数学史4-2 ~紀元前のインド(シュルバスートラ)~

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 紀元前のインド数学を知ることができる貴重な宗教書『シュルバスートラ』。その中身について解説します。

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Ⅰ シュルバスートラとは?

 『シュルバスートラ』は、紀元前1000年頃に、その時インドを支配していたアーリア人の言語で書かれた宗教書です。
 
 「シュルバ」は「測定用の縄」を、「スートラ」は「宗教的儀式」を意味します。
儀式シルエット
 紀元前のインドに関しては、エジプトのパピルスやバビロニアの粘土板のような数学書類が1つも残っていなかったため、『シュルバスートラ』のような宗教書でしか当時の数学の様子を窺い知ることができません。
 
この『シュルバスートラ』には、儀式をする際に必要な縄の張り方や、その縄によって囲まれた領域の面積といった平面幾何に関する内容が多く載っています。
 
 例えば、長さが\(~3~,~4~,~5~\)や\(~5~,~12~,~13~\)や\(~8~,~15~,~17~\)や\(~12~,~35~,~37~\)のような3つの組の数(ピタゴラス数)を長さにとった3本の縄を用いれば、直角三角形を作ることができるという記述がありました。
 
 他にも長方形や正方形に関する内容があったため、それらについて以降の章で詳しく説明していきます。


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Ⅱ 長方形を正方形にする

 『シュルバスートラ』の中の有名な話題の1つとして、与えられた長方形を正方形に等積変形する方法が説明されていました。

長方形から正方形への作図

 \(~AC < AD~\)の長方形\(~ABCD~\)に関して、\(~AB~\)を1辺とする正方形\(~ABEF~\)を長方形の内部に作る。 説明1
 線分\(~CE~,~DF~\)の中点をそれぞれ\(~G~,~H~\)とし、\(~FH~\)を一辺とする正方形\(~FHIJ~\)を長方形\(~ABCD~\)の外部に作る。また、\(~HG~\)を結ぶ。
説明2
 ここで、\(~KL=FH~,~KM=IG~\)を満たす長方形\(~KLMN~\)を別に作図する。
説明3
 このとき、\(~LM~\)を一辺とする正方形の面積は、長方形\(~ABCD~\)の面積と等しくなる。
説明4

 ものすごく複雑な方法ですが、これで本当に等積変形ができているのでしょうか?
 
 現在の数学を使って証明をしてみましょう。

証明

 \(~AB=a < b=AD~\)とする。
 このとき、次のように辺の長さが求まる。
証明1
 このとき、
\begin{equation}
IG=\frac{b-a}{2}+a=\frac{a+b}{2}
\end{equation}
となり、長方形\(~KLMN~\)は次のように作図されることとなる。
説明2
 三平方の定理より、
\begin{align}
LM^2+\left( \frac{b-a}{2} \right)^2&=\left( \frac{a+b}{2} \right)^2 \\
\\
4LM^2+b^2-2ab+a^2&=a^2+2ab+b^2 \\
\\
4LM^2&=4ab \\
\\
LM^2&=ab
\end{align}
となるため、\(~LM~\)を一辺とする正方形の面積は\(~ab~\)で。これは長方形\(~ABCD~\)の面積に一致する。\(~~\blacksquare~\)

 以上により、作図方法が正しいことがわかりました。
 
 ピタゴラス数(\(~a^2+b^2=c^2~\)を満たす自然数の組\(~(~a~,~b~)~\))も知っていたことから、紀元前のインド人も、作図方法が論理的に正しいことを知っていたと思われます。


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Ⅲ 2つの正方形を1つにする

 『シュルバスートラ』には、2つの正方形を合わせた面積をもつ正方形の作図方法も登場します。
 その方法は、次の図から紹介されています。

2つの正方形を1つにする作図

作図方法

 左の大きい正方形と右の小さい正方形を合わせた部分から、合同な直角三角形を2つ移動させることで、大きな正方形が誕生しています。
 
 もとの正方形の一辺の長さを\(~a~,~b~\)として、文字式で図に補足すると、下のようになります。
作図(数式)
 
 さらに『シュルバスートラ』では、この作図方法を利用して求められた\(~\sqrt{2}~\)の近似値まで載っていました。
 その値とは、
\begin{equation}
\sqrt{2} \fallingdotseq 1+\frac{1}{3}+\frac{1}{3\times 4}-\frac{1}{3 \times 4 \times 34}
\end{equation}
で表されており、小数にすると\(~1.4142156 \cdots~\)であり、小数第5位まで合致しています。
 単位分数の和と差で表されているあたり、エジプトの影響があったのかもしれません。
 
 どのようにして求めたかというと、一辺が同じ長さの正方形を2つ用意することで、一辺の長さが\(~\sqrt{2}~\)の正方形が出来上がります。
ルート2の正方形
 この図が利用されたのは確かなようですが、実際の計算方法まではわかっていません。
 
 エジプトやバビロニアほど情報は無いものの、少なくとも幾何分野においては相応の発展を遂げていた紀元前のインド。
 紀元前3世紀頃から、異民族の侵入やジャイナ教の振興により確率分野が発展したり、紀元前から紀元後に変わるあたりの時代には、未知数や\(~0~\)を黒い点で表したりと、順調に数学が発展を遂げていきました。
 
 紀元後のインドについては、また別記事で解説していきます。


 この知識を必要とする宗教的儀式ってどういうものだろう・・・。
ふくすけ笑顔

 それはわからないけど、宗教書でこのレベルなのだから、この時代の数学書が残っていたら、さぞレベルが高かっただろうね。 

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◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.7,10,11,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.130-131,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.205-207,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.86-87,技術評論社.
・西野芳治(2003)『古代インドにおける数字と記数法に関する一考察』(http://www.osaka-shinai.ac.jp/library/kiyo/37/nishino.pdf)

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Posted by Fuku