数表を駆使して多様な計算を行っていたバビロニアの数学。
その計算力は高く、1文字の一次方程式は当たり前のように解いていました。
また、2文字の連立方程式についても、現在の加減法や代入法とは全く異なる方法で解いています。
この記事では、古代エジプトの「仮置法」と非常に似ている、バビロニアの連立方程式の解法を解説。
バビロニアの粘土板に残っている問題を実際に解いてみましょう。
- 1文字の一次方程式に関する粘土板からわかる、バビロニアの数学力の高さ
- 解を仮定する連立方程式の解き方
時代 | B.C.1750年頃 |
場所 | バビロニア(メソポタミア) |
バビロニアの一元一次方程式
$~3x-2=x+4~$のように、式変形すると$~ax=b~$の形になる方程式を一元一次方程式と言います。
バビロニアでは、この形の方程式は当然のように解かれていました。
YBC4652の問題
実際に出土した粘土板の中から、方程式に関する問題を見てみましょう。
例として挙げるのは、ニューヘブンのイェール大学にある粘土板(YBC:Yale Babylonian Collection)4652番です。
私は石を見つけたが、その重さは量らなかった。七分の一と(その合計の)十一分の一を足してから測ると、$~1~$ミナあった。もともとの石の重さはいくらか?
※ミナは約$~430~$gに相当する古代ギリシアの重量の単位。また、$~1~$ミナ=$~60~$ジン。
この問題を現代数学を使って考えると、石の重さを$~x~$として
\begin{equation*} \left( x+\frac{1}{7}x \right)+\frac{1}{11}\left( x+\frac{1}{7}x\right)=60 \end{equation*}
となり、確かに一元一次方程式の問題になっています。
一元一次方程式は解けて当たり前
この粘土板YBC4652には、解法が載っていませんでした。
問題文の後に、
答:$~48;7,30~$ジン
とだけ書かれており、解法を残すまでの問題ではなかったと考えられています。
そのため、解き方は定かではありませんが、他の粘土板の記述から、移項をはじめとする等式変形の知識があったことがわかるため、今と変わらない方法で解いていたようです。
エジプトでは「アハ」という言葉で表していましたが、バビロニアでは未知数をどんな言葉で表していたのでしょうか?
バビロニアでは、「重さ」や「長さ」を意味する楔形文字を、未知数として表記していました。
バビロニアの連立方程式
$~x~,~y~$2文字の連立方程式に関しては、粘土板に解法が詳しく載っていました。
VAT8389の問題
連立方程式の問題例1つ目は、ベルリンの国立博物館にある粘土板(VAT)8389番です。
二つの農地のうち一つはサルあたり$~\displaystyle \frac{2}{3}~$シラの作物を産し、もう一つはサルあたり$~\displaystyle \frac{1}{2}~$シラの作物を産する。第一の農地の作物は第二の農地よりも$~500~$シラ多い。二つの農地の面積を合わせると$~1800~$サルである。
それぞれの農地はどれくらいの面積か?
※ $~1~$サルは約$~36\mathrm{m}^2~$に値する面積の単位。$~1~$シラは約$~0.85\mathrm{L}~$に値する容積の単位。
この問題についても、現代数学の記法で表すと、二つの農地の面積を$~x~,~y~$として、
\begin{cases} &\displaystyle \frac{2}{3}x-\frac{1}{2}y=500~~~\cdots ① \\ &x+y=1800~~~\cdots ② \end{cases}
と表すことができ、連立方程式の問題であることがわかります。
連立方程式を「仮置法」で解いた
粘土板VAT8389では、登場する連立方程式をエジプトの「仮置法」のような解法で解いています。
\begin{cases} &\displaystyle \frac{2}{3}x-\frac{1}{2}y=500~~~\cdots ① \\ &x+y=1800~~~\cdots ② \end{cases}
$②$より、$~x=900~,~y=900~$と仮定する。
$①$の左辺に代入すると、
\frac{2}{3}\cdot 900-\frac{1}{2}\cdot 900=150
で、$①$の右辺との差は$~350~$である。
ここで、$~x~$を$~1~$増やし、$~y~$を$~1~$減らすことを考えると、
\frac{2}{3}\cdot 1+\frac{1}{2}\cdot 1=\frac{7}{6}
なので、$~350~$の差を縮めるためには
350 \div \frac{7}{6}=300
より、$~x~$を$~300~$増やし、$~y~$を$~300~$減らせばよい。
したがって、
\begin{cases}&x=900+300=1200 \\&y=900-300=600\end{cases}
と求まる。
$~x~$と$~y~$の値を仮定したうえで、単位量を使って微調整するという方法で解いていました。
連立方程式をこのように機械的に解く方法を見つけていたことから、バビロニアはエジプトよりも代数的に優れていたと言えるでしょう。
「加減法」も使われた
別の粘土板には、次のような連立方程式の問題と解法が載っていました。
\begin{cases} \displaystyle \frac{1}{4}幅+長さ&=7掌幅 ~~~\cdots ③\\ \\ 長さ+幅&=10掌幅 ~~~\cdots ④ \end{cases}
上の式を$~4~$倍することで、
\begin{cases} 幅+4長さ&=28掌幅 \\ \\ 長さ+幅&=10掌幅 \end{cases}
となり、$③$から$④$を引くことで、
\begin{align*} 3長さ&=18掌幅 \\ 長さ&=6掌幅 \\ \end{align*}
と求まる。
また、$~1掌幅=5指幅~$と変換すると、$~長さ=30指幅~$なので、$~②~$に代入し、
\begin{align*} 30指幅+幅&=50指幅 \\ 幅&=20指幅 \end{align*}
と求まる。
この連立方程式は、以上のような加減法で解いていました。
解き方を複数持っていたことも、バビロニアの数学力の高さを物語っています。
まとめ・参考文献
バビロニアにおける連立方程式の解法について解説してきました。
- 1文字の一次方程式は当たり前のように解いていた
- 連立方程式では、解を仮定して調整する方法で解いていた
- 連立方程式では、現代と変わらない「加減法」も使うことができた
次の記事では、高度な解法が求められる二次方程式について解説します。
$~x~$や$~y~$の代わりに言葉で表記するって、非常に見づらい‥‥。
しかも、実際は全て楔形文字だったから、見間違いも多そうだよね。
参考文献(本の紹介ページにリンクしています)
- 『カッツ 数学の歴史』,pp.20-21
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰ』,pp.28-29
- 『数学史 数学5000年の歩み』,pp.53-55
- 『数学の流れ30講(上)』,pp.7-13
- 『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.18-20
- 『ずかん 数字』,pp.52-57
コメント