~( > 1 ) \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{n^n}{n!}~$は発散する。
$~n^n~$の威力はすさまじく、あっという間に正の無限大($~+\infty~$)に発散します。

ダランベールの判定法の例3
$~r=1~$となるときは、発散することもあれば収束することもあります。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{1}{n}~$として、ダランベールの収束判定法を使うと、
\begin{align*}r&=\lim_{n \to \infty}\frac{\frac{1}{n+1}}{\frac{1}{n}} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{n}{n+1} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{1}{1+\frac{1}{n}}\\ \\&=1 \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}~$が収束するかどうかは判定できない。
この級数は調和級数と呼ばれており、ゆるやかに正の無限大に発散します。

ダランベールの判定法の例4
$~r=1~$で収束するときのパターンも紹介しておきます。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{1}{n^2}~$として、ダランベールの収束判定法を使うと、
\begin{align*}r&=\lim_{n \to \infty}\frac{\frac{1}{(n+1)^2}}{\frac{1}{n^2}} \\ \\&=\lim_{n \to \infty}\frac{n^2}{(n+1)^2} \\ \\&=\lim_{n \to \infty} \left( \frac{n}{n+1} \right)^2 \\ \\&=\lim_{n \to \infty} \left(\frac{1}{1+\frac{1}{n}} \right)^2 \\ \\&=1^2 \\ \\&=1 \end{align*}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}~$が収束するかどうかは判定できない。
この級数は、バーゼル問題として有名で
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}
に収束することが知られており、ヤコブ・ベルヌーイ(Jakob Bernoulli , 1654~1705)やレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler , 1707~1783)といったスイスのバーゼル出身の数学者たちが取り組んだことから、その名前が付いています。
ヤコブが$~2~$より小さいことを示し、オイラーが$~\displaystyle \frac{\pi^2}{6}\fallingdotseq 1.645~$という値を導きました。

(出典:Niklaus Bernoulli (1662-1716), Public domain, via Wikimedia Commons)

(出典:Jakob Emanuel Handmann, Public domain, via Wikimedia Commons)

例3 と 例4 からわかる通り、$~r=1~$のときは、収束することもあれば、発散することもあり、判定を行うことができません。
ダランベールの収束判定法の証明
感覚的な説明
なぜ、ダランベールの収束判定法で$~r < 1~$なら収束すると言えるのでしょうか?
厳密な証明の前に、ざっくりとした感覚的な説明を行なってみます。
$~n \to \infty~$を後で考えることにする。
$~\displaystyle r=\frac{a_{n+1}}{a_n}~$より、漸化式$~a_{n+1}=a_n\cdot r~$に注目すると、$a_n=a_1 \cdot r^{n-1}~$という初項$~a_1~$、公比$~r~$の等比数列を考えていることになる。
この等比数列の和は、
S_n=\sum_{k=1}^{n}a_k= \frac{a_1(1-r^n)}{1-r}
であり、$~|r| < 1~$のときに、$~r^n \xrightarrow[n \to \infty]{} 0~$となるため、
\begin{align*}\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^{n}a_k&= \frac{a_1(1-0)}{1-r} \\ \\\sum_{n=1}^{\infty}a_n&=\frac{a_1}{1-r}\end{align*}
と収束する。
よって、$~ n \to \infty~$における公比$~\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}=r~$が、
\begin{cases} &|r| < 1~(正項級数なら~0 \le r < 1~)を満たすとき、~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は収束する。\\ &|r| > 1~(正項級数なら~1 < r~)を満たすとき、~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は発散する。 \end{cases}
$~n \to \infty~$としたときの公比から考えているので、厳密な証明とは言い難いですが、ダランベールの主張を掴むためには十分な説明ではないかと思います。
厳密な証明
多少難解にはなりますが、厳密に証明していきます。
r=\lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n} < 1
を言い換えると、ある自然数$~N~$が存在して、$~n \ge N~$となるすべての自然数$~n~$について、
0 < \frac{a_{n+1}}{a_n} < 1
が成り立つということである。
ここで、$~0 < \displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n} < k < 1~$となるような$~k~$をとれば、
a_{n+1} < ka_n
であり、この関係式を繰り返し使うと、
a_n < ka_{n-1} < k^2a_{n-2} < \cdots < k^{n-N}a_N
となるため、
\sum_{n=N}^{\infty}a_n < a_N \sum_{n=N}^{\infty}k^{n-N}
である。
$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty}k^{n-N}~$は、$~0 < k < 1~$より収束するため、$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty}a_n~$も収束する。
よって、
\sum_{n=1}^{\infty}a_n=\underbrace{\sum_{n=1}^{N-1}a_n}_{定数}+\sum_{n=N}^{\infty}a_n~~~\cdots①
は収束する。$~~\blacksquare~$
また、$~r=\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n} > 1~$も同様に考え、
\frac{a_{n+1}}{a_n} > k > 1
から、
a_n > k^{n-N}a_N
と表せ、$~n \to \infty~$のときに$~k^{n-N} \to \infty~$となるため、$~\displaystyle \sum_{n=N}^{\infty} a_n~$は発散する。
$①$より、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$は発散する。$~~~\blacksquare~$
同じ方法で、「コーシーの収束判定法」の証明もでき、そちらのほうが簡単です。
まとめ
この記事では、フランスの数学者ダランベールが発見した級数の収束判定法について解説してきました。
- $~r=\lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}~$とおき、$~r < 1~$なら級数は収束、$~r > 1~$なら級数は発散する。
- $~r = 1~$なら級数が収束するかが発散するかが判定できないため、別の方法で考える必要がある。
- $~\ell=\displaystyle \lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{a_n}~$とおくコーシーの収束判定法と似た使い方であり、同様の方法で証明できる。

$~r~$の計算がコーシーより簡単で嬉しい!



その分、ダランベールよりもコーシーのほうがいろいろな級数の収束判定ができるんだ。
参考文献(本の紹介ページにリンクしています)
- 『イラストでサクッと理解 世界を変えた数学史図鑑』,pp164-169.
- 杉浦光夫・清水英男・金子晃・岡本和夫(2014)『基礎数学7 解析演習』,pp.51-55,東京大学出版会.
コメント
コメント一覧 (6件)
Fukuさま
ご回答拝見して、私の疑問を汲んでくださっていることがよくわかりました。
実は、そのアイデアについて私も考えておりました。
ところが、例えば、
k(n)=1-1/n
のようにとった場合、max[k(n)]が存在しません。
したがって、これは元の級数が、「max[k(n)]を定義することができるkの選び方」が可能であるか?
という問題に帰着し、あまり進展がないように思ったのです。いかがお考えでしょうか?
しつこく、何度もすみません。決して急ぎではありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
rad様
コメントありがとうございます。
確かに、k(n)の取り方によっては、上から押さえつける方法も通用しなさそうですね。
『基礎数学7 解析演習』という本のpp51-52に記載されていた証明を、\(~\epsilon~\)を避けつつ、できるだけ噛み砕いて説明したつもりでしたが、
その中で厳密性を欠いてしまったようです。
時間のある時に再考し、記事のリライトをしていきたいと思います。
貴重なご指摘ありがとうございました。
記事の質を上げるべく今後も努力していきたいと思います。
Fukuさま、ご回答ありがとうございます。
自分の疑問点を完全に数学的な言葉で表現することができないのですが、私の気になる点は以下のような点です。ご容赦ください。
特定のnについて、であれば回答にいただいた考え方でkを選ぶことができるのは理解しました。
この関係式をa(n)からa(N)に至るまでの有限な回数使うまでは問題ないと思います。
ここから、N以上の自然数全てで和をとる際に、問題が起きないか?と思っています。
すなわち、最初に選択したkはnとNの選び方に依存していいはずで、k(n,N)となっているのではないか?
有限な範囲で仮定した関係式は、そのまま無限の範囲まで拡張できるのはなぜか?
といった点なのです。うまく伝わっておりますでしょうか?
rad様
コメントありがとうございます。
自分で再度説明することが難しいのですが、なんとなく疑問点が伝わってきました。
\(~k~\)の選び方に違いが出てしまうということですが、もし確実に論を運ぶのであれば、
\(~\displaystyle \max_{n \ge N}k(n,N)=k’ < 1~\)で上から抑えてしまえば問題は起きないかと思います。
この回答でいかがでしょうか?
初めまして。数学を独学しているものです。今回、この記事を参考にさせていただきました。ありがとうございます。
一点質問です。判定法のⅢ厳密な証明において、N以上の任意のnについて、a(n+1)/a(n) < k <1なるkが存在することの根拠はどのように理解したらよいでしょうか?
コメント&質問ありがとうございます。
質問の内容ですが、実数の稠密性ということで良いのではないかと思います。
\(~a < b~\)である実数\(~a~,~b~\)に対し、\(~a < q < b~\)を満たす有理数\(~q~\)が存在する。
これにより、\(~\displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n}~\)と\(~1~\)の間に\(~k~\)が存在することが言えます。
以上の回答でいかがでしょうか?