17世紀の数学者ジェームズ・グレゴリーは、逆正接 $~\tan^{-1}x~$ を無限級数で表す式を見いだしました。
この級数を使うと、代入する $~x~$ の値によって円周率 $~\pi~$ を近似できます。
この記事では、グレゴリー級数の公式と証明を確認し、ライプニッツ級数やシャープの計算へつながる円周率の近似方法を見ていきます。
グレゴリー級数とは?
グレゴリー級数は、1671年にスコットランドのジェームズ・グレゴリー(James Gregory , 1638年〜1675年)が発表した級数です。

(出典:作者不明Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons)
グレゴリー級数の定義
グレゴリー級数は、逆正接関数を無限級数として表したものです。
次のような級数をグレゴリー級数という。
\begin{align*}
\tan^{-1}x&=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1}x^{2n+1}\\
&=x-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{5}x^5-\frac{1}{7}x^7+\cdots
\end{align*}逆正接関数$~\tan^{-1}{x}~$が表す値は、「$~\tan{}~$をとったときに、$~x~$になる角の大きさ」です。
\tan^{-1}x=\theta \Longleftrightarrow x=\tan{\theta}~~~(-\pi < \theta < \pi~)ライプニッツ級数との関係
グレゴリー級数に $~x=1~$ を代入すると、ライプニッツ級数になります。
次のような級数をライプニッツ級数という。
\begin{align*}
\frac{\pi}{4}&= \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1} \\
\\
&=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots
\end{align*}そのため、世間的にはグレゴリー級数とライプニッツ級数を同一視して、「グレゴリー・ライプニッツ級数」と呼ばれることもあります。
歴史的には、グレゴリーの方がライプニッツよりも3年早く見つけているものの、ライプニッツはグレゴリーの研究成果を知らずに独自に発表したため、お互いが独立に発見したものとして扱われています。
グレゴリー級数の証明
ライプニッツ級数とほぼ同じ流れで証明をすることができます。
初項 $~1~$ 、公比 $~-t^2(0 \le t <1)~$ の無限等比級数を考えると、|公比|$<1~$ より、次のような関係式が表せる。
\begin{equation*}
\displaystyle 1-t^2+t^4-t^6+\cdots=\frac{1}{1-(-t^2)}=\frac{1}{1+t^2}
\end{equation*}ここで、 $~t:0 \to x~$ について、両辺積分をとると、
\begin{equation*}
\displaystyle \int_{0}^{x}( 1-t^2+t^4-t^6+\cdots)dt=\int_{0}^{x}\frac{1}{1+t^2}dt\,・・(*)
\end{equation*}であり、左辺と右辺それぞれを計算する。左辺について計算していくと、
\begin{align*}
\displaystyle (左辺)&=\int_{0}^{x}( 1-t^2+t^4-t^6+\cdots)dt \\
\\
&=\left[ t-\frac{1}{3}t^3+\frac{1}{5}t^5-\frac{1}{7}t^7+\cdots \right]_{0}^{x} \\
\\
&=x-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{5}x^5-\frac{1}{7}x^7+\cdots
\end{align*}となる。右辺に関しては、 $~t=\tan{\theta}~$ と置換することで、
$~t:0 \to x~$ が $~\theta:0 \to \tan^{-1}x~$ となり、 $~\displaystyle dt=\frac{1}{\cos^{2} \theta}d \theta~$ となるため、
\begin{align*}
\displaystyle (右辺)&=\int_{0}^{x}\frac{1}{1+t^2}dt \\
\\
&=\int_{0}^{\tan^{-1}x}\frac{1}{1+\tan^{2}\theta}\cdot \frac{1}{\cos^{2} \theta}d \theta \\
\\
&=\int_{0}^{\tan^{-1}x} \cos^{2}\theta \cdot \frac{1}{\cos^{2} \theta}d \theta \\
\\
&=\int_{0}^{\tan^{-1}x}d \theta \\
\\
&=[\theta]_{0}^{\tan^{-1}x} \\
\\
&=\tan^{-1}x
\end{align*}と右辺も求まった。
左辺と右辺の計算結果を元の等式$(*)$に代入することで、
\begin{equation*}
\displaystyle x-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{5}x^5-\frac{1}{7}x^7+\cdots=\tan^{-1}x
\end{equation*}となり、グレゴリー級数が示された。 $~\blacksquare$
逆三角関数を使っているため、証明の難易度はライプニッツ級数より上がります・・。
※ $~0 \le x <1~$ という定義域で無限等比級数の和を考えているため、正確には $~x:0 \to 1-\varepsilon~$ で積分を考え、$~\varepsilon \to 0+~$ という極限の操作をしてあげる必要があります。(広義積分)
円周率の近似計算
グレゴリー級数の $~x~$ に、ある値を代入することで円周率の近似計算を行うことができます。
実際に、いくつかの値を代入してみましょう。
ライプニッツ級数(x=1のとき)
グレゴリー級数に$~x=1~$ を代入すると、先述の通りライプニッツ級数となります。
\begin{align*}
(左辺)&=\tan^{-1}1 \\
&=\displaystyle \frac{\pi}{4}\\
\\
(右辺)&=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots
\end{align*}円周率$\pi~$ は、ライプニッツ級数を利用して次のように表せる。
\begin{equation*}
\displaystyle \pi=4\left(1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots \right)
\end{equation*}ライプニッツ級数を使って、計算する右辺の項を増やしながら円周率を算出すると、次のように円周率の値が近似されていきます。
| 計算した右辺の項の数 | 円周率の近似値 |
|---|---|
| 1$\left(\displaystyle \frac{\pi}{4}=1\right) $ | 4 |
| 2$ \left(\displaystyle \frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}\right)$ | 2.66666666 |
| 3$ \left(\displaystyle \frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}\right)$ | 3.46666666 |
| 4$ \left(\displaystyle -\frac{1}{7} \text{の項まで} \right)$ | 2.89523809 |
| 5$ \left(\displaystyle +\frac{1}{9} \text{の項まで} \right)$ | 3.33968254 |
| $~\vdots ~$ | $~\vdots ~$ |
| 10$ \left(\displaystyle -\frac{1}{19} \text{の項まで} \right)$ | 3.04183961 |
| $~\vdots ~$ | $~\vdots ~$ |
| 100$ \left(\displaystyle -\frac{1}{199} \text{の項まで} \right)$ | 3.13159290 |
実際の円周率の値への近づき方をグラフにすると、次のようになります。

シャープの計算(x=1/√3 のとき)
グレゴリー級数に代入するのは、 収束さえすれば$~x=1~$以外でもOKです。
実際に$ \displaystyle x=\frac{1}{\sqrt{3}} $を代入してみましょう。
\begin{align*}
\displaystyle(左辺)&=\tan^{-1}\frac{1}{\sqrt{3}} \\
&=\displaystyle \frac{\pi}{6} \\
\\
(右辺)&=\frac{1}{\sqrt{3}}-\frac{1}{3}\cdot \frac{1}{3\sqrt{3}} +\frac{1}{5}\cdot \frac{1}{9\sqrt{3}}-\cdots \\
\\
&=\frac{\sqrt{3}}{3} \left( 1-\frac{1}{3}\cdot \frac{1}{3}+\frac{1}{5}\cdot \frac{1}{9}-\cdots \right)
\end{align*}円周率$\pi~$ は、次の式で表すことができる。
\begin{equation*}
\displaystyle \pi=2\sqrt{3} \left( 1-\frac{1}{3}\cdot \frac{1}{3}+\frac{1}{5}\cdot \frac{1}{9}-\cdots \right)
\end{equation*}1699年にイングランドのエイブラハム・シャープ(Abraham Sharp , 1653年〜1742年)が円周率を計算するときに用いた式です。

(出典:ウィリアム・カドワース, Public domain, via Wikimedia Commons)
シャープはこの式で小数第72位まで(当時最高の精度)円周率を計算しました。
さらに、1719年にはフランスのトーマス・ラグニーが同様の式で小数第127位まで円周率を計算しています。
先ほどのライプニッツ級数と同様に、右辺の項の数を順々に増やして、円周率の近似値を求めていきます。
各項の計算量が増えているので、一概に比較はできないものの、ライプニッツ級数よりも少ない計算で近似できているのがみて取れます。
| 計算した右辺の項の数 | 円周率の近似値 |
|---|---|
| 1$\left(\displaystyle \frac{\pi}{6}=\frac{\sqrt{3}}{3}\left( 1 \right) \right) $ | 3.46410161 |
| 2$ \left(\displaystyle \frac{\pi}{6}=\frac{\sqrt{3}}{3}\left( 1-\frac{1}{3}\cdot \frac{1}{3} \right) \right) $ | 3.07920143 |
| 3$ \left(\displaystyle \frac{\pi}{6}=\frac{\sqrt{3}}{3}\left( 1-\frac{1}{3}\cdot \frac{1}{3}+\frac{1}{5}\cdot \frac{1}{9} \right) \right) $ | 3.15618147 |
| 4$ \left(\displaystyle -\frac{1}{7}\cdot \frac{1}{27} \text{の項まで} \right)$ | 3.13785289 |
| 5$ \left(\displaystyle +\frac{1}{9}\cdot \frac{1}{81} \text{の項まで} \right)$ | 3.14260474 |
| $~\vdots ~$ | $~\vdots ~$ |
| 10$ \left(\displaystyle -\frac{1}{19}\cdot \frac{1}{3^9} \text{の項まで} \right)$ | 3.14159051 |
| $~\vdots ~$ | $~\vdots ~$ |
| 100$ \left(\displaystyle -\frac{1}{199}\cdot \frac{1}{3^{99}} \text{の項まで} \right)$ | 3.14159265 |
100項目まで計算すると、エクセルでは誤差が表れないほど正確になってきました。グラフにすると、次のようになります。

x=√3のとき(おまけ)
上記の2つは、$~\tan^{-1}x~$ の値が有名角となるように、 $~x~$ の値を決めました。
では、もう一つの有名角を登場させるべく、グレゴリー級数に$ \displaystyle x=\sqrt{3} $を代入したらどうなるのでしょうか?
→実は、級数が収束しないため、値が求まりません。
グレゴリー級数の右辺に$~x=\sqrt{3}~$を代入すると、
\begin{align*}
(右辺)\displaystyle &=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{2n+1}\sqrt{3}^{2n+1}
\end{align*}となります。ここで、ダランベールの収束判定法を使うと、
\begin{align*}
\displaystyle \left| \frac{a_{n+1}}{a_{n}} \right|&=\left| \frac{\frac{(-1)^{n+1}}{2n+3}\sqrt{3}^{2n+3}}{\frac{(-1)^n}{2n+1}\sqrt{3}^{2n+1}} \right|\\
\\
&=\left| (-1)\cdot \frac{2n+1}{2n+3}\cdot 3 \right| \\
\\
&=\left| (-1)\cdot \frac{6n+3}{2n+3} \right| \\
\\
&>1
\end{align*}であるため、この場合のグレゴリー級数は発散します。
代入する値は考えなければいけませんね。
まとめ
- グレゴリー級数は、$~\tan^{-1}x~$ を無限級数として表す公式である。
- $~x=1~$ を代入するとライプニッツ級数となり、円周率 $~\pi~$ の近似に使える。
- $~x=\dfrac{1}{\sqrt{3}}~$ではより速く収束する一方、$~x=\sqrt{3}~$ では級数は収束しない。

シャープの公式だと$~3.14~$が出るまであっという間!



その分、各項の計算が複雑だけど、それを差し引いてもライプニッツ級数よりも手早く円周率が求められるよね。




コメント
コメント一覧 (2件)
グレゴリー級数の証明のとこ
積分後の級数のxの指数が抜けてます
コメントありがとうございます。
修正いたしました!!