象形文字を使っていたエジプト文明。
数字についても例外ではなく、数に関連する物を基にした絵文字が使われていました。
この記事では、全7種類の数字の読み方や由来、さらにはどのように数を表していたのかを解説しています。
- 10進法に基づいて、7種類のヒエログリフ(象形文字)が使われた。
- 大きな数を表す場合は、数字をたくさん書く必要がある。
- エジプト文明の役人は、ヒエログリフとヒエラティックを使い分けた。
時代 | B.C.4000年代後半~B.C.1650年頃 |
場所 | エジプト |
エジプト文明で使われた象形文字
エジプトでは、紀元前4000年頃から象形文字が使われ始め、時代を経るにつれて次の3つに分かれました。
- ヒエログリフ(神聖文字、聖刻文字) 紀元前4000年頃~紀元前600年頃
- ヒエラティック(神官文字) 紀元前3000年頃~紀元前600年頃
- デモティック(民衆文字) 紀元前660年頃~紀元後5世紀頃
ヒエログリフとヒエラティックは役人のための文字
ヒエログリフは、絵のような文字で、神殿や石碑、墓などに刻まれました。
ヒエラティックは、ヒエログリフを簡略化した文字で、パピルスに書きやすい書体となっています。
ヒエログリフやヒエラティックは、ほぼ同時代に並行して発展していったものの、当時の役人階級のみしか使えませんでした。
神や死者に捧げるような神聖な文字がヒエログリフ、土地や物資の分配などの情報をまとめるために役人(神官や書記)が使った文字がヒエラティックです。
デモティックは民衆のための文字
紀元前660年頃に使われ始めたデモティックは、ヒエラティックをさらに簡略化したような文字で、役人だけでなく民衆も使うようになりました。
墓石等に刻んだり、パピルスに書いたりするときにもデモティックは使われ始め、ヒエログリフとヒエラティックは徐々に衰退していきました。
以上の3つの文字をまとめると、表4のようになります。
ヒエログリフ | ヒエラティック | デモティック | |
年代 | B.C.4000頃~B.C.600頃 | B.C.3000頃~B.C.600頃 | B.C.660年頃~A.D.5世紀頃 |
特徴 | 絵文字のような字 | ヒエログリフを簡略化 | ヒエラティックを簡略化 |
使用者 | 役人(神官や書記) | 役人(神官や書記) | 役人と民衆 |
使われ方 | 神殿や石碑に刻む | パピルスに書く | 石に刻まれたり、 パピルスに書かれたり |
ちなみに、B.C.1650年頃に書かれた『リンド・パピルス』もヒエラティックで書かれています。
ヒエログリフにおける数の表し方
古代エジプトでは、10進法に基づいて、10のべき乗ごとの数字が用意されました。
土地の面積や、神に捧げた動物の数を表すために数字が必要だったのです。
ヒエログリフの数字
まずは最も絵に近いヒエログリフにおける数字の表記を見てみます。
$10$のべき乗 | 数字 | 読み方 | 絵のモチーフ※ | モチーフとなった理由 |
$10^0~(=1)$ | ウア | 縦棒1本 | 縦の線1本 | |
$10^1$ | メジュ | カゴの取っ手 | カゴには卵が10個入るから。 | |
$10^2$ | シュト | 巻いたロープ | 100歩分の長さがあるから。 | |
$10^3$ | カア | 蓮の花 | ナイル川の畔に、無数に咲いていたから。 | |
$10^4$ | ジェパァ | 葦 | ナイル川の畔に無数に生え、あるときに一斉に芽を出すから。 | |
$10^5$ | ヘフェヌ | オタマジャクシ | 常に大量にかたまって見られるから。 | |
$10^6$ | ヘフ | ヘフ神 | 時間という概念を司るエジプトの神で、無限を意味するから。 |
$~1~$や$~10~$、$~100~$あたりまでは書きやすそうですが、$~1000~$を表す蓮の花や$~1000000~$を表す神様は書くのが大変そうですね。
また、あくまで絵によって数字を表しているので、書く人によって違いも生まれてきます(図6)。
ヒエログリフによる数の表し方
$~10~$のべき乗ごとに用意された7種類の数字を、必要な数だけ書くことで大きい数も表すことができました。
ヒエログリフによる 1~10
まず、$~1~$~$~10~$については、図7の通りです。(カッコ内は読み方)
注意点として、 $~1~$~$~4~$の数字は1段、 $~5~$~$~9~$ は2段で書かなければいけないというルールはなく、図8のように表すこともできます。
ヒエログリフによる 11~20
$~11~$~$~20~$については、$~10~$と$~1~$を組み合わせることで表せます。
図9では、左から十の位にしていますが、各位で使われる記号が違うため、図10のように一の位を左に書いても問題ありません。
ヒエログリフの数字の欠点
以上のように、7種類の数字を必要な数だけ並べることでいろいろな数が表せるヒエログリフですが、以下のような欠点があります。
- $~10000000~$以上の数が表せない。
- 書くのが大変。
数字は$~1000000~$までしか用意されていないため、表せる最大の数は$~9999999~$となります。
そして、図11を見ればわかる通り、書くのが大変です。
ちなみに、同時期のバビロニア(メソポタミア)では、どんなに大きな数でも表せる「位取り記数法」が出来上がっていました。
時代と共に数字も簡略化されていった
ヒエログリフと並行してヒエラティックが発達し、紀元前660年頃にはデモティックが誕生しましたが、数字についても例外ではありませんでした。
ヒエラティックとヒエログリフの違い
パピルスに書くために用いられたヒエラティックも、基本的には数字を必要な数だけ並べることで、さまざまな数を表すことができました。
しかし、よく使う$~1~$~$~9~$に関しては、新たな数字として登場しています。
文字が増えた分、覚える労力はかかるものの、ヒエログリフよりも圧倒的に素早く書くことが可能になりました。
リンド・パピルスやモスクワ・パピルスもヒエラティック
リンド・パピルス(紀元前1650年頃)やモスクワ・パピルス(紀元前1890年頃)はヒエラティックを使って書かれました。
ヒエラティックは紀元前3000年頃~紀元前600年頃という長い期間使われていたため、時代を経るごとにより簡素な字体へと変化しています。
そして、紀元前660年頃にデモティックという新たな文字体系が誕生。
そのため、デモティックにおける数字の表し方についても同様と考えられます。
まとめ・参考文献
古代エジプトで使われていた数字について解説してきました。
- ヒエログリフの数字は絵に由来し、その数字を並べて数を表す。
- ヒエラティックの数字では、$2$~$9$を表すものまで登場した。
- 古代エジプトでは10進法が使われていた。
これらの数字により、古代エジプトでは代数や幾何など、様々な分野の数学が発展しました。
次の記事では、古代エジプトにおける加減乗除の方法を見てみましょう。
ヒエラティックより、ヒエログリフのほうがわかりやすいなぁ。
でも、役人が書類を書くときの手間を考えると、ヒエラティックのほうが効率的だよね。
参考文献(本の紹介ページにリンクしています)
- 『カッツ 数学の歴史』,pp.7-8
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰ』,pp.10-11
- 『数学史 数学5000年の歩み』,pp.16-21
- 『数学の流れ30講(上)』,pp.16-17
- 『ずかん 数字』,pp.36-39
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