√ の由来

文化史文化史

 平方根で出てくる根号√(ルート)が、なぜこのような形になったのかを紹介します。
Ⅰ 平方根の必要性
Ⅱ 様々な表記法の誕生
Ⅲ クリストフ・ルドルフ
Ⅳ 現在の形へ


Ⅰ 平方根の必要性

 中学3年生の教科書にも載っている平方根の定義は次の通りです。

 2乗して \(~a~\) になる数を、 \(~a~\) の平方根という。

 そもそもなぜ平方根、すなわち \(~\sqrt{2}~\) などといった数が必要なのでしょうか?
 
 平方根の起源は、紀元前6世紀頃の ピタゴラス にまで遡ります。ピタゴラスといえば、次の定理ですよね。

三平方の定理(ピタゴラスの定理)


上のような直角三角形で、次の等式が成り立つ。
\begin{equation}
c^2=a^2+b^2
\end{equation}

 こちらもまた中学3年生で習う、幾何分野の重要な定理です。
 
 この定理を、 \(~a=1,b=1~\) の直角二等辺三角形に適用すると、
\begin{align}
c^2&=1^2+1^2 \\
c^2&=2 \\
\end{align}
であり、斜辺 \(~c~\) は2乗したら \(~2~\) になる数、すなわち今で言う \(~\sqrt{2}~\) という数が必要となります。
 
 しかし、ピタゴラスは

 万物は整数と分数で表せる!


 

という信条を持っていたため、 \(~\sqrt{2}~\) という無理数を認めず、平方根という概念や記号など考えもしませんでした。

※この信条に反したピタゴラス教団の若者が溺死させられるといった事件まで発生するほど、無理数を認めようとしませんでした。

 
 また、紀元前4世紀頃のユークリッドも \(~\sqrt{2}~\) が無理数であることの証明 はしたものの、平方根を表す記号までは使っていませんでした。


Ⅱ 様々な表記法の誕生

 中世ヨーロッパでは、いろいろな数学者たちが \(~\sqrt{\quad}~\) を様々な方法で表記しています。
 

Ⅱ① レオナルド・フィボナッチ

 フィボナッチ数列で有名なレオナルド・フィボナッチは、1202年に著書『算盤の書』の中で、 \(~\sqrt{2}~\) のことを、radix de \(~2~\) と書いています。
 
 ちなみに、"radix"という単語はラテン語で「根」を表します。
 

Ⅱ② イタリアの数学者

 15世紀に『三角法』を書いたイタリアのレギオモンタヌス(生まれはドイツ)や、16世紀に 3次方程式の解の公式 を導いたジェロラモ・カルダノは、 \(~\sqrt{2}~\) のことを、℞ \(~2~\) と書いています。
 
 この「℞」という記号は、先ほどの"Radix"の"R"と"x"を組み合わせたものと考えられています。
 
 また、 \(~\sqrt[3]{8}~\) などの3乗根は、 ℞.cube.de. \(~8~\) cu.℞ \(~8~\) というように表されています。("cube"は「立方」を表す英語)
 

Ⅱ③ フランス・イギリスの数学者

 16世紀のフランスの論理学者ピエール・ラムスや、1624年に『対数算術』を出版したイギリスのブリックス・ヘンリーは、 \(~\ell~\) を使って、 \(~\ell 2~\) と表しています。
 
 これは、ラテン語の"latus"、「一辺」を表す単語で、正方形の面積に対して、1辺の長さが平方根にあたることから考えられたものとされています。
 
 ちなみに、3乗根についても \(~\ell_3 8~\) と表しています。


Ⅲ クリストフ・ルドルフ

 今の \(~\sqrt{\quad}~\) の原形ともなったのが、ドイツの数学者クリストフ・ルドルフ(1500-1545頃)です。
※円周率のルドルフ・ファンケーレンとは別人
 
 彼は1525年の著書『未知数』の中で、 √ \(~2~\) と表しています。
 
 ルドルフがそれ以前に書いていた本では、 \(~r 2~\) と記載していたため、"radix"すなわち"root"の頭文字"r"を変形したものが \(~\sqrt{\quad}~\) と言われています。
 
 この点を見ると、"minus"の頭文字"m"から \(~-~\) が生まれたのと同じですね。(←「+や-の由来」)
 
 ちなみに、ルドルフは3乗根や4乗根を以下のように表しています。

 う~ん、見分けづらい・・・。


Ⅳ 現在の形へ

 ルドルフの √ をきっかけに、あらゆる数学者が今の形に近い累乗根の表記を使っています。

Ⅳ① オートレッド

 イギリスの数学者ウィリアム・オートレッドが1631年に書いた『数学の鍵』の中で、立方根を
√\(_c 8~\) 、6乗根を √\(_{cc} 64~\) と表しました。平方根を √\(_r2~\) という記号を使い、見た瞬間に何乗根なのかをわかるようにしています。

Ⅳ② デカルト

 同じく17世紀前半、フランスのルネ・デカルトは、数式を書く中で、根号の中に入る式がどこからどこまでなのかを明確にするために、 \(~\bar{2}~\) と書いていました。
 確かに、 \(~\sqrt{a+b}~\) が √\(a+b~\) と書かれていたら、 \(~\sqrt{a}+b~\) と間違いやすいですね。
 
 そして、デカルトはルドルフの記号 √ と合わせ、 \(~\sqrt{2}~\) という今の形が生まれました。
 
 しかし、3乗根についてはオートレッドと同様、 \(~\sqrt{_c8}~\) というような表記をしています。

Ⅳ③ ニュートン

 17世紀後半、イギリスのアイザック・ニュートンは、立方根と4乗根について、 \(~\sqrt[3]{} 8,\sqrt[4]{}16~\) という、今と似たような形で書いています。(やがて18世紀に、デカルトの表記と合わせ、 \(~\sqrt[3]{8},\sqrt[4]{16}~\) に統一されていきます)
 
 ただ、ニュートンは \(~\sqrt{a}~\) を \(~\displaystyle a^{\frac{1}{2}}~\) 、 \(~\displaystyle \frac{1}{a}~\) を \(~\displaystyle a^{-1}~\) と書いていて、代数計算上便利な指数表記へと変わっていきました。
 
 しかしながら、平方根や立方根はその使用頻度から \(~\sqrt{2}~\) や \(~\sqrt[3]{8}~\) という記号が今も使われています。


 パソコンで「るーと」と変換すると「√」と出てくるのは、ルドルフの影響かもしれませんね・・・。


 
 


◇参考文献等
・片野善一郎(2014)『数学用語と記号ものがたり』,pp.19-20,裳華房.
・岡部恒治、川村康文、長谷川愛美、本丸諒、松本悠(2014)『身近な数学の記号たち』,pp36-37,オーム社
・Bertrand Hauchecorne,Daniel Suratteau(2015)『世界数学者事典』,熊原啓作訳,日本評論社.
・ヴィクターJ.カッツ(2009)『カッツ 数学の歴史』,上野健爾監訳,三浦伸夫監訳,中根美知代訳,高橋秀裕訳,林知宏訳,大谷卓史訳,佐藤賢一訳,東慎一郎訳,中沢聡訳, 共立出版.
・福助(2005)『おこさまにゅある』,pp.5-12,おこさま訳,新潮社.
・ピタゴラスの画像→©Wikipedia(パブリックドメイン)

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Posted by Fuku