数学史2-4 ~エジプトの数学(分数)~

 わり算をするうえでは逃れられない分数。その独特の表し方、扱い方を見てみましょう。

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数学史2-5 ~エジプトの数学(パピルスの問題)~
目次

Ⅰ 分子は固定? エジプトの分数

 前回の「数学史2-3 ~エジプトの数学(計算)~」で、エジプト式わり算の方法を紹介しました。
 
 ただ、わり算があったということは、わりきれない場合、すなわち小数や分数が必要となります。
 
 エジプトでは、小数こそ無かったものの、分数は存在しました
 まずはその一例をご覧ください。(ヒエログリフ表記※)
エジプト分数の例

※分数も時を経てヒエラティックに簡略化されていきました。

 $~\displaystyle \frac{1}{n}~$の表し方は、上の図からもわかるように、口型の記号の下に、$~n~$を表す整数を書けばよいのです。(整数の書き方は「数学史2-2 ~エジプトの数学(数字)~」を参照)
 
 では、「口型の記号の下に縦棒2本」でいくつを表すでしょうか?
 
 先ほどの表し方に従えば、$~\displaystyle \frac{1}{2}~$となるはずですが、なんと$~\displaystyle \frac{2}{3}~$を表します。
 すると、「$~\displaystyle \frac{1}{2}~$はどうするの?」という疑問が出てきますが、下の図のような特殊な記号を使います。
 エジプト分数(特殊例)
 不思議ですね・・・。せめて逆なら整合性が一応とれたものの・・・。
 
 次に、$~\displaystyle \frac{2}{5}~$や$~\displaystyle \frac{3}{4}~$などはどう表したのでしょうか?
 
 こちらはありません。
 
 まとめると、エジプトの分数は

 $~\displaystyle \frac{2}{3}~$と単位分数$\displaystyle \left(\frac{1}{n} \right)$のみ存在する。

ということになります。
 
 なぜ$~\displaystyle \frac{2}{3}~$だけが特別扱いされていたかはわかっていませんが、$~\displaystyle \frac{2}{5}~$や$~\displaystyle \frac{3}{4}~$のような分数が無かった理由は次の章で解明します。


Ⅱ すべての分数は単位分数の和で表せる?

 $~2 \div 5~$の計算結果、すなわち$~\displaystyle \frac{2}{5}~$に関しては、次のように表されました。
エジプトの2÷5の商
 それぞれ$~\displaystyle \frac{1}{3}~$と$~\displaystyle \frac{1}{15}~$を表す分数、つまり、
\begin{equation}
\frac{2}{5}=\frac{1}{3}+\frac{1}{15}
\end{equation}
ということです。
 
 このように、分子が$~1~$ではない分数は、単位分数の和で表されました。
 
 実際、すべての分数は単位分数の和として表すことができます。(証明は「単位分数分解(証明編)」より)
 
 リンド・パピルス(下図)には、$~\displaystyle \frac{2}{n}~$($~n~$は$~5~$から$~101~$までの奇数)の単位分数分解の表が載っていました。

出典:Paul James Cowie (Pjamescowie) / Public domain
リンド・パピルスの単位分数分解表(抜粋)

\begin{align}
\frac{2}{5}&=\frac{1}{3}+\frac{1}{15}\\
\\
\frac{2}{7}&=\frac{1}{4}+\frac{1}{28} \\
\\
\frac{2}{9}&=\frac{1}{6}+\frac{1}{18} \\
\\
\frac{2}{11}&=\frac{1}{6}+\frac{1}{66} \\
\\
\frac{2}{13}&=\frac{1}{8}+\frac{1}{52}+\frac{1}{104} \\
\\
\frac{2}{15}&=\frac{1}{10}+\frac{1}{30} \\
\\
\frac{2}{17}&=\frac{1}{12}+\frac{1}{51}+\frac{1}{68} \\
\\
\frac{2}{19}&=\frac{1}{12}+\frac{1}{76}+\frac{1}{114} \\
&~~~~~~~~~\vdots \\
&~~~~~~~~~\vdots \\
\\
\frac{2}{101}&=\frac{1}{101}+\frac{1}{202}+\frac{1}{303}+\frac{1}{606} \\
\end{align}

 なぜ分子が$~2~$で固定されているかというと、日常の計算の中で$~\displaystyle \frac{2}{n}~$の分解がよく登場したり、「数学史2-3 ~エジプトの数学(計算)~」で出てきたかけ算・わり算は「2倍法」を用いていたりすることが理由と推測されます。
 
 また、単位分数に分解する方法は一通りではなく、
\begin{equation}
\frac{2}{5}=\frac{1}{4}+\frac{1}{7}+\frac{1}{140}
\end{equation}
などと表すこともできます。(詳しくは「単位分数分解(方法編)」より)
 
 ただ、多数の方法がある中で、リンド・パピルスに載っているような解法が好まれた理由についてはわかっておりません。


Ⅲ 単位分数の利点

 分数を単位分数の和として表すことのメリットについて考察するため、リンド・パピルスの問6について考えてみましょう。

リンド・パピルス 問6

 $~9~$個のパンを$~10~$人で分ける方法は?

 今の我々であれば、$~9 \div 10 =\displaystyle \frac{9}{10}~$という計算から、一人あたり$~\displaystyle \frac{9}{10}~$個のパンに分けられるという答えを出しますが、これは分け方として現実的ではありません
 
 なぜなら、下図のようになってしまうからです。

 全員が$~\displaystyle \frac{9}{10}~$個のパンをもらっていることに変わりはないのですが、一人だけ他の9人のパンの余りをもらっています。さすがに不公平でしょう。
 
 そこで、「単位分数分解(方法編)」にならって、$~\displaystyle \frac{9}{10}~$をエジプトの分数表記にしてみましょう。
 
 まずは、$~\displaystyle \frac{9}{10}~$から一番大きな単位分数をとると、
\begin{equation}
\frac{9}{10}=\frac{1}{2}+\frac{2}{5}~~~~\cdots ①
\end{equation}
であり、次に$~\displaystyle \frac{2}{5}~$をリンド・パピルスの単位分数分解表(抜粋)に従って分解すると、
\begin{equation}
\frac{2}{5}=\frac{1}{3}+\frac{1}{15}~~~~\cdots ②
\end{equation}
となりますね。
 
 よって、$②$を$①$に代入して、
\begin{equation}
\frac{9}{10}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{15}
\end{equation}
が成り立つので、一人あたり$~\displaystyle \frac{9}{10}~$のパンを得るためには、$~\displaystyle \frac{1}{2}~$のパンと$~\displaystyle \frac{1}{3}~$のパンと$~\displaystyle \frac{1}{15}~$のパンを組み合わせればいいことがわかります。

 確かに形まで平等に分けることができましたね。
 この「分けやすい」という実用的な点に単位分数の強みがあるのです。
 
 しかし、この実用的な側面を重視したがために生じた計算の不便さは、エジプト数学の発展の妨げともなっていました。


単位分数、考え方によっては便利なのでは??
ふくすけ汗
計算上は超不便だったんだ。リンド・パピルスには、
 「$~\displaystyle \frac{1}{16}+\frac{1}{112}~$と$~\displaystyle 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}~$の積を求めなさい」という問題もあったよ。
 
 今で言えば、$~\displaystyle \frac{1}{14}~$と$~\displaystyle \frac{7}{4}~$の積のことだね。
確かに面倒だにゃ・・・。
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◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.13-15,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.21-25,共立出版.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.20-24,朝倉書店.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.10-13,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.44-49,技術評論社.

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