
それぞれの数字の使い方や、その成立の歴史について解説します。
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Ⅰ 2つの記数法
古代ギリシャでは、エジプトやバビロニアを凌駕する数学力から、何かしらの計算方法があったと考えられています。
しかし、記憶術が重視された時代に、初歩的な計算方法について言及された本があったのかどうかは疑問であり、仮にあったとしても今の時代まで残っていないのが現状です。(当時のギリシャの様子について→「数学史6-1 ~ギリシャ時代(歴史)~」)
ただ、ギリシャ時代に使われていた数字については解明されており、古くからアテネを中心とするアッティカ地方で使われていたアッティカ式と、イオニア地方で使われていたイオニア式の2種類が存在していました。

イオニア式は、エジプトのヒエラティックやバビロニアのくさび形文字を整理してできたアルファベットを基にしていて、紀元前5世紀頃には、アテナイでも正式な文字として使われました。
そして、このイオニア式数字は紀元後15世紀頃まで広く用いられています。
Ⅱ アッティカ式数字
実際に数字を見てみましょう。
アッティカ式は、ギリシャ語の数詞の頭文字を数字としています。(「1」以外)
$~1~$ | $~5~$ | $~10~$ | $~100~$ | $~1000~$ | $~10000~$ | |
アッティカ式 | I | $~\Gamma~$※ | $~\Delta~$ | H | X | M |
ギリシャ語 | × | gente※ | deka | hekaton | khilioi | myrioi |
※この時代の$~5~$を表すギリシャ語はpenteのため、$~\Pi~$と表すこともありました。genteはpenteの元となった単語。
これらを並べることで、 次の例のように数を表しています。
$~8~$・・・$~\Gamma~$III
$~124~$・・・ H $~\Delta \Delta~$IIII
$~23405~$・・・ MM XXX $~\Delta \Delta\Delta \Delta~\Gamma$
この並べて書くという表し方は、エジプトの数字と同様です。
また、$~50~$や$~500~$といった数字は、中国の合字と同じような考え方で表しました。
数 | アッティカ式 | 由来 |
$~50~$ | ![]() |
$~\Delta \times \Gamma~$($10 \times 5$) |
$~500~$ | ![]() |
H$~\times \Gamma~$($100 \times 5$) |
$~5000~$ | ![]() |
X$~\times \Gamma~$($1000 \times 5$) |
$~50000~$ | ![]() |
M$~ \times \Gamma~$($10000 \times 5$) |
これらの数字により、エジプトよりは多少短く数を記述することができたものの、場所を取ってしまうという欠点から、イオニア式へと変わっていきました。
Ⅲ イオニア式
Ⅲー1 イオニア式整数
イオニア式はギリシャの古典アルファベット24文字に加え、さらに古いアルファベット3文字(Ϝ、Ϙ、Ϡ)を採用し、それぞれを数字と対応させました。
$~1~$ | $~2~$ | $~3~$ | $~4~$ | $~5~$ | $~6~$ | $~7~$ | $~8~$ | $~9~$ | |
大文字 | A | B | $~\Gamma~$ | $~\Delta~$ | E | Ϝ | Z | H | $~\Theta~$ |
小文字 | $~\alpha~$ | $~\beta~$ | $~\gamma~$ | $~\delta~$ | $~\epsilon~$ | ϝ | $~\zeta~$ | $~\eta~$ | $~\theta~$ |
読み方 | alpha | beta | gamma | delta | epsilon | digamma | zeta | eta | theta |
$~10~$ | $~20~$ | $~30~$ | $~40~$ | $~50~$ | $~60~$ | $~70~$ | $~80~$ | $~90~$ | |
大文字 | I | K | $~\Lambda~$ | M | N | $~\Xi~$ | O | $~\Pi~$ | Ϙ |
小文字 | $~\iota~$ | $~\kappa~$ | $~\lambda~$ | $~\mu~$ | $~\nu~$ | $~\xi~$ | $~\omicron~$ | $~\pi~$ | ϙ |
読み方 | iota | kappa | lambda | mu | nu | xi | omicron | pi | koppa |
$~100~$ | $~200~$ | $~300~$ | $~400~$ | $~500~$ | $~600~$ | $~700~$ | $~800~$ | $~900~$ | |
大文字 | P | $~\Sigma~$ | T | $~\Upsilon~$ | $~\Phi~$ | X | $~\Psi~$ | $~\Omega~$ | Ϡ |
小文字 | $~\rho~$ | $~\sigma~$ | $~\tau~$ | $~\upsilon~$ | $~\phi~$ | $~\chi~$ | $~\psi~$ | $~\omega~$ | ϡ |
読み方 | rho | sigma | tau | upsilon | phi | chi | psi | omega | サンピ |
最初は大文字だけだったものの、小文字が発明されてからは、小文字が使われるようになりました。
上の27文字により、$~999~$以下の整数は、次のように表せます。
$~37~$・・・・$~\lambda ~ \xi~$
$~66~$・・・・$~\xi~\digamma~$
$~281~$・・・・$~\sigma~\pi~\alpha~$
$~809~$・・・・$~\omega~\theta~$
$~1000~,~2000~,~\cdots~,~9000~$は、$~1~$から$~9~$を表す文字の前に、コンマ( ,)をつけることで表しました。
$~1000~$・・・・$~,\alpha~$
$~4000~$・・・・$~,\delta~$
$~7777~$・・・・$~,\zeta ~\psi~\omicron~\zeta~$
$~4003~$・・・・$~,\upsilon~\gamma~$
さらに$~10000~$以上を表す際には、$~10000~$倍したい数の前または下にギリシャ語で「無数」を表す”Muriado”の頭文字 M を付けます。
$~10000=10000 \times 1~$・・・・$~M\alpha~~$または$~~\overset{\alpha}{M}~$
$~12340000=10000 \times 1234~$・・・・$~M~,\alpha~\sigma~\lambda~\delta~~$または$~~\overset{,\alpha~\sigma~\lambda~\delta}{M}~$
$~12000034=10000 \times 1200+34~$・・・・$~M~,\alpha~\sigma~\cdot~\lambda~\delta~~$または$~~\overset{,\alpha~\sigma}{M}\lambda~\delta~$
$~120034=10000 \times 12+34~$・・・・$~M~\iota~\beta~\cdot~\lambda~\delta~~$または$~~\overset{\iota~\beta}{M}\lambda~\delta~$
$~123400=10000 \times 12+3400~$・・・・$~M~\iota~\beta~\cdot~,\gamma~\upsilon~~$または$~~\overset{\iota~\beta}{M},\gamma~\upsilon~$
$~10000=10000 \times 1~$
→$~M\alpha~~$または$~~\overset{\alpha}{M}~$
$~12340000=10000 \times 1234~$
→$~M~,\alpha~\sigma~\lambda~\delta~~$または$~~\overset{,\alpha~\sigma~\lambda~\delta}{M}~$
$~12000034=10000 \times 1200+34~$
→$~M~,\alpha~\sigma~\cdot~\lambda~\delta~~$または$~~\overset{,\alpha~\sigma}{M}\lambda~\delta~$
$~120034=10000 \times 12+34~$
→$~M~\iota~\beta~\cdot~\lambda~\delta~~$または$~~\overset{\iota~\beta}{M}\lambda~\delta~$
$~123400=10000 \times 12+3400~$
→$~M~\iota~\beta~\cdot~,\gamma~\upsilon~~$または$~~\overset{\iota~\beta}{M},\gamma~\upsilon~$
上の例のように、M を前に付けて表す場合には、$~10000~$倍する数としない数の境目に”・”を置いて区別しました。
バビロニア同様、位取りに近い考え方を持っていたことがわかります。
Ⅲー2 イオニア式分数
エジプト同様、実用性の観点から、ギリシャ人も単位分数を好みました。
単位分数は、分母となる数の後ろに、ダッシュ($~\prime~$)をつけることで表せます。
$~\displaystyle \frac{1}{5}~$・・・・$~\epsilon^{\prime}~$
$~\displaystyle \frac{1}{38}~$・・・・$~\lambda~\eta^{\prime}~$
$~\displaystyle \frac{1}{1059}~$・・・・$~,\alpha \nu \theta^{\prime}~$
ただ、上の例の$~\displaystyle \frac{1}{38}~$や$~\displaystyle \frac{1}{1059}~$は、それぞれ$~\displaystyle 30\frac{1}{8}~$や$~\displaystyle 1050\frac{1}{9}~$との区別が無いため、前後の文脈から判断するという、これまたバビロニアの位取りのような曖昧さがありました。
また、エジプトのような$~\displaystyle \frac{1}{2}~$や$~\displaystyle \frac{2}{3}~$を意味する専用の文字が存在したり、後の時代にはバビロニアのような
\begin{equation}
\rho~\delta~~~\kappa~\zeta^{\prime}~~~\nu~\alpha^{\prime \prime}=103^{\circ}27^{\prime}51^{\prime \prime}
\end{equation}
みたいに、60進法で角度を表したりと、2大文明の記数法を吸収しているのがよくわかります。



そんな工夫ができるんだったら、分数もどこまでが分母かわかりやすくして欲しかったな。
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◇参考文献等
・中村滋・室井和男(2015)『数学史ーー数学5000年の歩み』,pp.84-86,共立出版.
・三浦伸夫・三宅克哉監訳,久村典子訳(2018)『メルツバッハ&ボイヤー 数学の歴史Ⅰー数学の萌芽から17世紀前期までー』,pp.55-58,朝倉書店.
・中村滋(2019)『ずかん 数字』,pp.60-61,技術評論社.
・志賀浩二(2014)『数学の流れ30講(上)ー16世紀までー』,pp.48-49,朝倉書店.
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