三大作図問題がブームになっていた紀元前5世紀頃のギリシャ。
ヒッピアスは円積線(円積曲線)と呼ばれる曲線を使って、三大作図問題の1つである角の三等分問題に解法を与えました。
この記事では、ヒッピアスが考案した円積線の内容を中心に、ヒッピアスの人生年表や活動場所などを解説。
円積線を使えば角の三等分が簡単にできるんです!
時代 | 紀元前460年頃~紀元前390年頃 |
場所 | ギリシャ |
ヒッピアスの生涯
ヒッピアス(Hippias , B.C.460頃~没年不明)は、古代ギリシャのソフィスト(哲学者)であり、数学や詩、歴史学、天文学、建築学などのあらゆる学問に精通していました。
ヒッピアスの年譜
ヒッピアスが生きていた時代の歴史は、紀元前4世紀頃まで口頭で後世へと伝わっていたため、情報力が少なく、細かいことまでわかっていません。
数学史上、ヒッピアスの年譜として表せるのは以下の通りです。
ペロポネソス半島のエリスで生まれる
アテネで円積線(クアドラトリックス)を発明した
円積線を使うことで、角の三等分線の作図が可能であることまで研究をした。
ソクラテスの没年(B.C.399)よりも後に死亡
ソクラテスは晩年、ヒッピアスを「男前で学はあるが高慢で浅薄」と評した。
ヒッピアスの活動場所
ヒッピアスはペロポネソス半島のエリス(現イリア)で生まれたため、「エリスのヒッピアス」とも呼ばれています。(同時代に「ヒッピアス」という名の人物は大勢いました)
ヒッピアスはその後アテネに住み、そこで様々な学問の研究を行い、数学としては円積線を発明・研究しました。
没年や最期の場所は定かではありません。
ヒッピアスの功績:円積線の導入
数学におけるヒッピアスの功績は、円積線という曲線を導入し、三大作図問題に大きな影響を与えたことです。
円積線は初の円以外の曲線
ヒッピアスが発明した円積線は、数学史上初めての円以外の曲線として有名です。
その円積線は次のように描かれます。
正方形$~OACB~$の内部に、$~O~$を中心とする扇形$~OAB~$を作る。
点$~P~$は$~A~$を出発し、辺$~AO~$上を$~O~$まで一定の速さで動く。
点$~Q~$は$~A~$を出発し、弧$~AB~$上を$~B~$まで一定の速さで動く。
点$~P~$と点$~Q~$は$~A~$を同時に出発し、$~O~,~B~$に同時にたどりつく。
このとき、$~P~$を通り$~OB~$と平行な線分$~PP^{\prime}~$と、線分$~OQ~$の交点$~R~$の軌跡を円積線という。
点$~P~$と点$~Q~$はどちらも一定の速さで動きますが、弧$~AB~$のほうが線分$~AO~$よりも長いため、$~Q~$のほうが速いです。
等速で図を動かさなければならないため、手作業で作図をすることは不可能な曲線となります。
コンピュータ(Geogebra)でかいてみると、以下のように作図できます。
<図4> 円積線のアニメーション
(左のスライダーを動かすと、円積線が赤で描けます)
円積線は三角関数で表せる
円積線を構成する点を、$~OB~$と$~OQ~$のなす角$~\theta~$により、表してみましょう。
$~O~$を原点とする$~xy~$平面上で考える。
$~OA=OB=a~$、$~OB~$と$~OQ~$のなす角を$~\theta~$、$~P~$の$~y~$座標を$~h~$とする。
このとき、$~Q~$は$~(a\cos{\theta}~,~a\sin{\theta})~$と表せる。
同じ時間をかけて、$~h~$は$~0~$から$~a~$まで、$~\theta~$は$~0~$から$~\displaystyle \frac{\pi}{2}~$まで増えるため、
\begin{align*} h:a&=\theta:\frac{\pi}{2} \\ \\ \frac{\pi}{2}h&=a\theta \\ \\ h&=\frac{2a\theta}{\pi} \end{align*}
円積線は直線$~\displaystyle PP^{\prime}~:~y=\frac{2a\theta}{\pi}~$と、直線$~\displaystyle OQ~:~y=\frac{a\sin{theta}}{a\cos{\theta}}=(\tan{\theta})x~$の交点$~R~$の軌跡なので、$~R~$の$~x~$座標は、
\begin{align*} \frac{2a\theta}{\pi}&=(\tan{\theta})x \\ \\ x&=\frac{2a\theta}{\pi\tan{\theta}} \end{align*}
と表せる。
よって、円積線は
R\left( \frac{2a\theta}{\pi\tan{\theta}}~ ,~ \frac{2a\theta}{\pi} \right)~~~~~~\displaystyle \left(0 < \theta < \frac{\pi}{2} \right)
軌跡であるとわかった。
ちなみに、$~\theta \to 0~$や$~\displaystyle \theta \to \frac{\pi}{2}~$の極限を考えると、円積線の両端の座標は以下のように求まります。
また、媒介変数$~\theta~$を除去すると、
x=\frac{y}{\tan{\left(\frac{\pi y}{2a} \right)}}
と表せます。
定義だけでなく、式からも作図が不可能であることがわかりました。
円積線から角の三等分問題を考えた
円積線が作図可能と仮定すると、角の三等分問題は解決します。
円積線を用いた角の三等分線の作図方法は以下の通りです。
三等分したい角を$~\angle SOB~$とし、半直線$~OS~$と円積線の交点を$~S_1~$とする。
$~S_1~$から$~OA~$に垂線をおろし、その足を$~T_1~$とする。
線分$~OT_1~$を三等分する点$~T_2~,~T_3~$を作図する。
(線分の三等分については、相似と平行線を利用することでできる)
$~T_2~,~T_3~$を通り、$~T_1S_1~$と平行な直線と円積線との交点をそれぞれ$~S_2~,~S_3~$とする。
半直線$~OS_2~,~OS_3~$を引くと、それらの半直線が$~\angle SOB~$の三等分線となる。
円積線の定義から、円積線上の点の高さ$~y~$と$~\theta~$は比例関係にあります。
この作図方法は、円積線上の$~S_1~$の高さを$~\displaystyle \frac{2}{3}~,~\frac{1}{3}~$した$~S_2~,~S_3~$を作ってあげることで、角も$~\displaystyle \frac{2}{3}~,~\frac{1}{3}~$となることを利用しています。
一見すると、角の三等分問題が解決したように思えますが、実際は円積線自体の作図が困難であったため、結果的には机上の空論です。
しかし、ヒッピアスが提案した円積線さえ作図できればよいため、角の三等分線の作図そのものではなく、円積線の作図に挑戦するという選択肢が生まれたのです。
円積問題にも使えるため、「円積線」と名付けられた
円積線がかけるという仮定のもと、円積線を利用すれば円積問題も解けるということが、ヒッピアスの後の数学者ディノストラトゥス(Dinostratus , B.C.390頃~B.C.320頃)によって判明しました。
この事実により、角の三等分問題を解決するために生まれた曲線が「円積線」と名付けられ、現在に伝わっています。
円積線は三大作図問題の2つを解く鍵になっているため、人々は円積線の作図方法を研究したものの、解決には至りませんでした。
ヒッピアスのエピソード:プラトンに紹介された
ヒッピアスの功績が現代にまで伝わっている理由は、プラトン(Plato , B.C.427-B.C.347)の著書『大ヒッピアス』で扱われたことに大きく起因します。
その著書の中では、ヒッピアスについて、
- 他のソフィストの2倍以上の金を稼いだ。
- 数学から雄弁術まで多くの著作を残した。(現存はしていない)
- 記憶力があり、博学。手仕事も長けていた。
など、非常に有能な人物であったことが記されています。
タレスやピタゴラスほど有名ではないものの、ソクラテスやプラトンによって紹介されたことで、円積線の発明というヒッピアスの成果が現代にまで伝わっています。
まとめ
円積線という未知の曲線を発明し、三大作図問題の解決に光を与えたヒッピアス。
彼の一番の功績である円積線を中心に解説してきました。
- 円積線で角の三等分問題や円積問題が解決できる。
- 円積線自体の作図が不可能。
次の記事では、今回登場しなかった三大作図問題「立方体倍積問題」を研究した数学者・アルキュタスについて解説します。
タラレバで証明をして、脚光を浴びるってすごいね。
数学ではよくあることだよ。今だって「リーマン予想が正しければ」証明される命題がいろいろ出てきているよ。
参考文献(本の紹介ページにリンクしています)
- 『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰ』,pp.65-96
- 『世界数学者事典』,p.402
- 河田直樹著(2006)『古代ギリシアの数理哲学への旅』,pp196-200, 現代数学社
- T・L・ヒース著,平田寛・菊池俊彦・大沼正則訳(2009)『復刻版 ギリシア数学史』,pp117-122
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