紀元前5~4世紀の古代ギリシャの哲学者かつ数学者で、ピタゴラス学派に属したアルキュタス。
当時のアテネでは、流行していた疫病を止めるために立方体倍積問題を解くことが求められていました。
アルキュタスは、立方体倍積問題の解を見つけようとしたことでや数学の発展に大きく寄与したとされています。
この記事では、アルキュタスの功績として特に注目される2の3乗根を立体的に作図した方法の概要、および発明家の顔も持っていたアルキュタスの生涯について解説します。
時代 | 紀元前428年頃~紀元前360年頃 |
場所 | ギリシャ |
アルキュタスの生涯
アルキュタス(Archytas , B.C.428頃~B.C.360頃)は、古代ギリシャのソフィスト(哲学者)かつ数学者で、ピタゴラス学派の伝統を引き継いだ人物でした。
アルキュタスの年譜
アルキュタスは多才な人物で、哲学や数学以外にも政治学や工学にも長けていました。
ただ、彼がいつ頃各分野で功績を残したのかまでは情報がありません。
ギリシャのタレンテ(ターレントゥム、ターラント)で生まれた
彼が生まれた南イタリアの地域一帯は、マグナ・グラエキアとも呼ばれている。
タレンテの将軍を7年間務めた
彼が軍隊を指揮したときに敗れたことは一度もない。
プラトンと交流した
プラトンとマグナ・グラエキア滞在中に知り合い、彼に数学の重要性を教えた。
また、プラトンがシラクサの僭主に殺されそうになったときに、書面を送って彼の命を救った。
死亡
タレンテまたはアドリア海にて生涯を閉じた。
アルキュタスの活動場所
アルキュタスが生まれ、主に活動したのは現在のイタリア南部に位置するタレンテです。
この地では、ギリシャ本土との交流もあり、哲学や数学の研究で多くの時間を過ごしました。
彼の没地については2つの説があり、生涯タレンテで過ごし静かな晩年を迎えたという説と、船での旅行中に不慮の事故でアドリア海に沈んでしまったという説です。
後者の説に関しては、溺死体が砂浜に打ち上げられたものの、1人の水夫が見つけるまでは放置され続けるという悲惨な最期だったことも付随します。
アルキュタスの功績:2の3乗根を立体的に作図した
アルキュタスの数学的な功績は、立方体倍積問題の研究にあります。
1つの立方体の$~2~$倍の体積をもつ立方体を作図しなさい。
当時のアテネでは、神のお告げにより、立方体倍積問題を解くことで疫病が収束すると言われていたため、他の三大作図問題よりも解決が急務でした。
アルキュタスの作図方法
アルキュタスは、円柱や円錐、特殊なトーラス(ドーナツ型)を利用して、3次元の大胆な作図を行いました。
完成図は、以下のようなものになります。
具体的な作図方法については別記事で解説をしますが、この図において、
AC:AP=AP:AM=AM:AB
が成り立ち、$~AB=1~,~AC=2~$としたとき、
2:AP=AP:AM=AM:1
となるため、ヒポクラテスが導いた$~\sqrt[3]{2}~$の比の表し方に一致します。
これにより、$~2~$の3乗根の長さ$~AM~$が作図できたことになるのです。
立体の作図はルール違反
一見すると解決したかのように思えますが、数学における作図のルールに不適合でした。
今と変わらない、当時のギリシャにおける作図のルールは以下の通りです。
数学における作図は以下の条件のもとで行われる。
- 目盛りのない定規(定木)とコンパスのみを使って行う
- 平面上で行う
- 有限回の操作で完結する
アルキュタスの作図方法の手順の中には、三角形を回転させて円錐面を作るなどの定木やコンパスでかけない立体的な作図が含まれているため、作図のルールに違反しています。
しかし、アルキュタスの革新的な方法によって、ヒポクラテスによる$~\sqrt[3]{2}~$の比が現実的に表せることがわかり、その後の数学者たちを鼓舞しました。
アルキュタスのエピソード:プラトンの命を救った発明家
アルキュタスは数学的な原理で動く機械学の論文を書いた最初の人と言われています。
それだけでなく、政治家としての影響力がプラトンの命を救うことにも役立ちました。
アルキュタスが発明した2つ
発明家としてのアルキュタスは、赤ちゃんの「ガラガラ」と機械仕掛けの鳥を発明したと言われています。
アルキュタスのガラガラについては、アリストテレスが以下のようにコメントを残しています。
子どもたちにそれ(ガラガラ)を与えて遊ばせ、家のまわりのものを壊さぬようにする
After Lysippos, Public domain, via Wikimedia Commons
また、機械仕掛けの鳥は実際に空中を飛んだようで、古代ギリシャにおける最初の自動機械の一つと考えられています。
プラトンの命を救った
アカデメイアを創設し、古代ギリシャ末期の数学者たちを育成した哲学者プラトン。
アルキュタスはプラトンに数学の重要性を教授するなどの関わりがありました。
同年代でもある2人の間の友好関係から、プラトンがシラクサの僭主(非合法な独裁的支配者)ディオニュシオスに殺されそうになったとき、アルキュタスは書面を送って助けたと言われています。
アルキュタスの政治的な影響力が垣間見えるエピソードですね。
まとめ
アルキュタスは、立方体倍積問題に対する革新的な解決法を提案しただけでなく、発明家としても多くの功績を残した数学者です。
彼の作図方法は、数学における厳密なルールを超えた発想の重要性を示しており、その発明は古代ギリシャ技術の進歩を象徴しています。
- 立方体倍積問題を立体的に作図した。
- 赤ちゃんのガラガラや機械によって羽ばたく鳥を開発した。
赤ちゃんの遊び道具の起源が古代ギリシャにあったなんて!
哲学、数学、工学、さらには政治学まで‥‥。
この時代の人たちは多才だよね。
参考文献(本の紹介ページにリンクしています)
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰ』,pp.67-69
- 『世界数学者事典』,p.23
- T・L・ヒース著,平田寛・菊池俊彦・大沼正則訳(2009)『復刻版 ギリシア数学史』,pp109-129
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