数学史2-5 ~エジプトの数学(パピルスの問題)~

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Ⅰ 方程式の問題
実用的な面を重んじたエジプト数学でしたが、リンド・パピルスには単なる計算問題も存在しました。その中の1つが、リンド・パピルスの問26です。
アハとアハの\(~\displaystyle \frac{1}{4}~\)の和が\(~15~\)であるとき、アハの値を求めよ。
ここで「アハ」というのは、「量」を意味する言葉であり、今でいう\(~x~\)に値します。
このように方程式を使う問題は、文頭に「アハ」がくるため、「アハ問題」と呼ばれます。
この問題の解法を、現代の記述方法で示します。
「アハ」を\(~x~\)とすると、
\begin{equation}
x+\frac{1}{4}x=15
\end{equation}
と表せる。
\(~x=4~\)と仮定する
このとき、
\begin{equation}
4+\frac{1}{4}\times 4=5 ~~~\cdots ①
\end{equation}
なので、右辺を\(~15~\)にするためには、両辺\(~15 \div 5=3~\)倍すればよい。
したがって、\(①\)の両辺を\(~3~\)倍すると、
\begin{equation}
4 \times 3 +\frac{1}{4}\times 4 \times 3=15
\end{equation}
なので、\(~x=4\times 3~\)、すなわち「アハ」は\(~12~\)とわかる。
このように、\(~x~\)に何か適当な数を代入し、そこから得られた値と得たい値の比例関係から\(~x~\)を求めます。
この方法を「仮置法」といい、リンド・パピルスの中には「仮置法」で解く問題が他にもあります。
アハとアハの\(~\displaystyle \frac{1}{7}~\)の和が\(~19~\)であるとき、アハの値を求めよ。
アハとアハの\(~\displaystyle \frac{2}{3}~\)、アハの\(~\displaystyle \frac{1}{2}~\)、アハの\(~\displaystyle \frac{1}{7}~\)を合計すると\(~33~\)であるとき、アハの値を求めよ。
問24は、今の分数の答え方なら\(~x=\displaystyle \frac{133}{8}~\)となりますが、当時は「単位分数の和」で表していたため、
\begin{equation}
16+\frac{1}{2}+\frac{1}{8}
\end{equation}
が当時の正答です。
同様に、問31は、\(~x=\displaystyle \frac{1386}{97}~\)。単位分数の和の形にすると、
\begin{equation}
14+\frac{1}{4}+\frac{1}{56}+\frac{1}{97}+\frac{1}{194}+\frac{1}{388}+\frac{1}{679}+\frac{1}{776}
\end{equation}
\begin{align}
&14+\frac{1}{4}+\frac{1}{56}+\frac{1}{97}+\frac{1}{194} \\
&~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~+\frac{1}{388}+\frac{1}{679}+\frac{1}{776}
\end{align}
となります。
この表し方に加え、実際のかけ算やわり算は、「2倍法」で計算したため、計算量が膨大であったことは言うまでもありません。
しかし、リンド・パピルスの書記アーメスは、求まった「アハ」を代入し、本当に成り立っているか検算しています。
検算は証明の第一歩であると同時に、どんな複雑な問題も仮置法によって解けるという自信が表されていると言えるでしょう。
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Ⅱ 比例の問題
アハ問題の中でも、比例の考え方は出てきましたが、純粋な比例の問題もありました。
\(~20~\)ペフスのパン\(~155~\)斤をつくることができる量の小麦粉を使うと、\(~30~\)ペフスのパンは何斤できる?
※ペフスはパンの強さの逆数を表すエジプトの単位量。
実生活に基づいた問題内容にもなっていますね。
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Ⅲ 数列の問題
ちょっとした数遊びのなぞなぞのようなものと考えられている問題です。
\(~7~\)つの家があります。
それぞれの家には、\(~7~\)匹のネコがいます。
それぞれのネコは、\(~7~\)匹のネズミをつかまえます。
それぞれのネズミは、\(~7~\)穂のスペルト小麦を食べます。
それぞれのスペルト小麦の穂は、\(~7~\)ヘカトの麦を生み出します。
これらを全部合わせるといくつになりますか?
※スペルト小麦は、現在の小麦の原種にあたる穀物。
※ヘカトは、体積を表すエジプトの単位。
こちらの答えは、
\begin{equation}
7+7^2+7^3+7^4+7^5=19607
\end{equation}
という等比数列の和となっています。
同様に、等差数列の問題もリンド・パピルスの中にはあったようです。
Ⅳ 円の問題
当時の円周率の近似値がわかる問題です。
直径\(~9~\)の円形の土地がある。面積はいくつ?
この問題の答えは\(~64~\)と記載されています。
このことから、円周率\(~\pi~\)について、
\begin{align}
\left(\frac{9}{2}\right)^2\pi&=64 \\
\\
\frac{81}{4}\pi&=64 \\
\\
\pi&=\frac{256}{81}\fallingdotseq 3.1604
\end{align}
という値を得ていたことがわかります。
また、他の円柱の体積を求めるような問題では、\(~\pi=3+\frac{1}{6}\fallingdotseq 3.1666~\)として計算されています。
Ⅴ 体積の問題
最後はモスクワ・パピルスから、四角錐台の体積に関する問題です。
高さ\(~6~\)キュービット、底辺\(~4~\)キュービット、頂辺が\(~2~\)キュービットの頂上が平らなピラミッドの体積はいくつ?
※キュービットはエジプトの長さの単位。
この問題を図にすると、下のようになります。
今で言う四角錐台ですが、この体積の解法が次のように書かれています。
君は\(~4~\)を平方する、結果は\(~16~\)。
君は\(~4~\)を\(~2~\)倍する、結果は\(~8~\)。
君は\(~2~\)を平方する、結果は\(~4~\)。
君は\(~16~\)と\(~8~\)と\(~4~\)を加える、結果は\(~28~\)。
君は\(~6~\)の\(~\displaystyle \frac{1}{3}~\)をとる、結果は\(~2~\)。
君は\(~28~\)を\(~2~\)回とり、結果は\(~56~\)。
これらを数式でまとめると、
\begin{equation}
(4^2+4\times 2+2^2)\times 6 \times \frac{1}{3}=56
\end{equation}
であり、底面と頂面の正方形の一辺をそれぞれ\(~a~,~b~\)、高さを\(~h~\)としたときの四角錐台の体積が
\begin{equation}
\frac{h}{3}(a^2+ab+b^2)
\end{equation}
で求まることを知っていた証拠になっています。
この式で、\(~b=0~\)(頂面なし)とすれば、実際のピラミッドの体積も求めることができ、建設時に利用していたのではないかと推測されています。
ただ、どのようにこの公式が導かれたのかは明らかになっていません。


次はメソポタミア文明の数学を見てみよう。
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◇参考文献等
・上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.18-28,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.25-37,共立出版.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.22-123,朝倉書店.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.13-18,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,p.50,技術評論社.
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