数学史2-3 ~エジプトの数学(計算)~

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Ⅰ 今と似ているたし算・ひき算の方法
前記事の「数学史2-2 ~エジプトの数学(数字)~」において、自然数の表し方を紹介しました。
\(~10~\)のベキ乗ごとに異なるヒエログリフ(絵)が用意されていたため、たし算・ひき算は次の方法で行っていました。
- 同じ種類の絵どうしをたすorひく
- 同じ絵が10個揃ったら、1つ大きい位の絵を1つ増やす
今のたし算・ひき算で、上のルールを置き換えてみると、
- 同じ位の数どうしをたすorひく
- 同じ位で10が作れたら、1つ大きい位に+1する
となります。現在のたし算・ひき算の方法と非常に似ていることがわかりますね。
実際に例をいくつか挙げてみましょう。
↑ 確かに同じ種類の絵どうしをたしている(まとめている)だけですね。
↑ ひき算についても同様で、同じ種類の絵どうしをひいています。
↑ 同じ種類の絵が10個そろうと、1つ上の絵にランクアップします。(繰り上がり)
↑ ひくことができない場合、1つ上の絵を分解してひけるようにします。(繰り下がり)
我々と同じ10進法を使っているので、理解がしやすいかと思います。
上の4つの計算式において、\(~+~,~-~,~=~\)といった算術記号は、当然その当時は無かったので注意してください。(それらの記号は16世紀に生まれました。「+や-の由来」や「=の由来」を参照。)
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Ⅱ 独特なかけ算の方法
次に乗法ですが、今でいう筆算のようなものはないため、「2倍法」という独特な計算方法を用いていました。
こちらも例を見てみましょう。(数字は現在のもので表しています)
\(~41\times 23~\)を計算する
まず、\(~41 \times (2~のベキ乗)~\)の式の表を作る。(かける数が\(~23~\)を超える手前まで)
\begin{align}
41 \times 1&=41~~~~~\cdots ① \\
41 \times 2&=82~~~~~\cdots ② \\
41 \times 4&=164~~~~~\cdots ③ \\
41 \times 8&=328~~~~~\cdots ④ \\
41 \times 16&=656~~~~~\cdots ⑤ \\
\end{align}
※\(①\)の答えの\(41\)を2つたし合わせることで、\(②\)の\(~41 \times 2=82~\)が求まる。この繰り返しにより、表を作っていく。
※\(⑤\)の次は、\(~41 \times 32~\)となってしまい、かける数が\(~23~\)を超えてしまうので、\(⑤\)まで表を作ればよい。
次に、\(~23~\)を\(~2~\)のベキ乗の和で表すと、
\begin{equation}
23=16+4+2+1
\end{equation}
なので、\(~①+②+③+⑤~\)より、
\begin{align}
41 \times (1+2+4+16)&=41+82+164+656 \\
41 \times 23&=943
\end{align}
と求まる。
かけ算をたし算に戻して考える中でも、非常に効率的な方法となっています。
もう1つ例を挙げてみましょう。
\(~15\times 10~\)を計算する
まず、\(~15 \times (2~のベキ乗)~\)の式の表を作る。(かける数が\(~15~\)を超える手前まで)
\begin{align}
15 \times 1&=15~~~~~\cdots ① \\
15 \times 2&=30~~~~~\cdots ② \\
15 \times 4&=60~~~~~\cdots ③ \\
15 \times 8&=120~~~~~\cdots ④ \\
\end{align}
次に、\(~10~\)を\(~2~\)のベキ乗の和で表すと、
\begin{equation}
10=8+2
\end{equation}
なので、\(~②+④~\)より、
\begin{align}
15 \times (2+8)&=30+120 \\
15 \times 10&=150
\end{align}
と求まる。
今なら数秒で終わるかけ算でも、古代エジプトでは、それなりの時間と作業を要していることがわかります。
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Ⅲ かけ算と一緒? わり算の方法
現代の算数における式、\(~6\div 2=3~\)の確かめ算が\(~2 \times 3=6~\)であることからもわかるように、かけ算とわり算は深く結びついています。
それは、紀元前のエジプトにおいても同じことで、\(~6 \div 2~\)という割り算を「\(~2~\)を何回かけたら\(~6~\)になるか?」という視点でわり算を行っていました。
実際に、先ほどの例5の逆の計算を考えてみましょう。
\(~943 \div 41~\)を計算する
まず、\(~41 \times (2~のベキ乗)~\)の式の表を作る。(積が\(~943~\)を超える手前まで)
\begin{align}
41 \times 1&=41~~~~~\cdots ① \\
41 \times 2&=82~~~~~\cdots ② \\
41 \times 4&=164~~~~~\cdots ③ \\
41 \times 8&=328~~~~~\cdots ④ \\
41 \times 16&=656~~~~~\cdots ⑤ \\
\end{align}
※\(⑤\)の次は、\(~41 \times 32=1312~\)となってしまい、積が\(~943~\)を超えてしまうので、\(⑤\)まで表を作ればよい。
次に、\(~943~\)から各式の積をひいていくと、
- \(~943-656=287~\)より、\(~41 \times 16~\)がとれる。
- \(~287-328~\)はできないので、\(~41 \times 8~\)はとれない。
- \(~287-164=123~\)より、\(~41 \times 4~\)がとれる。
- \(~123-82=41~\)より、\(~41 \times 2~\)がとれる。
- \(~41-41=0~\)より、\(~41 \times 1~\)がとれる。
となるので、\(~943~\)から\(~41~\)が\(~16+4+2+1=23~\)個とれることになるため、
\begin{equation}
943\div 41=23
\end{equation}
と求まる。
かけ算と同様の2倍表を作ることで、わり算も行えることがわかりました。
かけ算・わり算におけるこの「2倍法」は、アラビア数字(現在の数字)による計算方法が確立する12~13世紀以前、ローマ数字を使った計算でも広く用いられました。
\begin{equation}
\underbrace{DCCCCXXXIII}_{943}
\div \underbrace{XXXXI}_{41}=\underbrace{XXIII}_{23}
\end{equation}
ローマ数字もヒエログリフ同様に計算には不向きだった(上式参照)ため、紀元前からの方法を採用するしかなかったようです。
現在の筆算に比べれば、非効率ではあるものの、アラビア数字がない中で独自のアルゴリズムを確立していた点は驚くべきことですね。
次回の2-4では、わり算でわりきれないときに必要な分数について言及していきます。


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◇参考文献等
・上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.11-12,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.20-21,共立出版.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.17-19,朝倉書店.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.12-13,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.42-43,技術評論社.
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