Ⅰ 2つの判定法とは?
級数とは、無限に続く数列の和で、それがある値に収束するのか、無限大に発散するのかを判定するために考えられたのが「収束判定法」です。
代表的なものとして、次の2つの判定法があります。
正項級数(すべての$~n~$に対し、$~a_n \ge 0~$となる級数)$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$において、
\begin{equation}
r=\lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n}
\end{equation}
としたとき、この級数の収束性は次のように判断できる。
\begin{cases}
0 \le r < 1 &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は収束する。 \\
1 < r &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は発散する。 \\
\end{cases}
この判定法は、18世紀にジャン・ル・ロン・ダランベール(Jean Le Rond D’Alembert)が発表した方法です。
使い方や証明については、「ダランベールの収束判定法」を参考にしてください。
正項級数(すべての$~n~$に対し、$~a_n \ge 0~$となる級数)$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$において、
\begin{equation}
\ell=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{a_n}
\end{equation}
としたとき、この級数の収束性は次のように判断できる。
\begin{cases}
0 \le \ell < 1 &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は収束する。 \\
1 < \ell &のとき、\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~は発散する。 \\
\end{cases}
この判定法は、19世紀にオーギュスタン・ルイ・コーシー(Augustin Louis Cauchy)が発見した方法です。
こちらについても、「コーシーの収束判定法」という記事を参考にしてください。
この2つの判定法、扱う$~a_n~$の形に得手不得手ありますが、
コーシーの収束判定法の方が、ダランベールの収束判定法よりも判定できる級数の幅が広い
ということがわかっています。
コーシーのほうが1世紀分時代が進んでいるため、当然と言えば当然ですね。(写真だとダランベールのほうが新しそうですが・・・)
では、なぜこのような包含関係になるのかを証明していきましょう。
Ⅱ ダランベール$~\Rightarrow~$コーシー
証明したいことは次の命題です。
正項級数(すべての$~n~$に対し、$~a_n \ge 0~$となる級数)$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}a_n~$において、
\begin{cases}
\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n} &< 1 ~~ならば~~\sqrt[n]{a_n} < 1 である。 \\
\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n} &> 1 ~~ならば~~\sqrt[n]{a_n} > 1 である。
\end{cases}
ダランベールの条件式を満たしているなら、コーシーの条件式も満たす。すなわち、コーシーで判定できるということになります。
この命題を証明しましょう。
\begin{equation}
\lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n} < 1
\end{equation}
を言い換えると、ある自然数$~N~$が存在して、$~n \ge N~$となるすべての自然数$~n~$について、
\begin{equation}
0 < \frac{a_{n+1}}{a_n} < 1
\end{equation}
が成り立つということである。
ここで、$~0 < \displaystyle \frac{a_{n+1}}{a_n} < k < 1~$となるような$~k~$をとれば、
\begin{equation}
a_{n+1} < ka_n
\end{equation}
であり、この関係式を繰り返し使うと、
\begin{equation}
a_n < ka_{n-1} < k^2a_{n-2} < \cdots < k^{n-N}a_N
\end{equation}
となるため、
\begin{equation}
\sqrt[n]{a_n} < k^{n-N}a_N=\left( \frac{k^na_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}}=k\left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}}~~~~\cdots ①
\end{equation}
が成り立つ。
ここで、$~0 < k < 1~$より、$~1 < j < \displaystyle \frac{1}{k}~$となるような$~j~$をとると、$~\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}}=1~$より、ある自然数$~M~$が存在して、$~n \ge M \ge N~$となるすべての自然数$~n~$について、
\begin{equation}
\left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}} < j ~~~\cdots ②
\end{equation}
が成り立つ。
したがって、$~n \ge M~$において、$①~,~②$より、
\begin{equation}
\sqrt[n]{a_n} < k\left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}} < jk ~~~\cdots ③
\end{equation}
であり、$~j < \displaystyle \frac{1}{k}~$より、$~jk < 1~$なので、$③$から
\begin{equation}
\sqrt[n]{a_n} < 1
\end{equation}
となることが示された。$~~~\blacksquare~$
また、$~\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{a_{n+1}}{a_n} > 1~$も同様に考え、
\begin{equation}
\frac{a_{n+1}}{a_n} > k > 1
\end{equation}
から、
\begin{equation}
a_n > k^{n-N}a_N
\end{equation}
と表せるため、
\begin{equation}
\sqrt[n]{a_n} > k\left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}}~~~\cdots ④
\end{equation}
が成り立つ。
$~1 < k~$より、$~\displaystyle \frac{1}{k} < j < 1~$となる$~j~$をとると、$~\displaystyle \lim_{n \to \infty} \left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}}=1~$より、
\begin{equation}
\left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}} > j ~~~\cdots ⑤
\end{equation}
となるので、$④~,~⑤$より、
\begin{equation}
\sqrt[n]{a_n} > k\left( \frac{a_N}{k^N} \right)^{\frac{1}{n}} > jk ~~~\cdots ⑥
\end{equation}
であり、$~\displaystyle \frac{1}{k} < j ~$より、$~1 < jk~$なので、$⑥$から
\begin{equation}
\sqrt[n]{a_n} > 1
\end{equation}
となることが示された。$~~~\blacksquare~$
Ⅲ コーシー$~\Rightarrow~$ダランベール
先ほどの命題の逆は成り立つでしょうか?
なんとこちらは成り立ちません。
反例、すなわちコーシーでは判定できるけれど、ダランベールでは判定できない例を1つ挙げてみます。
$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{2+(-1)^n}{2^n}~$の収束性を判定する。
$~a_n=\displaystyle \frac{2+(-1)^n}{2^n}~$として、コーシーの収束判定法を使うと、
\begin{align}
\ell&=\lim_{n \to \infty}\sqrt[n]{\frac{2+(-1)^n}{2^n}} \\
\\
&=\lim_{n \to \infty} \frac{ \{ 2+(-1)^n \}^{\frac{1}{n}}}{2} \\
\end{align}
となる。
ここで、$~1 \le 2+(-1)^n \le 3~$より、$~1^{\frac{1}{n}} \le \{ 2+(-1)^n \}^{\frac{1}{n}} \le 3^{\frac{1}{n}} ~$であり、
\begin{equation}
\lim_{n \to \infty}1^{\frac{1}{n}}=\lim_{n \to \infty}3^{\frac{1}{n}}=1
\end{equation}
から、
\begin{equation}
\lim_{n \to \infty}\{ 2+(-1)^n \}^{\frac{1}{n}}=1
\end{equation}
とわかる。したがって、
\begin{equation}
\ell=\frac{1}{2}~~( < 1)
\end{equation}
となるため、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{2+(-1)^n}{2^n}~$は収束する。
しかし、$~a_n=\displaystyle \frac{2+(-1)^n}{2^n}~$として、ダランベールーの収束判定法を使うと、
\begin{align}
r&=\lim_{n \to \infty}\frac{\frac{2+(-1)^{n+1}}{2^{n+1}}}{\frac{2+(-1)^n}{2^n}} \\
\\
&=\lim_{n \to \infty} \frac{2+(-1)^{n+1}}{2\{ 2+(-1)^n \} } \\
\end{align}
となり、この極限は求められない。
したがって、ダランベールの収束判定法では、$~\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{2+(-1)^n}{2^n}~$が収束するかどうかの判定を行うことができない。
以上のような反例が挙がったため、「コーシー$~\Rightarrow~$ダランベール」というような命題は成り立ちません。つまり、
ダランベールの収束判定法は、コーシーの収束判定法の十分条件である。
と言うことができます。
◇参考文献等
・「微積分学ノート」,<http://www.las.osakafu-u.ac.jp/~yamaguti/jugyo/analysis/biseki_note.pdf> 2020年11月14日アクセス
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