数学史3-7 ~バビロニアの数学(三平方の定理)~

 バビロニアでは、代数だけでなく幾何についても研究が進んでいました。
 その中でもピタゴラスの定理(三平方の定理)に焦点を絞って解説をします。

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目次

Ⅰ ピタゴラス数の数表

 バビロニアの計算では、「数表」と呼ばれる道具が多用されていました。(「数学史3-4 ~バビロニアの数学(計算)~」より)
 
 その中の一種として、ピタゴラス数に関する数表も存在していました。
 ピタゴラス数とは、$~a^2+b^2=c^2~$をみたす自然数の組$~(a,b,c)~$のことです。
三平方の定理
 
 その数表は、粘土板プリンプトン322に残っています。

プリンプトン322
出典:photo author unknown, Public domain, via Wikimedia Commons

 まずはこれをバビロニアの数字のまま書き出すと、次のような表になります。
(「;」は小数点、「,」は位の境目を表す。数の読み方は「数学史3-2 ~バビロニアの数学(整数)~」より)

1;59,0,15 1,59 2,49 1
1;56,56,58,14,50,6,15 56,7 1,20,25 2
1;55,7,41,15,33,45 1,16,41 1,50,49 3
1;53,10,29,32,52,16 3,31,49 5,9,1 4
1;48,54,1,40 1,5 1,37 5
1;47,6,41,40 5,19 8,1 6
1;43,11,56,28,26,40 38,11 59,1 7
1;41,33,45,14,3,45 13,19 20,49 8
1;38,33,36,36 8,1 12,49 9
1;35,10,2,28,27,24,26,40 1,22,41 2,16,1 10
1;33,45 45 1,15 11
1;29,21,54,2,15 27,59 48,49 12
1;27,0,3,45 2,41 4,49 13
1;25,48,51,35,6,40 29,31 53,49 14
1;23,13,46,40 28 53 15

 これを今の数字に直し、直角三角形の3辺$~a~,~b~,~c~$のどの値かを明らかにしたうえで、列を1つ補足して書くと、次のような表になります。

$~\displaystyle \left( \frac{c}{a} \right)^2~$ $~b~$ $~c~$ No. $~a~$(補足)
1.9834028 119 169 1 120
1.9491586 3367 4825 2 3456
1.9188021 4601 6649 3 4800
1.8862479 12709 18541 4 13500
1.8150077 65 97 5 72
1.7851929 319 481 6 360
1.7199837 2291 3541 7 2700
1.6845877 799 1249 8 960
1.6426694 481 769 9 600
1.5861226 4961 8161 10 6480
1.5625 45 75 11 60
1.4894168 1679 2929 12 2400
1.4500174 161 289 13 240
1.4302388 1771 3229 14 2700
1.3871605 56 106 15 90

 $~\displaystyle \left( \frac{c}{a} \right)^2~$の値から、$~a~$の値を補足しています。
 
 一見不規則な数の配列に見えますが、次章以降でこの表の作り方の背景に迫っていきます。


Ⅱ ピタゴラス数の見つけ方

 ピタゴラス数の表にある$~\displaystyle \left( \frac{c}{a} \right)^2~,~b~,~c~$の組み合わせがどう導かれたのかを説明します。

ピタゴラス数の導き方

バビロニアでよく使われていた恒等式
\begin{equation}
xy+\left( \frac{x-y}{2} \right)^2=\left( \frac{x+y}{2} \right)^2~~~\cdots①
\end{equation}
を利用する。(バビロニアの二次方程式でも使われていました。)
 
 3辺が$~a’=xy=1~$、$~b’=\displaystyle \frac{x-y}{2}~$、$~c’=\displaystyle \frac{x+y}{2}~$の直角三角形を考える
バビロニアの三平方の定理
 $①$にそれぞれ代入すると、
\begin{equation}
(a’)^2+(b’)^2=(c’)^2~~\cdots②
\end{equation}
となり、$~xy=1~$を満たす$~x~,~y~$の組を求めればよいことがわかる。
 
 $~x~$と$~y~$は逆数の関係にあるため、逆数表から逆数の関係にある2つの数を選べば、$②$を満たす$~a’~,~b’~,~c’~$は求まる。

 1辺の長さを$~a’=xy=1~$と固定してあげることで、バビロニアお得意の数表にもっていく導き方でした。
 
 実際に1組求めてみましょう。

$~x=\displaystyle \frac{12}{5}~,~y=\frac{5}{12}~$を選んだ場合
\begin{align}
b’&=\frac{x-y}{2} \\
\\
&=\frac{\frac{12}{5}-\frac{5}{12}}{2} \\
\\
&=\frac{144-25}{120} \\
\\
&=\frac{119}{120} \\
\\
c’&=\frac{x+y}{2} \\
\\
&=\frac{\frac{12}{5}+\frac{5}{12}}{2} \\
\\
&=\frac{144+25}{120} \\
\\
&=\frac{169}{120}
\end{align}
となり、$②$に代入することで、次の等式が求まる。
\begin{equation}
1^2+\left( \frac{119}{120} \right)^2=\left( \frac{169}{120} \right)^2~~~\cdots③
\end{equation}

 バビロニアの書記による記述はここで終わっています。
 $③$の式から、$~b=119~,~c=169~,~\displaystyle \left(\frac{c}{a}\right)^2=\left(\frac{169}{120}\right)^2=1.9834028~$を書き残したのが、Ⅰ章で出てきたピタゴラス数の表の1行目です。
 
 ちなみにですが、今の我々なら$③$の両辺を$~120^2~$倍することで、
\begin{equation}
120^2+119^2=169^2
\end{equation}
という式にしたほうが見やすいです。


Ⅲ ピタゴラス数の数表に隠された秘密

 ピタゴラス数の数表は、数が4ケタになったり、2ケタになったりと一見メチャクチャな数の羅列ですが、実はある規則に基づいて並んでいます。
 
 下の直角三角形の角度$~\theta~$について考えてみます。
三平方の定理 角度つき
 当然、$~\tan{\theta}=\displaystyle \frac{b}{a}~$ですが、三角比の相互関係を使って式変形を次のように行います。
\begin{align}
\tan^2{\theta}&=\frac{1}{\cos^2{\theta}}-1 \\
\\
&=\frac{1}{\left(\frac{a}{c}\right)^2}-1 \\
\\
&=\left(\frac{c}{a}\right)^2-1 \\
\end{align}
 Ⅰ章で出てきた数表には、$~\displaystyle \left(\frac{c}{a}\right)^2~$の値が載っていました。
 それらの値からそれぞれ$~1~$ひいて$~\tan^2{\theta}~$が求まり、さらには$~\tan{\theta}~$や$~\theta~$の値を一挙にまとめてみましょう。
 すると、次のような表が出来上がります。

$~\displaystyle \left( \frac{c}{a} \right)^2~$ $~\displaystyle \left( \frac{c}{a} \right)^2-1=\tan^{2}{\theta}~$ $~\tan{\theta}~$ $~\theta~$ No.
1.9834028 0.9834028 0.9916667 $~44.8^{\circ}~$ 1
1.9491586 0.9491586 0.9742477 $~44.3^{\circ}~$ 2
1.9188021 0.9188021 0.9585417 $~43.8^{\circ}~$ 3
1.8862479 0.8862479 0.9414074 $~43.3^{\circ}~$ 4
1.8150077 0.8150077 0.9027778 $~42.1^{\circ}~$ 5
1.7851929 0.7851929 0.8861111 $~41.5^{\circ}~$ 6
1.7199837 0.7199837 0.8485185 $~40.3^{\circ}~$ 7
1.6845877 0.6845877 0.8273982 $~39.6^{\circ}~$ 8
1.6426694 0.6426694 0.8016666 $~38.7^{\circ}~$ 9
1.5861226 0.5861226 0.7655864 $~37.4^{\circ}~$ 10
1.5625 0.5625 0.75 $~36.9^{\circ}~$ 11
1.4894168 0.4894168 0.6995833 $~35.0^{\circ}~$ 12
1.4500174 0.4500174 0.6708334 $~33.9^{\circ}~$ 13
1.4302388 0.4302388 0.6559259 $~33.3^{\circ}~$ 14
1.3871605 0.3871605 0.6222222 $~31.9^{\circ}~$ 15

 Excelで角度を計算してみましたが、ほぼ等差数列のように減少しています。
 
 バビロニア人が角度からピタゴラス数を選び、それらを数表にまとめたため、数としては一見不規則に見えるものになってしまったと推定できます。


 なんでもかんでも数表。バビロニア人の活用力がすごい!
ふくすけ笑顔
 角度が等差数列的に並ぶのが神秘的。見つかってはいないようだけど、三角比の数表もあっただろうね。
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数学史3-8 ~バビロニアの数学(平方根)~

◇参考文献等
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.35-38,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.67-71,共立出版.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.7-13,朝倉書店.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.32-36,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.52-57,技術評論社.
・アダム・ハート=デイヴィス(2020)『フィボナッチの兎 偉大な発見でたどる数学の歴史』,pp.18-20,創元社.

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