数学史3-5 ~バビロニアの数学(一次方程式)~

 バビロニアは代数分野において、エジプトを凌ぐ発展を遂げました。この記事では、その中でも一次方程式の解法について解説します。

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目次

Ⅰ 一元一次方程式について

 $~3x-2=x+4~$のように、式変形すると$~ax=b~$の形になる方程式を一元一次方程式と言いますが、バビロニアでは至極当然のように解かれていたようです。
 
 というのも、出土した粘土板の中にその解き方は載っていなく、問題と解のみで済まされていました。
 例として、ニューヘブンのイェール大学にある粘土板(YBC:Yale Babylonian Collection)4652を見てみましょう。

YBC4652

 私は石を見つけたが、その重さは量らなかった。七分の一と(その合計の)十一分の一を足してから測ると、$~1~$ミナあった。もともとの石の重さはいくらか?


答:$~48;7,30~$ジン

 $~1~$ミナは約$~430~$gに値する古代ギリシアの重量の単位。また、$~1~$ミナ=$~60~$ジン。

 ちなみにこれを今風に、石の重さを$~x~$として方程式を作ると、
\begin{equation}
\left( x+\frac{1}{7}x \right)+\frac{1}{11}\left( x+\frac{1}{7}x\right)=60
\end{equation}
となり、確かに一元一次方程式の問題になっています。
 
 当時は$~x~$の代わりに、「重さ」「長さ」等の文字を未知数として使っていました。
 
 肝心の解き方は定かではありませんが、他の粘土板の記述から、移項をはじめとする等式変形の知識があったことがわかるため、今と変わらない方法で解いていたと考えられています。

Ⅱ 連立方程式の解法

 $~x~,~y~$2文字の連立方程式の解き方は、粘土板に詳しく記されていました。
 例として、ベルリンの国立博物館にある粘土板(VAT)8389の問題を見てみましょう。

VAT8389の問題

 二つの農地のうち一つはサル当たり$~\displaystyle \frac{2}{3}~$シラの作物を産し、もう一つはサル当たり$~\displaystyle \frac{1}{2}~$シラの作物を産する。第一の農地の作物は第二の農地よりも$~500~$シラ多い。二つの農地の面積を合わせると$~1800~$サルである。それぞれの農地はどれくらいの面積か?

 $~1~$サルは約$~36\mathrm{m}^2~$に値する面積の単位。
 $~1~$シラは約$~0.85\mathrm{L}~$に値する容積の単位。

 二つの農地の面積を$~x~,~y~$として、現在の記法で式を立てると、
\begin{cases}
&\displaystyle \frac{2}{3}x-\frac{1}{2}y=500~~~\cdots ① \\
&x+y=1800~~~\cdots ②
\end{cases}
となります。
 
 現在であれば、$①$の式を$~6~$倍、$②$の式を$~3~$倍して$~y~$を消去する方法で解きますが、この粘土板上では、エジプトの「仮置法」のような解法を使って解いています。

VAT8389の解法

 $②$より、$~x=900~,~y=900~$と仮定する。
 
 $①$の左辺に代入すると、
\begin{equation}
\frac{2}{3}\cdot 900-\frac{1}{2}\cdot 900=150
\end{equation}
で、$①$の右辺との差は$~350~$である。
 
 ここで、$~x~$を$~1~$増やし、$~y~$を$~1~$減らすことを考えると、
\begin{equation}
\frac{2}{3}\cdot 1+\frac{1}{2}\cdot 1=\frac{7}{6}
\end{equation}
なので、$~350~$の差を縮めるためには
\begin{equation}
350 \div \frac{7}{6}=300
\end{equation}
より、$~x~$を$~300~$増やし、$~y~$を$~300~$減らせばよい。
 よって、
\begin{cases}
&x=900+300=1200 \\
&y=900-300=600
\end{cases}
と求まる。

 $~x~$と$~y~$の値を仮定したうえで、単位量を使って微調整するという理にかなった方法でした。
 
 連立方程式をこのように機械的に解く方法を見つけていたことは、エジプトよりも代数的に優れていると言えるでしょう。


 実際は$~60~$進法の楔形文字で書かれていたと考えると、気が滅入りそうだにゃ。
ふくすけ笑顔
当時のバビロニア人はそれに慣れていたから、そこについては抵抗無かったんじゃないかな?
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◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.20-21,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.53-55,共立出版.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.7-13,朝倉書店.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.28-29,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.52-57,技術評論社.
・アダム・ハート=デイヴィス(2020)『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.18-20,創元社.
・「室井和男新著『シュメール人の数学』について」,<https://www2.tsuda.ac.jp/suukeiken/math/suugakushi/sympo28/28_nakamura.pdf > 2021年1月28日アクセス
・「[バビロンの家畜] ハンムラビ法典13(241条~267条)」,<http://kouyaakiyosi.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/13241267-7605.html> 2021年1月28日アクセス

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