数学史5-4 ~紀元前の中国(連立方程式)~

 紀元前のエジプトやバビロニアと同様、中国にも一次方程式を扱う術があり、特に連立方程式に関してはレベルの高い問題を解いていました。
 他の文明との違いに触れつつ、紀元前の中国の解法について解説します。

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目次

Ⅰ エジプトやバビロニアとの違い

 古代中国の数学書『九章算術』の8章は、方程式の解法に焦点が置かれていました。
 
 エジプトバビロニアとの大きな違いは2つあり、1つ目は正の数だけでなく負の数をも扱って連立方程式を解いている点です。
 
 実際に『九章算術』8章の問題3を見てみましょう。

『九章算術』8章 問題3

 今上禾2束、中禾3束、下禾4束があり、それらの実は皆1斗に達しない。上禾は中禾を、中禾は下禾を、下禾は上禾をそれぞれ1束取れば実は1斗に達する。
 問う、上・中・下禾の1束の実は各々いくらか。

張替俊夫「『九章算術』訳注稿(25)」より引用

 「禾」は粟物の総称で、「実」は禾を脱穀することで出てくる中身です。「斗」は体積の単位で、中国において\(~1~\)斗は\(~10~\)L を表します。
 この問題文で、上禾1束の実を\(~x~\)斗、中禾1束の実を\(~y~\)斗、下禾1束の実を\(~z~\)斗とすると、
\begin{cases}
2x+y~~~~&=1 \\
~~~~~~~3y+z&=1 \\
x~~~~~~~~+4z&=1
\end{cases}
という連立方程式が出来上がります。
 
 この方程式の解自体は、
\begin{equation}
x=\frac{9}{25}~,~y=\frac{7}{25}~,~z=\frac{4}{25}
\end{equation}
となりますが、解く過程において負の係数が登場します。
 それを同書では、次のように計算するよう書かれていました。

 (減算において、)同符号は互いに除き、異符号は互いに益す。また無入(\(0\))から正数を引けば負とし、無入から負数を引けば正とする。
 (加算において、)異符号は互いに除き、同符号は互いに益す。また無入(\(0\))に正数を加えれば正とし、無入に負数を加えれば負とする。

 現在の中1数学の始めに習う規則が表現されています。
 
 次に、エジプトやバビロニアとの大きな違いの2つ目は、未知数の多い連立方程式まで扱っていた点です。
 『九章算術』8章問題13では、次の連立方程式が登場しています。
\begin{cases}
2x+y~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~&=s \\
~~~~~~~3y+z~~~~~~~~~~~~~~&=s \\
~~~~~~~~~~~~~~4z+u~~~~~~~&=s \\
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~5u+v&=s \\
x~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~+6v&=s
\end{cases}
 そして、この式の解を
\begin{equation}
s=721~ならば~v=76
\end{equation}
と求めています。
 
 未知数6文字に対して5本の式しかないなので、不定方程式となりますが、算木と行列(後述)の考え方を用いて、特殊解を導くことができている点が計算技術の高さを表しているでしょう。
 
 他にも、7章17問で出てくる連立方程式
\begin{cases}
x+y&=100 \\
300x+\displaystyle \frac{500}{7}y&=10000 \\
\end{cases}
を、\(~x=20~,~y=80~\)と仮定する「盈不足法」(バビロニアの「仮置法」)で解いている等、方程式の解法に関しての造詣が深かったことが窺えます。


Ⅱ 行列を使った連立方程式の解法

 3文字以上の連立方程式の場合、今で言う「行列」の考え方を使って解く方法が『九章算術』8章に載っています。
 その本に載っている次の問題について見てみましょう。

『九章算術』8章 問題1

 今上禾が3束、中禾が2束、下禾1束で実が39斗になり、上禾が2束、中禾が3束、下禾が1束で実が34斗になり、上禾が1束、中禾が2束、下禾が3束で実が26斗になる。
 問う、上・中・下禾の穀実 1 束は各々いくらになるか。

張替俊夫「『九章算術』訳注稿(25)」より引用

 先ほどと同様、上禾1束の実を\(~x~\)斗、中禾1束の実を\(~y~\)斗、下禾1束の実を\(~z~\)斗とすると、
\begin{cases}
3x+2y+z&=39 ~~~\cdots ① \\
2x+3y+z&=34 ~~~\cdots ② \\
x+2y+3z&=26 ~~~\cdots ③
\end{cases}
となります。
 この連立方程式が、次の図表で示されていました。
行列1
 縦横が今とは逆ではあるものの、行列を使って連立方程式が表されています。
 実際に次の手順で解を導いていました。

解法

行列2
 上の行列において、\(~② \times 3~\)から\(~① \times 2~\)をひく。
行列3
 上の行列において、\(~③ \times 3~\)から\(~①~\)をひく。
行列4
 上の行列において、\(~③’ \times 5~\)から\(~②’ \times 4~\)をひく。
行列5
 この図表から、求めたい連立方程式は
\begin{cases}
3x+2y+z&=39 ~~~\cdots ① \\
~~~~~~~~~~5y+z&=24 ~~~\cdots ②’ \\
~~~~~~~~~~~~~~~36z&=99 ~~~\cdots ③’ ‘
\end{cases}
となるため、③”→ ②’ → ① の順番で解くことで、
\begin{equation}
z=\frac{11}{4}~,~y=\frac{17}{4}~,~x=\frac{37}{4}~
\end{equation}
と求まる。

 なぜこの方法で解けるかということまでは言及されていないものの、実際の計算は算木で行われていたため、元の連立方程式と変形後の連立方程式の解が一致することを、経験的に理解していたと推測されます。
 
 先ほど紹介した6文字の不定方程式も、この行列による解法で、特殊解を導いていました。
 
 他にも紀元前1900年頃には、魔方陣が存在していた事実もあり、数を表に習慣が紀元前の中国にはあったようです。


 3文字の連立方程式を機械的に解く方法を見つけていたっていう事実がすごいね。
ふくすけ笑顔
 算木により、計算力が高かった中国人だからこそなせる解法だよね。
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◇参考文献等
・張替俊夫「『九章算術』訳注稿(25)」,< https://osu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=1931&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.20-24,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.135-137,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.194-195,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.70-77,技術評論社.
・ジョニー・ボール著,水谷淳訳(2018)『数学の歴史物語』,pp.167-183,SB Creative.

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この記事を書いた人

現役の中高一貫校教員で、授業中は数学史ネタをよく喋ります。
教職大学院時代に開設した「Fukusukeの数学めも」が、閲覧者の学習・興味の一助になれば幸いです。
ちなみにFukusukeは我が家のお気に入りのペンギンの人形(8歳)

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