数学史5-8 ~紀元前の中国(二次方程式)~

 三平方の定理を使う問題が高度になるほど、避けられなくなってくる二次方程式。
 紀元前の中国でよく出てきた二次方程式のパターンとその解法を紹介します。

←前回
数学史5-7 ~紀元前の中国(三平方の定理)~
次回→
数学史6-1 ~ギリシャ時代(歴史)~
目次

Ⅰ 紀元前の中国の型

 中国もバビロニアと並んで二次方程式の研究が進んでおり、その成果が『九章算術』9章の「句股」の後半部分に載っていました。
 
 この「句股」は三平方の定理のことで、前半部分は未知数が結果的に一次になったり、$~x^2=a~$から開平法を使って$~x=\sqrt{a}~$の値を求めたりと、計算上の困難はありませんでした。
 
 しかし、「句股」の後半部分では、$~ax^2+bx+c=0~$の一般形までは登場しないまでも、特殊な型の二次方程式が出てきます。
 その代表が次の問題です。

『九章算術』9章 問題11

 今戸の高さが広より$~6~$尺$~8~$寸多く、対角の距離が$~1~$丈のものがある。
 戸の高さと広はそれぞれいくらか。

大川俊隆・田村誠「『九章算術』訳注稿(30)」より引用

 図にすると、次のような戸(扉)になります。
9章問題11 図
 ここで、戸の高さを$~x~$、戸の広(横幅)を$~y~$とすると、三平方の定理を使うことで、次の連立方程式が出来上がります。
\begin{cases}
&x-y=68 \\
&x^2+y^2=100^2 \\
\end{cases}
 実は、この種の二次方程式が紀元前の中国ではよく使われていて、『九章算術』では次のような解法が記されています。

『九章算術』9章 問題11 解法

 $~1~$丈を自乗して実とする。
 高さと広の差を半分にして、自乗してから倍にし実から引いて、その余りを開平方する。
 得られた数値から高さと広の差の半分を引くと、戸広の長さとなる。
 また、得られた数値に高さと広の差の半分を足すと戸高の長さとなる。

大川俊隆・田村誠「『九章算術』訳注稿(30)」より引用

 これを先ほどの問題の数値をあてはめると、
\begin{align}
x&=\sqrt{ \left\{ 100^2-\left(\frac{68}{2} \right)^2 \times 2 \right\}\times \frac{1}{2} }-\frac{68}{2} \\
\\
y&=\sqrt{ \left\{ 100^2-\left(\frac{68}{2} \right)^2 \times 2 \right\}\times \frac{1}{2} }+\frac{68}{2}
\end{align}
という計算をして求めていることになります。
 実際に計算をすると、$~x=28~$寸($~2~$尺$~8~$寸)、$~y=96~$寸($~9~$尺$~6~$寸)という正しい答えが出てきます。
 
 なぜ、この数式で解くことができるのかを次章で考えてみましょう。


Ⅱ 解法の意味

 『九章算術』は、紀元後263年に劉徽りゅうきによって、注釈本が書かれており、その中でこの二次方程式
\begin{cases}
&x-y=d \\
&x^2+y^2=c^2
\end{cases}
の解が
\begin{cases}
x&=\displaystyle \sqrt{ \left\{ c^2-2\left(\frac{d}{2} \right)^2 \right\}\times \frac{1}{2} }-\frac{d}{2} \\
\\
y&=\displaystyle \sqrt{ \left\{ c^2-2\left(\frac{d}{2} \right)^2 \right\}\times \frac{1}{2} }+\frac{d}{2} \\
\end{cases}
となる理由を、図入りで解説していました。
 それを現代数学で噛み砕いた形で説明します。

『九章算術』9章 問題11 解法の意味

 $~x~,~y~$の長さを持つ長方形を$~4~$つ用意し、次のような大きな正方形$~ABCD~$を作る。
9章問題11 解説1
 このとき、正方形$~IJKL~$の一辺の長さは、$~x-y=d~$で、正方形$~EFGH~$の一辺の長さは三平方の定理より、$~\sqrt{x^2+y^2}=c~$である。
9章問題11 解説2

 ここで、$~\triangle AEH~$の面積を$~P~$、正方形$~IJKL~$の面積を$~4Q~$とすると、正方形$~EFGH~$の面積より、
\begin{equation}
4P+4Q=c^2 ~~~\cdots ①
\end{equation}
が成り立つ。
 
 また、正方形$~IJKL~$を四分割することで、
\begin{equation}
Q=\left( \frac{d}{2} \right)^2 ~~~\cdots ②
\end{equation}
となる。
9章問題11 解説3

 $~① – 2\times ②~$より、
\begin{equation}
4P+2Q=c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2
\end{equation}
であり、これを両辺$~2~$でわると、
\begin{equation}
2P+Q= \left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}
\end{equation}
となる。
 
 この$~2P+Q~$は、正方形$~ABCD~=8P+4Q~$の$~\displaystyle \frac{1}{4}~$となっているため、$~2P+Q~$の平方根をとることで、正方形$~ABCD~$の一辺の半分の長さ$~\displaystyle \frac{x+y}{2}~$が求まる。

9章問題11 解説4

以上より、
\begin{equation}
\frac{x+y}{2}=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}~~~\cdots ③
\end{equation}
 最後に、$③$に$~\displaystyle \frac{x-y}{2}=\frac{d}{2}~$をたすことで、

\begin{align}
\frac{x-y}{2}+\frac{x-y}{2}&=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}+\frac{d}{2} \\
\\
x&=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}+\frac{d}{2}
\end{align}
であり、$③$から$~\displaystyle \frac{x-y}{2}=\frac{d}{2}~$をひくことで、
\begin{align}
\frac{x-y}{2}-\frac{x-y}{2}&=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}-\frac{d}{2} \\
\\
y&=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}-\frac{d}{2}
\end{align}

\begin{equation}
x=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}+\frac{d}{2}
\end{equation}
であり、$③$から$~\displaystyle \frac{x-y}{2}=\frac{d}{2}~$をひくことで、
\begin{equation}
y=\sqrt{\left\{ c^2-2\cdot \left( \frac{d}{2} \right)^2 \right\} \cdot \frac{1}{2}}-\frac{d}{2}
\end{equation}

が求まった。$~~~\blacksquare~$

 中国でおなじみの三平方の定理の証明の図(下図)から、式の意味を理解することができました。
周髀算經の三平方の定理
 開平法からもわかるように、紀元前の中国では幾何学的着想により、多様な問題の解法アルゴリズムが整っていたようです。


 解の公式を覚えた方が遥かに楽だということがわかりました。
ふくすけ笑顔
 昔はパターンごとに解法が分かれていたから、覚えるのも一苦労だったろうね。
←前回
数学史5-7 ~紀元前の中国(三平方の定理)~
次回→
数学史6-1 ~ギリシャ時代(歴史)~

◇参考文献等
・大川俊隆・田村誠「『九章算術』訳注稿(30)」,< https://osu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2016&item_no=1&page_id=13&block_id=21よりダウンロード>
・ヴィクターJカッツ著,上野健爾・三浦信夫監訳,中根美知代・高橋秀裕・林知宏・大谷卓史・佐藤賢一・東慎一郎・中澤聡訳(2009)『カッツ 数学の歴史』,pp.41-42,共立出版.
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.135-137,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,p.194,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.70-77,技術評論社.
・ジョニー・ボール著,水谷淳訳(2018)『数学の歴史物語』,pp.167-183,SB Creative.

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数学の歴史 [ ヴィクター・J.カッツ ]
価格:20900円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数学史 数学5000年の歩み [ 中村滋 ]
価格:2200円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数学の流れ30講(上(16世紀まで)) [ 志賀浩二 ]
価格:3190円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

 

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

数字 [ 中村滋=監修 ]
価格:2948円(税込、送料無料) (2020/12/13時点)

 

 

よかったらシェアしてね!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次
閉じる